青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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読心術なんで仰々しい名前だが、実際そこまで便利なものじゃない。
ちょっとした癖、些細な目のゆらぎ。
それをみて他人の心理を予想する。
合ってないことの方が多いんだ。
エスパーじゃあるまいし、他人の気持ちなんて分からないものさ。


三話 人と話す時は目を見て話せ

 その後いくつか雪ノ下比企谷、平塚先生との間で会話がなされた後平塚先生は俺と雪ノ下に任せると言って去っていった。半ば雪ノ下が折れるという形ではあったが。事実本人も未だに少しばかり不服そうに眉をひそめていた。

 

「とりあえず座るといい」

「あ、はい」

 

 比企谷が席に着く。今の席順は比企谷を机を挟んだ向いに雪ノ下と少し距離を離して俺がいるという形になる。

 

「コーヒーは飲めるか?」

「あんま苦いのは好きじゃない」

「そうか、砂糖はお好みでどうぞ」

 

 彼の前に紙コップに入ったコーヒーを置く。生憎と来客用のカップはまだ用意してない。用意しても洗うのが面倒だからやる気もないが。

 比企谷は幾つかの砂糖を……結構入れるな。あれじゃ風味が台無しだ。

 その後、コーヒーに口をつけるが、キョロキョロとあちらこちらを見て、なにか口を開こうとして諦める。落ち着きがなく、忙しない。時折独り言をボソボソと呟いては少し気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 対照的に雪ノ下は比企谷に興味がないのか文庫本から目を離さず、ペラペラと頁をめくる音だけが部室には響く。ただ時折、チラリと目線だけを比企谷の方に向けている。声をかけることはないようだが。この女に社交性を期待するだけ無駄か。

 

「雪ノ下、さっきの様子を見るからにどうやらコイツは平塚先生からあまり話を聞いていないらしいぞ」

「……そうみたいね」

「そうだよ、そもそもここは何部なんだよ」

 

 俺たちが会話を始めると、比企谷もそう辟易とした表情ながらも乗ってくる。どうやら本当に何一つ説明を受けていないようだ。平塚先生も少しは考えて欲しいものだが、期待するだけ無駄だろう。

 とはいえ、このままだと雪ノ下が比企谷に対して何らかの失礼な言葉を投げかけるのが容易に想像できる。雪ノ下は男嫌いの毛があるようだからな。ここは一肌脱いでやろう。

 

「ふむ……そうだな、ここは一つお前の人となりを把握する為にもちょっとした催しをしよう」

「催し?」

 

 雪ノ下が不思議そうにこちらを見る。面倒そうならすぐにでもやめさせると言わんばかりの目だった。

 

「まあ見てろ、お前に迷惑はかけない」

「なら勝手にして頂戴」

 

 そう言って再び文庫本に目を落とす。

 しかし先程から雪ノ下は比企谷の事を妙に気にしているそぶりを見せている。それは興味から来るものなのだろうか。しかし、少し違うか。

 現状それを推し量るには俺はまだ雪ノ下のことも比企谷のことも知らない。もしかして俺の知らないところで、この二人が知り合っていたとしても何らおかしい事は無いのだ。

 そう結論づけて、俺は比企谷へと向き直る。

 

「さて、比企谷八幡くんで良かったかな」

「え?ああ……そうだけど……てかなんだよこれ」

「何って……面接だが?」

「なんでだよ」

「まあ良いじゃあないか。別になんでも」

「良くねぇよ」

「はあ……一から十まで伝えなければならないのか?面倒くさい男め」

「え、俺が悪いの?」

「なんでもいいから早く始めなさい」

 

 興味がないような振りをしながら先を促す辺りやはり興味があるな。度し難い女め。

 

「俺は今からいくつか、君に質問をする。それを正直に答えるだけでいい」

「はあ……」

 

 人となりを把握するのが一番楽な方法は適当に質問をすることだ。そうなると面接形式が好ましい。面接という状況は、事前に告知をしなければその人間の癖や性格、普段からしている態度などが大なり小なりでるものだ。それを見てやろう。

 

「まずは自己紹介をしようか。俺の名前は田島実。この『奉仕部』の副部長をやっている。見たまんまどこにでもいる凡庸な男だ。そして隣の愛嬌のない女は部長の雪ノ下雪乃。見ての通り無愛想かつ協調性、社交性、あとは他人に対する思いやりに欠ける等、多くの人間的欠陥を持つやたらと見た目だけは良い女だが……」

「どうやら私に喧嘩を売りたいだけのようね。いいわ、買ってあげる」

 

 おっとさっきまで心地の良い風が吹き込んでいた筈だがやけに寒気がするな。自業自得か。さっさと謝罪しよう。比企谷が目に見えて恐怖している事だからな。

 

「待て、俺の負けだ。悪かった、謝ろう。だからそのまま大人しく文庫本を読んでいてくれ」

「謝り方がまだ上から目線ね」

「すみません」

「……続けなさい」

 

 雪ノ下はそれだけ言って文庫本をめくった。俺もようやく強ばった背筋を元に戻す。殺されるかと思った。雪ノ下を言葉で殴るのはやはり加減が必要だ。もう少しその辺を見極めてからコイツの心を折ることにしよう。そうしよう。俺も命が惜しい。

 

「こうやって実践して見せたが、あまり部長には逆らわないようにな。さて、気を取り直して続けよう」

「まだやるのか……」

 

 さっきの様子を見て尻込みしてしまったらしい。しかしここでやめては俺が醜態を晒しただけだからな。挽回するという訳じゃないが、少なくともこの男がどんな男なのかくらいは見る必要がある。具体的に言えば、雪ノ下の罵詈雑言の矛先を向けられる男かどうか、だ。

 座り心地の悪い椅子に改めて座り直し、俺は比企谷に目線を合わせる。ズレた。目線を合わせる。逸らされた。コイツ、人と目を合わせられないタイプか。

 ため息を着いたあと、俺は面接もどきを再開する。

 

「そうだな……趣味は?」

「読書」

「休日は何をして過ごしているんだ?」

「色々だな、読書したり、アニメ見たり」

「なるほど、普段から遊ぶような友達はいないと」

「なんでそうなるんだよ……だいたいな、俺は群れない主義なんだ。親しい友人を作ると人間的強度が下がる」

「単純にコミュニケーション能力が低いだけではなくて?」

「お前なぁ……」

 

 雪ノ下だけには言われたくないだろう。少なくともニヒルを気取った笑い方をするが、質問に受け答えがしっかりできている比企谷の方がマシだ。

 

「それで、比企谷はどうして奉仕部に入ろうと思ったんだ?」

「どうもこうも、平塚先生に無理やり入れられたんだ。なんなら今すぐにでも退部したいぐらいだ」

「それは諦めろ」

 

 比企谷の入部原因は予想通りものだった。ならばどうしてこんな胡散臭い部活動に、部活内容どころか部活名まで知らないまま来ることになったという疑問が残る。俺の時は少なからず名前は教えてくれたのだから。

 とはいえ予想はできる。

 

「で、何をやらかしたんだ?」

「なんでやらかした前提なんですかね」

「望んで入部希望した訳じゃないんだろう?ならそれしかない」

「そ、それ以外にもあるかもしれないだろ」

「ほう……例えば?」

「……い、いやそういやまだこの部活が何をするのか聞いてないぞ!」

「流したな、まあいいだろう」

 

 これはあくまで面接もどき、この男の人となりを理解する為だけのもの。馬鹿正直に答えなくたっていいのである。そしてこの男が何かをやって、平塚先生の怒りを買ったことは理解出来た。入部する時の状況が俺とは少し違うようだ。

 しかし平塚先生を怒らせること自体は容易だからなあ。年齢だとか未婚辺りを弄ればすぐだ。目に見えた地雷に引っかかるほど俺は愚かではないが、この目の前の男は愚かだった、というわけだろう。

 

「何をする部活か……そうだな。質問に質問で申し訳ないが、逆にお前は何をする部活だと思う?」

「そうだな……」

 

 そう言って少し考える素振りを見せる比企谷だったが、少し鼻の下が伸びた。彼も健全な男子高校生だ。名前のニュアンスからそれを考えつくのは仕方のない話ではある。俺は見逃そう。

 

「何を考えているの?気持ち悪い。こっちを見ないでもらえるかしら」

「ご、誤解だ!」

 

 しかし雪ノ下が見逃すかな。俺とは違ってその辺理解がないからな。ああやって軽蔑の視線が飛んでくる。

 

「……もしかしてあなたもそう考えていたの?」

「……いや?」

「なんの間かしら、疑わしいわね」

 

 もれなくもう一本俺にも飛んでくる。アタリが出たらしい。運が良いな。女はこういう時に勘が良くて困る。俺は話を逸らすために、口を開く。

 

「……ともかくだ。奉仕部の活動は一言で言えば──」

「ストップ。田島くん、交代よ。その答えは私が言うわ」

「あん?そうだな」

 

 比企谷の人となりはだいぶ理解した。平塚先生の言っていた孤独体質というのもこの様子じゃ事実なのだろう。

 現状の評価は少し笑い方が気持ちの悪い、一般男子高校生と言ったところだろうか。もう少し人となりを引き出したいところではあったが、部長の要請ならば仕方がない。

 

「まあ……構わんよ。大体は把握したからな」

「そう、なら聞くのだけれど」

 

 了承すると雪ノ下は文庫本をパタリと閉じ、机の上に置いて比企谷に向き合った。

 

「比企谷くん。女子と話すのは何年ぶり?」

 

 なんの脈絡もなく随分と失礼な質問が彼女の口から飛び出した。ついでに俺の気遣いは吹き飛んだ。

 予想はしていた。この女が比企谷という人間を見下さないわけがないと。俺が言えたことでは無いが、比企谷の方も大概ひねくれ者のようだからな、きっと売り言葉に買い言葉だ。これから始まるのは見るに堪えない屁理屈罵倒大会に違いない。

 そう思って比企谷の方を見れば、何か嫌な過去でも思い出したのか顔が死んでいる。腐った目がより酷いことになっているな。

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心持ってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

 なんだか随分と立派な言葉で飾り立て、遠回しに比企谷をモテない男子扱いしながら、雪ノ下はゆっくりと立ち上がる。自然とその視線は比企谷を見下すものへと変わった。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

 俺の時と同じように、いやそれ以上に歓迎の意思がないと言わんばかりの目で、我らが部長氷の女雪ノ下雪乃は憐れな一般男子である比企谷を見つめるのだった。

 




以降の流れは原作通りかつ主人公の入る余地がないのでカットです。次回は由比ヶ浜の依頼か、その前になんか挟もうかなぐらいの予定です。
面接のに単語を打つだけで心が死んでいく。そんな心境。

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
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