ブルーアーカイブ 実績「楽園を信じる者」及び「闇の中で照らされて」取得RTA闇堕ちチャート   作:狐玄

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「誰ガ為ノ世界」

 

「委員長ッ!!」

「……どうしたの、チナツ」

 

 風紀委員会本部、委員長室。

 事態の収拾に思ったより時間がかかり、モナへ話を聞きに行くのを翌日に持ち越したヒナ。委員長室に戻ったヒナが息つく暇もなく、チナツが息を切らせて走ってきた。彼女には校内での執務だったはずだが……何か問題でも起きたのだろうか?

 

「自治区内の住宅で爆発が……!」

「それくらい、いつものことじゃない」

「いえ、それはそうなんですけど……!」

 

 ゲヘナであれば爆発の一つや二つ、日常茶飯事と言って良いだろう。まさかモナが二度も爆発に巻き込まれるなんて悪夢みたいな確率を引くわけじゃあるまいし、何をそんなに慌てることがあるのだろうかと思っていたヒナだったが……次にチナツが発した言葉を聞いて、ヒナはまるで空高くから落とされたような感覚に陥った。

 

「爆発した場所がモナさんの家がある地区なんです!」

「ッ!?」

「委員長!?」

 

 走り出す。眠気も疲れも全て、気にならなくなった。気にしていられなかった。頭の中はモナのことで一杯で、ぐちゃぐちゃだった。

 まさか、どうして。そんな言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消え。今にも溢れそうな涙を必死に堪えて。そうしてモナの家へ辿り着いたヒナが目にしたのは、まるで先刻の景色を再現したかのような――灰と煤の色に染められているモナの家だった場所。

 

「……――あ」

 

 ふらふらと覚束ない足取りで家の中に入っていくヒナ。震える手であちこちを触りながら、記憶の中の情景を思い起こす。

 

――初めて来た時に感慨深いものを感じた玄関。

 

 友達の家に入るのは初めてだったから、嬉しかった。そんな事を思い出しながら、ポケットの中から大事に保管してあった合鍵を取り出し、ボロボロになったドアの残骸に付いていた鍵穴に差し込む。壊れているのかそれは回ることなく、悲しい接触音を鳴らすだけだった。少しの間、それを見つめた後、歩を進める。

 

――並んで立った、少し狭いキッチン。

 

 何時だったか、経緯は覚えていないけれど一緒に料理をすることになった事がある。食べれなくはないけれど、決して美味しいと言えない料理を作って悩む彼女の姿が脳裏に浮かぶ。そっ……と枠だけになったキッチンの縁を指先で撫でつける。……また、歩を進める。

 

――共に寝た、暖かったベッド。

 

 彼女に連れられて外で寝た私を、連れ帰って来て共に寝た日のこと。次の日、目が覚めた時彼女に抱きしめられて暖かい胸の中にいる心地よさに驚いたものだ。今はもう、見るも無残なほどにボロボロになってしまった。

 

 

 大切な思い出が、暖かい……大切な場所が。……全部、全部なくなってしまった。

 

「これ……は……あぁ……!」

 

 ベッドの残骸に覚束ない足取りで近付いた時、視界の隅に見慣れた物体が入ってきた。ベッドの下付近に見えるそれは、誰もが使っているもので……でも、この場にある物体――携帯電話は、モナのものにしか見えなくて。

 ヒナがそれを手に持って罅割れた画面に触れれば、運よく壊れていなかったのか光が付いた。そのロック画面は間違いなくモナのもので……その画面にはヒナが送ったモモトークの通知が、堂々と輝いていた。それがここにあるという事実に、ヒナは嫌な想像が次々に浮かび上がる。

 

「モナっ……もなぁ……!」

 

 精神は限界を迎えようとしていたのだろう。幼子のように声を潤ませて、目尻から涙をボロボロと零して大切な友人を必死に探すヒナ。普段の凛々しさからかけ離れたその姿は『風紀委員長』ではなく、まさしくただの『空崎ヒナ』と言えるだろう。

 それは、縋るような願いでもあった。モナの前ではただの『空崎ヒナ』で居れたから。だから、そうしていればモナが現れるんじゃないだろうかという、淡い……そして脆い願い。

 当然モナが見つかるはずも無く、ただ瓦礫をひっくり返す音とすすり泣く痛ましい声だけがその場に響いていた。

 

「これは……」

 

 しばらくして、とある家具の残骸をどかした時のこと。そこにあったのは、二つ折りにしてあった紙切れ。開けば見覚えのある字が並んでいる。それは間違いなくモナのもので、あちこちが煤けたのか読めなくなっている字も多い。それでも、形が残っているだけ奇跡的だと言えよう。

 

 

 ごめんなさい。■■■■■■■何も言■■に去ってごめんなさい。こんな形でお別れすることになってごめんなさい。でも、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 私は愚かだったから、私■■■■だったから。だから、私はあなたたちを裏切■■■■■■■■■なってしまった。こんな■■に■■■■■■て……でも、私はこうすることしか思い付かなかった。

 万魔殿も、風紀委員も■■■■■悪い■■■■も考えていなかった■■■■だって分かっていたのに、何も対策してなかった。

 だから、これはその■■でもある。私が■■■■しまった■■を、■■■■に■■わけにはいかない。私では、■■■みたいには■■■■から。

 ああ、こんな■■■■■■■■■■が憎い。あなたたちに■■■■■■■■■の私に怒りが湧く。■■■どこかで会う■■■■■と思う。■■■■その時■……■■■■に、ヘイローを壊■■■■■。意地汚く生きる■■■愚か者■■■■、許してほしくないから。

 

 私は、こんな私を許せない。だから……さようなら。■■。

 

 

――私のせいだ

 

 ヒナは、目の前が真っ暗になっていく錯覚に襲われる。そうだ、モナの様子がおかしくなったのはつい先刻――私が送り出した、あの研究所に行ってからだ。私があの子を推薦したから……私が選んだから!私が!あの時追いかけなかったから!!

 自罰的な思考が次々とヒナの頭の中を駆け巡る。ヒナがそう考えるのも、無理もない話であった。最終的に研究所に行くことを決めたのはモナだとはいえ、そのきっかけを作ったのはヒナである。そして、助けられたかもしれないチャンスを見逃したのも――ヒナなのである。

 その紙に書かれていることは上手い具合に掠れていて、ヒナは自分が責められているような気持ちになった。普段ならそうは思わないかもしれないが、今のヒナは弱っていた。責められても……恨まれても仕方ないと、思ってしまっていた。

 端的に言うのであれば……ヒナの心もまた、モナと同じように壊れてしまっていたのだ。

 

「う……あぁ……モナぁ……グスッ……ごめん、ごめんなさい……」

 

 もう会えない。そんな予感がヒナの心をさらに痛めつける。その紙が、その行動が、その事実が。

 

――何よりも最悪のシナリオ(モナがヘイローを自ら破壊すること)を掻き立てる。

 

 そんなことはない、そうであってほしくない。そんな感情があろうとも、『最悪』を想像してしまった頭はその悪夢を忘れてはくれなかった。

 

 そして、その日モナが見つかることは……なかった。

 

 

「クックックッ……ようこそいらっしゃいました、モナさん。随分とお早いですね」

「別に……変なものをゲヘナに持ち込まれても困るし」

 

 キヴォトス某所、とあるビルの中。

 まるで社長室にあるかのような豪華な机を挟んで対面しているのは、黒いスーツに身を包んだ大人である黒服と呼ばれる人物と――ヒナが必死に探している『本業 モナ』その人であった。

 

「おや、信頼されてませんねぇ……」

「――分かってるくせに。よく言う」

「ククッ……いやはや、手厳しいことで。それにしても……急激に、随分と変わりましたね?」

 

 黒服は滑稽だと言わんばかりの笑みを隠そうともせず語り掛けてくる。それにモナが心底嫌そうな顔をしていても、黒服はどこ吹く風といった様相だ。面の皮が厚い――いや、黒服の顔はそもそも良く分からないのだが。

 

「変わらない方が難しいでしょ……それに、私はこれから犯罪者なんだし、捕まらない為に色々と工夫しなくちゃいけないと思うから」

「そうですか……それはこちらとしても好都合なので何も言いませんが」

 

 黒服は何か思案するような顔をしたように見えたが、それは一瞬のことですぐにいつものような軽薄そうな笑みに変わっていた。それにモナは苛立ちを感じ、問い詰める。

 

「――何?」

「いえ、なんでもありませんよ。それよりも仕事の話をしましょう」

「……そう。ところで、ベアトリーチェは?」

「ここにはいませんね。彼女が動くのはまだ先ですし……しばらくは私の手伝いをしてもらおうかと」

 

 まともな返答が返って来るはずもなく、話を逸らされてしまう。ここで粘っても、望んだ返事は来ないだろう。短すぎる付き合いだが、それくらいのことは嫌でも察せられた。代わりに姿が見えない赤い女性について聞けば、暫くは会わないだろうとのこと。モナにとってそれはありがたいことであった。彼女はどうにも――苦手だ。

 

「……この銃だけじゃ厳しいんだけど。私、ハンドガンは専門外だし」

「ええ、それはもちろん考慮してあります。完全に同じものとはいきませんが……同じ型番の銃を用意してあります。後で受け取ってください」

 

 クルクルと、拳銃を手で弄びながら聞く。実際、モナはスナイパーライフル以外の銃を扱った機会は極端に少ない。精々が緊急用――サブウェポンとしての運用で何度か扱ったことがあるくらいだろう。これからの仕事の時も、この拳銃を使う機会はほぼないだろうと言えるくらい。

 

「それとですが……あなたの血を頂きます」

「何それ?吸血鬼?」

「分かっているでしょうに……意趣返しですか?私は構いませんが……マダムにすると怒られますよ。血を頂くのは単純に研究目的ですよ。研究が進めば、崇高への手がかりも見つかるかもしれません。それに、あなたのその病の治療法もね」

 

 冗談めかしての返答に、黒服は怒りを微塵も見せることもなく肩を竦めた。

 病の治療の可能性が仄めかされると、モナは強く出れない。たとえそれが都合のいい嘘だとしても。分かっている。それが見付かったとしても、恐らくそれをモナに教える気が無いことも。例え知ったとしても、この呪縛(契約)から逃れられないことも。それでも、知りたいという渇望はある。

 

「……今すぐには無理だと思うけど」

「ええ、そうでしょうね。あの薬は失った血までは補填してくれませんから。それに、ここに採血道具はありませんし」

 

 後で都合のいい時に提出してください。と付け加え、黒服は立ち上がる。

 え?なんで立ち上がった?もしや採血道具もこっちで準備しろってこと?いや、採血の仕方が分かれば応急手当にも使えるかなと思って買った採血キットをたまたま持ってるから良いんだけど。丸投げ過ぎない?

 

「銃は隣の部屋に置いてあります。同じ型番でも、手慣れたものとは違いがあるでしょう。しばらくは簡単な仕事で慣らしてください」

 

 そう言って、黒服は部屋を出ていく。モナはそれを見送った後、窓に近寄って外を見る。誰にも何も言わずに居なくなってしまったことへの罪悪感はもちろんある。

 だが、あのまま数日でも居続ければベアトリーチェや黒服による被害が己の他にも及んでいたかもしれないのだ。そうする可能性が捨てきれないほど……彼女たちの悪意は本物だった。だから、もうヒナと……暖かい友人たちと共に居ることができないと気付いた瞬間から、モナは居なくなるために行動したのだ。

 居るだけで、不幸をばら撒く。そんな悪意のラフレシアとなってしまったモナにミカは、ヒナは……これまで出会った友たちは、どう思うだろうか。心配?怒り?悲しみ?嘲笑?いずれにせよ、良い感情ではないのは確かだろう。モナはそんな彼女たちの顔を見たくなかったし、こんな惨めな姿を見られたくもなかった。

 

 

 しばらく。

 気持ちを落ち着かせたモナは、銃を取りに隣の部屋を訪れる。そこは薄暗く、常人では見通せないほどであった。しかし、例えモナが現在スナイパーライフルで近接戦闘を仕掛けるような型破りな戦い方をしていても、元は一般的な狙撃手としてそれなりに戦ってきたのだ。これくらいの暗闇は問題ない。

 モナは辺りを見回し、己の良く知る銃と似たシルエットを探し当てる。それは黒を基調とし、所々に赤いラインが入った意匠で非常に見にくく見つけるまで多少の時間がかかってしまった。せめてもう少し部屋を明るくできなかったのかと思いながらも、その銃を手に取る。

 その時、モナの耳に足音が聞こえてきた。どこか聞いたことのある……しかし、黒服のものとは思えぬ足音にモナの警戒心が一段階上がる。手に取ったばかりの銃をいつでも構えられるようにしておき、扉の方を見つめる。

 

「――お前は」

 

 扉を開け、こちらを視認した相手は驚いたように声を上げた。その相手は深い青が印象的で……鋭い目をしていた。

 聞いた事のある足音だが……記憶になくても当然だ。それを聞いたのは一度のみ、それも痛みに悶えていたあの研究所の時のみなのだから。

 

「あなたは……あの時の」

「サオリだ」

「え?」

「……この先、共に戦うこともあるかもしれないと彼女に言われたからな。名前くらいは教えておかないと面倒だろう」

「そう。……私は」

「不要だ、本業モナ。お前のことは知っている」

 

 バッサリとこちらの言葉を遮った彼女は、まるで話し合いを望んでいないかのようにモナの隣を通り過ぎ奥の棚を弄り始めた。事実、そのようなことは望んでいないのだろう。彼女の目には隠しきれない程の憎悪が見て取れた。

 

「不要って……」

「不要だろう。お前だってわかっているはずだ」

 

 こちらへと振り返り、告げる。

 

「――全ては、虚しいものだと」

「虚しい……」

「そう――vanitas vanitatum, et omnia vanitas.」

「私たち……いや、私の根底に根付く教え。その言葉のように、お前もこの世界の虚しさを知ったはずだ」

 

 ――全く共感できないといえば……嘘になるだろう。つい先刻まで、この世の不条理を味わってきたのだから。

 それでも、全てを肯定しないのは。たとえ世界が理不尽だとしても、せめて大切な人には……ヒナには笑顔でいて欲しいから。幸せでいて欲しいから。

 だからこそ傍から居なくなったし、余計なことは教えなかった。変に知ってしまうと、危険だから。

 自分の命のためにその信頼を裏切っておきながら、その相手のためを想う。その相手のためなら、例え命がかかっても構わない。そんな歪な思考に、自分で自分が嫌になる。

 

「別に私たちは、馴れ合うためいる訳じゃない。それに私は、ここには部品を取りに来ただけだ」

 

 返答しなかったモナに何を思ったのか。それはモナには分からないが、サオリはその事について何も言うことなく一方的に去っていった。

 

「vanitas vanitatum, et omnia vanitas――か」

 

 一人残されたモナは、どこか噛み締めるように呟いた。

 それはきっと、自嘲にも似た呟きだったのだろう。この世界には虚しさしか残らないという教え。それを自ら証明しようとしている、自分に対して。

 

「ヒナは、この世界のことをどう思っているのかな」

 

 ポツリと呟かれた言葉は、誰にも聞かれることなく空虚へと消えた。まるで……今のモナを表すかのように。





ᓀ‸ᓂ<ばにばに

 やっぱヒナちゃんが特別なんだなぁ。うう……みんな可哀想……これがエデン条約編終わるまで続くってマジ?誰だよそんなことしてる奴、最低だな!早く先生来てくれ!!
 そうそう、走者(プレイヤー)とモナちゃん(世界の住人)では当然認識の違いなどが出てきます。変装とかハンドガンがそうですね。だから走者がハンドガンについて言及してないのは仕様ということで。嘘だゾ♡後から思いついただけだゾ♡

テラー化したモナちゃんシチュ考えてたけどちょっとした小説形式になりそうだし文字数がバカになりそうだし普通に間に合わなかったゾ♡
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