青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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焦るように鼓動が早くなる
ただただ、再びの失敗を、恐れていた。君に、顔向けできなくなるから。


四十四話 てんで上手くいかない

 比企谷がバッサリと彼が大将になるという方向を断ったので、直ぐに海老名の案を採用、というわけにもいかなくなった。

 なんにせよ案は出揃ったわけなのだから、一度どちらにするか決を取った方がいいだろう。

 そうと決まれば一度相模に話を振る。

 

「さて、二つ案が揃った訳だが……どうする相模?」

 

 話しかけたことにより一瞬睨まれるが、それも介さずに問えば彼女は渋々ながらも考えて、その後恐る恐る口を開いた。

 

「……とりあえず一旦多数決、とか」

「ならばそうしよう」

 

 本当は全校生徒に向けてアンケートを取るなどした方が良いのだろうが、結構な時間が掛かりそうだ。今回は委員会内で決めてしまうという選択は大いにアリか。

 俺は彼女の案に頷き、相模は会長の方へと向く。会長も頷いていて問題ないようだ。決心した相模は決を取るため委員会の面々の方へ向き直る。

 

「そ、それじゃあ、騎馬戦がいい人〜」

 

 パラパラと手が上がる。若干男の方が多いか。

 

「……じゃあ、棒倒しがいいと思う人〜」

 

 再びパラパラと。相模も言いながらこちらに手を挙げようとしたがやめた。自重したらしい。

 こちらは明らかに女の方が多い。

 ざっと数えた限り、僅かに棒倒しの方が多いだけで手を挙げた人間はほぼほぼ同数だった。

 結果自体は棒倒しになるだろうが、どうするか。

 

「ほぼ同数、だね……」

「ふむ……となれば棒倒しか」

「……なら男女で分ければいいんじゃないですか?」

 

 相模の提案に会長はその手があったかと言わんばかりに手をポンッと叩いた。

 なるほど。確かに妥当な判断だ。間違ってはいない。多数と少数、どちらも切り捨てない相模の提案は良いものだ。

 相模は平塚先生に目を向ける。彼女はゆっくりと問題なさげに頷いていた。

 そういえば、パン食い競走なんかのメジャーなやつはダメで、この二つは良いんだな。なんて思ったりもしたが打草驚蛇だな。わざわざ聞くことでもない。

 

「みんなは、どうですか……?」

 

 相模は恐る恐る委員会の面々に問う。

 彼女の判断は理にかなっている。とかく問題はない、というのが奉仕部を含めた首脳部の反応だったが、それ以外の生徒からの反応はイマイチ芳しくない。

 ざわり。

 恐らく囁き声だ。発生源はよく分からなかったが、嫌な感覚だった。それはきっと相模に向けられたものであり、決してプラスのものではないと思われる。どうもそういうのに敏感なのか俺を除く奉仕部の面々はあまり善い顔をしていなかった。その表情は耳元で鳴る虫の羽音に顔を顰めるか如きだった。

 

「じゃ、じゃあ反対意見もないみたいだから女の方は騎馬戦で決定で。あとは、割り振り……を決めましょう」

 

 しかし当の本人は不安げながらも、とりあえず反対の声が挙がってないのを見て少し満足気にしながら次へと進めようとする。ちらりとこちらへと目を向けたので頷けば、彼女はしまったという顔をしたあとすぐに顔を背けた。

 ……気づいていないのであれば、問題はないか。

 

「プログラム一覧を配ります。各自希望するものを前に書きに来るようお願いします」

 

 相模が指示を出せば、生徒会の役員たちがプリントを配布し始める。

 暫くは生徒たちがホワイトボードに書き込むまで待つ必要がある。

 会長が言うには俺たち首脳部に関しては、当日運営本部として動くとの事だから特にやることはない。

 

「……となると、俺たちは統括部の割り振りでもするか?」

「そうね。城廻先輩、早速ですがやりますか?」

「うん、そうだね。そうしよっか」

 

 会長が頷けば、相模に目配せをする。

 相模はさっきまで目を向けていた方から、会長の方へと向き直り、小さく頷いた。

 彼女が見立ていた方は、どうも彼女の取り巻き二人がいた方らしい。以前の彼女であればいち早く彼女たちと喋りに行っていたのだろうが、関係が上手くいっていないのか、今はだだそちらの方を未練がましくちらりと見るだけだった。

 途中材木座がどうすれば良いか悩んでいたが、比企谷の言葉でこの場に残ることを決めたらしい。まぁ、彼も一応立案者ではあるのだから妥当ではある。邪魔にならなければそれでいいさ。

 さて、早速首脳部側の打ち合わせが始まる。

 必要な役職の確認、担当決め。

 問題があるとすれば、やはりその他の役職だろう。救護や放送、また当日までの制作物作製や会場設営あたりだ。

 とはいえこれに関しては、うちの学校には保健委員や放送委員がいるので多少は何とかなるはずだ。問題なのは、制作物の作成や会場設営辺りだろう。仕事の内訳が多いので、現場班の方にもいくつか回す事になる。

 会長と俺が例年の内容を参照にしつつ、説明すると相模がメモを取りながら頷いて次の話題に移ろうとした。

 

「じゃあ、他に必要なものは……」

「目玉競技は全校規模なわけだし、現場総動員することになるわね。これについては、男女それぞれ全員が動員ということでいいかしら」

「あ、うんそうだね」

 

 総動員か。実際の仕事の総量を聞いてモチベがさほど高くないであろう現場班がどんな反応をするのか気になるところだ。否定的な反応がなければ良いが、それは難しいかもしれない。

 

「すいませーん。目玉競技については全員参加でお願いします。担当はそれ以外のものを選んで書いてくださーい」

 

 相模の言葉に、予想通りと言うべきか現場班がざわついた。口々に漏れ出る言葉はマイナスな反応が多い。

 その中でも否定的な動きをしたのが、二人。相模の取り巻きである確か、遥とゆっこだとか言う女子生徒だった。二人はコソコソと何かをしゃべり、頷き合う。

 そして、二人同時に一歩でた。

 

「あのさ、南ちゃん。うちら、それ反対だから」

 

 シーンと静まり返る。しかし静寂は一瞬で、ザワザワとすぐに騒がしくなった。肯定的なもの、動揺するもの、怯えるもの。多種多様な反応が波紋のごとく広がっていく。

 

「え……」

 

 相模が声を詰まらせた。

 彼女たちが何を言っているのか理解できないのだろう。実際、少なくない人間がそうだったはずだ。

 

「強制で全員参加っていうのは、あたし達、ちょっと協力できないかも」

「えっと、でも、みんなで決めた事だし……、ね、ねぇ」

「でも、みんな部活があるし……。ほかの競技にするとかじゃないと……」

「準備に時間がかかったり、負担が大きいのは困るんだけど」

 

 委員会の大半は運動部からのボランティア的に抜擢されている、言わば助っ人的立ち位置だ。我々首脳部とは些か立場が違う。

 会長もそれを分かっているのか、苦い顔をうかべる。これはきっとこちらのお願いは通らないだろう。

 しかしだ。それはそれとして、その言い分は筋が通らない。

 

「いや待て。それはワガママというものだろう」

「……どこが?」

「部活があるだとか、時間がかかる、負担があるという部分だ。それは俺達首脳部とて、同様だ。俺達には首脳部としての当日の仕事、そしてこれからの準備期間にも当然仕事がある。それらはきっと、お前たち現場班と何一つ変わらないはずだ。多少の差異はあるかもしれないが、それはせいぜいどちらのどんぐりか大きいか否か、というものでしかない」

 

 俺の言い分に意気揚々と何か言葉を返そうとしていた二人は思わず言葉を詰まらせた。少なくとも、俺の言葉は正論のはずだ。だが、正論が人を動かすかと言えば否ではあるが。

 とはいえ、ここで彼女達を引き止めることに意味はあるかもしれないし、ないかもしれない。とにかく今はもう少しだけ言葉を交わす必要があるだろう。幸い、ほかの首脳部の面々は少し様子を見てくれるようだ。

 相模と会長に関しては、少しぽかんと口を開けていたが。……相模に関しては今もか。

 ともあれ、ゆっこと遥のうち……どっちだ?とにかく片割れが喉からつっかかった言葉を何とか取り出すかのように。絞り出した声を出す。

 

「でも、部活だってあるし……」

「それについては分かっている。こちらとしても最大限負担は減らすつもりだ」

 

 もちろん、こちらだってケアをしないわけじゃない。負担を減らす為に働きかけることはいくらだってできる。例えば外部からボランティアの募集だって取れる選択肢のうちの一つだ。

 しかし負担だなんだ。部活だ、大会だと言えどだ。

 

「とはいえお前たちとて、顧問あたりから暇と余裕があると見込まれ、頼まれその上で了承しこっちに来たわけだろう?それとも、大会はそんなに近いのか?」

「……まぁ、そうだけど」

「なら一度顧問に確認をとって、改めて別の人員を派遣してもらうという手もある。あるいはもっと、別の───」

「田島くん」

 

 とにかく言葉を続けなければと思う俺に、会長からストップが入った。見れば、雪ノ下も同じように頷いている。

 

「その辺にしてあげて。二人とも困ってるから」

「ですが……」

「これ以上やっても平行線には変わりねえってことだよ。そもそもおねがいの範疇を超えてるだろ、それ」

「……そうだな」

 

 比企谷の言葉に、大人しく引き下がる。確かに俺たち首脳部はあくまで彼女らにお願いをしている立場なのだから、これ以上、いやもう既に超えているが強く言いすぎるのも問題、というわけだ。分かってはいたが……参ったな、どうも。

 一応強く言ったのだから彼女たち二人からなにか反応があるという訳でもなく、二人は視線を逸らしながら首を縦に振ることはなかった。

 これはきっと、不満の爆発だ。多分だが、相模に対するちょっとしたフラストレーションもあったかもしれない。ともかくとして、首脳部と現場班の目に見える負担や作業量の違いが、彼女達への配慮不足として不満を溜めた。故の、抗議。

 

「そこまでにしておこう」

 

 凛としたよく通る声。よく見れば、担当の振り分けが始まった時に退室していた平塚先生が扉を開けていた。恐らくは、廊下で進捗具合でも聞いていたのだろう。相変わらず、抜け目のない人だ。

 

「今日はもう遅い。一旦解散してまた話し合おう」

 

 平塚先生の言葉は、正しく鶴の一声といわんばかりのもので、少なくとも俺たちは動きを止めた。

 遥とゆっこは顔を見合せたあと、カバンを引っ掴んで忙しない様子で会議室から出ていく。それに続くように、現場班の面々も会議室を後にしていく。一色も一瞬こちらへと目を向けたが、俺が首を横に振ると少し心配した様子ながらも、周囲と変わりなくその場を去っていった。

 後に残ったのは、首脳部、生徒会役員と、奉仕部の俺たち。そして委員長の相模だけだった。

 

「城廻、ちょっといいか」

「はい……」

 

 平塚先生に呼ばれて会長も外へと出る。

 残された俺たちに重苦しい沈黙がのしかかった。

 立ち尽くしていた相模が、手近な椅子に倒れ込むようにして座る。

 ただでさえ、ずっと自信なさげだった彼女の姿が、より一層小さく見えた。

 斜陽が差し込み、その眩しさに思わず俺は目を逸らすしかなかった。




タルコフ市から何とか帰還しました。
多分また戻ります。

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
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