青春ラブコメ憂鬱譚   作:FAN男

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眠ると夢を見る。
だからあまり眠りたくない。


五話 神は死んだ

 寒い冬の日。俺はいつものように待ち合わせ場所に来ていた。中学を卒業し、今は少しだけ長めの春休みだ。

 四月から高校生になる俺は、久方ぶりに来る亡くなった婆さんの家に行くことになった。それをあの子に話したら「私も行く」なんて言うもんだから仕方なく、こんな寒い日にいつもの公園で待つ事になった。この公園は駅前近くにあるみんなの憩いの場。近くには大学があるから、今日もチラホラと街を行き交う人々が見受けられる。

 先程自販機で買ったホットの缶コーヒーを手で転がしながら彼女を待つ。今日が最後の寒波らしく、明日から春らしい暖かな陽気がやってくるって話だが、本当かどうか疑わしいな。確か今日は確か雪が降るそうだ。

 

「ごめんね〜お待たせ」

 

 タッタッタッと、トレードマークのツインテールを揺らし彼女はやってきた。

 

「いいや、今来たところだ……と返したいけど。さすがに寒いからな。さっさと行こう」

「ほんと、ごめんね」

「いいよ、気にしないでくれ。実際そんなに時間は経ってないから」

 

 かなり申し訳なさそうに、しかしかなり急いできたようで、荒い呼吸で白い息を吐く。深呼吸をすると肺に入る空気に思わず「冷たーい」と彼女は笑う。

 そして俺達は、足を踏み出し─────場面が変わった。横断歩道のど真ん中で尻もちを着いて、やけに周囲の人々が騒がしい。生暖かい感触が手に伝わった。片目が少し痛む。そして、その痛みで気づいた。

 ────なるほどこれは夢か。

 

 

 全く我ながら最悪の夢見心地だな。

 俺が大きくため息を着きながらのそりと起き上がると同時の事だった。

 

「はぁ!?ビッチって何よ!」

 

 キンキンとした高さの知らない女の声が耳に入ってくる。

 

「だいたい、あたしはまだ処───」

「それ以上言うな。はしたない」

 

 あまりの下品さに思わず反応してしまった。何がどうなってこんな会話になったのだろうか。疑問はつきないが、それは置いておき声の主の女子生徒に目を向ける。セミボブの茶髪を上にお団子で纏めた少し派手目な現代風の所謂ギャルと言った容姿をしている少女。察するに奉仕部の依頼人なのだろう。まさか本当に依頼人が来るとは、居眠りをしたのは失敗だったか。

 そんな依頼人(仮)は顔を真っ赤にして俺の言葉に反論してくる。

 

「今のは勢いで言いそうになっただけで、そんなこと言うつもりないし!ってかホントに生きてる!?」

「……ああ?勝手に死んだことにしないでもらおうか」

 

 何を見て死体扱いされるのか。また疑問が増える。

 

「お前の寝方が悪いんだよ。俺だって一瞬マジで死体かと思ったぞ」

「そうそう、本当に死んじゃってるのかと思った!」

「こうやって勘違いした由比ヶ浜が騒いだせいで雪ノ下もお冠だぞ」

 

 まさか寝ていただけなのに死体か何かだと思われていたとは。そんなに寝方が悪いのか。今度寝ているところにカメラでも仕掛けてみるか。

 しかしやけに雪ノ下から視線を感じるわけだ。納得した。現実逃避がしたい。さりとて自業自得、さてどう言い訳をしたものか。

 

「そう……ようやく起きたのね?」

「待て、話を聞け。これにはやむにやまれぬ深い訳がある」

「いいでしょう、聞いてあげるわ」

 

 返答次第で殺す、と視線で伝えられたような気がするな。

 

「まあ、真相はただの寝不足から来る睡魔なのだが」

「最初から理由が終わってんじゃねぇか」

「遺言はそれだけ?」

「待て、ここからだ。実の所、俺は奉仕部が正式な部活動かどうか疑っている節がある」

 

 そう、以前奉仕部は平塚先生の独断で部と銘打っているだけで正式な部活ではないのでは、という疑問。それをこの前平塚先生が新しい依頼人を連れてくる、と言った夜に再び思い出したのだ。

 正式な部活ならもっと大々的に宣伝すればいいのにしていない、仮にしていたとしても依頼人が来ない。もちろん大量に来るとは思ってはいないが、奉仕部の部長は学校中から注目を集めている雪ノ下雪乃である。冷やかし、面白半分で人が幾人かきてもおかしくはないはずだ。

 もしくはそれを考慮して平塚先生を一度通し、彼女の方で依頼人の選別を行っている可能性も無くはないが、ああ見えて生徒指導を担当しているので意外と多忙なのである。

 基本生徒たちの悩みや相談を平塚先生が聞いてから連れてきているそうだ。

 他にも奉仕部設立の人数や、そもそもの設立理由等様々な謎がある。

 そういった所を考えても『奉仕部』という部活は普通の部活ではない。

 以上のことを掻い摘んで説明すると、雪ノ下は顎に手を当てて考え込む。依頼人の女子生徒は間抜けな顔をして俺の説明を聞いていた。

 

「……それで、それがあなたの寝不足と何が関係があるのかしら?」

「実態が不明の部活だ。そこをつつかれて面倒なことになった時用に、活動実績くらいはデータとして残しておくべきだと思ってな──んぐぁっ……」

 

 と言って席を立つ。変な体勢で寝てたらしく、身体の筋肉が固まってとり、バキバキと音が鳴る。思わず変な唸り声を上げてしまった。

 その後寝る前に置いたケースから1枚書類を取り出す。

 

「……それがこれ、奉仕部活動記録書だ」

「うわ、お前これ態々作ったのか」

「夜に思い立ってな、丁度あまり眠れなかったもんだから勢いで作った」

「その結果、寝不足になったという訳ね」

「そういうことだ。ようし、説明するべきことはしたな、もう弁明することがないぞ!あとは煮るなり焼くなり舌を切って地獄の釜に放り込むなり好きにするがいい!」

「潔すぎる……」

 

 雪ノ下は再び考えているのか目を閉じている。言った通り俺は雪ノ下からいつも以上の強火な罵倒が飛んできて、焼けただれてここで死ぬ程度には覚悟が出来ている。さあいつでも来い。

 

「……はぁ。あなたが見た目と違って意外と頭が愉快な人なのはここ一週間で理解しているわ。なので謝ったら許してあげる」

「……なんだと」

 

 思わず比企谷と顔を見合せてしまった。まさか雪ノ下にも一欠片の慈悲が存在するというのか?俺たちは今世紀の大発見をしているとでも言うのか。

 

「でも次はないわ。だから謝りなさい」

「悪かった」

「誠意がないわね」

「すみません」 

「……ええ、許してあげる。私、優しいもの」

 

 そんなことはなかった。単純にマウントを取りたいだけのようだ。俺を見下す様に笑いかける、あの笑みに慈悲などない。ああ、期待だけさせてくる神よ。肥溜めの中で溺れて死んでくれ。

 ふぅと再度ため息を吐いた雪ノ下は冷たい微笑からいつもの仏頂面に切り替わり、改めて由比ヶ浜に向きあった。

 

「それで、由比ヶ浜さん。あなたはどういう要件で来たのかしら」

 

 少々蚊帳の外にいた由比ヶ浜はいきなり話を振られて方が跳ね上がった。その後少しの沈黙のあと由比ヶ浜口を開く。

 

「平塚先生からここはお願いを叶えてくれるって聞いたの」

「そうなのか?」

 

 比企谷が初耳だぞ、と言わんばかりに聞き返してくる。あいつにとってここは本を読んでダラダラするだけの部活だと思っていたらしい。気持ちは非常にわかる。俺とて依頼人がここにいるという事実に驚いているのだから。

 

「少し違うかしら。あくまで奉仕部は手助けをするだけ。願いが叶うかはあなた次第」

「どう違うの?」

 

 怪訝そうな顔で由比ヶ浜が問う。ついでに比企谷もそんな顔をしていた。どうやら以前の説明だけじゃ伝わらなかったらしい。無理もない、雪ノ下の説明だけじゃ普通は理解できないだろう。あの後直ぐに雪ノ下と比企谷の言い争いが始まったわけだし、頭の中に説明が入ってないというのも、無理はないだろう。

 

「飢えた人に魚を与えるか、魚の獲り方を教えるかの違いよ。ボランティアとは本来そうした方法論を与えるもので結果のみを与えるものではないわ。自立を促す、というのが一番近いのかしら」

 

 また小難しい言葉を並べる。比企谷なら理解出来るだろうが、由比ヶ浜は理解できているのだろうか。

 

「小難しいことを言っているが、要するに奉仕部は依頼人が持ち込む、悩みや相談の手助けをする部活ということだ」

「な、なんかすごいねっ!」

 

 ほえーっと口を栗のような形にして感心したような表情をしている。なんだか言動からして頭の悪さが滲み出しているせいか、招来悪い男に騙されるのではないか、と他人事ながら心配になってしまう。

 

「必ずしもあなたのお願いが叶うわけではないのだけれど、出来る限りの手助けはするわ」

 

 そう告げる雪ノ下はいつもよりかは柔らかな笑みを浮かべていた。これがちょっとした事で絶対零度に変わるのだから女というものは恐ろしい。

 彼女の言葉に本題を思い出したのか、由比ヶ浜はあっと声をあげる。

 

「あのあの、あのね、クッキーを……」

 

 由比ヶ浜はそう言って比企谷をちらっと見る。一瞬男がいるから話せないのかとも思ったが、一回も俺の方を見ないので違うらしい。とかく乙女心とは複雑なものだ。それを察してやるのも男の仕事なのだろう。

 

「比企谷」

 

 俺はそう言って扉をクイッと親指で指し示す。連れション文化圏内ではないが、今回は特別だ。

 

「……ちょっと『スポルトップ』買ってくるわ」

 

 比企谷も察したようでそう言って立ち上がる。チョイスがなぜスポーツ飲料なのかは分からない。普通に茶とかじゃダメだったのか。比企谷的にはさり気なさを演出しているようだが、やはりそこが引っかかる。何故スポルトップなのか。

 妙にスポルトップに引っかかっていると雪ノ下が扉に手をかけた俺たちに声をかけてきた。

 

「私は『野菜生活100いちごヨーグルトミックス』でいいわ」

 

 さりげなく人をパシリ扱いするあたり、さすがに面の皮が厚いな。しかしなんでどいつもこいつも飲料のチョイスが特殊なんだ。せめて缶コーヒーにして欲しい。それなら俺も納得するから。

 

 




スポルトップってなんだろうか、とここを読む度に思うのです。

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