会話劇:滅んだ世界で少女が二人   作:白夏緑自

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前編

●場面:

少女Aが海を見ている。

冬の海だ。浜辺に海水浴客はもちろん、サーファーも釣り人も、散歩に訪れる人もいない。

当たり前だ。今は夜なのだから。

夜の海は星の光を受けつつも暗闇に飲み込まれて、さざ波の音だけを存在証明としている。

 

〇少女A:──

●場面:

少女Aが息を吐く。

吐く息は白い。

人工の灯一つ無くとも、己の目と鼻先ぐらいは見える。

 

〇少女A:息が白いってことは、まだ生きてるってことか。

●場面:

少女Aが呟く。

口から言葉を漏らせば、それも白く空気中へ放たれる。

そして、薄まって、やがて消えていく。

 

〇少女A:でも、無くなったわけじゃないんだよな。

●場面:

少女Aが見届ける。

白い言葉は消えていく。

しかし、見えなくなるだけだ。

吐いた息が二酸化炭素として、世界のどこかを彷徨い続けるように。

漏らした言葉も風になって旅をするはず。

例え、波音に負けてしまっても。

 

〇少女A:馬鹿だよね。

●場面:

少女Aが自虐を口にする。

期待が無意味であり、現実的ではないことを彼女は知っている。

だけど、自分の身に起こっている事象を考えれば、そんなおとぎ話を信じてみたくもある。

 

〇少女A:──

●場面:

少女Aが己の右頬を撫でる。

痛みを思い出す。

優しく撫でる。かつて、そうしてもらったから。

顔と名前を思い出せる、最近は声と匂いが怪しくなってきた人にそうしてもらったから。

その人とは到底似つかぬ手のひらで、撫でると痛みを思い出せる。

 

〇少女A:何が足りないんだろ。

●場面:

少女Aが見つめる。

武骨さの欠片もない指とそれを束ねる掌。

腕、二の腕と触ると頼りなく細い。

かつて痛みをくれた人と比べて足りないもの。

 

〇少女A:鍛えるか。

●場面:

少女Aが自嘲する。

鍛える。今の己が抱いている願望とはかけ離れた行為。

でも、黙って眠っていてもその願望が叶わぬことを知っている。

 

〇少女A:みんなはズルいな。

●場面:

少女Aがかつて一緒にいた人たちを思い出す。

親、兄妹、友人、恋人。

肖像がハッキリしている者とそうでない者。

それぞれの怒り顔を思い出す。

今の発言。みんなは怒るだろうか。許してくれるだろうか。

 

〇少女A:さむっ。

●場面:

少女Aが身震いする。

寒さは感じる。

たぶん、夏が来たら暑さを感じるだろう。

空腹は曖昧だ。落ち込んでいたり集中している間は食事を忘れる質だった。

だから、これが異常なのか通常なのかは判断しかねる。

 

〇少女A:でも、大丈夫か。

●場面:

少女Aが頷く。

空腹は無視していい。

最期に食事を取ってから、それなりに時間が過ぎている。

精神的調整で身体への影響を無視できる範囲を超えている。

それでもなお、今ここでこうしていられるのは、そういう身体になったからだ。

 

〇少女A:どうしよっか。

●場面:

少女Aが考える。

今後の生活について。

もうここに留まるのを止めにしようか。

それとも、もう少しこの浜辺に寝転がる生活を続けようか。

 

〇少女A:月がきれい

●場面:

少女Aが見つめる。

満月だ。

波の音が近づいている。

だから、少女Aは気づかなかった。

砂浜を踏む音に。

 

〇少女B:やっと見つけた!

●場面:

少女Bが駆け寄る。

少女Aは久しぶりに聞いた自然音以外の音に驚き、勢いよく身体を起こす。

 

〇少女A:え、え……

●場面:

少女Aが戸惑う。

かつて、望んだ存在。

そして、諦めた存在。

今、探している存在。

3つに当てはまる存在が今、目の前に1つの姿で立っている。

 

●場面:

少女Bは闇夜に紛れてこのまま溶けてしまいそうなほどに、真っ黒だった。

音のない宇宙に漆を塗ったような黒髪。

全身をすっぽりと隠す黒のロングコート。

コートの下も黒のジャケットにシャツ。

黒のロングスカートにブーツ。

 

〇少女A:こんばんは。

●場面:

少女Aは感心する。

目の前の少女は徹底しているな、と。

全身真っ黒。

目は冷たい鎌のように煌びやか。

待ち望んでいた姿にそっくりだった。

 

〇少女B:こんばんは! ここでなにをしてるの?

●場面:

少女Bが質問する。

無垢で無邪気。

少女Aとそう年は変わらなそうだが、人懐っこい笑みは彼女を実年齢より若く見せる。

 

●場面:

少女Aは少女Bの質問に答える。

 

〇少女A:死神を待っていたの。

●場面:

少女Aが答えた。

もう海の底へ探しに行かなくてもいいのだと、安堵の息を漏らしながら。

 

〇少女B:ふーん、見つかった?

●場面:

少女Bが質問する。

少女Aの返答に期待を高めたのだ。

もっと知りたい。欲求が高まる。

 

〇少女A:ええ、今ちょうど。

●場面:

少女Aが喜びを露わにする。

目の前の少女こそ、探していた存在。

確証はないが、彼女が自分にとっての死神である確信がある。

 

〇少女A:あなたこそ、ここまで何しにここまで?

●場面:

少女Aが質問する。

死神を探す前、それなりの時間はこの近辺を散策した。

しかし、誰もいなかった。

だから、目の前の少女がかなり遠距離からやって来ていることは想像に難くなかった。

 

〇少女B:私はね、天使を探していたの!

●場面:

少女Bが答えた。

彼女にとって目の前の少女Aこそ待ち望み、探していた存在。

真っ白な髪。

真っ白なダウンジャケット。

真っ白なセーター。

真っ白なスキニー。

真っ白なスニーカー。

陽の光を溜め込んだようなオレンジの瞳。

少女Aは全てにおいて少女Bの追い求めていた姿そっくりだった。

 

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