青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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たまにはね


四十八話 一人思う

 いつも思っている事だけどこの人の顔色は悪い。

 会う度に病人みたいな顔をしてるから、少しだけ心配になる。

 聞いても本人には寝不足だと言ってはぐらかされる。でもじっさい寝不足なのはホントなんだろうけど。

 すぐに寝ようとするし、眠たげにあくびをしてるのをよく見る。

 それだけなら良かったんだけど、体調もしっかり悪そうなのが、困る。

 普段から猫背でだるそうにしてるみたいな態度だけど、多分あんまり元気がないせいなんだと思う。

 なにせ実さんたまにフラフラしてるから。

 よく見てないと分からないけど足が、なんて言うかちょっとフラついてる時がある。

 そのまま倒れちゃうんじゃないかって歩き方をして、またなんともないような歩き方に戻る。

 だから、病院とか行かないのかなって思うんだけど、本人は病院って言うとすごい嫌な顔をする。病院嫌いなのかな。

 そういうところはすごい子供っぽい。普段は年上って感じなんだけど。

 えんぴつを止めて、実さんの方をじっと見てると私に気づいたのか、彼は眼鏡の奥の目を細くしてため息を吐いた。

 

「おい、不躾に人を見ているんじゃない。それに、問題は解き終えたのか?」

「お、終わってない……」

「だったらさっさと解け阿呆め」

「アホとか言わないでよ」

「言われたくないのならばその止まっている手をさっさと動かすがいい」

 

 さっきの感想にもう一つ感想を付け足す。

 口も悪い。

 あと性格も悪い。お母さんの前ではあんまりそういう感じのこと言わないけど、二人きりになるとすぐ馬鹿にしてくる。

 ただ、こうやって文句を言いながら勉強を見てくれるし、この前だって色々付き合ってくれた。だから面倒見がいいってやつなんでしょ。それともおせっかい焼きのほうかも。

 とにかく、まとめると実さんは変なやつだ。

 私の、なんだろ。友達じゃないな。ええと、先生?みたいな人。私の変わりたいって依頼を受けて、その手伝いをしてくれる人。

 コーヒーが好きで、いつも眠たそうで、顔色と性格が悪くて、でも面倒見がよくて。

 私にとって田島実って人は、なんて言うかそんな変な人だった。

 

 

 あれからまた二時間くらい勉強をした。

 フラッと自分の部屋に戻って行った実さんが持ってきたのは、実さんが中学の頃に使っていた英語の問題集らしい。あと何冊かの本。

 なんでそんな古いの持ってるのかって思ってたら、棚からでてきたって言ってた。

 管理がずさん?だな、馬鹿め。って仮に私がそういう事してたら言ってきそう。

 自分だって結構、ドジなのにね。

 持ってきた問題集は私みたいな小学生向けのじゃないせいで、難しかった。というかほとんど分からなかった。

 実さんはそんな私を見て顎をさすった。

 

「なるほどな。さすがにこのレベルはまだ無理か。とはいえ基礎が出来ているせいか、基本的な読みはできているのも多いな……」

「でもわかんないことの方が多いよ」

「だろうな。とはいえ、そも今回の目的は英語の本を読むため。ならば内容としてはリーディングに寄せた方がいいだろう。とりあえずこの数時間でお前の英語力は概ね把握した」

 

 実さんはそう言って、くるりペンを器用に回した後、席を立つ。

 そして「ん」と言って手を差し出した。

 多分これ、カップが空になってるからおかわり入れてくれようとしてるのかな。

 言葉にして言ってくれればいいのに。

 

「はい」

「注いでこよう」

 

 そう言ってキッチンへと向かっていた。

 実さんのコーヒーは美味しい。私が自分で淹れると実さんみたいなコーヒーにはならない。彼は「慣れだよ慣れ」と笑っていたけど、むずかしい。

 だから、今日は結構楽しみだった。

 でも私はコーヒーをたくさん飲むとお腹が痛くなるから、二杯目からはお茶にしてもらってる。その分一杯を味わって飲むようにしてるけどね。

 それにしても実さんはこれで、何杯目だろ。とにかくいっぱい飲んでるはず。

 ほんと、好きなんだろなってよくわかる。実際コーヒーの話をしてる時だけは楽しそうだし。

 それ以外は、なんというか。いつも楽しそうにしていない。実際みんなそんなものだとは思うけど、でも実さんの場合笑ってるところをあんまり見ない。

 いや笑ってはいるんだけど、あれはなんて言うか。その、本心じゃない?みたいな。心からの笑顔じゃない気がする。

 なんか、面白いから笑ってると言うよりも、なんだろう。言葉にするのは難しいけど、ずっと何かを諦めてるようなそんな笑顔。

 だって、いつも目の奥が悲しそうだから。

 どんな時でもそう。

 あの人パッと見は無表情だけど、ほんとは感情が目に出る。

 楽しい時は目がちょっと優しげだし、怒ってる時は、まぁ別に顔全体に出てるか。

 とにかく実さんの感情ひょーげんってやつは目でしてるんだと思う。

 それに気づいたのは、実は結構前。

 林間学校の時。

 

『実さんも、変わりたいの?』

『変われたらいいと思っている』

 

 実さんは私に、なんだかとても悲しそうな目をしながらそう言った。

 ほんとにそう思ってるのかも分からない声色なのに、目だけはずっと悲しげだった。だから、この人は私以上に変わりたいんだって思った。

 その変わるって言葉は、私が使ってるものとは意味が違うんじゃないかとは思うんだけど。

 その時まではずっと、ムスッとしてて、表情が変わらない人だと思っていたけど。

 よく見れば、違った。

 静かだから、あんまり大きくない足音でもよく聞こえて、実さんがキッチンから戻ってきたのが分かった。

 

「そら。受け取れ」

 

 目が若干柔らかめになった実さんは私へとマグカップを渡そうとする。

 

「ありがと」

 

 そして、受け取ったのを確認すれば直ぐにさっきまでみたいな気だるげな目に戻った。

 といった感じで、彼の感情は目をみればわかる。

 これに気づいているのはきっと私だけ、と思うけど。実際どうかは知らない。実さん友達多いし。他の人から見れば少ないかもだけど、私からしたら十分多い。

 ちょっとだけ羨ましかった。

 ちょっとだけ。

 実さんはほうと息を吐いて、コーヒーに口をつける。

 私も、同じようにコーヒーを飲んだ。

 コーヒーは温かいを通り越して熱かった。

 でも実さんが言うには、コーヒーは熱いのが美味しい、らしい。

 気持ちはわかる。

 でも夏休みの時に飲ませてもらったアイスコーヒーも美味しかった。だから、結論としてはコーヒーは全部美味しい。

 マグカップを置いて、私は実さんの方を向いて疑問を投げかけた。

 

「それで、どうするの?」

「……どうしようか」

 

 目を逸らしながら実さんはそう言って、目を閉じた。何も考えていないらしい。

 行き当たりばったりなのは彼らしくはある。意外とその場の思いつきで行動するし、何も考えず引き受けて後で後悔してたりとか。

  やっぱり変な人なのは間違いない。

 私が呆れてるのがわかったのか、実さんはコーヒーに目線を移した後、また口をつける。

 その後、気が引けるような顔をしながらこういった。

 

「……高校生レベルの英語でもやるか?」

 

 ちょっとレベルが上がりすぎじゃないか。

 私は、そう思った。

 

 

「Iは?」

「私」

「heは?」

「彼」

「itは?」

「……それ」

「良し」

 

 あれから、とりあえず試しにと高校レベルの英文を読まされた。

 案の定全く読めなかったので実さんに怒ったのだが、彼は「まぁ、悪いとは思ってる」と全く悪いと思ってなさそうな顔でコーヒーを飲んでいた。

 普通にムカつく。許されないでしょこれ。

 そんな私を他所に淡々と勉強会は進んで行った。

 それで今はと言えば、基礎に立ち返って?ということで代名詞について実さんと復習していた。

 だいたいは覚えてたと思う。

 ただ、指示代名詞ってやつはちょっと曖昧。Tから始まるヤツ多くない?

 

「ふむ、まぁ。悪くない。be動詞に関しては覚えているのを先程解いてもらった問題集で確認しているからな。あとは単語の意味だが……」

 

 実さんはそう言って、机の隅に置いてあった一冊の本を手に取る。

 そしてそれを小さくあくびをしながら私の方へと差し出した。

 

「とりあえずこの本を翻訳しながら読め。内容としては英語を覚えたての中学生でも読める程度のものだ。まぁ簡単に言えば絵本よりちょっと文字が増えただけのモノだ」

「単語帳とかじゃないんだ」

「単語の意味を覚えるにおいては、基本的に暗記するしかない。しかし……ただ単語帳を覚えるのは些か単調で退屈だろう?」

「うん」

「更に言えば今回の目的はリーディングだからな。なら、それに沿った覚え方の方がいい」

 

 私は実さんの言葉に「ふぅん」と気のない返事をする。

 よく分からないけど、実さんの言ってる事だし多分正しいんだろう。

 適当にパラパラと読んでも内容は良くは分からなかった。

 

「それを今日読めとは言わんよ。しばく辞書片手に翻訳しつつ、英文を読むことに慣れつつ、単語の意味を覚えていくといい。読み終わったら新しいのを渡そう」

「うん」

「分からなかったら俺に聞け」

「わかった」

 

 話は以上と言いたげな顔をして、実さんはコーヒーに口をつけた。コーヒーはちょっと温くなっていたようで、口を着けた後嫌そうに眉をしかめた。

 しかし、なにかに気がついたのかふいに顔を上げた。

 

「とはいえ、もうこんな時間か」

「あ、ほんとだ」

 

 彼の言う通り、机の置いたスマートフォンを見て私も気づいた。時間はもう六時を回っていた。いつもならそろそろお母さんがご飯を作ってくれる時間だ。お母さんたちは何をしてるんだろ。友達の結婚式って、話だったけど。

 ちなみにこれはお父さんに買ってもらったスマートフォン。

 最近はぶっそーだからって、元々買う予定だったのを、実さんとのあれこれのおかげで早めに買ってもらった。実さんはそれを聞いて、最近の小学生は色々進んでるなってなんか遠い目をしてた。

 そういえば、スマホのアプリにも翻訳の辞書とかあるって聞いたし今度入れようかな。

 そう考えている私に、隣に座っていた実さんが眠たそうに欠伸をしながらこっちへと向いた。

 

「なら今日はここらで止めにして、飯にしようか」

「うん」

 

 やっと終わりと思って、軽く伸びをした。

 なんだかんだお昼ご飯からずっと勉強をしていたから、体が硬い。

 こういうの続けてるとへるにあってやつになるってこの前テレビで見たからストレッチはちゃんとするようにしてる。

 その話をすれば実さんは若干呆れた顔をしていたけど。八幡みたいなことを言うなって言われたし。ていうか八幡みたいなってなんだし。私あんな屁理屈言わないもん。

 と思い返していると実さんは小さくため息を吐いた。

 

「しかし、だ。ひとつ困ったことがある」

「……どんな?」

「食材がない」

「買いに行けばいいじゃん」

「お前を家に一人で置いておくのは、さすがに不安がある」

「留守番くらいできるし」

 

 私の言葉に実さんは一瞬腕を組んで、目線をどこかへとやる。これは実さんがよくやる何かを考えている時に見せる素振りだ。

 そして直ぐに、腕組みをやめて私の方へと向いた。

 

「なら、一緒に行くか」

「いいの?」

「構わん。それに何が食いたいか向こうで決めればいいからな」

「じゃあ行く」

 

 そう言って私が立ち上がれば、実さんもゆっくりと立ち上がった。

 

「ならば、準備をしておけ。俺もする」

 

 私はその言葉に、素直に頷くのだった。

 

*◇*

 

 付きっきりで勉強を見る、というのは存外疲れるものなのだな、というのが今日の教訓だ。

 あれから五六時間の勉強会を今日は終わりにして、俺と留美は近場のスーパーマーケットへ買い物に来ていた。

 何か特定のものを買いに来た、と言うよりかは今日の夕飯のメニュー決めがてら、冷蔵庫の中身補充のために来ている。

 特売日ではないが、さすがにああも空っぽだとな。

 このところ食欲があまりなかったのもあって、気にしていなかった。

 スーパーでは特有の気の抜ける店内bgmがかかっており、それを背景に今日も主婦や老人なんかがじっと商品とにらめっこ。

 あるいは留美よりも年下の子供二人組、レジ近くのお菓子のコーナーで、ぎゃあぎゃあとやかましく騒ぎ立てながら店内を走り回っていた。

 

「あれ迷惑でしょ。親とか止めさせないの?」

「普通はそうだがな。しかしお前も以前はああだったかもしれんぞ」

「……それは、否定しないけど」

 

 まぁ、留美の場合こうなったのは最近なのだろうし、以前は多分。もう少し周りのことを鑑みない少女だったんじゃないか?まぁ、見当違いの憶測でしかないが。

 とはいえ子供なんてみんなそうだ。自分の世界に生きている。基本的に大人なんて別の世界の住人でしかなく、彼らに怒られて始めてその存在が自分の世界に入ってくる。

 ガキは元気が一番とは言うが、迷惑は迷惑だ。

 店員にそれとなく伝えて窘めてもらう当たりが無難か?などと思っているとその子供に声がかかる。

 

「あなたたち」

 

 冷たく、鋭く刺すようなどこまでも通る声。

 子供たちは思わずその足を止める。

 そして、俺たちの足を止めるのはどこのどいつだと言わんばかりに顔を上げれば、その声の主に思わず驚きその体をピタリと止めた。

 

「迷惑よ。走るのをやめなさい。親御さんはどこ?」

 

 堂々と注意し、彼らを諌めたその主は俺もよく知っている人物。

 

「……よくやるよ。全く」

 

 奉仕部の部長たる雪ノ下雪乃だった。

 

 

 一通り子供たちを叱りつけた後、あとから駆けつけてきた親の元へ返した雪ノ下はホケーっとしながらこちらを見ている俺に気づいたらしく、一瞬その眉をぴくりと動かす。

 しかし、特に何も言うことなく去ろうとしたのだが、留美の存在に気づいたようでつかつかと歩きながらこちらに近づいてきた。

 

「ち、近づいてきたけど……」

「ああ。そうだな」

 

 若干怖気付いている留美を他所に俺は真っ直ぐに雪ノ下を見据えた、

 アイツはいつも通りの鉄面皮ではあるが、どうにも、アレだ。碌でもないことを考えている予感がする。

 故に俺はいつもの罵倒を受け止めるだけの心の余裕を作ろうと捻出しようとしたが、どうやらそれは間に合わないようだ。

 

「こんばんは誘拐犯くん。鶴見さんを誘拐して何が目的なのかしら、お金?」

「全くの勘違いだ。それとその呼び方はやめろ。公の場だぞ?バカかお前は」

「私は見たままを言っているのだけれど……。それにしてもどうやって彼女を拐かしたのかしら」

 

 訝しげに雪ノ下は留美を見て、携帯を構えながらそう問いかけてくる。

 

「だからそういった物言いはやめろと言っただろう?全く、それを言うためだけにわざわざこっちに来たのか?お前も大概暇だな」

「あら、むしろ光栄に思って欲しいわね。あなたのような人間に、この私の時間を使ってあげてるのだから」

「はぁ……。いいから携帯をしまえ」

 

 相変わらずしちめんどうくさい女である。その様子に俺は盛大にため息を吐いた。

 すると、先程まで俺の隣で若干の手持ち無沙汰感を出していた留美が声を発した。

 

「い、今……その、実さんの家に泊まってるの。英語、教えてもらおうと思って。だから誘拐、とかかどわかした?とかじゃない……です、けど」

 

 留美は弁明しようと試みるが、雪ノ下の鋭い視線に貫かれて、語尾がしりすぼみしていく。

 

「……なるほど。でも泊まりじゃなくてもいいのではないかしら」

 

 雪ノ下は一旦納得したのか携帯はしまうが、それでもなお質問をしてきた。

 

「まぁ、それについては俺も思うところはある。しかし一応理由はある。何でもこいつの両親は今友人の結婚式でいないらしい」

「……本当かしら」

 

 雪ノ下は留美へと目を向けて、そう尋ねれば留美は小さくこくりと頷いた。

 

「そう……。ならいいわ」

「俺としては全く良くないがな。どこに知り合いを見て誘拐犯扱いする女がいる?……ああ、すまん。いたなここに」

「安い挑発ね。喧嘩なら買うわよ」

「ハッ。悪かったよ」

 

 相変わらずの負けず嫌い、喧嘩っぱやさには呆れてものも言えないが、それはそれとしてこれ以上は留美の教育に悪影響が出そうだ。

 とはいえ俺に師事を受けている時点で、そういう心配をしても無駄な気もするのだが。

 またため息を吐けば、留美がぽつりと呟いた。

 

「……二人とも同じ部活、なんだよね?」

「あん?ああそうだな」

「それにしては、その。仲悪くない?ふつー、仲良いもんじゃないの?部員同士ってさ」

「知らん」

 

 俺はそれにぶっきらぼうに返事をする。

 何しろ部活なんてこの奉仕部以外所属したことはないからな。

 それは雪ノ下も同様だろう。

 

「そうね。きっとこんなものよ。それに、表面上仲良くしているだけの関係よりはよっぽど健全じゃないかしら。上っ面の関係なんて、いつか壊れるもの」

「そう、かもしれんな」

 

 相模と取り巻きの二人の関係性のように。ただ表面上仲良くしてるだけの関係性はいつか壊れる。雪ノ下の言う通りかもしれない。

 だが、どれだけ強固な関係性だって壊れるものなのではないだろうか。

 そう、思う俺もいた。

 

「……人間関係って難しいね」

「そうとも。こと、人間関係は人生においてずっと目の上のたんこぶとしてあり続けるものだ。どうにかして折り合いをつけて上手く関わるのがコツ、なのかもしれんな。……我ながら中身がないな。こういうのをそれらしく言って思わず頷いてしまいたくなるようなことを言うのは、比企谷の領分じゃないのか」

「確かに、彼なら屁理屈と詭弁を弄してそれっぽいことを言いそうね。中身がないのはあなたと一緒だろうけれど」

 

 クスリと笑う雪ノ下。

 彼女の言った通り、それらしい事を並べて得意げな顔をしている比企谷がありありと想像できる。

 

「ふぅん……」

 

 留美はそんな俺たちを見て意味ありげに呟いた。

 

「なんだ?」

「なんでもない。それよりいい加減夜ご飯の買い物しないの?」

「うん?ああ、そうだな」

 

 別に忘れていた訳じゃないが、どこかの罵倒女王のせいで後回しになってしまったな。

 留美の言葉に俺は頷いてから、雪ノ下の方を見る。

 

「まぁ、そういうわけだ。悪いが罵倒の続きは比企谷にでもしてやってくれ」

 

 俺はそう言ってから、留美を連れて買い物の続きをするためにこの場を去ろうとする。

 

「ええ、そうするわ。それじゃ、さようなら」

「ああ。また部活でな」

 

 そう言って俺たちは別れた。

 特に何か言うこともなく、思うこともない。ただ、少しだけ来週の奉仕部と実行委員のあれこれを思い浮かべて若干憂鬱になっただけだった。

 しかし留美はそんな俺たちに思うところがあるようで。

 

「最後までたんぱく」

 

 野菜の売り場でいくつかめぼしいものをカゴに放り込んで、そのまま壁沿いに歩き、精肉のコーナーへと向かおうと歩いているとそう呟いてこちらをジッと見る留美。そんな彼女の様子に俺はため息を吐いた。

 

「こんなものだろう」

 

 そうにべもなく言えば彼女は黙って考え込む。

 

「そうかな……。そうかも……?……いや、やっぱりそうじゃなくない?」

「知らんよ」

 

 俺はそう言って今度こそ喋ることはないとばかりに歩みを進めた。

 結局、夕飯はポトフになった。




次回 バッティングセンターへ行こうの巻

この作品のメインヒロインを誰だと捉えてますか?

  • 雪ノ下
  • 一色いろは
  • 鶴見留美
  • 松山千佳子
  • 材木座義輝
  • 戸部翔
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