「それで、プレゼント何を選ぶんですか?」
ショッピングモール内を歩きながら一色が俺にそう質問する。
「そうだな……いやこれが全くもって検討がつかん」
再三言っている通り、部活動以外では由比ヶ浜と関わりのない俺は、彼女の趣味、嗜好、何を貰えば喜ぶのかとか、その辺の事を把握出来ていない。
これが目の前の亜麻色の髪を揺らす少女であれば話は別だが、こと由比ヶ浜となると検討がつかない。故に、現状俺は何を買うべきなのか取っ掛りすら掴めていない状態であった。
あまりにも不確定な情報で動いているとは俺自身感じている。感覚としては砂漠で一粒の砂金を探し歩き回っているようなそんな感覚だ。まあ砂漠ほど広大ではないのが救いではあるか。
さすがに闇雲に探すのは嫌なのか一色が不満げな顔をして口を開く。
「せめて何が好きかくらいは分からないんです?」
「さっぱり分からん」
お手上げだ、とばかりに肩をすくめれば、彼女はげんなりとした顔になる。
「そんなにですか……まぁでも、だいたい最近の女の子だったらこういうとこで買い物すると思いますよ」
そう言いながら一色がショッピングモール内に付けられている案内板を指さした。
それはモール内一階の奥の方に位置する場所で、見れば馴染みはなく、短い人生で聞いたことがないような店の名前が並んでいた。
「ふむ……まあ、向かってみるか」
「はい、行きましょう」
そうして俺たちは一階へと向かうために歩みを進める。その道中、比企谷と何処か似た少女を見かけたが……さすがに気の所為だろう。比企谷と似ているなんて言うのは、見知らぬ少女に対して失礼だ。
いやしかし、思い返しても似ていたような気がするな、何故そう感じたのだろうか。あまりジロジロ見る訳にも行かないので、一瞬だけ目をやっただけではあるが、それでも見て取れるくらいには溌剌な小柄な女の子だった筈だが。容姿に関してはさすが詳しくは見れなかった。確か黒髪のショートだったような気もするが、それだけで似ていると言われるのは心外だろう。
もしかして、噂の比企谷の妹の可能性は……いや、ないか。
そうこう悩んでいる間に目的地に着いたようで、当たりを見渡せばピンクだの蛍光色だのと言った目に悪そうなショップが並んでいる。この広いショッピングモールでもとりわけ若い女が好きな店を集めましたという印象を受ける区画だった。
「なるほど、確かに女が好きそうな店だ」
「偏見しかない意見ですね……まあ、あながち間違ってはいないとは思いますけど」
早速適当な雑貨店に入って並んでいるものを物色する。花柄のナプキン、花柄のスリッパ。花柄のカーテン───花柄ばかりだな。見ればそういう専門店のようで、棚にはいくつもの花柄やら、花をモチーフにした商品などが並んでいた。
「田島さんここお花ばっかりですよ」
「……ないな、ナシだ次行くぞ」
「即断即決ですねぇ……」
由比ヶ浜に花のイメージはないし、少し洒落すぎだろう。由比ヶ浜のアホっぽいイメージには似合わない。なんというか、花の柔らかなイメージではなくもっとアホアホしいピンクとかが似合いそうだ。
今入っている店を出て、また別の店に入る。暫く眺めたが、ここもダメだな。
「どうですか?」
「あまりピンと来ないな」
では次。
「じゃあこっちはどうですか?」
「違うな」
次。
「……一応聞きますけどどうですか……?」
「いやこれは流石に……」
次。
「こ、これとか……」
「普通すぎるな」
次、ナシ。
他ナシ。
ナシ、ナシ、ナシ─────
◇
「なーんも、決まりませんね」
「なーんも、決まらん」
「まあ田島さんが拘るせいですが」
「……悪いとは思っている」
二人してベンチで項垂れる。いや主に項垂れているのは俺だけなのだが。
あれから暫く探してみたが由比ヶ浜の好きそうなものは見つからなかった。いや、あるにはあったのだが、俺自身の琴線に引っかからなかったと言うべきだろう。手に取るもの全てがどうにもありきたりで面白みがないと感じてしまう。
一色の言う通り俺自身の拘りのようなものが多分に含まれているが、ここまで本気になって探しているのだから、俺としてもしっくりくるものが良い。
洒落ていなくてもいい、彼女の趣味に合うもの。それは……ふむ。そもそも俺は彼女の趣味を知らないんだったな。確か料理にハマっていると言っていたが、フライパンだとかの調理器具を渡しても既に家にあったら困るだろう。エプロンやミトンなんかの身につけるタイプは他のメンバーが思いついていそうで被ってしまう恐れがある。
腕を組み、頭に酸素を回すように深呼吸しながら考え込んでいると一色が口を開く。
「それにしてもアレですね。こんなにアテもなく動くの、ちょっと田島さんらしくないです」
「……そうか?」
「田島さんなら、しっかりその女の子の事を知ってから買いに来そうですけど」
「その時間がなかったからな」
一色は不思議そうにこてんと首を傾げる。
時間がなかった。比企谷を説き伏せる時間も、由比ヶ浜にアプローチをかける時間も。そもそも思えば本当に急な話だ。由比ヶ浜と比企谷の件も、平塚先生の提案も、雪ノ下の話もだ。
以前の俺ならば乗らなかった提案だろう。時間がない、人脈もない、頭を捻れば拒否する理由は幾らでもあったはずだ。確かに一色の言う通りらしくないと言えばらしくない。しかし人は変わるもの。俺も少しだけではあるがこの数ヶ月間で表には出ない変化をしたのかもしれない。
「そんなに急だったんですか?というかそもそも何でそんな事態になったんです?」
先程は色々あるで流したが、一色の事をこれだけ付き合わせてる以上情報収集も兼ねて一色にも事情を話してやるべきだろう。
俺は一色に部活動内でのいざこざ、それによって命じられた平塚先生の話と、雪ノ下の提案を説明する。それを聞けば一色は呆れたような表情をした。
「大変ですねー」
「全くだ。それで、そいつが戻るにせよ戻らないにせよ話し合いの機会は作りたいらしい」
「だから、誕生日にかこつけてって事ですか」
納得したようにほむほむと一色は一人で頷く。
「じゃあ、渡す人って誰なんですか?」
「お前が知っているかは知らんが、由比ヶ浜結衣という女だ」
「え!?由比ヶ浜先輩ですか!?」
名前を出すと一色は驚いた表情で俺を見る。どうやら彼女は由比ヶ浜を知っているようだ。そう言えば、彼女が狙っているのは葉山隼人だったか。それならば彼のグループである由比ヶ浜を知っているのも納得だ。
「そうか、知り合いか」
「いやそんな期待の眼差しで見られるほど知っている訳じゃないですけど……」
「参考程度でいい、聞かせてくれ」
「うーん」
といって一色はむむむと唸り、頭の左右、こめかみの部分に人差し指でぐりぐりと指で押し始めた。なんだその仕草は一休さんの真似事か?いや一休さんは頭頂部近くを押していたか。こういった仕草が素で出てくるあたり、普段のあざとい仕草のうち一割くらいは以外と無意識にやってたりしそうだな。
「あっ」
ボケーッと一色を見ていると彼女はなにか思いついたようで、顔上げピンと人差し指を立てた。
「そういえば由比ヶ浜先輩、ワンちゃん飼ってるって言ってました」
「ほう、犬か」
なかなかどうして有用な情報が出たな。それを聞いて思い出したが、由比ヶ浜の携帯に着いているジャラジャラとしたストラップ、あれにも犬のストラップがいくつか着いていた。
犬か、犬は盲点だった。ありきたりなものすぎて、女子高生の好きな物トップランキング10のうち8位くらいのもの程度に考えてはいたが、飼っているならばそのランキング上位に位置する可能性がある。
「お前にしてはいい着眼点だな。褒めてやろう」
「なんでそんな上から目線なんですか……」
一色が呆れたようにため息を着くのを見て、俺は立ち上がる。
「目標変更だ」
「どこ行きますか?ペットショップとかよさげだと思いますけど」
「いや、アテがある。そら行くぞ」
「はーい」
一色は「よっ」と呟きながらぴょんっとベンチから立ち上がり、俺の隣に並ぶ。
「それでアテって?」
「まあ、着いてくるといい」
そうして俺は記憶を頼りに歩き始めたのだった。
◇
目当てのモノを買い用を済ませ店を出れば、時間は凡そ二時半過ぎだ。思ったより長い時間を使ってしまった。
「どうする?これで俺の用は終わりだが」
「私も特にはないですね、帰りますか?」
「俺はどっちでもいいが……うん?」
視界に何か見知った顔の女が映った。
「どうかしましたか?」
「いや……」
その女の方へと目を向ける。反対側のショップ、そこから出てきた女はやはり見知った顔に似ていた。
それは雪ノ下雪乃に似ていた。いやしかし髪が短いな。雪ノ下はロングヘアーだったが、対してあの女は肩の上くらいに切りそろえられたショートボブだ。その黒髪はこの距離でもわかるほどに艶やかなものであり、彼女の持つ清楚な雰囲気を醸し出す一因だろう。そこは似通っているが、浮かべている笑みは随分と柔らかなもので、俺の知っている鉄面皮女とは似ても似つかないものだった。
それによく見れば年齢も俺より上だろう。推定年齢20代前半、受ける雰囲気から察するに大学生あたりだろうか。
女性は店先でガヤガヤと騒いでいる複数の男女、こちらも恐らく大学生、と合流すればその場の雰囲気を一気に掌握したかのように全員の視線が彼女へと向いた。まるで女優か何かが来たかのようだ。そして皆が彼女の合流を心待ちにしていかのように一斉に話しかけ始めた。あれは凄いな、雪ノ下とは似ても似つかないぞ。
それに───今、目が合ったか?
「あだッ!?」
雪ノ下のそっくりさんを観察しているといきなり脇腹を抓られた。
「お前……」
「へー田島さんってああいう女の人が好みだったんですね知りませんでした」
「何を勘違いしているんだアホめ」
一色がジトーっとした目でこちらを見つめる。
「勘違いも何もずっと見てたじゃないですか」
「……知り合いに似ていたんだよ」
「知り合い?」
一色の問いに、抓られた脇腹を擦りながら返す。
「ちょっとした知り合いだ。それに、ああいう女は俺の趣味じゃない」
雪ノ下のそっくりさんというだけでも守備範囲外だと言うのに、目が合った時に軽く悪寒が走った。アレはダメだ。恐らく悪女か何か、良くて女狐だろう。俺の勘がそう告げている。
再度女がいた方へ目を向ければ、グループごともう移動したようでそこには誰もいなかった。
「……まあ、とにかく。そういうのじゃない、いいな?」
「は〜?いい訳ないじゃいですか〜。そもそも知り合いって誰ですか?」
「知り合いは知り合いだ」
今のこいつに雪ノ下のことを告げれば面倒な事になると俺の勘がそう告げている。今日は良く勘が働く日だな。だが勘が働くという事は女絡みの面倒な事が起きるということだ。つまり従うに限る。
「いや、それで誤魔化されるわけないじゃないでしょ。いいから教えて下さい」
「断る。そら帰るぞ……ぐおっ」
歩き出そうと、足を前に出したが服の襟を掴まれたようで襟が首を締めた。踏み出した足を元に戻して、掴まれた腕を外そうとする。いやコイツ力強くないか!?物凄い力で掴んでいるようで中々一色の手は離れない。この細腕のどこにこんな力があるんだ。
「お前……!服が伸びるからやめろ……!」
「じゃあ教えて下さい♪」
一色は涼しい顔をしながら、頬の横で人差し指を立てる。きゃるるんッと音が鳴っていそうだ。俺を従わせる為にやるあざとい仕草だが、今回はそうはいかない。
「なんでそんな強情なんだいいから諦めろ!」
「い〜や〜で〜す〜!」
不味い、明らかに周囲の目を集めている。とにかく、急いで一色を何とかしなければ。
「いいから離せ」
「教えて下されば離しますよ」
「それは嫌だ」
「じゃあ嫌です♪」
より一層掴む力が強まった気がする。
「クソ、離せって、なんでこんなに力が強いんだ!」
「伊達にサッカー部マネージャーじゃありませんから、あと田島さんが単純に力ないです」
「このゴリラめ」
「は?」
そういって再び攻防が始まる。それは結局俺の方が先に体力が尽きて雪ノ下のことを白状するまで続いた。
その後財布が少し軽くなったのは言うまでもなく、俺は女一人にすら力負けするという事実に身体を鍛える為にジムに通い始めたのはここだけの話だ。
田島くんは結構貧弱です。
女の子に力負けするぐらいには貧弱です。
次回は遊戯部との対決、その後由比ヶ浜のお誕生日パーティーです。
この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?
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雪ノ下
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一色いろは
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鶴見留美
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松山千佳子
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材木座義輝
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戸部翔