青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

4 / 56
俺は生まれつき運が悪い。
悪運もない。
だからこそ、あんな事態になったんだろう。


四話 日頃の行いが悪い

「やあ、田島」

「こんにちは、平塚先生」

 

 昼休み、とある理由で部室に向かおうとする俺の前に平塚先生が現れた。別に嫌がっているわけじゃない。

 平塚先生はどうやら一服してきたようでほのかに煙草の香りが漂っている。喫煙者だというのに白衣はヤニで黄ばんでいないので吸う時は脱ぐようにしてるのか、あるいはしっかりと洗濯をしているのか。家庭的なイメージがないから恐らく前者だろう。

 

「それで、ぼくに何か用ですか?」

「なんだ、用がなきゃ声をかけちゃいかんのかね?」

「そういう訳ではありませんが……」

「ならいいじゃないか、少し話そう」

 

 時折平塚先生は面倒くさい女の片鱗をだす。面倒くさいことこの上ないが、この際にそれを顔に出すだけではなく、これだから結婚できないんだ、なんて考えた暁には──

 

「なにか失礼なことを考えていないかね?」

「気の所為でしょう」

 

 このようにエスパーが如く察してくる。未婚者にこうした弄りは禁物ということだな。

 

「そうか、気のせいじゃないと思うんだがなぁ……まあいい、話をしたいというのはもちろんあるが、なにより奉仕部のことを聞きたくてな」

「奉仕部の?とはいえ、あれからそう進展はありませんよ。変わらず依頼人も来ていませんから」

 

 比企谷がやってきた日から少し経ったが、相変わらずこの部活は暇だった。面倒だが広報活動をするべきなのかもしれない、と思うほどには暇だっだ。とはいえ依頼人を手引きするのは平塚先生の役割だろうから、あまり意味はないのかもしれない。

 

「そうだろうな、比企谷と雪ノ下の様子はどうだ?」

「ああ……アイツらもさほど変わりはありません。勝負事を取り付けた時のように、変わらず屁理屈と罵倒が行き交う愉快な部活ですね」

 

 実は、あの後雪ノ下と比企谷の間に、平塚先生によってとある勝負事が取り付けられた。内容は依頼をより多く達成した方の勝ち。勝者には敗者へなんでも命令する権利が与えられるというものだ。

 

「そうか……君には監督役としての仕事を期待しているよ」

「監督役ですか」

 

 そう、勝負をするのは比企谷と雪ノ下のふたりで、当の俺の役割はと言うと、彼らの勝負の際の監視役だ。なにか話がそれたり、拗れたりした際に仕事をすればいいらしい。

 

「それとそろそろ依頼人を連れていくとしよう。楽しみにしておきたまえ」

「はあ……そうですか」

 

 暇なのは嫌だが、依頼人が来ると言われると、それはそれで嫌だな。もはや放課後ただコーヒーを飲みながら読書をする謎の部活と化していたのだから、仕方ないとは思うが。

 

「よし、時間を取らせたな。急いでいるようだし、行ってもいいぞ」

「失礼します」

 

 ぺこりと軽く頭を下げ、足早に部室へと向かう。昼休みは長いようで短い。普段使う教室棟から、特別棟へはそれなりに時間がかかるのだ。

 渡り廊下を超え、特別棟に着く。そのまま奥の方まで進めば奉仕部の部室が見えた。

 扉に手をかけて、開けようとした。さて、ここで俺はすっかり失念していたのだが、よく良く考えれば奉仕部の部室はしっかりと俺が鍵を閉めている。つまるところ昼休みは鍵を持ってこないと部室に入れないのだ。

 とはいえ手をかけてしまったので、一縷の望みをかけて扉をスライドさせる。しかし扉は途中で引っかかることもなく、カラカラとキャスターの滑る音が鳴りながら開いた。つまるところこの部室には誰かがいるということであり、それはすぐに分かることでもあった。

 

「……入るならノックをしなさい」

「……いや、まさかいるとは思ってなかった、悪いな」

 

 この冷たい声の主は雪ノ下だった。弁当を机に置いている様子から察するに、彼女は普段からここで昼食を取っているらしい。なんということだ。思わず顔を手で覆ってしまう。

 

「なにか部室に用でも?」

「あー……まあ、あった」

「どういうこと?」

「つまるところ今なくなった。悪かった、邪魔をしたな」

「……よく分からないけれど、ならさっさと帰りなさい」

「ああ……うん、そうだな。また放課後」

「……ええ、また」

 

 そう言って、俺は部室の戸を閉めた。それと同時に大きなため息を着く。まいったな。計画が頓挫した。

 何を隠そう俺は、この特別棟にあり生徒の喧騒とは程遠い部室でコーヒーを飲みながら有意義に昼食をとろうと思ったのだ。しかし雪ノ下がいることによってその計画は破綻した。つまり、ここまで態々足を運び、平塚先生の相手をしたのが徒労に終わったということだ。

 まさか雪ノ下も同じ考えだったとは。コーヒーを飲むという点は違うだろうが。

 

「はあ……仕方がない。教室で食うか」

 

 俺は帰りがけに自販機で、缶コーヒーを買い、どうにも落ちた気分をあげることが出来ずとぼとぼと教室に帰るのであった。

 

 そして翌日、今日も放課後になり部室に向かう。もはや奉仕部の道のりも慣れたもので、行きがけに缶コーヒーのゴミを捨てていくこともお手の物だ。それはどうでもいいか。

 部室の戸を開け、いつも通り雪ノ下に挨拶をしようとしたが、部室の中にはまだ誰もいなかった。部室が空いているということは一度誰か来たのは間違いないのだか、何か用事でもあったのだろうか。なんにせよ──

 

「珍しいこともあるもんだ」

 

 思わずそう呟いてしまうくらいには珍しい事だった。雪ノ下はHRが終わるのが早いのかなんなのか、大体一番先に部室にいてそこの長机の先端に座り、ムスッとした顔で文庫本を読んでいる。俺が奉仕部に入ってからさほど期間は経っていないが、それでも見慣れた光景だったものだから些か落ち着かない。

 この奉仕部というのは雪ノ下あってのものなのだろうと、なんとなくそう思った。俺だけがいても妙に浮いているというか、なんとも言い表せない感覚だった。

 俺はいつもの定位置に置かれている椅子にカバンを横に置き、持ってきたペットボトルの飲料水をポットの中に入れる。そろそろポットは洗った方がいいな。水垢が目立つのは嫌だからな。

 ポットで湯を沸かしている間に、積み重ねられている机をひとつ拝借し適当なところに置く。そしてカバンから書類の入ったケースを取り出し机の上に置いた。

 雪ノ下と比企谷の勝負を取り決めた際に勝敗は独断と偏見で平塚先生が決めると言っていたが、いくら独断と偏見で決めると言っても、どんな依頼をやったのかくらいは平塚先生も把握した方が良いと考え、俺はとあるものを用意した。

 それがこれ、奉仕部活動記録書。

 簡単に言えば依頼内容の要旨だ。やってくる依頼人は昨日の平塚先生の発言から考えても、おそらく彼女の手引きによって連れてこられるのだろう。だからある程度は平塚先生も依頼内容を把握してるハズだ。しかし彼女の見ていない所で突然依頼内容が変わる可能性もある。そのためにこれを用意した。

 まあ理由はもうひとつあるのだが、それは別にいいだろう。

 使い方としては、基本的には俺が依頼人の話を聞きそれを可能な限り客観的に記入をする。

 あるいは依頼人自身に書いてもらうこともあるかもしれない。男の俺では話せないようなもの、情事とかあるいは恋愛の話だとか色々あるだろうが、そういった内容の依頼が来た時には本人に記入して貰う必要があるだろう。

 書かれたものは別個ファイリングしていく予定だ。それ用のファイルも用意している。

 ともあれ、今後そのようなことがあるかもしれないと思い立ったので、吉日とばかりに徹夜して用意したのだ。

 

「とはいえ……くぁ……」

 

 小さくはないあくびが出る。流石に眠いな。コーヒーのカフェインで誤魔化していた眠気が今急に襲ってきた。

 流石に思いつきが過ぎたような気もする。どうせ依頼人なんぞそうすぐ来る訳でもなければ、大勢の依頼人がバカバカ来る訳でもなし。

 一時の思いつきというのは怖い。何故かそれがベストアイデアに見えるし、それを行う事こそが未来の自分をより良くすると錯覚してしまうのだ。大体はそれが徒労に終わるが。今回のこれもそれに当てはまる気がする。

 どっと日頃の疲れが湧いてきた。疲労と眠気と、窓から吹き込む風、太陽の暖かな日差し、それにお湯がポコポコと沸騰する音がよりいっそう眠気を誘った。

 暇つぶしようにいくつか文庫本を持ってきたし、なんならもう既に手にしているが、もういっその事寝てしまおうか。そうしよう。どうせ読書は好きではないのだから。仮に寝た時に本が手から落ちたとて大したことじゃない。雪ノ下に少しばかり、いやかなり小言を言われるくらいだろうが、もう慣れたものだ。

 そう決めたならば、俺は睡魔に従って瞼を閉じる。次第に体全体がポカポカと暖まっていく。やがてふわふわと意識が揺れ始め、徐々に徐々に俺の意識は闇に飲まれていった。

 

◇*◇

 

 コンコン、と奉仕部の戸が小さくノックされる。しかし返事はなく、来訪者は再び、しかし今度は先程よりも強くノックをした。変わらず返事はない。カラカラと奉仕部の戸が開けは、恐る恐ると言った様子で一人の少女が入ってきた。

 それは茶髪で少し派手目な少女だった。

 

「し、失礼しまーす!」

 

 まるで誰かにここにいることを知られることを嫌がるかのように、少女は滑り込むようにして奉仕部へと入ってくる。しばらく目をつぶり返事を待つが、しばらくしても返ってこない。そして彼女は意を決して目を開く。

 

「あれ誰もいな……うぇっ!?」

 

 そんな彼女の眼前に広がるのは、腕を枕のようにして机にもたれ掛かる男子生徒だった。言わずもがな奉仕部副部長たる田島 実その人なのだが、もちろん少女はそんなことは知る由もない。

 さて、目の絵の光景を説明すると、男の手から零れ床に落ちているのは文庫本で、半開きのそれはどうやら先程まで読んでいたように思える。まるでさっきまで読書をしていたが突然気を失った、そんな状況だ。それに男は妙に血色が悪く、言ってしまえば死体のようだった。

 とはいえそれはあくまで状況だけを見れば、だが。こうなったのは田島が本を机に置く気力がなく横着してそのまま寝た結果だし、よく見ればしっかりと彼は寝息を立て、体を小さく上下させているのが分かるだろう。血色が悪いのは弁護のしようがないが、これは単純に寝不足から来る体調不良によるものだ。彼のことをよく知り、そうでなくても少し考えれば分かることだ。

 しかしまあ……この少女、名を由比ヶ浜結衣というのだが、彼女は、あまり頭が良くない。注意力も散漫だ。そんな少女がこの状況を見てどう思うだろうか。

 

「し、死んでるううう!?」

 

 そりゃあもちろん、勘違いしてしまうこと請け合いだろう。

 

 




比企谷は原作通り平塚先生と会話、それが少し長くなって、雪ノ下はクラスでやることがあって、そんな理由で二人とも部活に来るのが遅れています。
その結果がこれです。

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。