ブルーアーカイブ 実績「楽園を信じる者」及び「闇の中で照らされて」取得RTA闇堕ちチャート   作:狐玄

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誤字脱字報告は命の洗濯



「I'm a mess」

 

 キヴォトスのどこか。誰にも見つけられないような閉ざされた地。

 薄暗く陰鬱とした雰囲気を醸し出すそこは今、赤と青のコントラストが際立っていた。

 

「外に出ます、付いてきなさい」

「はい、マダム……どちらまで?」

 

 青い髪を持つ少女に語り掛けた人物を一見すると、鮮烈な紅が目に留まる。白のドレスに包まれた女性らしい豊満な肉体は、誰もが目を奪われるだろう。しかし、彼女の顔には横から見た鷲のような目の付いた翼が幾重にも重なっており、それは逆に本能的恐怖を生み出すと言えた。鮮血のような紅色の肌も相まって、おおよそ通常の人とは違うことが容易に分かる。

 

「ゲヘナ自治区です。上手くいけば……強い駒が手に入りますよ」

 

 そう言って不気味に嗤った彼女に相対する少女――サオリは、どこかその声が楽し気であると感じていた。

 

 

「ヒノム火山?」

「はい。正確には、ヒノム火山付近に存在する研究所の調査ですね」

 

 万魔殿、執務室。

 珍しく自発的ではなく呼び出された事で訪れたモナは、イロハが告げたその言葉に首を傾げる。ヒノム火山、それはミレニアムの『廃墟』・トリニティの『カタコンベ』と同様の未開拓地域『アビス』を擁する場所だ。そこはキヴォトスの生徒にとっても熱く過酷な環境で、風紀委員も過去ヒノム火山で夏季訓練をしたことがあるらしいとは同席しているヒナの談だ。無論モナも知らないということはない。いや、風紀委員の過去は詳しく知らないが。ヒノム火山についてはそれなりに知っている。

 ではなぜ首を傾げたのか。単純に、モナ自身に頼まれる理由が分からないからである。万魔殿も風紀委員も人材は沢山いる。これが制圧なら分からないでもないが、ただの調査なら風紀委員の情報部などに任せればいいだろう。わざわざモナに頼む必要はないのである。

 

「それはいいんだけど……仮にも部外者に頼んでいいの?」

「まぁ……これにはやむを得ない理由がございまして」

 

 面倒くさそうな顔をしながらも語るイロハによると、なんでも他に案件が重なり任せられる人材が全て出払っているとか。それなら手が空くまで待てばいいと思うのだがそうは上手くいかないらしく、近々その施設が無くなるという情報があるとのこと。証拠を消される前に調査したいが、他の案件も放置することができないようで手詰まりの状態だったそうだ。

 

「それで、私があなたに任せてはどうかって提案したのよ」

「ヒナちゃんが?」

「そう。あなたなら……他言しないって、信じてるから」

 

 ヒナは恥ずかしそうに頬を染め顔を背ける。その言葉に喜色を隠そうともせず、立ち上がる……つもりだったのだが。それを察知したのか、ヒナは大げさに咳払いをして話を続けた。

 

「んんっ……とにかく、そういうことだから!」

「調査だけで構いませんので、よろしくお願いしますね」

「わかった!任せて!」

 

 なんにせよ、友からのお願いを断る理由はどこにもない。モナは喜びを隠さず今度こそ立ち上がり返事をする。その喜びの笑顔が伝播したのか、話していた二人も顔を綻ばせる。大好きな人たちの為になる。それは、モナにとってとても嬉しいことだ。意気揚々と外に出ようとするモナに、ヒナの声が届く。

 

「行ってらっしゃい。……気を付けて」

「――行ってきます!」

 

 振り返り、答える。断るなんて選択肢はどこにもなかった。どうあがいてもこの未来は変わらないのだ。世界はどこまでも残酷に、不平等に絶望を与えてくる。その刻は……既にモナと重なろうとしていた。

 

 

「ここがその研究所かぁ……」

 

 善は急げ。その言葉を体現するようにその日の内に研究所まで来たモナ。話を聞いたのが朝だから……準備と移動時間も含めると大体昼過ぎだろうか。天に昇る太陽はおおよそ真上にあり、時計が無くとも時間が確認できた。

 

「なんというか……いかにもな見た目してるねぇ?」

 

 その研究所の外観は無機質な白い壁をしており、柔らかさを一切感じさせない見た目をしていた。如何にも清廉潔白な研究をしていますと言わんばかりの白さだが、果たして真実はどうなのか。これからの調査の結果を想像しつつ、監視カメラにも警備にも見つからないルートで侵入する。

 床に着地し、付近に視線を巡らせる。警備がいないことを確認し、さきほど目に留まった通気口へすぐさま足を走らせ跳躍する。一度、壁を蹴り高さを稼ぎ通気口の網目を掴む。一見するとこのままでは通気口を開けられないマヌケに見えるが……モナは唐突に天井に付いている出っ張っている棒状の電灯――トラフ型照明器具の付け根、その端を鷲掴みにした。危険極まりない行為だが、あまり悠長にはしていられないという判断だ。後は壁に足を掛け、二点で支えている間に通気口を外し穴の縁を掴む。後はそれを取っ掛かりに中に入ればいい。

 

「……あちち!よっ、ほっ!!」

 

 通気口内に入ったモナは迷わず進みだす。この研究所は同様の規格の施設がゲヘナ学園の管轄にある。故に通気口の配置図も、目的のブツがありそうな部屋の場所もモナの頭の中に入っているのだ。最短ルートを突き進むモナだったが、進むにつれてある疑問が浮かび上がる。

 

――警備が……居ない?

 

 かなり中に入ってきた感覚があるが、それにしては警備の数が少なすぎる。外に居た警備もそうだったが、まるで一応警備はしていますよと言わんばかりの形だけの警備に見えるのだ。モナは一瞬、引き返すことも考えたが……脳裏にヒナやイロハの顔が浮かび、その考えを打ち消した。それに、この機会を逃したら次は侵入が不可能になっているかもしれない。そう考え、モナは先に進むことを決めた。

 目的地に着いたモナはまず、通気口の隙間から部屋の中を見た。見える範囲に人がいないことを確認したら、音を出さないように通気口を外し顔だけを部屋内に入れ、さきほど見えなかった部分まで人がいないか確認をする。そこまでしてから、ようやく中に飛び降りる。その際も、音は極力出さないように気を付ける。

 モナの主武装は大型の狙撃銃、その砲撃が発する音は非常に大きい。ボルトアクションなのも相まって、大勢を相手取るには向いていない代物だ。その状態で戦闘が起これば、すぐさま大量の警備が現れるだろう。対複数用に手榴弾も用意してあるが……その数にも限りがある上、今回は潜入任務故に置いてきている。見つからないならそれに越したことはない。

 

 辺りを見回し、書類らしきものに近付く。一番上の紙に㊙と書かれた分かりやすい書類に手を掛ける。しかしその瞬間、いきなり扉が開かれたことによってその書類を確認することはできなくなってしまった。

 

「ハッハァー!情報通り来やがったなァ!」

「オラァ!借りを返しに来たぜぇ、本業モナ!!」

「借り……?いや、あなたたちは……!?」

 

 何者かと目を向ければ、そこに居たのは制服を好きに着崩し、金属バット等を所持しながら分かりやすいヘルメットを被った不良集団――ヘルメット団だった。どうしてここに、という疑問がモナの胸中に迷い出る。この研究所に酷く不釣り合いなその集団は、モナの返事も聞かず発砲してきた。

 

「クッ……」

 

 いきなりの発砲にモナは床を転がり物陰まで退避する。近くにあった実験器具が壊れる音が聞こえたが、今は気にしていられない。もはや潜入はバレているのだから。今はまだ入口からだけだが、いずれ横からも撃たれるだろう。その前にこの状況を打開しなければならない。

 耳に聞こえるリロードの音に合わせ、物陰から飛び出す。まずは会話をしながら有利な位置まで気付かれないように動く。

 

「ちょ、ちょっと待って!借りって何のこと!?」

「忘れたとは言わせねぇぜ!!去年の仲間の恨み、ここで晴らす!」

 

 しかし、その目論見は凶悪な裏目としてモナに襲い掛かる。そもそもが不良のヘルメット団だ。まともな会話などする気もなかっただろう。故にこれは必然であったのかもしれない。会話をしようとするモナに、彼女たちの一人が返したのは言葉と銃弾。それを避けた時、後ろから酷く危機感を煽る音が聞こえてきた。それは何かガラスのようなものが複数割れた音、そしてマッチを付けた時のような擦れて燃えたような音。それらが複合した音が、モナの耳に届いていた。しかも聞き間違いでなければ、その音はかなり近くから聞こえてきたはずだ。

 モナはすぐさま横に逸れ、ヘルメット団と音の出処が同時に見える位置に移動する。見えてきたのは薬品が入っていたであろう試験管らしきものの残骸と、ぶちまけられた液体に引火して燃え盛る炎だった。

 その炎は、流れていく液体に沿って広がっていく。その先を見たモナを、全身に鳥肌が立つような寒気が襲った。何故ならば、炎の先にあったのは『火気厳禁!爆発します!』という文字が書かれた箱だったからだ。

 

「まって、このままじゃ爆発する!逃げないと!!」

「なっ……!」

 

 しかし、もう間に合わない。既に火の手は天井まで伸び、消すことは叶わない。己に危機が迫った時、人は本性を表す。……つまり今、この場所は阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのだ。

 

「私も逃げないとっ……!?」

「まてやァ!こうなりゃお前も道連れだ!!」

「そん……あぐっ!」

 

 逃げようと動き出した直後、モナはヘルメット団の一人にしがみつかれた。死なば諸共、と言うことなのだろうか。そのままバランスを崩したモナは、強かに体を床に打ち付けられる。慌てて逃げだす他のヘルメット団の騒ぎ声と共にパチパチと炎の音が鳴る度、モナの心の中にある焦りの炎も激しく燃え上がる。

 

「離してっ……!」

「仲良くしようじゃねぇか……へっへっへ!」

「道連れにしようとする人の台詞じゃない……よねっ!!」

 

 足に絡みついているヘルメット団を外すため、モナは彼女を掴もうとする。しかしその時、眩い光が視界を覆う。そして、けたたましい轟音が聞こえたと思った瞬間、モナの意識は暗闇に堕とされた。

 

 

 全身が軋む音が聞こえたような気がした。

 足は動きが鈍く、片腕も顔を庇った故に痛みが酷い。咄嗟に銃を盾にしたからか、もう片方の腕と人体の急所――正中線は守れているようだ。だがそれも酷い方に比べれば、の話だが。痛みに耐えながら体の節々を動かせば、ひとまずどこも欠損はしていないことが確認できた。しかし、少々流れている血の量が多く感じる。しばらくは平気だろうが……どこかで手当てをしなければ、いずれ死に至る可能性もあるだろう。ぽたぽたと頭から滴り落ちる血が、胸元のシャツに赤い染みを作り出すのが肌で分かる。

 

 次いで、眼だけを動かし辺りを見回す。ぼやけた視界でまともに確認できないが、少し経てば回復するだろう。しかしそれを待っていては敵に見付かった時対処できなくなる。今は動きが鈍く、相手の攻撃を避けるには先に動き出さねばならないから尚更だ。この視界でも、人らしきものは判別できるだろう。そうして見えたのは至る所にある瓦礫の山と、檻のように立ち昇る火、火、火、火。そしてそれを助長するかのように立ち込める煙。それはまるで、楽園へと行こうとした悪魔を閉じ込める地獄のような雰囲気を醸し出していた。

 ふと、頻りに動いていた眼が止まる。その視線の先にあったのは――小さなひまわりが幾つも付いた、真っ白だったはずの髪ゴムだった。

 

――拾わ……な……きゃ……

 

 それは、大切なものだから。大切な人に貰った、無くしたくないものだから。

 たとえそれが煤に汚れようとも。たとえそのひまわりの全てに十字の罅が入ろうとも。モナは無様に這いつくばり、必死になって震える手を伸ばす。ゆっくりと、ゆっくりと。そうして伸ばした手で、やっとの思いで手繰り寄せた髪ゴムを大事そうに胸に抱え込む。

 

――よかった、壊れてなかった……

 

 奇跡的にまだ使えそうだと触った感触で分かった時、モナは酷く安心した。これが壊れてしまったら、大切な思い出までもが……壊れてしまうような気がしたから。

 

「おやおや、大変そうですね。――モナさん、でしたか」

「ぐっ……誰――!」

 

 唐突に、視界の外から声が聞こえた。それは重荷を背負ったかのように低く、どこか楽しげだった。痛む全身を抑えながら振り返り、手を床に突きいつでも立てる姿勢――立ち膝の姿になる。そこには、漆黒のスーツをキッチリと着ている顔の全体が黒い人型のシルエットが見えた。そして、スーツの男と対比するようにその後ろで蔑むようにこちらを見る白いドレスを着た赤い肌の女性。その女性の頭部も通常の人のそれではなく、横から見た鷲のような目の付いた翼が幾重にも重なっておりモナの中の本能的恐怖を煽る。

 

「誰――ですか。そうですね……黒服、とでもお呼びください。そしてこちらはベアトリーチェと」

「――大人?」

「そうですね――このような時にどのような返答をするのか、最近見た映画で知ったのですが……」

「黒服、私たちはくだらない話をしに来たわけではありませんよ」

「おっと、これは失敬。ククッ」

 

 コツ、コツ、と気負いもせず歩いてくる二人は、ここが炎上している建物の中だということを忘れさせるような気軽さであった。常識的に考えて、気が狂っているとでも言わんばかりの所業だ。今は攻撃の意思は無いのだろうが、いつ牙を剥くか全く予想できない。思わず手の中の髪飾りを強く握りしめてしまう。

 

「それで……ごほっ、なんの……用?」

「いえ。(わたくし)たちはただ『契約』を提案しに来ただけですよ?」

「そう警戒せずとも危害を加える気はございませんよ、モナさん」

 

 そう、二人は言う(嗤う)。酷く、不気味な雰囲気だ。それでも、モナは話を聞くことを決めた。そうするしかなかった、と言うのもあるが。

 銃は手元になく。潜入故に他の武装もない。体も満足に動かない。なるほどこれは絶体絶命と言ってもいいだろう。だが、二人が危害を加えるつもりであったなら。敵であるというのなら。すでに攻撃されているはずだろう。途轍もなく怪しいが、敵ではない。その可能性に縋り、しかし敵であった場合の為に僅かでも時間を稼ぎ、回復を図る。それは生きるために……モナができる、全力の足掻きだった。

 

「……『契約』?」

「ええ、契約書もありますよ?」

「随分と、用意が良いんだね」

「それはもう、あなたとはぜひ良い関係を築いていきたいと思っておりますので」

 

 見ます?と喜々としてこちらに契約書を差し出す黒服。黒服は続けて言う。曰く――非常に珍しい神秘の形をしている。他には見られない神秘を持っている。あなたがいれば、私の研究はさらに躍進できるだろう、と。

 どちらかと言うと白衣を着てそうな犯罪まがいの発言をする黒服を他所に、契約書に目を通す。そして、愕然とする。

 

「……ふざけてるの?こんな内容、受けられるわけがない!――ゴホッ……ゲホッ!」

 

 思わず、声を荒げてしまうほどに。その内容は酷いものだった。ゲマトリア(あちら)の命令には絶対遵守。こちらが得られるものと言えば、今この時この怪我を治療することのみ。そして、この契約を破棄するためには三人中二人の承認が必要――大まかに言えばそんな契約だ。これではまるで、奴隷契約と何ら変わりないではないか。無理をした故か咳き込むモナは、そんなことを思いながら二人を睨みつける。

 

「そうは言われましても。この契約書を作成したのは彼女ですので」

「全てを私に押し付けるのはおやめなさい。私はただ――()()()断れない契約をお願いしているだけですよ?」

「断れない……?何を言っているの。このまま私が帰れば、それでいいだけの話」

「さて、果たして無事に帰れますかね?」

「――どういうこと?」

 

 モナには二人の笑みが、まるで得体のしれない化け物のように見えた。底知れない悪意が、絶望が、己の身に迫っている。だが、もはやそれを逃れる手段は残されていないのだ。この時のモナは、未だにそれに気が付かず思考を巡らせている。きっと二人は、蜘蛛の巣にかかった蝶を眺めている気分だったのだろう。

 

「どうやら外ではヘルメット団とやらと風紀委員、それに所属不明の生徒による激しい銃撃戦が起きているようで。物騒ですね……そういえば、あなたのその怪我ではその中を通るのは少々危ないのでは?それに、いつまでもそのままでいる訳にはいかないでしょう?」

 

 わざとらしく首を傾げる黒服に、灼熱の炎がモナの心の内で燃え盛る。このままでは失血死しても不思議ではない、と言うことがバレているのだろう。そして、その言い方から外の抗争は二人が原因なのだろう。そのことに気が付いた瞬間、点と点が糸で結ばれたような感覚に陥った。

 

「……まさか、さっきのヘルメット団は――!」

 

 目を、見開く。ヘルメット団が言ってきたことを、思い出す。

 

――ハッハァー!()()()()来やがったなァ!

 

 情報通り。その言葉が本当ならば、情報を流した人物がいるはずだ。そして、契約書の予想していたかのような対価――治療の記述。もしや……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おや、気付きましたか」

「どうやって……!私がここに来ることは、二人(ヒナとイロハ)しか知らないはず……!!」

「簡単なことですよ。私たちも聞いていれば良いのです」

「盗み聞きしている人影は見えなかった。盗聴器だとしても、一体何時……!」

「はて?それが分からない程、あなたは愚かではないでしょう?」

 

 口角を上げる彼女の顔は、まさしく嘲笑うといった様相だ。それを気にする余裕もなく、モナは頻りに記憶を漁る。息が荒くなるのも構わず、考え続ける。そして、一つの可能性に行き当たる。

 

「不自然に投げ込まれた、手榴弾っ……」

「ええ、ええ。そうですとも。もしやあのようなことが偶然起こるとでも?あの時、盗聴器を仕掛けさせていただきました」

「アレは遠目からでしたが、良いデータが取れましたよ。マダムには感謝しています。今回の爆薬の量の調整にも役立っていますし」

 

 彼女たちの笑みが、深くなった気がした。

 

彼女たち(ヘルメット団)は実に扱いやすかったですよ。あなたへの恨みがあったので、簡単に誘導することができました。感謝します」

 

 それは心底バカにしているような声で。

 

「ああ、そういえば知らないと思いますが、この施設も我々の所有物件です。つまり全て、私の手のひらの上だったのですよ――本業モナ」

「――!」

 

 つまり――爆発物が置いてあったのも、警備が薄かったのも、怪しいという情報すらも。全て、全て彼女たちが作り出した……本業モナという蝶を捕らえる蜘蛛の巣()だったということ。

 

「さて、どうしますか?契約する(生きる)か――しない(死ぬ)か」

 

 目の前が、真っ白になったような気がした。

 

 なぜ。なぜ。どうして。そんな言葉が心の中で反響する。断れば――おそらく、ありとあらゆる手段を使って足止めし失血死させに来るだろう。そして、契約すれば――永遠の奴隷となる。

 契約書と、二人の会話。それを聞くに、下される命令は犯罪行為も平気であることが予想できる。それは、これまで知り合った大切な人たちからの信頼を無下にする行為。

 なんて酷い二択だろうか。本当に、どちらかを選ばなければならないのだろうか?モナは必死に考える。汗が滲み、目の焦点は合わなくなるほどに。赤と、透明。その二色が混ざった水滴が、床を見つめるモナの視界で鮮やかな混色を作り出す。いつの間にか溢れ出していた涙にも気付かずに、ただただ床を見つめ続ける。

 どうしてこうなったのだろうか。いつから私は間違えていたのだろうか。

 

――この依頼を受けたから?

 

 ……違う。

 

――あの時、爆弾を抱えて処理したから?

 

 ……違う。

 

――みんなと、仲良くなったから?

 

 ……違う!

 

――私が……生きていたから?

 

 ……。

 

「安心して構いませんよ、本業モナ」

 

 そっ……と頬に手が添えられる。その手は顎まで下がり、モナの顔を持ち上げる。見えてくるのは多数の目。そして、その目の中に映る酷く憔悴したモナ()の顔。眉間に皺は寄り、眉尻は力なく垂れ下がり目に生気が見えない。口はとぼけたように小さく開いており、顔色は土器のように暗い。そんな無様な顔を見たベアトリーチェは、これまで見た顔の中でとびっきりのおぞましい笑顔で、楽しそうな口調で告げる。

 

「あなたの全ては、私が余すことなく――使ってあげますから」

「――は、は……」

 

 乾いた笑いが、その場に木霊する。その目に彩られたのは、濃い絶望の色。それは他の選択肢が無いと気付いたからか、それともそんな選択をしてしまった己に向けたものか――あるいはどちらもか。ぐるぐると回るようにごちゃ混ぜになった心のせいで、それはモナ自身にも分からなかった。

 目が、定まらない。現実を見れないのか――見たくないのか。

 ふと……眩暈がするように揺れる視界の端で、モナが持っていた銃が転がっているのが目に留まった。

 

――それは、今の彼女の心を表すかのように真っ二つに折れていた。





※次回に続く。ここから先はあとがきです

 んほっんほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!おっおっ⤴おほ~~~~~!!!
 いいよモナちゃん!最高に輝いてるよ!!!信じることを重要視してる君がその信頼を裏切らなければならないと分かった時のその表情!!そんな顔するなよ♠興奮しちゃうじゃないか……♥
 それにしても盗聴器をこんな簡単に仕掛けられてるとか万魔殿ガバガバか?ガバガバだな……(寝てるマコト、サボるイロハ、何も知らないイブキ)
 サオリっちに関しては次回!闇堕ち編での出番はちょっとだけだけど多分お互い重要な出会いになるから(適当)この出会いがどう影響するかは誰にも分からない。私は雰囲気で小説を書いている(迫真)
 ところで七つの髪飾りに十字の罅が入ったんですけどこれ十七本ってことでいいですか!?(ガバガバ計算)

 さて、ここで死んじゃったらどうなるのかなぁ~!のコーナー!!!ドンドンパフパフ!!!フゥ~!!!こんなんなんぼあっても良いですからね。
 今週の死地はここ、ヒノム火山付近の研究所!!とりあえず爆破で〇そうぜ!!!……でも近くに純♡愛できる子が居ないんだよな。ヤダ~~~!!!今わの際に大切な子の心に傷跡を残してその子の呪いになってくれなきゃヤダ~~~!!!モナちゃんの散り際はそうだって古事記にも書いてあるんだい!!!でも知らないところで無様に死んじゃったモナちゃんのことを聞かされた大切な子の表情からしか摂取できない栄養素があるのも事実だもんね……!アタイちゃんと考えるよ……!
 とりあえず爆発でモナちゃんが死にまして。黒服とベアおばが来ますね?二人はなんて言うんだろ。先生大好きクラブになったら割と書きやすいんだけどまだ名称変わってないからなぁ。ゲマトリアはみんな難解で解釈が難しいわよ!!!でも多分ベアおばは「期待外れでしたか……興覚めです」とかそんな感じのこと言いそうだな。黒服な~お前な~!お前が分かんないんだよな~!いやゴルゴルデカルとかマエストロんに比べたら分かる方ではあるけれど。「おや……耐えられませんでしたか?」とか「計算を間違えましたかね?」とか言うのかな~!分かんないな~~~!
 まぁ先生大好きクラブ(予定)はここら辺でいいでしょう。次はミカ!死んだ(勘違い)じゃなくて死んだ(ガチ)だから本編とあんま変わんないかもね。でも死体は発見されてるから場所は分かってるし「モナちゃんを殺したゲヘナなんかになんて任せられない……!!」とかいって強奪しに行くのもいいかもね。あとはティーパーティーの権力使ってモナ(死体)を手元に安置するってワケ。で、定期的に死体の傍でKyrie Eleisonを歌って欲しいな♡静かに狂ったように歌うのもいいし一見穏やかそうに見える表情で歌ってるのもいいね。この世界線のミカはゲヘナ絶対滅ぼすウーマンになってそう。本編のミカはモナが生きてるの知ってギリギリアウトから戻って来れてるからね。ゲヘナ嫌いだけどモナがいるから……みたいな感じ?踏みとどまってえらいぞ♡踏みとどまってるか?セイアは踏み抜いてるし……いやまぁモナの生存知る前だから……ええやろ!(思考放棄)

 ゲヘナ行こうゲヘナ。イロハちゃんはね~多分ね~万魔殿の執務室でガラス製のコップに口付けてる時に報告聞いてコップ落として割って欲しいな♡割れたコップを気にもせず必死に治療とか延命の処置を命令したりするのかな。その割れたコップと同じように散った命は接ぎ直しても元通りになるわけじゃないのにね。遺体安置所でモナちゃんと対面するんだけど、実際に目で見るまで信じられなくて、でも自分の目で見るのは恐ろしくて。顔に掛けられた布を取るの躊躇してほしいね。その時に特徴的な緑の髪と紫インナーは見えてるはずのものとする。必死に現実から目を逸らすイロハは可愛いねぇ♡それでしばらくしてようやく布を取ったイロハが無言で崩れ落ちてくれると最高ですね。
 そしてヒナちゃんはやっぱりよわよわになっちゃうんだろうね。様式美。オラッ!死体を前に膝をつけ!!!呆然としているヒナちゃんは高級玉露のよう。この甘美な味わいは最上級の礼節に最適であると有識者も言っている故、常備するのが理想である。しかし、保存が極めて難しく裕福な家庭でしか頻繁に補充することはできないため、この玉露を茶請けと共に差し出すことは一種のステータスとなった歴史がある。現在は保存方法の確立により長期保存も可能になったが、それにより摘みたての玉露の新鮮さが際立つこととなり、高級店で新鮮な玉露を飲むことが「通」とされていったのは記憶に新しいだろう。まぁつまり何が言いたいかって言うとナマの絶望顔はやっぱ堪んねぇな!!!ってことですわ!ガハハ!!!
 ちなみにさらっと流してるけどゲヘナ学園側で死体の第一発見者になったのはヒナちゃんですね。最初は気絶していると思って近付いたけど思ったより血が溢れてて顔を青くして駆け寄るんだ。そして脈とか息とか確認して「……うそ」って言いながらおもわず脈を確認してた手をぽろっと落としちゃうんだ。そんなの認められないから必死に心臓マッサージと人工呼吸を繰り返すんだろうね。「起きて……お願い!」って言うの。愛が染み渡るわぁ〜!
 そのあとアコが来るまで壊れたように繰り返してアコに止められて欲しい。「委員長!モナさんは、もう……!」「離してっ……!」とか言い合うんだ。うう……ポロポロ涙こぼしててヒナ可哀想……!死体安置所に連れてかれるモナちゃんに手を伸ばして「いや、モナぁ……!!」って言うの。そんでもって引きこもるの。モナちゃんが居なけりゃ精神よわよわだもんね、しかたないよ。引きこもっているからミカに死体奪われた時も何も出来なくて絶望するんだよね♡あーあ、なにもかも奪われちゃったね。でも大丈夫!モナちゃんがくれた愛は、永遠にヒナちゃんの中で生き続けるから……!
 ……そういえばアコちゃんについては語ったことが無かったね。丁度いいし考えてみようか。モナちゃんとアコちゃんの関係性は普通に仲良いんだけどたまにアコちゃんが忠犬心暴走させて突っかかって来るんだよね。どっちが相応しいか賭けますか?良いですよ!!とかなんとか。それで勝手に負けて勝手に自分で罰ゲームしてる。なんだコイツ、おもしれー女。それをモナちゃんは多分『おもしれー女』とか思ってるんじゃないかな、知らんけど。でもまぁ嫌な気持ちにはなってないことは確かだよ。アコちゃんも変なところで真面目だから仕事中は突っかかってこないしTPOは守るし。きっと風紀委員の手伝いとかで2人きりになった休憩中とかにこういうことしてるんだろうね。ツンデレみたいに言葉は強いけど、その実内心ではモナに感謝してたりするんだ。ヒナちゃんのためになってるし、笑顔にできてるからまぁ……って羨望とか嫉妬とか複雑な感情を含ませながらね。
 しかし死んだという情報を聞いてしまうんだ。この中だと一番ショックが少ないかもね。驚愕に身を染めながらも心のどこかは冷静に判断してて、部下に色んな指示を出してるんだ。それで色々と対応しながらヒナの所へ急ぐんだ。追っていった先が現場だった時、アコはどんな気持ちだったんだろうね?狂ったように泣きながら心肺蘇生と人工呼吸を繰り返すヒナと、その下でピクリともしないモナ。きっと荒れに荒れたんだろうね。『なぜ』『どうしてあなたはしんでいるの』ヒナを引き剥がしながら、そんなことを思うんだろう。ヒナを放って逝ってしまった嫌いじゃなかった友。死体を運ぶ指示を出しながら、子供のように泣きじゃくるヒナをどうにかしようとしながらふと考えて欲しいな。『私が死んだら、委員長はこんなにも悲しんでくれるだろうか?』って。実際に行動に移すことは無くとも、思考が過ぎってしまうんだ。嫉妬の表れだね♡
 そのあとヒナちゃんは引きこもっちゃうんだけど。運がいいのか悪いのか、アコちゃんは死体の傍に居る時に襲撃を受けちゃって欲しいな。当然、応戦する訳だけど勝てるはずもなく。呆気なく奪われていくのを見ながら、アコには己の力不足を痛感して欲しい。『どうして私は戦う力がないのだろうか』『彼女(モナ)のように、戦えたら』とか。無力感に打ちひしがれてほしさあるね。
 はーつら……モナちゃんが死んじゃうとこんなことになっちゃうんだよ?責任取ってヒナの前で達磨になって?やくめでしょ。
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