青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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三十五話 好奇の芽生え

 文化祭二日目。

 昨日と違って一般公開日となり、学校関係者ではない一般の客もやってくる。総武校の文化祭という点で、とかく地域との繋がりを重視している文実にとっては今日からが本番とも言えるかもしれない。

 外部からやってくる一般客や、受験予定の受験生などが学校の雰囲気を見るために訪れる。有志による出し物も今日行われるのだったか。

 総武校生徒たちも外部向けに多少はキリッとして、という訳もなく、むしろ青春の名のもとに人生で数回しかない文化祭を謳歌してやろうという連中しかいない。先程見かけた、ウェイウェイ言っていた戸部なんかその最たる例である。

 とはいえ、そうではない人間もいる。比企谷のように青春の二文字に似つかわしくない男たちもいるのだ。そして今俺の目の前で仁王立ちをする大男も、その例に漏れない。

 

「もははは!ここにいたか!師よ!」

 

 たまたま、そうたまたま一人になって待ち人を待っているタイミングでエンカウントしてしまった。暑苦しくてやかましいあいつ、材木座義輝である。

 

「材木座か……何か用か」

「用も何も、分かっておるだろう?」

 

 フッと笑い、眼鏡を人差し指でクイッと上げれば、彼は再び呵呵と芝居がかったふうに笑う。その姿に頭痛がする中俺は再度質問をした。

 

「だから、何の用だ。具体的に端的に言え」

「我、暇。構って」

「端的に言ったのは褒めてやろう。だが俺にも用事があるんでな。断る」

 

 そもそも用事がなくても誰が好き好んで材木座の相手をしたいと思うのか。よほど暇で暇で死にそうでかつ興が乗っている時ではない限り、御免こうむりたい。

 

「何故に断るか。師も我と同じくこの煩わしい愚か者共の祭りが終わるその時まで、孤独に耐え忍ぶ同士とお見受けしていたが?」

「お前が俺のことをどんな風に思っているのかが良くわかったよ」

 

 普段通りに尊大不遜な態度をとる材木座にため息を吐いた。

 しかしこいつの言うこと通りならば材木座はこの文化祭の間一人でいたのだろう。少しだけ哀れに思ったが、よくよく考えなくてもこいつの態度が原因だ。身から出た錆である。

 いい加減その暑苦しいコートと痛々しい指ぬきグローブを脱げばいいものを。いやしかし根本的な性格がダメ寄りだから、難しいか?

 

「なんにせよ、用事があるのは本当だ。そろそろ来ると思うが……」

 

 あたりを見渡してみるが、如何せん人が多い。生徒に家族でもいるのか、楽しげに親子連れで来ている家族。他校の制服を着た、恐らく中学生であろう少年少女達。

 群衆の中に目的の人物は見当たらない。背が低いからな。母親と来ると言っていたし、目印はそっちにするべきか。

 

「誰を探しておるのだ?」

「知り合いだ。小学生の少女なんだが……。印象は雪ノ下を小さくしたような感じの容姿をしている」

「ほむん……我も探してみよう」

「そうか。頼んだ」

 

 二人してキョロキョロとあたりを見渡すが変わらず見つからない。

 材木座のような風貌をした男がしきりに周囲を見渡すせいで、なんだか衆目の目線がこちらを怪しむようなものになってきた。

 一旦連絡を取った方が良さそうだなと思いスマホを取り出した。

 

「あ、みのるんいた!」

 

 少し遠くから声がかかった。

 声は由比ヶ浜もので、そちらへと向けばクラスTシャツであろうオレンジ色の半袖の服を着ていた彼女は、とびきりの笑顔を浮かべていた。

 

「って、なんか中二もいるし……」

 

 材木座の姿を認識した瞬間その顔はすこぶるに嫌そうな顔になった。

 

「ハヒッ……いやその……スッー」

 

 対する材木座は目を泳がせ、口数は少なくなる。相変わらず女相手だと途端に弱気になるなこいつ。

 

「……それで、俺を探していたようだがどうかしたか?」

「えっとね……」

 

 そう言って由比ヶ浜は背後へと目を向けた。

 

「実さん」

「うん?留美か」

 

 そこに居たのは留美だった。由比ヶ浜の後ろから出てきた彼女は、ようやく安心したようでホッと息を吐いた。

 

「いやー、たまたま留美ちゃんと会ってさ。みのるんのこと探してるっていうから、あたしも手伝う事にしたんだよね」

「そうか、手間をかけたな」

「ううん。留美ちゃんと喋りながら探してたから。それにみのるんの話色々と聞けたし」

「うん。色々と話した」

 

 何を話したのだろうか。いや、とはいえ彼女とは特段大したことはしてない。休みの日によく通う喫茶店に連れていったくらいだろうか。あとは彼女から近況を聞くくらいだったが。

 しかし、母親の姿が見当たらないな。

 

「一人で来たのか……春美さんはどうした?一緒に来ると聞いていたが」

「うん。お母さん用事があるから急に来れなくなっちゃってさ」

「そりゃあ、大変だったな。ここまで遠かっただろうに」

「まあね。でも、これもいい経験ってやつじゃない?」

「確かにそうだな」

 

 俺はその言葉に、肩を揺らしながら肯定した。

 そんな俺たちの様子に、材木座は些か衝撃を受けたかのような顔をしていた。

 

「……実さん。そこの変な人、変な顔して見てるけど」

「特に気にする必要はないぞ」

「我は変な人にあらず!材木座義輝、剣豪将軍である!」

「……きも」

「うわぁ……」

 

 留美に対しコートを自身の手ではためかせ、材木座はキメ顔をした。そんな彼の見ていられない言動に、留美は冷めた目で見つめていた。由比ヶ浜は最初からずっとそんな目だ。さながらチベットスナギツネである。

 

「師よ……どうやら我らは袂を分かってしまったようだな……しかし我は孤独と共に生きる、孤高なる剣豪将軍なれば。師の歩む道を共にゆくことは出来ない」

「は?」

 

 俺の疑問の声は他所に、材木座は「さらば!」とコートを翻し、雑踏の中へと消えていった。

 相変わらず騒がしいやつだ。結局、何がしたかったんだ。

 留美は材木座が去っていた方向を見ながら呆れたようにため息吐いた。

 

「……やっぱり変な人じゃん」

「中二だからねー。ていうか二人とも超仲良いね?」

「そうか?」

「別にそんなことないけど」

「えー?そうかな。でも名前呼びだし……」

 

 名前呼びになったのは、留美の母親。春美さんが苗字呼びで反応する変な遊びをし始めたからだ。

 

『鶴見』

『はい?』

『いえ、お母さんの方ではなくて』

 

『ちょっといいか鶴見』

『なに?』

『どうかしましたか田島さん』

『いや、その……娘さんの方で……』

 

『つる……』

『……』

『……留美』

『どんまい』

 

 この前留美を迎えに行った際に、こんな反応をされてかなり面倒くさかったので、それからは名前呼びにしたのだ。最後の方なんざ名前を呼ぶ気配を察知してニコニコしながら構えてやがった。お淑やかな見た目に反して、存外イタズラ好きでお茶目な性格の女性らしい。全くもって油断ならない。

 それを考えれば確かに仲が良いとも言えるのかもしれないな。そもそも良く考えれば、仲良くもない小学生とだったらこうしてよく分からない関係性を続けられんか。

 

「まぁ、そうかもしれないな」

「でしょ?」

「そうだな。それで、留美。どこか行きたいところはあるか?」

「実さんのクラスがいい。コーヒー淹れてくれるんでしょ?」

「そうだな。少々値は張るが」

 

 その値段650円。小学生の財布事情では難しいだろう。

 父親から強請って貰ってきているという話ではあったが、相手は留美なのだし別に奢ってやるのもやぶさかではなかった。

 後で野口を握らせておこう。

 

「みのるんのクラスかぁ。メイド喫茶だっけ?隣のクラスなのに、まだあたし行けてないんだよね」

「別に大したものでもないがな。しかしな。今はまだ混んでいるだろうし、何より留美。お前は俺の淹れるコーヒーが目当てだろう?」

「うん」

「なら俺がクラスの仕事に戻る時に来ればいい。由比ヶ浜も一緒に来れば一人にすることもない」

「あたしに留美ちゃんの面倒みさせる前提の話じゃない?それ。や、別に嫌じゃないし全然いいけど」

 

 何故ならば、由比ヶ浜は暇そうだから。というのを言っては留美の面倒を見てもらえなさそうなので、心の中に留めておく。

 由比ヶ浜は暫く考えるように腕を組めば、あっと声を上げる。

 

「そうだ。二人ともうちのクラスのミュージカル見に来れば?」

「ミュージカル?どんなの?」

「えっとね。星の王子さまってやつ」

「……実さん知ってる?」

「有名なフランスの児童文学だ」

「ふーん」

 

 砂漠に不時着した宇宙飛行士の『ぼく』と、そこへやってきた別の星の『王子』との交流の話、そしてその王子が地球へ帰るまでの星巡りの話だ。

 俺も昔読んだことがある程度でその内容は詳しく覚えていない。

 これが比企谷や雪ノ下であれば、自身の知識を見せびらかすよう話せるのだろうが、如何せん俺は読書が苦手であるのが故に、そこまで見識は深くなかった。こればっかりは得手不得手の問題なので勘弁して欲しい。

 そんな中留美は少しだけ興味を持ったのか、由比ヶ浜からそのミュージカルとやらの話を聞いていた。数分後、だいたい聴き終えたのか、彼女は俺へと目を向けてきた。

 

「ねぇ、実さん。私ちょっと観てみたい」

「構わないぞ。どうせ時間になるまで暇だからな」

「あ、そういえばみのるん文実の仕事はいいの?」

「今日はエンディングセレモニーまで仕事はない。特に問題はないな」

 

 シフトを見たところ、今日はエンディングセレモニーまで特にやることはなかった。故に暇だった。だからこうして鶴見と一緒に回ることを承諾したのである。

 そうでなければちょくちょく抜ける可能性があるというのに、彼女の面倒を見ることを引き受けなどしなかった。

 由比ヶ浜は俺の返答に「そっか」とこくん可愛らしく頷いた。

 

「じゃあさ、やっぱあたし達のクラス見てってよ!ちょうど開演時間も近いからさ」

「うん。ちょっと興味出てきた。実さんいこ?」

「いいぞ」

 

 留美が手を出してきたので、その手を握る。握り返してくる小さな手は頼りないものだったが、俺の手をしっかり握って離すことはない。信頼がないな。

 由比ヶ浜はそんな様子を見て、目を丸くする。

 

「え、なんか思ってる以上に仲良い?」

「人混みに入ると、すぐにはぐれそうになるもんで、自然とこうするようになっただけだ。他意はない」

「実さん。目離すとすぐどっかいっちゃうから」

「しかも原因みのるんなんだ……」

 

 仕方がないだろう。今まで小学生くらいの背丈の人間と外に出かける機会なんてなかったのだ。そのせいで考え事をしているとすぐに見失うのだ。全ては留美の背が小さいのが悪い。早く大きくなれ。

 

「私のせいにしないでよ。どう考えても実さんがフラフラするのが悪いでしょ」

「特に何も言ってないだろう」

「言ってなくても、私の頭見ながら不満そうにしてた。目線で語るってやつ」

「……していない」

「してるじゃん……」

 

 鶴見は若干こちらを馬鹿にするように半目で見つめる。横からは呆れるような視線が由比ヶ浜から飛んできた。

 暫く注がれる視線に耐えつつ、俺は由比ヶ浜の所属クラスである2年F組まで向かうのだった。

 

 

「面白かった」

 

 観終わってからすぐに留美がそう口にした。随分とミュージカル……歌ったり踊ったりしてないからほぼ演劇だったが、それを彼女は熱心に観ていたのだから、言っている通りに面白かったのだろうと思う。

 実際戸塚や葉山の演技は中々のものだった。ラストの戸塚が演じる『王子様』が、蛇の毒によって音もなく倒れたシーンは、戸塚の儚げで消え入りそうな雰囲気を醸し出す圧巻の演技によって思わず息を呑んだ程だ。演技指導の賜物か、戸塚の天性の才か。どちらにせよ侮れない演技だった。

 内容に関しても、俺は星の王子さまのストーリーなんてほとんど記憶になかったが、それでも『ああ、こんなのもあったな』と思い返せるくらいには沿っていたと思う。

 しかし、何故だろうか。妖怪眼鏡腐女子が脚本を担当しているという先入観のせいか、セリフの一つ一つがBLに聞こえてならなかった。

 おのれ妖怪め、ここでも俺の邪魔をするか。

 しかし隣で満足そうに笑みを浮かべる留美を見れば、単に俺が汚れているだけなのかもしれないと思い、少し反省をした。いやでもやはり妖怪のせいでは?

 満足気な留美の反応に由比ヶ浜は安心したようで、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「そっかあ。良かった。あたしが誘ったのに面白くないって言われたらどうしようかって思ってたから……」

「他にもなんかこういうのやってるとこってあるの?」

「うーん。あたしは詳しくは知らないけど……みのるんはどう?知ってる?」

「いや、確か演劇だのミュージカルだのを申請していたのはお前のクラスだけだな」

「そっか」

 

 留美は残念そうに呟いた。

 

「随分と気に入ったみたいだな」

「うん。なんか、良かった」

「ふむ。なら今度はちゃんとしたミュージカルでも見に行くか?」

「これ、ちゃんとしてないの?」

「ちゃんとしてないとは言わないが、歌も踊りもないからなぁ。どちらかと言えば演劇だろうよ」

 

 俺も詳しくは知らないが、演劇はセリフや動きなどの芝居がメインであり、ミュージカルは芝居+歌と踊りといったそれらの要素を全てひっくるめてのミュージカルらしい。その点で言えば、やはりこれは演劇だった。

 

「ふーん……空いてる日、ある?」

「文化祭が終わったら連絡する」

「わかった」

 

 時計を見れば、シフトの時間が近づいていた。ミュージカルで結構時間を使ってしまったらしい。隣のクラスなので余裕自体はあるが、行くなら早めの方が良いだろう。

 

「そろそろ時間だな。由比ヶ浜はどうする?結局来るのか?」

「うん。行くよ。あっ、でもちょっと待ってね」

 

 由比ヶ浜は再び教室へと入っていった。

 隣では暫く携帯を眺めていた留美が顔を上げた。

 

「なんか、あと三十分くらいでお母さん来るって」

「そうか。なら後で挨拶しないとだな」

 

 さすがに小学生の女の子を一人で帰らせるのは危険極まりないので、最悪平塚先生の元に預けて俺が帰りは送っていこうかと思っていた。しかし、その心配は無用なようだ。

 しばらくすれば、由比ヶ浜が女子を二人連れて戻ってきた。

 

「二人ともお待たせー」

「おっ、田島くん。はろはろ〜さっきは見に来てくれてありがとね〜。……ちなみに、誰目当てだったのかな?やっばりとべっち?とべ×たじですか!?とべ×たじなんですね!?」

「黙れ、やめろ。健全な女子小学生の前で興奮するな妖怪め」

「姫菜擬態しろし……てか、そっちの子キャンプの子じゃん」

 

 連れは妖怪眼鏡腐女子と金髪縦ロールだった。名前は、確か海老名と三浦。

 

「みのるん。優美子と姫菜も一緒にいい?」

「いや、良いも悪いも俺に拒否権はないだろうに。それに今回は……」

「あ……」

 

 留美の方を見る。

 留美は林間学校の一件で、葉山を始めたとした戸部や、そして三浦に脅されている。勿論あの一件は俺たちの企みだということは彼女も知っているとこではあるが、苦手意識があっても可笑しくはない。

 

「結衣ー。別にあーし達一緒じゃなくてもいいっしょ。気とか遣わせたくないし」

「あー……そうだね……」

 

 どうしようかと目線を泳がせる由比ヶ浜を見た後、留美は俺の方にちらりと視線をを向ける。そして俺の目を少しだけじっと見つめた後、その目は由比ヶ浜たちの方へと向けられた。

 

「別にいいよ」

「そうか?無理はしなくていいぞ」

「別に無理なんかしてないし。よろしくお姉さんたち。私、鶴見留美」

 

 俺の予想より、遥かに留美は強い女だった。彼女の様子を何も言わずに見ていた三浦は面白そうに口の端を釣り上げた。

 

「ふーん……あーし三浦優美子だし」

「海老名姫菜だよ。よろよろ〜」

「うん。よろしく。ちなみにコーヒー奢ってくれたりする?」

「は?超生意気なんですけど」

 

 この様子なら仲良く出来そうだな。

 俺と由比ヶ浜はその様子を見て、安心したように頷くのだった。

 ちなみにコーヒーは概ね好評だった。値段以外は。やはり650円は強気な価格すぎる。それなのに頼まれているのは祭りの熱気に浮かされているのかなんなのか。なんにせよ提供側も消費者側も金銭感覚がバグっているとしか言いようがない。

 俺はドリップをしてコーヒーを抽出しながら首を傾げるのであった。




次回は文化祭終盤

この辺りでルミルミは演劇とかミュージカルとかに少し興味を持ちます。
追記※よくよく考えたらオリキャラタグは追加した方がいいなと思ったので追加しました。

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
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