今回はいつもより少し長いです。
「ったく、昨日は散々な目にあった」
あの後ライラのライラ(意味深)を被ってついた匂いをさっさと落としたくて、全速力でホームに向かい風呂に入った。
まぁ、それを理由にアストレア様に泣きついたら、膝枕して慰めてもらえたから
膝枕されている俺を輝夜とリューが汚物を見るような目で見てきたけど…
正直興奮した、と自分でも阿呆な事を考えながら俺はダンジョンに向かっていた。
「見つけた」
「ん?」
なぜか知らない金髪の美幼女が俺のことを指差してそう呟いた。その子は俺を見るやいなや凄まじい速度で近づいてくる。
「うお!?」
「やっと見つけた。ずっと探してた」
人が人ならめちゃくちゃときめく台詞だが、流石の俺も初対面の、しかも年端もいかないような子供に言われると流石に困惑の感情が優る。
「…初対面だよな?なんで俺を探してたんだ?」
「あなたに、会いたかった、から?」
ゑ?本当にどういうこと?理解が追いつかないんだが…それはそうとこの子綺麗だなぁ…将来はとんでもない美人になること間違いなし。
「おい、アイズ。勝手に一人で行くな」
俺が幼女の発言に混乱しつつ、冷静に彼女の展望を推察していると、その子の後ろから緑髪のエルフの女性が歩いてくる。これまた別嬪さんだ。
「リヴェリア、この前の人見つけた」
「なに?む、君は...」
「え、貴女も俺のこと知ってる感じですか?おかしいな、貴女ほどの美人であれば俺が覚えてないわけないんですが」
俺は顎に手を置いて、今まで自分が会ってきた美人な女性リストから、目の前のエルフの女性と照らし合わせて検索をかける。
「世辞はよしてくれ。私達は君がダンジョンにいた時に偶然見かけてな、一方的に知っているだけだ」
「あー、そういうことですか」
そりゃ、俺の記憶にもないはずだわ。ちゃんと記録しておかねば…っと、なにやら服を引っ張られているな。
「今度はどうしたんだ?」
「あなたはどうやって強くなったの?」
少女が唐突にそんな事を聞いてくる。
「おぉどうした、藪から棒に」
「あなたがゴライアスを一人で倒しているところを見た」
ゴライアス…?もしかして、あの巨人のことか?
「あなたは
そうか…笑えてたのか、俺。
「いや…別に余裕なんてなかったけどな、大分切羽詰まってたけど」
「そうなの?」
「あぁ。俺が笑ってたのは、俺が憧れた『英雄』ならどんな状況でも笑って挑むからだよ」
「────『英雄』?」
『英雄』という言葉に少し反応を示すアイズを横目に話を続ける。
「そう。大して強くもないのに、希望なんかありもしない現実に打ちのめされようと、彼はいつも笑っていた。笑って前を向き自分を信じ進み続けた。そんな彼に仲間たちは付いて行き、気づけば彼は『英雄』になっていた」
「あなたは、『英雄』になりたいの?」
「……そうだなぁ…なれたらいいんだけど。俺が『俺』のままじゃ英雄の劣化版にもなれないよ」
俺では資格が足りない。
「どうして?あなたはすごく強いのに」
「力が強いから英雄ってわけじゃない。英雄ってのは最後まで心に芯を持ち、己を賭して戦える…そんな『力』とはまた違った強さを持つ者なんだ。そこを言うと俺みたいな英雄の真似っこは真の英雄になんてなれない半端者だよ」
「...そう、なんだ」
おっと…いけないいけない。この手の話題になると俺はつい喋りすぎる。
「…難しい話して悪かったな。ところで、君の名前は?」
「…アイズ」
「じゃあアイズ、君はどうして強くなりたいんだ」
俺はまだ幼くして戦場に立つ彼女の強さへの渇望の理由を尋ねる。
「
そう話すアイズの顔を俺はじっと眺める。そこには幼い身でありながらも確かに怪物に対する『憎悪』が宿っていた。その事実にこの世界に対してやるせなさを感じるも、ただそこにあるのは理由なき憎悪ではない。
「そうか、アイズは大事なみんなを悪い怪物たちから守りたいんだな」
「!!うん...」
彼女のそれは自分の大切なものを守りたいが故に、それを傷つける敵に対する憎悪。
「ならその『みんなを守りたい』って気持ちを絶対に忘れるな。お前がその思いを持って強くなろうと思う限り、お前はどこまでも強くなれるさ」
「...わかった。頑張ってみる」
「よし、良い子だ」
俺がアイズの綺麗な黄金の髪を撫でるとくすぐったくも気持ち良さそうに目を細める。そうしていると、さっきの保護者の人(リヴェリアって呼んでたっけ)がこちらに寄ってくる。
「突然、訳の分からない質問に答えさせてしまってすまない」
「いや、いいですよ。全然気にしてないんで」
「そうか。ところで君は今からダンジョンに行くのか?」
「えぇまぁ、そんな深くは潜りませんけど」
俺がそう言うとアイズが少しソワソワした様子になった後、意を決したように口を開く。
「わたしも付いていっていい...?」
「!!アイズっ!」
「っ!」
失礼な真似をするなと注意するリヴェリアさんにアイズは沈んだ表情を浮かべる。
「まぁまぁ、別にいいですよ。一緒に行こうか、アイズ」
「うん!」
怒鳴られて、ショボンってなってた顔が一気に笑顔になったな。うんうん、笑顔が一番。
「はぁ、すまないアイズのわがままに付き合ってもらって」
「いえいえ、子供の頃はあれぐらい自由でいいんですよ」
「そう言ってもらえると助かる」
そうした会話をした後、俺たちは三人でダンジョンに向かった。
──────────────────────
「へぇ、リヴェリアさんたちはあのロキファミリアの冒険者なんですね」
「まぁな」
あれからダンジョンを進めながら自己紹介も兼ねていろいろ話していると、リヴェリアさんはロキファミリアの幹部でしかもレベル5の第一級冒険者だという。
そういえばこの前、輝夜がなんかフィンと一緒に説明してたっけ?てか、なにより…
「アイズお前レベル3だったのか...」
「ふふ~ん!すごい?」
「いやまじ凄いぞ、まさか俺より2つもレベルが高いとはな」
あんなことを言った手前、いざ蓋を開けてみれば俺より上の冒険者なんて…全くもって威厳がないな。
「私は君があそこまでの動きができるのにレベル1なことが信じられない…というより絶対有り得ないと思うのだが?」
「うん」
「ま、まぁそこはいろいろあるんですよ…」
時折会話を挟みつつ怪物達を狩っていると、気づけば依然ゴライアスの居た17階層のルームに着いていた。
「今回はあの巨人は出てこないのか」
「あれは「
「そうなのか…」
……あれ?じゃあ、勝手に討伐しちゃった俺って結構まずい?アイズの話聞いた感じ、パーティー組んで挑む奴っぽいし…
「みんなゴライアス討伐するぞぉ!」って予定立ててたとことかあったら……よし、考えないことにしよう。
面倒なことにならないよう心の中で祈る。
そうして階層の真ん中あたりまで歩いたところで、アイズが突然足を止める。
「ねぇレイ」
「ん?どうした」
「わたしと、ここで戦って」
アイズは振り向くとともに、その金色の瞳で真っ直ぐ見据えた上に嘆願する。
「アイズ!?なにを言って!」
「まぁまぁ、リヴェリアさん。アイズ…なんで戦いたいんだ?」
こういう子供っていうのは言葉に出さずに、自分の中で何となく考えを纏めるものだ。だからまずは、アイズが俺にそう頼むに至った経緯を聞くことが大事だ。
「さっきダンジョンに入る前にレイに言われたこと、強くなりたいって願えば、強くなれるって」
「あぁ」
「まだあんまり理解できてないけど、レイと戦えばわたしはまた強くなれる気がするの」
だから、と言葉を続け、アイズの瞳は再度、俺の瞳を射抜く。
「私と戦ってほしい」
その瞳に宿るのは、戦士としての純粋な渇望。
自分の限界を、今の自分に足りない何かを、俺という「壁」を通して確かめたい…そんな決意が伝わってくる。
自分の目標のためにアイズなりに何が必要かを思案した上で、辿り着いた答えなんだろうな…
「そっか……よしっ、受けて立とう」
「な、レイ!?」
「いいの?」
「それがアイズが考えて出した答えなら、道を示した俺がそれに応えてやらないとな」
「いや、しかし……」
リヴェリアさんが反対するのも当然か。
何せ他派閥の眷属と勝手に戦って傷を負わせたってなると後々面倒なことになるのは目に見えてる。
おまけに此処はダンジョンの中。万が一のことがあったらと心配しているのだろう。
「大丈夫ですよ。危なくなったら止めますから。まぁ、アイズより俺の方が危ないんですけど」
「君は…はぁ、私が危険と判断したらすぐ止めるからな」
「頼みます」
俺はそう言ってアイズから背を向け距離を取って、腰にかけた刀を抜き放つ。
「さぁ、始めるか」
「ありがとう...行くよ!」
次の瞬間、アイズの姿が消え、同時に俺の直ぐ目の前に現れる。
「(
小さな身体から繰り出されるレベル3という実力に見合う動きに舌を巻きつつ、迫る一撃を自らの剣で正面から受け止める。
そして、直ぐ様刀に力を込めて、アイズを剣ごと力で弾き飛ばす。
「くっ!」
「今度はこっちから行くぞ!」
俺の方から離れたアイズとの距離を詰めて、刀を振り下ろす。
その一撃を上手くステップを踏んでアイズが避けたのを見てから続けざまに連撃を浴びせる。
対して、アイズは小さな体を躍動させ、見事な剣捌きでその連撃を凌いでいく。
「どうしたアイズ!そんなもんか!」
「ッ!【
短文詠唱。それが耳に入った直後、アイズの体から吹き荒れた緑の突風が俺の体を強制的に押し戻す。
「風の
「ここからは────本気!!」
風を纏ったことで、アイズの速度がさっきより一段階跳ね上がる。
加速して繰り出される剣戟を俺は刀でうまく受け流し応戦する。そこからはそれぞれの剣技の余すことなくぶつけ合い、両者共に傷が増えていく。
「やっぱりレイは強い!でも負けない!」
アイズは一度攻撃をやめ、その敏捷を活かして俺の目に捉えられないように駆け巡る。
「ここ!」
アイズから俺の背後に回った瞬間、背後からの鋭い突刺。
俺は半身を反らして辛うじて回避し、そのままカウンターの薙ぎ払いを放つが、彼女はそれを跳躍でかわす。
「やぁぁ!」
「危ねっ!」
跳躍した体勢のまま繰り出される上空からの振り下ろし。俺は刀の背に左手を添え、両手でその重撃を受け止める。
そして、空中で姿勢が不安定なアイズをまた弾き飛ばそうと力を込める。
だが──。
「ふっ!」
「っまじか…!」
そのタイミングで、アイズは空中で剣を手放す。
そして着地と同時に引き絞った拳が、防御姿勢のままがら空きの俺の胴へと突き出される。
俺は後ろに跳躍して距離を取ろうとするも、逃さんとばかりにアイズは風が勢いを増した拳を加速させる。
俺はそのまま壁に追い込まれ、アイズの拳を喰らう────
「!」
「残念!そう簡単には行かねぇよ!」
ことはなく、俺は紙一重で体を捻り、アイズの拳を壁に叩きつけさせた。
そして、俺は刺さったのとは逆側のアイズの腕を、刀を手放した右手で掴み、遠くまで思いっきり投げ飛ばす。
「くっ」
アイズは空中で体制を整え華麗に着地。即座にアイズが側に落ちている愛剣を拾う。
そして、次の瞬間には剣を構えたアイズの纏う魔力が今まで以上に膨れ上がった。
それを感じ取ると同時に、俺は地面に刺した刀を取って瞬時に構える。
「ッ!いよいよ止めってことか!」
「これで、決める!」
「さぁ、来...!あ、アイズ、後ろ~」
俺はアイズの背後から近づく存在を知らせようと声をかけるがアイズには聞こえてないようで自らの必殺の一撃を放とうとする。
「リル・ラファー」
「ふん!」
「ふぎゅ!」
「……あちゃあ」
アイズの後ろから近づいて来たリヴェリアさんの容赦のない拳骨を喰らって苦悶の声を上げた。
「リヴェリア…痛い……!」
「お前はレイに大怪我をさせるつもりか!」
「だってぇ…!」
「だってもなにもない!魔法まで使って…!お前は────」
そのままの流れで、説教が始まる雰囲気を感じ取った俺はこっそり距離をその場を離れようとする。
「────レイもレイだ。私が止めるとは言ったが、自分で危なくなったらやめると言っただろう!」
(あ、バレた)
「あはは、すいません。ちょっとテンション上がっちゃって、つい」
「まったく...」
「まぁまぁそんな眉間にしわ寄せないでくださいよ、美しい顔が台無しですよ」
「誰のせいだと...!はぁ…反省しろ!」
「うぅ、ごめんなさい」
「はい!すいませんでした!」
本来なら階層主が鎮座する大空間に、美人エルフの怒鳴り声と二人の申し訳なさそうな謝罪の声が響く。
「じゃあ戻るぞ、もう疲れただろう」
「さすがリヴェリアママ!」
「誰がママだ!」
──────────────────────
あれから帰りの道中での、ありがたいお説教タイムを経て、俺たちはダンジョンを後にした。
「今日はアイズに付き合ってもらってすまなかったな」
「いいですよ。俺もいい刺激になりましたし」
「……じゃあ、また一緒にダンジョン行ってくれる?」
不安げながらも、期待を籠めた瞳で俺を見上げてくるアイズ。
こんな頼み方をされて、断れる男は絶対居ないと思う。
「おう。またいつでも相手してやるよ。でもなアイズ、根を詰めすぎるのは良くない。たまには休みを入れて、年相応に可愛い服でも買いに行けな?」
「……よくわかんないけど、レイが言うならがんばってみる」
「いい子だ」
そう言ってもう一度、アイズの頭を撫でれば気持ちよさそうに目を細める。
「リヴェリアさんも、今度は二人で食事でも!」
「君というやつは...気が向いたらな」
気が向いたら飯行ってくれるのか……!
そこから二人と解散した後、俺は割と好感触だったことに内心有頂天になりながら帰路につく。
「────レイ!」
「おー、アリーゼとリューか。巡回終わったのか」
「ええ。ところで…私の目が間違っていなければ、貴方先程リヴェリア様と話してるように見えたのですが…」
何か凄い問い詰めるような目で、俺を見るリュー。
「あぁ、さっきまで一緒に潜ってたんよ」
「な、他派閥のリヴェリア様とダンジョンに!?」
「あら、いつの間にそんな交流を広げたのかしら」
「まぁ、リヴェリアさんとは今日あったんだけどな。てかなんでそんなリューは驚いてるん?」
何かやけにアワアワした様子になったリューを指さして、そのわけをアリーゼに尋ねる。
「そりゃあ、リヴェリア様ってエルフの王族よ?。だからリューや他のエルフは一緒にダンジョンに行くなんて恐れ多い、とか思ってるんじゃないかしら」
「なるほどね。へぇリヴェリア様って王族だったんだ。道理で気品があって色気がすごかったのか!」
由緒正しい者にしか出せないようなあの気品…王族様ってことなら合点がいく。
「い、色気!?レイっ!リヴェリア様に大してなんと不敬な!」
「ははは、食事の約束もしたからなぁ!」
「き、貴様ァァ!」
「ちょっとちょっとリオン落ち着いて。レイもあんまりからかわないであげて」
真っ赤になって激昂するリューをホームへ帰る間も、俺は飽きるまでからかって反応を楽しんでいた。