ブルーアーカイブ 実績「楽園を信じる者」及び「闇の中で照らされて」取得RTA闇堕ちチャート 作:狐玄
短めであとがきもない。
あと誤字報告は神とさせていただきます。
「あれ……?隣の席の……」
「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」
「ええ、わかるわ。色んな所で色んなのを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」
「……」
何時の間にかすぐそばにいた少女の言葉にアルが意気揚々と言葉を返す傍ら、モナは記憶の中にある情報とよく似た風貌をしている少女を見つめていた。
その制服、その校章。それはモナが事前に黒服から渡された資料に載っていた学園――アビドス高等学校のものだ。
「えへへ……私たち、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです……」
「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」
「私、こういう光景を見たことあります。一杯のラーメン、でしたっけ……」
「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」
視線をずらせば、彼女たちの会話を微笑ましそうに見ている人物――先生が見える。便利屋の面々はまだ気が付いていないが……席へ案内された時、先生の傍に掛けられた白い外套からシャーレのマークの一部が見えていた。
先生には己が指名手配の犯罪者であることは知られている筈だが――事を荒立てるつもりはないのか、こちらが黙っていて欲しいという仕草を何の気なしに頷いていた。
ムツキには怪しまれたかもしれないが、ヒナから昔貰った情報と黒服からの情報を加味すれば、小鳥遊ホシノは不用意に戦闘してはいけないだろう。少なくとも、心も装備も整ってない段階で戦うのは得策ではない。
「……連中の制服……」
「あれ、ホントだ」
「はぇっ!?」
カヨコが小さく発した言葉で、モナは思考を現実へと戻す。
その一言で彼女たちも気付いたようで、ムツキもハルカも眼を軽く見開いて彼女たちの胸元……そこに下げられている生徒証に視線が向く。
「うふふふっ!いいわ、こんなところで気の合う人たちに会えるなんて。これは想定外だけど、こういう予測できない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら」
しかし、肝心な社長は満面の笑みでアビドスの少女たちと語らっていた。明らかに相手がアビドスだと気付いていないだろう彼女を見て、カヨコは苦虫を嚙み潰したような顔を、ムツキはにんまりと愉快そうな笑顔を浮かべ、ハルカはおろおろとカヨコとモナの間で顔を青くしていた。モナは困ったように眉を下げていた。
「アルちゃんは気付いてないみたいだけど?」
「……言うべき?」
「面白いから放っておこ。それでいいよね?」
「えぇ……まあ……うん」
「よ、よろしいのでしょうか……?」
「いいのいいの!くふふ!」
彼女が気付くには、おそらく誰かが指摘しなければならないのだが……店を出るまではその未来は訪れそうにないだろう。モナは先生以外にはまだバレていないとはいえ、積極的に目立つことはしたくない。頼みの綱はアル以外の便利屋のメンバーだが……ムツキの一声で、その糸も途切れた。
「このメニューもオススメなんですよ!次回があればぜひ試してみてくださいね!」
「へぇ、中々美味しそうじゃない!」
モナは楽し気に会話するアルを何とも言えぬ気持ちで見つめながら、手元のラーメンを啜ることしかできなかった。
◆
「それじゃあ、気を付けてね!」
「お仕事、上手くいきますように!」
「あははっ!了解!あなたたちも学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!じゃあね!」
柴関を出た後、店の前で別れるアビドスと便利屋。最後まで和気藹々とした雰囲気で、ついぞアルが彼女たちが今回の標的であることには気が付かなかった。
「ふぅ……いい人たちだったわね」
「……」
「……」
アビドスのメンバーが見えなくなるくらい遠くなった頃、先頭を歩いていたアルは満足そうな感情の中に一抹の寂しさを含ませた声色で言葉を零した。
モナがどう伝えたものかと視線を何と無しに横へ逸らせば、笑いを堪えきれないと言わんばかりの笑顔を浮かべたムツキが声を漏らすのを必死に我慢していた。
カヨコはそんなムツキに溜息を零し、足を止めてアルに問いかける。
「社長。……あの子たちの制服、気付いた?」
「えっ?制服?何が?」
「今回の標的なんだけど……」
「標的?」
「アビドスだよ、あいつら」
「アビドス……」
鳩が豆鉄砲を食ったような間抜け面を晒しながら、アルは数度その言葉を繰り返す。そうして今回の仕事の対象がアビドスであったことを思い出したのか……白目を剥いて有らん限りの声量の絶叫がモナたちの耳を襲った。
「なななな、なっ、何ですってーーーーーー!!!???」
「あはははは、その反応ウケる~!」
「はぁ……本当に全然気付いてなかったのか……」
「や、やっぱり私が今から始末してきましょうかっ!?そうですよね!」
「いや、今行っても……」
「そうだよ、ハルカちゃん。どうせもうちょっとしたら攻撃を仕掛けるんだし、その時暴れよっ」
ムツキはそう言って崩れ落ちるアルを追い越して歩き出す。言葉を遮られたモナも、その言葉に頷くとムツキに追従して歩を進める。
「う、噓でしょ……あの子たちが?アビドスだなんて……。う、うう……何という運命の悪戯……」
「何してんのアルちゃん、仕事するよ?」
「バイトの皆が、命令が下るのを待ってる。後は私たちだけだよ」
「本当に……?私、今から……あの子たちを……」
「あはは、心優しいアルちゃんに、この状況はちょっとキツいねー」
「……はあ」
先ほどまで仲良く話していた、その相手に対する裏切り。しかもそのあいては親し気に話してくれた善人だ。彼女たちの出身であるゲヘナにおいてそんな善人は非常に貴重である。モナが他自治区でも噂になる程には。アルにとって、そんな相手を裏切るというのは精神に多大なるショックを与えていた。
暫くの間、肩を震わせ狼狽えていたアルを見ていたモナは、アルの傍に立ち息を一つ吐くと、途端に鋭い雰囲気を滲ませ冷徹な一言を告げた。
「……これくらい、やって見せなよ」
「……っ!」
「……!」
それは、先程までの彼女と同一人物とは思えない程に冷たかった。細められた目はアルを突き刺し、また違う感情からアルは肩を震わせた。
「そうだね、確かに彼女たちは善人だね。……でも、だからどうしたの?君たちは何でも屋なんでしょう?だったら、これくらい出来なくてどうするのさ」
「も、モナ……?」
なるほどその眼光はあの風紀委員長――空崎ヒナにも劣らないだろう。それほどの力が彼女の眼にはあった。
思わずカヨコはアルとモナの間に立ち、アルを庇うように片手を広げ、銃を手に取る。ムツキも傍で面白そうに笑っているが、いつでも銃を抜けるようにしていた。ハルカに至っては既にモナに向けて銃を構えていたが、モナはそれを気にすることなく言葉を続ける。
「私は、世界を裏切ったんだよ?この程度の裏切りで躓くなら、何でも屋なんてやめた方がいいんじゃない?」
「――っやめるわけないでしょう!ええ、そうよ。私は便利屋68の社長――このままでいいはずが無いわ!」
モナの言葉を受けたアルは頬をパンパンと叩くと、覚悟を決めたように立ち上がり、勢いよく宣言する。
「さあ、行くわよ!」
「まあ、必ずしも裏切るしか道がないなんてことは早々ないんだけども」
アルは盛大にズッコケた。それはもう盛大に。膝から崩れ落ちて顔面を強打しそうになるくらいには。先程とは真逆のことを言う彼女に、怒り心頭といった様子でアルは背を向け大きく歩きながら言葉を放つ。
「結局あなたは何が言いたいのよ!もう!」
「そうだね――頑張って考えてね……ってところかな。自分が望んだ道を歩めるように、自分ができるだけ後悔しない選択を」
その時モナの表情は、どこか寂し気で……悲しそうに見えた。失ってしまったものを想うかのような……そうあって欲しいと願うようなその表情は、怒りに流されず、正面で話を聞いていたカヨコだけが気付いていた。
だからだろうか、カヨコの口から疑問の言葉が自然に零れたのは。
「――それは、どういう?」
「じゃあ、私はこの辺で」
だが、モナはその疑問に答えることなくゆっくりとアルが進んだ方向とは逆方向に背を向けた。ムツキはその二人の様子を疑問に思いながらも、モナに向かって問いかけた。
「もう行くの?」
「ここから先は、君たちの仕事でしょ?部外者の私が付いていくわけにはいかないよ」
それに、私もやることがあるし。と顔だけ振り返り言葉を続けるモナは、既に普段の雰囲気に戻っていた。その顔から冷たさが抜けていることを見て、カヨコは銃を仕舞う。
「……もしかして、わざと?」
「さて、何のこと?」
モナは顔を隠すように進行方向へと向き直り歩き出す。これ以上は何も聞かないで欲しい。言外にそう告げるモナにカヨコは何かを言おうとした。だが、その何かは形になることは無く、カヨコはアルの方へと歩き出した。
モナは近くにある路地裏へと歩を進めると、壁にもたれかかって力なく呟いた。
「私にはそんな資格ないのにな……羨ましいだなんて、そんなこと……」
さすがは世界を裏切った人は説得力が違うな!
早くヒナちゃんと会わせたいなぁ……