青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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三十九話 唐突に、告げられる

 文化祭が終わった奉仕部は、いつものようにくっちゃっべってコーヒー飲むだけの無意義な活動をしている。最早お茶会部だなウチは。

 とまぁそのはずだったのだが……今日からは平塚先生が発足した『千葉県横断歩道お悩み相談メール』とやらのおかげでそれなりには部活動としての体裁を保っていた。

 新しいものには夢中になるのが人の性だ。例に漏れず、奉仕部も送られてくる幾つかのメールに返信を返している。

 今のところは恐らく妖怪眼鏡腐女子であろう主からのメールと、雪ノ下姉らしきメールだけではあるが。

 ……幾つかと言ったが訂正しよう。二通のメールにだけ返信している。

 しかも内容が内容だ。正直巫山戯ている内容だった。この企画、別に知り合い間だけにしか広まっていないお遊び企画とかなんて話ではないだろうな。大丈夫か?

 しかし発足されたのが今日なわけで、そう考えると送られてくるメールの量も少ないか。だからこうして知り合いの間にしか広まっていないのだろう。茶化したかのような内容が送られてくるのも、まぁ納得ではあった。

 これを広めるためにはまた実績作りからコツコツと、というわけか。

 

「くぁ……」

 

 それはそれとしてバカほど眠い。眠過ぎて正直メールなんさどうでも良かった。

 とはいえ平塚先生が発足した企画だ。仕事だというならばやらねばなるまい。

 勝手に降りてこようとする瞼を無理やり上げて、何とか眠らないように堪える。いつも通りだ、問題はない。

 淹れたコーヒーをズズズと啜りつつ、PCと向き合う彼女らの話を聞く。

 漫才じみた会話をしている彼女らの話を聞く限り、何でも三浦からメールが来たらしい。

 

【PN:yumiko☆さんからの相談】

『なんか、相模がウザい』

 

 相模がウザいのは通常運転だろ。

 内心思わず毒づいてしまう。とはいえどの口が、か。

 比企谷がちらりとこちらに視線を送って来たのを確認したので、目線で特に問題ないことを伝える。

 どうやらこのストレートな相談メールには続きがあるようだ。

 

『落ち込んでるっつーか、暗くて雰囲気悪いんだけど。ウザい。』

 

「……つまり、元気がないから心配、ということかしら」

「さすがに言葉が足らなすぎないか?」

「あはは……でも、なんか優美子っぽいなぁ」

 

 由比ヶ浜は柔らかく微笑んだ。

 俺は三浦優美子という女のことを詳しくは知らないが、文化祭二日目。鶴見に対して言葉はキツいながらも気遣いの言葉を口にしていたような気がする。

 比企谷は彼女のことを女王様だと評していたが、王は王でも、周囲に目を向けることの出来る良き女王なのかもしれないな。

 とはいえ、彼女がこちらへとメールを送るくらいには相模原クラスで雰囲気を悪くしているのだろうか。

 

「実態どうなんだ相模の様子は?」

「んー、そうだね……なんていうか」

 

 由比ヶ浜が困ったような顔をしたあと言葉を濁す。

 

「まぁウザいと言われればウザイな。とにかく暗いんだよ。元々目立ちたがりのうるさいヤツだったからな。それがあからさまに落ち込んでて、しかも口数も少ないとなれば、クラス全体が気を遣わなきゃならんくてな。それもあって全体的に雰囲気がぎこちなくなっているんだよ」

「それは相当に鬱陶しいわね……」

 

 雪ノ下と同じように、俺も辟易とした表情を浮かべた。そりゃあウザイだろうよ。

 クラスのうち一人、それがクラスでもそれなりに認識されメンバーだと思われているやつが暗いと全体にまでその暗さ、あるいはマイナス的な負の感情が伝播する。

 由比ヶ浜や比企谷の表情を見ても、それはのっぴきならないものなのだろう。

 

「解決策はあるのかしら」

「どうだろうな……何せ、そうなってるのは相模の悪評が広まっているせいだしな」

 

 変わらず面倒くさそうな顔をして、比企谷はため息を吐いた。

 悪評、か。

 それは文化祭にて相模がエンディングセレモニーをあわや放棄仕掛けたことだろうか。

 

「さがみん、文実で色々あったじゃん?その噂が結構広まっちゃってるらしくで……」

「最初はヒキタニとかいう知らんやつのせいになっていたんだけどな。でもそれもすぐに相模の自業自得っていう風に変わってきた」

「それが原因で相模さんは肩身が狭くなっている、そんな感じかしら」

「まぁそんなとこだ」

「比企谷の噂の方はどうなんだ?何でも相模らが広めていると聞いていたが」

「前に言った通り、そこまでだな。寧ろ広めようとしてた相模自身の悪評が流れてからは、めっきりだな」

「ロビー活動もやり辛くなってきたというわけか……」

 

 自業自得と切り捨てられれば楽なのだろうがな。

 あの一件を未だに切り捨てることすらできていない俺にとって、この話は聞いているだけで感じる必要のない責任を感じてしまう内容だった。

 気取られないように普段通りにやる気のないため息を吐いてからカップを手に取る。

 

「……なんにせよ相談として来ているのだろう?どう解決する?」

「つっても時間が解決しそうな問題ではあるんじゃねぇか?噂は噂だし」

「どうだろうな……お前の与太話な噂と違って、相模のものは彼女自身の実話だ。一度落ちた信頼はなかなか取り戻せないぞ」

 

 そう言ってからコーヒーを啜った。

 涼しくなってきたせいで、冷めるのも早くもうコーヒーは温くなっていた。素直に不味い。インスタントというのもあるが、とにかくコーヒーは淹れたてが肝心なのだ。冷めたらなんでアレ不味い。

 しかし、ここのところコーヒーを楽しめていないな。精神状態がよろしくないということだろう。いい加減、振り切らねばなるまい。

 ちろりとこちらを見た雪ノ下は咳払いをすると話を進める。

 

「とにかく、相模さんたちの動向はF組の内情をもうちょっと知ってから適切な対処をとりましょうか」

「まぁ、相談が来たってことは依頼みたいなもんか……」

「そうだね……」

 

 そう言ってから何故か全員こちらへと目を向けてくる。

 

「……あ?なんだよ」

「……なんでもないわ。まずは相模さんたちの様子を見て、解決の糸口を探りましょう。それに関しては比企谷くんたちに任せるとして……」

 

 とはいえ今日はもう放課後。最終下校時刻も近い。相模達ももう帰っていることだろう。

 

「それをやるにせよなんにせよ、もういい時間だろう。今日は解散でいいか?やるなら明日からやる方がいい」

「……いい言葉だな。明日からやるって」

「典型的なダメ人間のセリフね……」

「ダメなのは俺じゃなくて社会の方だ」

 

 キリッとした表情を浮かべる比企谷に俺たちは呆れた表情で返す。

 コイツは本当変わらんな。

 そういえば比企谷が奉仕部に入ってきた時、平塚先生から依頼されていた記憶がある。確か比企谷の性根の変革が依頼内容だったな……。

 それについて解決の目処は未だたたず、だな。相も変わらず先は長そうだ。

 

 

「失礼しまーす」

 

 今日も変わりなく優雅なティータイムを送っていた我らが奉仕部には尋ね人が来ていた。やはり茶会部に名前を変えた方が良い。

 しかしくぐもっていて若干聞き取れなかったが、それでも聞き覚えのある声だな。

 ノックの主に雪ノ下は「どうぞ」と返せば戸が開かれた。その向こうにいたのは、ほんわかとした雰囲気を纏った三年生、城廻めぐり。総武高校の生徒会長様だ。なるほど、聞き覚えがあるのも納得だった。

 

「えっと、奉仕部ってここでいいのかな?前に体育祭のことで相談メールしたんだけど、直接話した方が早いかと思って……、来ちゃった」

 

 メールと言われ、俺たちは改めてPCの画面を見る。

 

【PN:めぐ☆めぐさんからの相談】

『体育祭を盛り上げるアイデアを募集しています。それと、今年で最後なので絶対に勝ちたいです!』

 

 先程までこれについて話していた、主に俺以外がだが。俺に関しては若干の興味はあれど、やる気はないもんだから適当に話だけ聞いていた。

 そんなメールだったが、どうやら送り主は会長だったらしい。ペンネームと体育祭も今年で最後という文面からも、送り主が3年生であることは確実であることから、会長がメールを送ったの主で確定だろう。

 雪ノ下が来客用の紅茶を入れたのを確認したので、俺はその隣のファイルから要旨を取り出す。コイツを手に取るのも久々だな。

 相模の依頼の時は色々あって忘れていたが、今回からはしっかり書いていこう。会長に書かせても良いが、何となくこの人は喋りながら書くという器用なことは出来ないだろう。全くもって俺の偏見でしかないのだが。実際のところそんなことはないのだろうがな。

 ともあれ彼女に文章にしてから喋らせるよりかは、喋ったことを聞いて俺が書く方が良いだろう。

 聞いたことをうんうんと頷いて要旨に記入していると、会長が目の前まで来ていた。

 

「えっと……聞いてる?」

「うおっ……すみません、何かぼくに言いましたか?」

「えっと、メールの内容で協力して欲しいんだけど……ダメ、かな?」

「ああ、はい。依頼ということですし、特に問題はありませんよ」

 

 言うと城廻会長はホッと胸を撫で下ろした。

 何やら心配させたようだが。

 

「良かったぁ。田島くんに嫌われてるのかと思ったよ」

「あー、城廻先輩。あんま気にしないでください。コイツがなんか考え事してる時に人の話聞いていないのはいつものことなんで」

「悪かったな。要領が悪いんだよ」

「要領がというより、単に視野が狭いだけではなくて?」

「みのるんたまぁにアレな時あるからね……」

 

 散々な言われようだった。

 誤魔化すように軽く咳払いをしてから、会長へと目を向けた。苦笑いしないで貰えますか?

 

「……それより、会長。依頼の詳細を聞かせて貰えますでしょうか」

「うん。そうそう、みんなに相談したいのはね、体育祭の男子と女子の目玉競技のアイデア出しなんだよ」

 

 めぐり先輩がぴしっと指を立てて説明し始めた。

 何でも内の学園の目玉競技は地味なのだそうだ。実際俺たち誰一人として去年の目玉競技のコスプレレースとやらを覚えていない。

 俺に関しては、体育祭のせいでメンタルが不調だったというのもあり、当日はサボっていたので記憶にないというのは当然なのだが、由比ヶ浜ですら覚えていないというのは余程地味だったのだろう。

 

「毎年地味なんだよね。だから今年は派手なのやりたくてさ」

「な、なるほど……」

「お話は分かりました。いつまでにアイデアを出せば……」

 

 雪ノ下か提案すれば会長はぱあっと顔を明るくして雪ノ下の手を取った。

 

「それなんだけど、体育祭運営委員会の会議があるからそこで考えるのはダメかな?」

「は?はぁ、それはかまいませんけど、あの、なぜ、手を……、はな、離していただけないでしょうか……」

 

 突然手を取られた自体に雪ノ下はたじろぐ。

 しかしながらそんな雪ノ下に対して、手を離すことも無くむしろもう一歩前に詰めてくる会長に対して雪ノ下は一歩下がった。

 

「実はね、体育祭運営委員会の委員長がまだ決まってなくて……。だから、雪ノ下さん、どうかなぁ?」

 

 これを計算でやってないと考えるとげに恐ろしき天然かな。一色は彼女を真似した方が良いだろう。

 しかし、委員長、か。中学時代をほんのり思い出す。

 確か、彼女も体育祭を盛り上げたいと言って委員長に立候補していた。ついでに俺は副委員長にさせられた。

 今となっては、もうどうでも良い記憶だ。

 雪ノ下と由比ヶ浜に断られた会長は、今度は俺の方へと水を向けてきた。

 

「田島くんはどうかな!?代理の時に手際良かったの私覚えてるし!」

「生憎と、あの時の田島は死んだので」

「そっかー、死んじゃったかぁ……」

 

 がっくりと肩を落として項垂れる彼女は諦めたように小さく息を吐いた。

 

「けど、委員長が決まらないのも困っちゃうんだよ。……こうなったら、頑張って心当たりを探すしかないね」

 

 心当たり、葉山は……ダメか。運動部のエースが委員会活動に専念しなければならないのは問題だろう。

 他にパッと思いついた生徒だと、松山がいるが、彼女は多分リーダーには不向きだろう。他だと一色は一年だから除外他には特に思いつかないな。

 我ながら交友関係が狭い。全部今まで他者との交流を怠っていた俺の自業自得なのだが。それについては今後も怠っていく所存ではあるのだが。それにそう言う人脈の広さは由比ヶ浜の役割だからな。得手不得手、というやつだ。

 雪ノ下は顎に手をやってしばらく顔を下げていたが、ふっと顔を上げると口を開いた。

 

「それは誰がやってもいいんでしょうか?」

 

 雪ノ下の問いかけは主語がないために、会長は目をぱちくりとさせたが、すぐにその意図を理解したようで答えた。

 

「え?いやぁ、誰でもって言うのはちょっと困るけど。ちゃんとしてる人で、安心して任せられる人がいいかなーって」

 

 なるほど。だから比企谷に声はかからなかったと。比企谷は根は真面目だが、真人間ではない。どちらかと言えばダメ人間よりではある。仕事はしっかりとする男ではあるのだが……ちゃんとしているかと言えば……まぁ、肯定することは難しい。

 しかし、雪ノ下は別の意図を持って質問したようで先程の質問に補足してさらに質問した。

 

「いえ、そういった人格性の問題ではなく、資格や所属組織についての制限があるか否かということです」

「ああ、そういうことかぁ。それなら問題ないよ。実は立候補を募ってたんだ。ただ、だーれも立候補がいなくて……」

 

 文実の時と言い、今回といい。総武高はアレだな。イベント事に対する積極性に欠けると言わざるを得ない。ちなみにその一端を担っているのが俺だ。何故ならば面倒だから。だが俺のような生徒がこうも多いと自分に返ってくるものなんだな。全く、度し難い。

 俺たちがそんな募集は知らないと言えば、会長は悲しそうにしながらも「LINEやるよ!」とやる気を見せている。

 そんな彼女に雪ノ下は若干呆れた様子で口を開いた。

 

「城廻先輩。一人、適任がいますので推薦します」

「え?だれだれ?どんな人?」

「二年F組、文化祭実行委員長、相模南さんです」

「ええっ!?」

 

 驚きの声を上げたのは由比ヶ浜だった。会長も同様に驚いていたし、俺も驚いていた。随分と突拍子もない提案をするじゃないか。以前の三浦の相談と絡める気か?妥当かどうかは知らないが、判断としては……ううむ。なんとも言い難いラインだ。

 そして更に雪ノ下は何故か俺の方を見つめてきた。やたら真剣な眼差しでその顔に冗談とかそういった感情は見られなかった。

 そんな様子に何を言うのかと姿勢を正した。

 雪ノ下はゆっくりと口を開いた後に告げる。

 

「そして田島くん。副委員長はあなたがしなさい」

「ふむ、俺が副委員長か…………。……あ……?」

 

 雪ノ下に伝えられた言葉を上手く頭の中で処理できなくて、俺はしばらく彼女の言葉を反芻する。

 

「……はぁ!?」

 

 思わず声を荒らげてしまった。

 本気で言っているのか、この女……?

 しかし、やはり見つめる雪ノ下の目は本気で、そこに嘘や冗談の類は一切こもっていない。

 俺はそんな彼女の態度に呆然とするしかなかった。

 




次回から本格的に6.5巻の内容です。

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
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