青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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新年明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。
本当は書きだめやら何やらをしたいのですが、如何せんやるべき事とやりたい事が多すぎますね。
今年はもう少し、目標を立てながら生きたいものです。




四十一話 会議は踊る、されど少しだけ進む

 あれから会議はつつがなく進行した、と言うことができればどれだけ良かったことだろうか。

 此度の会議は出だしからして不安要素が多い。

 一つ目の問題は相模だ。彼女は副委員長が俺であるとわかった途端、席を立って出ていこうとする素振りを見せた。

 その場は何とか会長が諌めたが、会議が終わればどうなる事やら。

 彼女も以前のように衆目を浴びた場で騒ぎ立てはしないらしい。

 まぁ、俺が発言しようとすればすぐさま睨みを効かせてくるのだが。とはいえその程度だけならば……騒がないだけマシと思うことにしよう。

 問題点は以上である。こうして挙げてみたが、実際のところ彼女の存在が会議そのものの進行を妨げているわけではない。

 相模は不満げながらも、一応は平静を装っているのだ。少なくとも、委員長業自体は疎かにするつもりはないようだ。

 続いて会議そのものの進行、これも酷い有様だ。

 何が酷いかと言えば全くもって目玉競技が決まらないことだ。

 生徒たちが幾度幾度とアイデアを出せど配慮配慮と却下され、それ以外にも各所から反対意見が湧き出てくる。

 俺も試しに適当なのを幾つか上げてみたが採用されたのはなんの面白みもない競技ばかり。これでは目玉競技と呼ぶにはふさわしくない。それどころか、会長の望む皆の記憶に残る体育祭なんて夢のまた夢だろう。

 昨今多様性だなんだと生き辛い世の中ではあるが、よもや自由な校風を謳う総武高ですらこのザマとは。嘆かわしい。

 そんなものだから会議室は気まずい沈黙が支配していた。

 それこそ集まったばかりの頃は、なんだかんだとやる気はないものの、自分たちで目玉競技を決められるという事でそれなりの盛り上がりはあったのだ。

 しかしそれも過去の話だ。こうも出す案出す案全てを片っ端から却下されると熱も冷める。端的に言えば萎えてくるのである。

 「いい加減早く決めろよ」といったような雰囲気すら出てくるものだから手に負えない。

 

「え、えぇと……他になにか意見のある人は……?」

 

 相模もこれはまずいと思ったようで、何かないかと視線を巡らせるが、あるのは無関心と徐々に芽生えてきている不満だけ。それと、小さな囁きが聞こえた。

 どうにも相模はその視線に怯んでしまって、何とかしてくれと言いたい目で会長へと縋る。

 しかしさすがの会長と言えどこの状況を打開することは難しいらしい。何度か声掛けをしてみたものの、生徒たちの反応は芳しくなかった。

 小さく息を吐いて、窓から外を眺める。

 この会議が始まってから約一時間も過ぎたころだろうか。秋も深まって短くなった陽は、既に西へと沈み始めており、窓からはやや赤らんだ光が差し込んできていた。

 こんな日は、ぼうっと外を眺めながらコーヒーでも飲みたい気分だな。

 とっくのとうに過ぎてはいるのだが、十月一日はコーヒーの日でもある。何かとかこつけて記念日を作りたがるのが日本人の悪い癖だとは思うが、これに関してはなかなかどうして悪くない。

 世界が秋にはコーヒーを飲むべきだと言っているのだ。進んで飲むべきなのである。

 さて、現実逃避も程々にして各所からの反応を見れば、相も変わらず悪いらしい。

 それを前に相模は一段と顔を俯かせた。

 膝の上で握られた拳は固く、彼女がどんな想いで今そこにいるのか。俺には分からない。

 どうあれ、このままでは埒が明かないのは確かだった。

 

「会長」

「え、あ、何かな田島くん」

「どうも今日中には決まりそうにないですし、今日は解散でも良いかと思いますが。どうでしょう?」

 

 言ってからすぐに後悔した。聞くべきは会長ではなく相模の方だろうに。

 会長は一瞬考えるように顎をさすった。

 

「うーん……そうだね。相模さん、そういうことなんだけど、それで大丈夫そう?」

「あ、はい。良いと思います」

「じゃあ、締めてもらえる?」

 

 相模は頷いて、委員会の面々へと顔を向けた。その顔は引き攣っていて上手く笑えていない。

 

「え、えーと。……今日は、目玉競技の方が決まりそうにないので、また次回ということで、解散にします。お疲れ様でした……」

 

 ゆっくりと噛まないように挨拶をした相模に続くように、会長が口を開く。

 

「次回もここの会議室でやるので、みんなよろしくお願いしま〜す!お疲れ様でしたー!」

 

 その言葉を皮切りに委員会の面々は席を立ち上がり始めた。

 それと同時に平塚先生も立ち上がる。

 

「よし。私も戻らせてもらおうか。悪いがまだ仕事があってね……。言っておくが嘘じゃないぞ」

「や、その表情を見て嘘だと思う奴いないっすよ……」

 

 辟易とした表情を浮かべる平塚先生に、同じように辟易とした比企谷が答える。二人揃って顔から働きたくないオーラを出すのはやめて欲しい。

 

「まぁでも私若いから、仕事を振られてしまうのさ。私若いから!」

「ちょっ、なんで肩組んでくるんですか」

 

 冗談めかして……おそらく冗談ではないのかもしれないが、彼女は笑いながら比企谷にダル絡みを始めた。

 面倒くさくなったのか、雪ノ下が冷たい目で平塚先生を見ながら口を開く。

 

「仕事があるのでは……?」

「ああ。そうだったそうだった……。では、次回以降も任せたぞ」 

 

 白衣を翻しながら、会議室を出ていく生徒たちと一緒に去っていった。

 まばらに出ていくために片付けをする生徒たちが、パイプ椅子が動かす度にカチャカチャと嫌な音が鳴る。

 その音に眉をしかめつつ、彼らが教室を出ようとする所を眺めていると、一色と目が合った。

 口をパクパクさせ、何かを伝えようとしているようだが、全くわからん。仕方なしにスマホを見てみると、同じ考えだったのかメッセージが丁度届いた。

 

『一緒に帰りませんか?』

 

 俺はチラリと奉仕部の面々へと視線を動かす。その後素早く指を動かす。

 

『少し遅れる』

 

 一拍置いてからまたメッセージが送られてきた。

 

『待ってますね』

 

 何処でだ。そんな疑問をメッセージとして打とうとしたが、一色は既に会議室を後にしていた。恐らくLINEは今見ていないだろう。

 全く。探すのが面倒だな。

 

「聞いて、ないんだけど」

 

 スマホを仕舞うのと、相模がこちらを責めるように声を発するのは同時だった。先程までは強張った表情の相模だったが、一転視線は鋭く睨みつけている。

 視線は雪ノ下へ。しかしその声の対象はきっと俺たちに対してもなのだろう。

 

「うち、コイツがいるなんて聞いてない……!」

 

 相模の反応は予想通りのものであった。

 俺は、まず、まぁ間違いなく相模に嫌われている。それは俺とてそうだが、俺の場合彼女に対する感情はどちらかと言えば忌避に近い。対する彼女は嫌悪であり憎悪のような感情を向けているのだと推測する。

 その対象とこれから一緒に仕事をする必要があり、しかもそいつがいることを伝えられていなかったとなれば、彼女の反応も当然と言えよう。

 こればっかりは、伝えなかった雪ノ下たちの落ち度と言えよう。伝えたら伝えたでそもそも相模が引き受けるかどうかも怪しかったのだから、仕方のないことだが。

 

「……それについてはごめんなさい」

 

 雪ノ下は一瞬伏し目がちになったが、すぐに顔を上げて相模から目を離さない。

 彼女なりに相模の怒りを受け止めるつもりなのだろうか。

 

「それってうちを騙したってわけ?」

「そういう訳ではないわ。ただ……私は、あなたにこそ引き受けてもらいたかったの。だから田島くんのことは一度伏せたわ」

「……それって結局うちを騙してることに変わんなくない?」

 

 相模と雪ノ下の口論を周囲は固唾を飲んで見守っている。いや口出しが出来ないというのが正しいだろうか。なぜなら今回ばかりは相模が正しいから。

 

「……そうね。そうかもしれないわ。それでも、私は相模さんに一度ここに来てから判断してもらいたかったの。あなたがもう一度、こういった場で立つのか否かを判断してもらうために」

 

 常、雪ノ下雪乃という女は正論の鬼だが、今回ばかりは私情が込み入っているのか、その言葉に普段のようなキレはない。

 

「なら、うちがここで全部投げ出してもいいんだ?」

「相模さん……それは」

 

 会長が困ったように声を出した。彼女としては一度引き受けた以上全うして欲しいのだろう。『中途半端なことをされると困る』と、以前雪ノ下が候補として相模を挙げた際に言葉にした。

 それは今も変わらないらしい。

 ただ、仮に相模が辞めるなら今しかないのも間違いない。

 会長が困ったように視線を右往左往させる。

 

「でも、本当にやりたくないと言うならここで降りてもらっても構わないわ。今回はあくまで私のお願いをこんな形で引き受けてもらっているのだから」

 

 しかし重たい空気を打ち砕くように、雪ノ下が声を発した。

 その言葉の内容はなんというか。意外だった。

 雪ノ下が正直に自分の気持ちを伝えて、相手の意志を尊重している。

 真っ直ぐと雪ノ下は相模を見据えていた。

 そして、その視線は俺にも飛んでくる。

 

「それと、田島くんもいつでも降りてもらっていいわ」

 

 その視線が、やけに優しくて。むず痒くて。

 由比ヶ浜が何か口を開こうとしたのを確認していたのに、それを遮るように俺は声を出す。

 

「それって───」

「いや……一度引き受けた以上その選択肢はない。それに、俺と相模が降りたら代役はお前になるのだろう?」

 

 視線だけ由比ヶ浜に移せば、少し困ったような表情をして彼女はこくりと頷いて俺に譲ってくれた。助かる。

 

「そう、ね……。提案した以上私がやるのが筋というものでしょうし、そうなるわ。……何か問題でも?」

「あるにはある」

「また文化祭の時のようになると思っているのかしら。だとしたら、遺憾だわ」

「それもある」

 

 俺としては、雪ノ下の提案を、その思惑を理解しないで蹴るというのは些かしのびなかった。

 

「別にあの時みたいに無理はしないわ。だって、そのためにあなたたちがいるのでしょう?」

 

 雪ノ下は小さく微笑んで、奉仕部の面々をゆっくりと見渡した。

 それに由比ヶ浜は嬉しそうにぱあっとその瞳を輝かせた。

 

「うんっ、もちろん!だよねヒッキー?」

「お、おお……やれるだけ、な。あんまし働きたくはねぇし……」

「なら、問題はないようね。比企谷くんはどうやら社畜精神が魂までこびりついているようだし」

「台所の水垢みたいな言い方しないで貰えませんかね……」

「あら……違ったかしら?」

「違うからね?昔比企谷菌とか言われてたけど本当に菌糸類じゃないからね?」

 

 その後死んだ目で「ああ、働きたくない」とぼやく比企谷。相変わらずの彼を見てクスリと小さく笑う見る雪ノ下と、仕方がないと言わんばかりに笑う由比ヶ浜。彼らのいつも通りの反応に、少しだけ安心した。

 そして再び雪ノ下は俺を見た。

 

「だから、ね?心配しなくてもいいのよ」

「心配なんぞしていない。単にお前が以前のように倒れられては迷惑だ、という話をしているんだ」

「へぇ、そんなこと言われた覚えはないけれど?」

「それはお前の記憶力不足だろうよ」

 

 俺は雪ノ下の目線から逃れるように相模へと目を向けた。

 

「まぁ見ての通りだ。お前が嫌なら降りてもらっても構わない。幸い文化祭の時のノウハウがあるからな。こちらも何とかしてみせよう」

 

 相模はギュッと服の裾を握って、下を向いている。

 

「……ないし」

「うん?」

 

 ボソッと、小さくつぶやく相模。

 

「別に……!辞めるなんてうち一言も言ってないし……!」

 

 しん、としばらくの間この会議室が静まった。その瞬間ポカン、と間抜けな音が聞こえたような気がした。彼女の言葉に誰もが驚きを隠せないのでいるのだ。かく言う俺もその一人だ。

 こんな言葉が帰ってくるなどと、誰が思うのだろうか。

 どう考えても先程辞めるかのような発言をしていたはずだが。

 各々の驚きによって出来上がった静寂を崩すように、雪ノ下が少し訝しげに相模を見た。

 

「本当に良いの?」

「別にうちはなんも言ってないし……。確かにコイツいることを黙ってたことはムカつくし、許す気はないけど……もう引き受けちゃったから。それに……うちだって……」

 

 相模はごにょごにょと口を動かして言葉を濁した。

 

「とにかく、うち、やるから」

「そう……。ありがとう」

「お礼なんてしなくていいから……それに、うちはアンタのことも許してないし」

 

 相模は鋭い目で俺を睨んだ。

 雪ノ下のあれこれは一旦置いておくが、俺のことはおいておくつもりは無いらしい。

 

「それは、お前が……」

「いや、それならそれでいい」

 

 比企谷の言葉を遮るように口をだす。

 ちらりと見れば、彼はじっとりとした目で俺を見ていた。そんなに見つめるなよ。照れるだろうに。

 しかし俺を含め今日はどいつもこいつも言葉を遮ってばかりだな。

 

「恨むのも、憎むのも嫌うのも好きにしてくれて構わない。それでお前が務めを果たすのならば、な」

「……あっそ」

 

 ふいっと、俺から視線を逸らし相模は雪ノ下へと目を向けた。

 

「それで、うちがやるのはいいけどこれからどうするの?種目すら決まってないわけだけど」

「そうね……」

 

 雪ノ下は顎に手をやって黙考し始めた。

 相模が実行委員長を引き受けたとて、確かに俺たちの前にはもう一つ課題が残っている。

 体育祭の目玉競技である。これを決めることが出来ない限り会議は、ウィーン会議よろしく無様に踊り続けるだけだろう。

 

「とりあえず、今日はもう遅いし、また次回にしない?」

 

 会長が微笑みながらそう提案する。比企谷が以前「城廻先輩はな、背中からマイナスイオンが飛んでるんだよ。あれは癒しの使い手だな。FFなら白魔道士だ」と言っていた。全体的に何を言いたいのかは分からないが、それでも癒しという一点のみには頷ける。

 文化祭準備の時も辛そうにしているメンバーに直接声をかけて労っていたのは彼女だけだった。

 そうした気遣いができる面がこうした評価に繋がり、彼女を生徒会長たらしめているのだろう。

 

「そうですね……一応最後にお前たちにも確認するがなにか案はあるか?」

 

 顔を巡らせて各々の反応を探る。しかしながらその反応は芳しくない。

 

「まぁ……ないことはない」

 

 仕方がないと諦めた時に、重々しく口を開いたのは比企谷八幡だった。

 




大変遅れて申し訳ない。
前書きでも述べたように、ある意味ではありがたい限りで、些か多忙な毎日を送ることになっているものですから執筆の時間が取れない。取れても他のことをやってしまう。
そんな日々です。
こうして投稿したのもあまりに待たせるのも宜しくないと思ったので。
ある意味でお詫び投稿というやつでしょう。
次回もまた投稿まで期間が空くかもしれませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。


次回 多分ちょっとしたラブコメ。

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
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