ブルーアーカイブ 実績「楽園を信じる者」及び「闇の中で照らされて」取得RTA闇堕ちチャート   作:狐玄

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 戦闘シーン楽しくなっちゃった。
 不定期更新多くなりそうです。(なってる)



「また会えたとしても」

 

「やっと……見つけたッ……!!」

「……!」

 

 アビドス郊外、砂漠と街が交差する道。

 仰向けに倒れたモナの視界は、白く包まれていた。モナが彼女のことを見間違うはずがないように、彼女もまたモナのことを見間違うはずが無いのだ。

 だからこそ彼女はゲヘナに一切立ち入らなかったし、彼女について情報収集を欠かしたことは無かった。だが、彼女の執念はモナの想像を超えるものだった。――いや、想像すらしていなかったのだろう。

 

 

 モナの上に馬乗りになっている彼女――ヒナは、もう限界だった。モナを失い、彼女への罪悪感と喪失感。彼女のヘイローが失われてしまったのではないかという恐怖。そして、ニュースによって知らされた彼女が生きている喜びと、相容れぬ道へと行ってしまった親友への困惑。

 それでもいつも通りに降りかかって来る仕事、嫌がらせ。しばらく感じていなかった孤独。自らの親友が悪し様に言われているのを聞く苦痛。それら全てがヒナの心にのしかかり、その負担は彼女の内側で抑えられるものでは無くなっていた。

 彼女の柔らかかった髪は乱れ、目の下には隈が濃く浮かび消えなくなって久しい。目尻には泣き跡がハッキリと見え、水分が不足しがちだからか唇は乾いていた。目は虚ろで、モナの腕を掴んでいる彼女の力は弱弱しく簡単に振りほどけてしまいそうであった。

 

「ヒナ――」

「良かったぁ……!生きてて良かったぁ……!!」

「っ」

 

 それでも最初に出てきたのは、彼女が生きていることに対する安堵であった。モナの胸元に顔を埋め、その鼓動を感じ取る。モナは口を開き、けれども言葉を発することは無く。ヒナの背中に手を回すのみに留まった。ヒナはその手の暖かさに頬を緩ませる。

 

 ――変わってない

 

 彼女はいつもそうだった。珍しくヒナから甘えた時も、無理をしているときに無理矢理休ませてくるときも、彼女はいつも優しく包み込んでくれた。

 

「ねえ……モナ」

「……なあに、ヒナちゃん」

「…………帰ろう?ゲヘナに」

 

 だからこそ、縋ってしまう。そこが変わってないあなたなら、一緒に帰ってくれるのではないかと。犯罪だなんて、何かの間違いだと。そう願わずにはいられないのだ。

 

「――ごめん、それはできない」

 

 わかっていた。問いかけた瞬間のあなたの顔を見れば、一瞬で分かった。問いかける前からも、薄々と勘付いていた。それでも、諦めきれない。涙が零れ、滴り落ちる。その雫はモナの胸元を濡らし、小さなシミを作り出す。

 

「どうして?」

 

 私の風紀委員長の権力(たちば)を使えば、匿うことも無理ではないのに。

 その言葉が形になることは無かったが、それでも彼女を傍に置いておきたい――傍に居たいという気持ちは本物だ。

 

「ごめん……ごめんね……!」

「それじゃ分からないわ、モナ」

 

 モナは上半身を起こし、ヒナを強く、強く抱きしめる。気付けば彼女からも涙が零れ落ちていた。ヒナは肩から感じる湿り気を感じ、モナを抱き返した。

 

 

 いつまでそうしていたのだろうか。短くはない時間そうしていただろう。モナは抱きしめていた力を緩めると、ぽつぽつと喋り出した。

 

「あなたは何も悪くないの、ヒナちゃん」

 

「全部、私が悪いの」

 

「私が不用心だったから、私が強くなかったから、私が愚かだったから」

 

 

「そんなこと……ない!」

 

 

 ヒナは緩んでいた手をモナの肩にかける。モナは、その手に自分の手を重ね、眼を閉じる。

 

「……ううん、そうなの」

 

「そうでなくちゃいけないの」

 

「私はもう、戻れないから」

 

「私が全てを背負い込んで、持って行ってしまった方が良いの」

 

 

「そんな……そんなのって……どうして!」

 

 

 モナはゆっくりとヒナの手をほどき、静かに立ち上がる。

 

「何も言えない私を許してほしい、だなんて言わないよ」

 

「私を恨んだっていい」

 

「それでも、私は帰るわけにはいかないの」

 

「その上で、どうしてもって言うなら――」

 

「力ずくで、連れて行って」

 

 ゆっくりと、銃を持ち上げヒナへと向ける。

 レバーを動かす鈍い音が鳴り、モナの持っていた銃から薬莢が零れ落ちた。地面を転がるその金属の表面には、とても苦しそうなモナの顔が映っていた。

 

 遠くで、爆発音が聞こえてきた。

 

 

 ◆

 

 

 ヒナは一度、眼を閉じた

 

 ――拳を握る。

 

 どうしてこんなことになっているのだろう。

 

 ――眼を開く。

 

 ほとんどのことが分からない。

 

 ――息を吸う。

 

 でも、一つだけわかる。

 

 ――息を吐く。

 

 彼女をこの手で捕まえないといけない、ということ。

 

 ――相手の銃を、蹴り飛ばした。

 

 即座に立ち上がり、銃を向ける。前を向くと、モナは瞬きの間に後ろに下がっていた。そのことにヒナは違和感を覚えた。

 彼女の得意距離は近距離。だからこそ迎撃態勢を整えたのだが、モナは自ら離れていった。様々な理由が一瞬で脳裏を駆け巡り、一つの結論に辿り着く。

 

「逃げる気ね」

「そりゃもちろん、ヒナちゃん相手に余裕なんてないもの。全力で逃げさせてもらうよ」

 

 彼女の持つ銃口がこちらを向く。妨害は間に合わない。

 地を蹴り、肉体をスライドさせる。ヒナは顔の横を通り抜ける銃弾を横目で見やりながら考える。

 体が重い。思ったように動けない。疲労が溜まっていたのだろう。その動きは幾分か精細を欠いていた。

 それでも、一歩ずつ進んでいく。近付いていく。銃を撃ち、障害物を破壊する。物陰から出てきた彼女は銃弾を放ち、さらに離れていく。最小限の動きでそれを避け、ヒナは走りだす。少しでも距離を詰めるために。

 

「捕まえ……たっ!」

「っ!」

 

 モナはいくつかの路地でわざと逃げにくい方向へと向かっていた。それを訝しみはしたが、止まってしまっては何も好転はしない。そのせいか、数度目の曲がり角でヒナはモナに追いついていた。銃と銃がぶつかり、モナは思わず片膝を床についていた。

 

「……ねえ、ヒナちゃんはどうしてこんなところに来たの?」

「あなたがここにいるって聞いたから」

「でも、それは噂レベルのはず。それにいつもなら、こんなに早くは来ないでしょ」

 

 ヒナは仕事が多く、ゲヘナを滅多に離れられない。それは、ずっとそばで見てきたモナであれば簡単にわかる事だ。理由だって想像が付かないわけではない。それでも、モナはヒナと話すことを選んだ。

 

「そうね、この近くに仕事が出来たのも一つだし……」

「まあ、そうだよね」

「あとは、アコがなにやらこそこそしてたから。聞こえた会話でアビドスって言ってたし」

「アコちゃん、何やらかすつもりなんだろう……ていうか、問い質さないんだ」

「止まらないもの、基本」

「それもそうか」

 

 カチカチと銃と銃が音を鳴らす中、一人の生徒に対する悲しい情報が共有されていた。

 モナは少し微笑んだ後、ヒナに向けて小さな声で呟いた。

 

「そうだ、一つ情報をあげる」

「……なにかしら」

「アビドスの砂漠でカイザーコーポレーションが変なことしてるよ」

「なんで今、その情報を……?」

「確認と、せめてもの抵抗ってところかな。流石は情報部、もう共有してるんだね」

 

 こちらの表情を確認したモナは、薄く笑うとヒナの腹部を蹴り飛ばした。よろけたヒナに大きな銃弾が飛んでくるが、地面に羽を突き刺しスレスレまで伏せることで避ける。後ろで轟音が鳴り響くが、既にこの辺りの建物は人が住んでいないし、老朽化とモナの砲撃で片付けられているので問題はない。

 羽を刺したまま、後ろに一旦下がる。そして、羽の力を使い加速する。まるでスリングショットのように弾かれたヒナは、弾丸の如き速さでモナへと肉薄する。

 

「――っせい!」

「ッ……っと、相変わらず鋭いねぇ」

 

 大きく薙ぐように振られた脚は空を切る。かまいたちのように鋭いそれは空気を切り裂き、踏みしめた足元は鈍い音が鳴り響き亀裂が入る。

 大きく跳躍して避けたモナは軽口を叩き、車の上へと着地する。その足元を見て、ヒナはようやく周りを認識した。

 

「いつの間にこんな街中に……」

「ここは丁度、人が住むかどうかの境目辺りだね」

 

 この先はぽつぽつと人が居たりするんだ、と続けるモナ。周りには建物が多く立ち並び、砂漠はすっかり姿を隠していた。遠くの方にはまばらに通行人も居て、こちらの撃ち合いを横目に日常を謳歌していた。

 一撃が重大なモナと撃ち合いをするのは得策ではないか――と考えたが、それを振り払いヒナはモナに向き直る。それでも、このチャンスは無駄にしたくない、後悔したくない。それは彼女が過去に囚われている(まちがえた)から。彼女もまた、ただ一人の少女だった。親友を想う、ただ一人のか弱い少女だったから。

 あまり、長い時間はかけられない。被害が大きくなれば、その責任は当然ヒナへと向かう。これ以上、街の方へと行かせるのはよろしくない。膝を曲げ、道路を駆ける。その心に持った願いと共に。

 

「――よっ」

 

 ヒナの放った銃弾が、地面に突き刺さる。それを避けるように、モナは高く跳躍する。そのまま、建物の壁へと足をつける。そして銃弾が来る直前にまた、跳躍する。それを追いかけて、ヒナも跳躍する。まるでアニメの高速戦闘シーンの如く銃弾と人体が空中を動く様は、この地に住む住人にとっても異質であったようだ。

 一般にはこのような動きは難しいが、この二人はキヴォトスでも上位に位置する実力を持っている。機動力に優れているモナは当然、ヒナもまた機動力が低いわけではないためこのような芸当を可能としていた。

 地上に居る住民が各々の端末で写真を撮っていたり、指差していたりする中、モナはとある建物の屋上へと着地した。ヒナもそれに倣い、少し離れた位置へと着地した。

 通り過ぎた道は多少の弾痕が残っているが、崩れた建物は一つも無かった。二人とも、示し合わせたかのように銃を撃つ頻度が減っていったからだ。特にモナは後半ほとんど銃を撃っていなかった。己の銃が甚大な被害をもたらすと分かっているからだろう。

 意識すれば抑えられるはずだが、ヒナが相手ではそんな余裕も無いのだろう。

 

「……」

「……」

 

 お互いに言葉はない。

 一瞬の静寂。

 そして、どこからか聞こえてきた爆弾の音が二人の膠着状態の終わりだった。

 足元に亀裂を残し、轟音と共にその足先は正確にモナの正中線上の突出した部分――顎を狙う。風を切る音を鳴らし、足先が顎に届く寸前、モナの姿は掻き消える。ヒナの振り上げた脚は視界を遮り、モナの所在を隠す。

 脚に隠れたモナは拳を握り、力を籠める。そのまま振り抜く直前、モナは握っていた腕を反対の腕と共に頭の上で重ねる。

 直後、衝撃がモナの腕を襲う。地面に打ち抜かれたモナが衝撃を逃がすように転がって、そのまま勢いをつけて起き上がる。見れば、ヒナは振り上げていた脚を振り下ろしていた。

 

「分かってたんだね」

「長い付き合いだもの」

 

 三年……いや、二年とすこし。二人はその間に共に戦うことも、模擬戦と称して撃ち合ったりすることも多くあった。当然、考え方も戦い方もお互いに分かっている。だからこそ、打つ手は限られる。

 お互い、銃を撃たないことを暗黙の内に了承しあっていた。こんな建物の上で撃ち合えば、階下にいる人たちに甚大な被害を及ぼしてしまうことは想像に難くないからだ。ヒナも、そしてモナもそれは望んでいない。すれ違っていた二人はこの瞬間だけ、確かに一致していた。この、瞬間だけ。

 

「まるで昔に戻ったみたいね」

「そう、だねっ!」

 

 互いに肉薄し、腕と腕がぶつかり合う。至近距離でにらみ合う二人は、どちらも笑っているような顔をしていた。今は、今だけはすべてのしがらみを忘れて二人だけの輪舞を踊っていた。

 ヒナは羽を動かし、囲い込むように左右から挟み込む。モナはそれを見ると、対応するように自身の羽で防ぐ。しかし、羽の力強さで言えばヒナの方が強力だ。故にいつまでも組み合ったりはせず、離れるためにヒナの足元を狙う。

 柔道のように足払いを狙うモナに、ヒナは手と羽を離し、バックステップを踏む。

 

「――」

「うん?」

 

 不意に、そう遠くないところで爆発音が鳴った。それはモナからすれば後方に当たる方向で、僅かに視線がそちらに向きかける。

 それを見逃すほど、ヒナは弱くはない。モナだって視線の中からヒナを完全に外していたわけではない。だが、それでもヒナは速かった。モナが視線を戻せば、既に彼女の拳が迫っていた。出来ることといえば、腕を交差して間に入れ辛うじて防御の形をとる事だけだ。

 衝撃が走り、モナは吹き飛ばされる。なんとか体勢を整え、建物の端近くで立ち止まる。だが、ヒナは再び拳を振り抜いていた。追撃する形となったそれは、先程の焼き増しのように、モナを吹き飛ばした。違うことと言えば、そこが建物の端で、モナの背後は床が存在しない空中であるということか。

 二回の拳を受けた腕は痺れ、激痛が支配する。モナはそれでも、生来の感覚によって体勢を持ち直し、地上へと着地する。

 

「君は……モナ!?」

「えっなんでここに!?ていうか今どうやって!?」

「わぁ~すご~い、楽しくなって来たね~?」

「えっ……えっ!?どういうこと!?」

「社長、下がって」

 

『……モナ……さん?』

「……」

 

 そこは、戦場であった。

 左を見れば、青い髪を携え、首輪をつけた人物が通信越しに驚いているのが見える。通信機を持ち、近くに立っているのは、風紀委員会のイオリと――チナツ。

 右を向けば、先日会ったアビドスと先生、そして仕事仲間である便利屋。ただし、小鳥遊ホシノの姿は見えない。

 どちらも唐突に現れたモナに驚いている。モナもこの状況に驚いている。街中に逃げれば被害を考えて追いかけるのを諦めてくれるかなとか思っていたのに、既に街中が戦場になっているとは思いもしなかったのだ。

 

『なぜこんなところに……いえ、それよりも』

「それよりも、何?アコ」

『えっ……ヒナ委員長!?』

「い、い、委員長!?いつから!?」

 

 その声はイオリのすぐそばから聞こえた。モナからすれば左手向こう側――モナが吹き飛ばされた方向から。

 ヒナは気が付けばそこに立っていた。吹き飛ばしたモナを追いかけたら、何故か多くの風紀委員会のメンバーたちが居るのだ。

 原因を追究するのは、当然だろう。手っ取り早く、本人に聞いているだけだ。聞かれる方は堪ったものではないだろうが。

 

『ど、どうしてこちらに……出張中だったのでは?』

「早く終わったから、寄り道してこの近くの仕事を終わらせてきたの。そしたら――モナに会ったの」

『そうでしたか。それで、追いかけてきたらここまで……ということですか?』

「まあ、そういうところ」

 

 ヒナは担いでいた銃を持ち直し、腕を組み目を伏せる。モナも重要だが、こちらも放っておくわけにはいかないだろう。

 

「それで……他の自治区で、風紀委員会のメンバーを独断で運用しているのは、何故?」

『ぎっくぅ!』

「うわ、それ本当に言う人居るんだ……」

 

 そして、鋭い視線がアコを貫く。アコは誰が見ても分かるくらいには動揺していた。

 イオリはそんなヒナに通信端末を渡した後、少しばかり離れていた。巻き込まれるのはごめんだからだ。チナツは既に離れていたが、それをみてイオリの傍に寄る。恨めしそうに見て来るイオリに、チナツは苦笑いしか返せなかった。お互いに言葉は出さなかったが、その顔は何よりも雄弁に物語っていた。

 

「――アコ。この状況、きちんと説明してもらう」

 

 冷徹にそう宣言する彼女は、この場を確かに支配していた。

 





 なんで銃世界で格闘戦やってんの?
 ちなみにヒナが諦めなかった場合、モナは閃光弾を使うつもりでした。
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