御空は綜真に触れて呪詛返しを食らった際に、あるものを視た。
それは御空が魔眼保持者であること、呪術に精通していたため、ほとんど無意識に呪詛返しを防ごうとして解析してしまい、解析を通してその奥にある綜真の記憶に触れてしまった。その結果、綜真が普段意識もしていない部分が、御空本人のある記憶と繋がり、奇跡的な偶然と事故によって決定的瞬間を覗いたのだ。
これは美沙杜としても想定内ではあった。
問題があるとすれば、それを視たのが御空であったということ。
綜真が生まれたばかりの頃。綜真本人も一切覚えていないであろう記憶。
綜真を抱いて微笑む女性が何かを囁いて、記憶が途切れる。
綜真が父に怒鳴られているときの場面と、祖父が父を怒鳴り、大人の怒声を恐れて泣く幼い綜真。
その記憶から導き出した答えが――
――――――――――
「わ、わた、わたし、私が」
呪詛返しを受けてから自分の中で反芻するように呟き続ける御空に美沙杜はドン引きしていた。記憶の混濁などの影響もあって不安定になっているのであろうが、それにしたって不自然だった。
「お、おっ、お、おおおおお、お姉ちゃん……!?」
奇声一歩手前の声を漏らしながら
椛は綜真と御空を交互に見ているが意味がわからないという顔で呆然としている。
椛視点では美沙杜が見えない上に、いきなり御空が綜真に触れておかしくなったので理解が追いついていないのだ。
「お、お、おおおおお、弟!? わひっ、本物の弟ぉ!?」
椛は考えるのをやめた。
「ソーマ、ソーマ、起きて。無理」
綜真を揺さぶるも反応はない。薫のことも叩いてみるが目覚めない。
椛はこのわけのわからない状況で気絶することもできず一人で綜真たちを守らねばならないような苦境に立っていた。
一方で、美沙杜も、想定外の事態によっておかしくなった御空に困惑する。
『何……この女……』
「ということは――」
ゆっくりと気絶する綜真を据わった目で見つめながらゆらりと体を動かす。その一連の動作が狂気染みていて、椛が「ダメダメダメ」と幼子のように綜真を庇う。
『一人で何を納得して――』
美沙杜の放った霊術が御空を狙う。
が、まだ死による自己強化の効力が残っていた御空は赤い目を大きく見開いてその術をすべて無力化する。
『ちっ、しぶとい女!』
「わ、わた、私のぉ! 弟に!!」
美沙杜が見えている御空は自分の邪魔をしてくる上に、綜真に取り憑いていることを察して美沙杜へ強い殺気を向ける。
「何その薄汚い粘ついた霊力でくっついてるのよこのアバズレ!!」
椛は怖かった。1人で喋ってるあいつ……。
自分への言葉ではないとわかってはいても、なぜか1人で喋り続ける御空に今攻撃を仕掛けるべきなのか判断すらつかない。
『ぽっと出がしゃしゃり出てきて妄言垂れ流してんじゃないわよ!』
「なんですって!? こ、殺してやる……! 私の弟にまとわりつく蝿女の分際で!」
『本当にあんたが何よ!?』
「ソーマぁ……」
椛は泣いた。直接危害はないものの、見えない何かに罵声を浴びせながら暴れる御空が理解の外すぎて恐怖が勝ってしまった。
御空がやかましくしていたからか、綜真がのろのろとまぶたを開く。
「っ……! やべ――」
戦闘中に気絶した焦りから飛び起きるが、その瞬間、椛、御空、美沙杜の透けた体から綜真に対し、一斉に視線が集中する。
綜真からしてみれば気絶前と状況があまり変わっていないことと、椛が状況がよくわからず混乱しておろおろしているが、美沙杜と御空が対峙している状況に思わず目眩がした。
「ど、どうなって――」
まず美沙杜が何してるのかというところが気がかりだったが、幸いなことに椛を攻撃している様子はなく、御空とやりあっているようだと判断し、じゃあこれは美沙杜に加勢するべきか、と考えたところで御空から声がかかる。
「綜真!」
「えっ!?」
名前名乗ったっけ?と考えたが気絶してる間に魔眼か何かで見抜かれたのかと自己完結しようとして、続きの言葉が降ってくる。
「お姉ちゃんよ!」
「は?」
「??????????」
『なんなのよこの女!』
起きて早々、姉を名乗る不審者に困惑する綜真。
ずっとわけがわからなくてついには宇宙のことについて考え出す椛。
姉名乗り異常女に戸惑う美沙杜。
三者三様の反応を示す中、御空は意にも介さず綜真を横抱きにした。
「急いでこんな掃き溜めから出ないと! 教育によくないわ! 刹那! あんたもさっさと起きて!」
「ちょ、ちょっ、ちょい待って! 何!?」
綜真は敵意こそ感じないものの、狂気に呑まれそうになって横抱きを阻止しようとするが異常に強い力で胴体と足を固定される。
(こ、怖……)
心底恐怖だった。今までの恐怖とは別種の、言葉は通じるのに会話が成立しないタイプの恐怖。
「うぅ……嗣吉……ごめん……」
「そこは私じゃないの!? なんだ寝言ね!」
寝ぼけているのかうわ言を呟く刹那に勝手にキレて勝手に納得した御空。このまま身を任せていいわけないのはわかっているのだが、綜真は異能で時間を止めようにもさっきからそれすら妨害されているのでどうしようもなかった。
「ま、待って! あんた俺たちの敵だろ!? なにわけのわからないこと――」
「……ああ、あれね。お姉ちゃんの心配をしてくれてるのね」
綜真は言葉を失った。せめてなんとか言葉でどうにかしようと思ったが会話が通じないのにどうしようもない。
椛は人の形をしていても獣っているんだなぁと考えて現実逃避をしていた。
が、意外なことに御空は綜真を優しく下ろして、自分の頭に手を添える。
「ちょっと待ってね。邪魔なの引っ剥がすから」
「は?」
そう言って御空は自分の内側から赤黒いもやを引っ張り出す。ぎょっとした綜真はさっき刹那から引き剥がしたものと同じ何か。
椛には見えていないそれを、ギチギチと不快な音と共に引き剥がし、霊力で粉砕する。
『自力で洗脳を引き剥がした!?』
美沙杜が信じられないものを見るような目と声で御空を見ると、御空はスッキリしたように伸びをする。
「さて……」
赤い目がぎらりと光る。美沙杜が実体のない体を後ろに引くが御空はその体を直接掴んだ。
『きゃああああ!? なに触ってるのよ! やめなさい! このっ!』
「やっぱり呪術霊体じゃない。本体がどこか知らないけど――」
『放しなさいって言ってるのよ!』
しっかりと美沙杜を掴んで放さないまま、死んで強化された霊力を全て使い果たす勢いで御空のは美沙杜の霊体とやらを、霊力の奔流ですり潰す。
「離れるのはあんたよ! 弟に取り憑く悪霊女!!」
『ちょ、嘘でしょ――』
「お姉ちゃんの邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」
『理由になってな――ウソでしょ!? やめなさい! 嫌! こんな女に負けたくな――』
パンッと弾けるように美沙杜の霊体が消える。
綜真は「なんだったんだ今の……」とぼんやり呟きながら椛と身を寄せ合っていた。
綜真にとっては今まで謎だった存在が消えたのはありがたいような、今じゃないようななんとも言えない気持ちだったが、少なくとも勝てる見込みのない相手がほとんど全力を使い果たしたのはよかったのかもしれないと前向きに考えることにした。
「さあ綜真! ストーカーはお姉ちゃんが退治したわ! こっちにおいで!」
やっぱりよくないかもしれないと綜真は思い直すことにした。
すると、さっきから微妙に意識が怪しかったはずの刹那がゆっくり体を起こす。そして、御空を見ると信じられないものを見る目を向ける。
「御空……?」
身内の言動にドン引きしていた。
「ああ、刹那。起きたのね。あんたも汚染あるだろうし診てあげる」
「やだ……」
そのやだ、には心の底から恐怖があった。
なぜだろう。飯のこともあったからか綜真にとっては御空よりも刹那のほうが遥かに分かりあえそうな予感がした。
――――――――――
「……で、なんだこの状況」
「俺にもわかりません……」
気絶していた薫さんを起こし、一旦状況整理をするために
そう、俺と椛、薫さんに刹那、そして……姉を名乗る不審者御空。
しかもその不審者に今俺は抱きつかれている。引き剥がしたい。とても距離を取りたい。
「御空……あのさ……」
「なに?」
刹那が困惑しながら俺に擦りつく御空に声をかける。御空も声そのものは少し浮かれていて、そこに恐怖を与えるものはないのだが……。
「いや……いきなりどしたの……綜真嫌がってんじゃん……やめなよ……」
御空の豹変、俺の困惑、状況整理が進まないという点で御空を諭すのだが、一方の御空はそれを受けて声を低くする。
「は? そんなわけないじゃない。そうよね?」
「いや……あの……その……」
嫌だって言って俺殺されないかなこれ……。いや殺されるだけならまだいいや。戻るだけだし。いやよくねぇ。さっき気絶したから今死んだら砦郷町に来る前かさっきの気絶タイミングのどっちかにしか戻れない。ここまできて砦郷町突入前に戻るのか? というか美沙杜が消えたっぽいんだけどその状態で戻ったら俺どうなるの? また美沙杜戻ってくんの?
わからないことだらけの中、御空がどうにも俺を弟だと思いこんでいるのを無闇に否定しても怖いし、肯定するのも怖いので、曖昧な態度を取るしかないということだ。
「その……人前だと……恥ずかしいんで……」
「あらそう。男の子ねー」
当たり障りのない言葉で誤魔化すと、納得したようにさっと離れた。扱いやすいのか扱いづらいのかわかんねぇ……。
「とりあえず」
話を切り替えるように御空がぽん、と手を叩く。
「お姉ちゃんがついてるわ!」
何も切り替わってなかった。
「だからどゆこと……」
椛が横で理解のできない生き物を見る目で御空を睨み、刹那もまた御空の横で「何……この……なに……?」と困惑している。
「おい、お前、綜真の姉なのか?」
唯一、薫さんが冷静に御空にそう尋ねる。そこには困惑とかはなくてただ事実確認をするような雰囲気だ。
「そうよ。見たらわかるでしょ」
怖かった。マジで怖い。わかるわけないじゃん。俺は黒髪で目の色がちょっと変わっているが、御空は夕日色の髪で赤い目。似ても似つかない。
俺が気絶してる間に本当に何が起こった?
椛のほうをちらっと見ると「わかんない」というつぶらな瞳で返された。多分椛も怖かったんだろうな……というのが察せられる様子に何もわからないということがわかった。
「そうか。なら綜真に協力してやれよ。姉なんだろ」
薫さんが淡々と納得したように俺を示す。一周回って相手するのが面倒になったって顔だあれ。
「もちろんよ。あんたに言われなくてもそのつもり。刹那も当然そうでしょ」
「あの……僕は別に兄とか姉とか関係ないからね……?」
刹那からなんかすごい申し訳なさそうな顔で弁明された。
御空と刹那が「刹那、あんたそういえば汚染は?」「いつの間にか消えた」などとやり取りしていると、薫さんが俺に耳打ちしてきた。
「やっぱり殺しておくべきなんじゃないか?」
物騒。いや、でもまあ……言わんとしていることはわかる。
「でもなんか味方になりそうだし……」
「お前いつか悪い人間に騙されるぞ」
そんなことないし。ちゃんと人を見る目はある、はず……。
呆れた顔の薫さんの視線が突き刺さる。
自分の周囲にいる人間をぐるっと見て自信がなくなった。
物騒な大食い性別不詳。自分を姉だと主張する魔女。美少女のフリをしてたくせに女になったら不満を垂れ流すアラサーおじさん。
助けて晴美さん。椛ですら普通に思えてきた。この際吉田さんでもいい。いやでもあの人今捕まってるっぽいんだよな。
美沙杜は……なんか消えたっぽくて気配がない。さすがに寂し……くはないや。だってあいつ俺に嫌がらせするし。
やっぱ俺には結依しかいない。
「…………そうだ! 吉田さんと結依!」
ここにきた目的が危うくさっきの衝撃で吹っ飛びかけていた。
「吉田さんと他のアジトのメンバー! どこにいるんだ!?」
今回の事件の元凶側である刹那と御空。この二人とちゃんと話ができるなら穏便に解決できるかもしれない。最悪弟のフリをすることだって怖いけどやるしかない。
が、ハッとしたような刹那が御空の肩を掴む。
「まずいまずいまずい。僕たち田吉に殺される!」
「……殺されるでしょうね……嗣吉が移動させてないなら本拠地だと思うけど……」
「殺されるってそんな物騒な……」
吉田さんなら話せばわかってくれるだろうし、何をそんなに怯えているのかわからないが、居場所はわかるっぽいのであとは結依たちか。
「吉田さん……あ、もう一人いるのか。田吉さんが本拠地にいるなら優先してそっちを助けにいって……いや、結依たちもいるなら一緒のほうがいいのか?」
「残念だけど田吉くん側の女の子なら逃げて今追跡中のはずよ」
ちょっと理性的な御空が俺の思考整理に口を挟む。
本拠地よりも近くにいるのなら結依たちを回収するのがよさそうだけど、居場所がわからないとなると戦力の田吉さんを回収が現実的、か?一回本拠地に行けばやり直したときにすぐ向かうこともできるし。
「あとは和泉さんを探して……いや、そもそも……なんであんたたちは田吉さんたちと敵対してたんだ?」
そもそもの話、なぜこんなことになっているのか。御空はともかく、刹那は明らかに変なもやを剥がしたら落ち着いたのか敵意を感じない。
この二人が落ち着いてボスである嗣吉と話をつければ解決するんじゃ?
「そこを説明すると少し長くなるけど……」
刹那がちらっと御空を見る。御空はというと頷いて話をしようと促しているようだった。
「移動しながら話す。とにかく、このままだと僕らは田吉に殺されるし、嗣吉は僕らと違ってそう簡単に止まらない」
「だから田吉さんはそんなことし……」
本当だろうか?
俺が田吉さんはそういう人ではないと思い込んでいるだけで本当はもっと恐ろしい人かもしれないという事実から目を背けているだけではないのか?
俺はあの人の何を知っているんだろう。そう改めて考えると何もわからない。
俺にとっては、俺のことを信じてくれて、力になってくれる人。
そう、別に矛盾はしない。俺を信じてくれる田吉さんと、刹那たちを殺すかもしれない田吉さんは両立する。
「……それで、結局どうして田吉さんに全面戦争なんてことを?」
考えても今ある情報だけじゃ判断できない。移動しながら、薫さんはあまり興味がないようで周囲の警戒をしている。一応聞いてはいるようだが気にするなとでも言うように手を振って先を促してくる。
「元々、僕らは先代……嗣吉の親父ね。あの人に育てられたんだ」
――――――――――
ことの発端は今から6年前。
少し前から逃げ出していた田吉が突然戻ってきた。
刹那たちは当時、やけに養父が上機嫌だったのをよく覚えている。
何か妙だと気づいた嗣吉が田吉と養父の元へ向かうと、三人はとんでもないものを目撃した。
血溜まりで息絶えている養父と、それを冷徹な目で見下ろしている田吉。
実子である嗣吉ですらろくでもないヤツと認識してはいたが、当時の未申告の異能者の中でも飛び抜けて強い父がまだ十代の子供に殺されるなんて、想像もしていなかった。
「おい、田吉。何があった」
嗣吉は驚く御空を後ろに下げながら義弟の肩を掴む。
が、その手は強く振り払われた。
「俺が殺した」
「だからなんで――」
話をしようとする嗣吉に対して田吉は話すつもりもないと言いたげに嗣吉を血溜まりに叩きつける。
「てっめぇ……!」
「親父の物はすべて俺がもらう。お前らは邪魔だ」
床に倒れている嗣吉が立ち上がろうとして、立ち上がれない。先程の接触で何かされたことにようやく気づいたときにはもう遅かった。
「まあ、義兄弟のよしみだ。田舎に引っ込んでりゃ文句はねーよ。俺の前にツラ見せたら殺す」
はっきりとそう言って、嗣吉と御空、困惑する刹那の意識を奪う。
三人が気づいたときには見知らぬ土地に放り出されていた。
――――――――――
「当時は……僕はまだ12だったし、御空も僕より上とはいえ働けるようなところもないしさ」
振り返りながら刹那は苦い思い出を噛みしめるように言う。
「年長の嗣吉が一人でなんとかしてくれてて、でも僕らって未申告異能者だし、戸籍とかも怪しいからほとんど行き場がなくて……田吉が用意した家はあったけど」
ひとまず聞いて思ったのは……。
田吉さん、それは……恨まれると思う……。
正直一方の意見なので若干贔屓目はある自覚はある。
それにしたって……え? もしかして全員中学生か高校生くらいの歳で知らない土地に放り出されたの? 大人もなしに?
それは……恨むって……。
「嗣吉だけは異能者申告したらどっか学園に入れただろうけど、そうすると僕らと離れることになるし、下手したら田吉と顔合わせるのも避けたいからって……そしたら、嗣吉にだけ負担ばっかりかけちゃってさ」
「私がバイトを見つけるまで嗣吉の稼ぎと近所のご年配からもらう差し入れでなんとか暮らしてたくらいカツカツだったわね……」
二人ともどうやら嗣吉に対して思うところ、というか負い目のようなものがあるようで、語る様子は少し重い空気が混ざる。
「そしたら少し前……突然ヤクザのやつらが来たんだよ」
そのヤクザ曰く、砦郷町を牛耳る吉田組が邪魔で、やつに恨みがあるなら協力して欲しい、と持ちかけられた。
初めは乗り気ではなかった嗣吉だったが、少し考えた後、吉田組の遺産はすべて自分たちがもらうことと、砦郷町の一部は自分たちの縄張りとすることを条件に手を組むことにしたそうだ。
「それで砦郷町に戻ってきたってことか……」
「付け加えるなら、私たちはあいつにハメられたのよ」
「っていうのは?」
「さっき私が引き剥がしたのはあいつらが私たちに飲ませていた薬の汚染。正確には霊薬に区分される、術の効果を備えた薬物ね」
御空曰く、それは服用者の能力を大きく向上させるが、その代わりに精神に悪影響を及ぼすもの。
汚染を抜いた今、少なくとも御空はあまり戦力に期待できないらしい。しかも美沙杜を消したときに霊力も大きく消耗したから回復にも時間がかかるようだ。
それは刹那も同様で、元々霊力の燃費が悪い体質なのもあり、下手に異能を使うだけでもガス欠になりかねないような状況のようだ。
ひとまず、明確に倒す相手はわかった。二人が正気を取り戻したのなら、ボスの嗣吉もなんとかできるかもしれないし、できれば犠牲なく解決したい。
「じゃあ嗣吉を説得するのはまず必要として、バックにいるヤクザをどうにかしないといけないのか……」
「その必要もないんじゃないかな……」
「そうね……もう死んでても驚かないわ」
「え?」
二人の表情はどこか覚悟しているような顔だった。
――――――――――
「さて」
とある部屋にて、田吉は手のひらでペンを回すように暗器を弄ぶ。
「霊薬の出どころは?」
「し、知らない!」
床に這いつくばった男はまさに綜真たちが話をしていたヤクザの磐岡だった。
先程まで田吉を戒めていた糸によって身動きが取れなくなっている。
「ルフのときといいバッカだなぁ。あんときは殺さないでやったのにまた性懲りもなく……」
「待て! そうだ! あの時の男!」
わざとらしく暗器を持ち替えると慌てて磐岡は口を開く。
「あの時の眼鏡の男……! あいつが接触してきたんだ! 本当だ!」
「あー、はいはい」
田吉は内心、やっぱ響介のとこかと納得しながら磐岡に目線を合わせるようにしゃがむ。
「まあ、ちょっとは有益だったからいいや」
「た、たす――」
磐岡が最後まで言葉を発することはなかった。
磐岡の頭が音を立てて床に転がる。糸に絡まって体は不気味に吊られたまま。
「1回目は見逃してやったのにわざわざツラ見せて喧嘩売るなら殺すに決まってんだろ」
嗣吉たちに殴られたときに切った口の中がじんわりと血の味がしてツバを吐く。
ボロボロの上着を「あーあ、気に入ってたんだけどな」と呑気に脱ぎながら身軽になった田吉は砦郷町を窓から見下ろした。
「さて……」
肩を回し、ぐっと伸びをしながらこれから運動でもするように動いたかと思うと、一切感情のない目で呟く。
「嗣吉のアホと御空、刹那。ヤクがあったら三人同時は少し厳しいかもだけど……」
自分に言い聞かせるようなそれは、やがて取り繕った優しい男の声音に変わる。
「とりあえず殺すか」
"吉田組頭目、