先導の英雄   作:無銘のヲタク

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クストス・モルムさん、ウィクリフさん評価ありがとうございます!


エルフの葛藤

 

「これで全員制圧できたか」

「そうね。でも…」

 

アリーゼは周囲に転がる仲間の遺体を見て泣き叫び、あるいは絶望に顔を伏せる冒険者たちの姿に、痛ましげに目を細め、俯く。

 

 

「私たちが来てからリヴィラに避難させた冒険者は助かったが、最初に襲われた人たちは…」

 

 

「くっ、私たちがもう少し早く駆けつけることができていれば…!」

「付け上がるな、青二才が。英雄でもない未熟者の私たちが全てを救えるわけないだろう」

「っ...!訂正しろ輝夜!至らない身であっても、最初から決めつけて実践する正義など間違っている!」

「ちょいちょい二人ともこんな所で喧嘩すんなって」

 

ヒートアップしそうになってる二人を、俺は何とか間に割って入って宥める。

 

「団長、この後どうする?」

「...まずは遺体を運びましょう。しかるべき相手に引き渡して後は任せる。そしたら少しだけ『寄り道』して帰りましょ」

 

「寄り道?」

「ちょうどいいわ。レイにも教えてあげる」

 

そう言って歩き出したアリーゼたちの背を追い、俺たちは目的の場所へと足を進めた。

 

「おぉ、すげぇな…」

 

辿り着いた先に広がっていたのは、木々の隙間から木漏れ日が静かに差し込んでくる、美しい水晶の森。

怪物溢れるダンジョンの中だというのに、そこには確かな安らぎを感じる場所がそこにはあった。

 

「ん~!ここは相変わらず綺麗ね!」

 

アリーゼが頭の後ろで手を組み、ぐーっと背筋を伸ばした。

 

「にしても久しぶりだなぁ。最近いろいろ大変で、しばらく18階層(このあたり)に足を運んでなかったから」

 

ネーゼや他の団員達も目の前に広がる幻想的な風景に毒気を抜かれたようで、心なしか表情が和らいでいる。

 

「どう?レイ、気に入ってくれた?」

「おう、喧騒を忘れさせてくれる自然の静寂。賑やかな場所もいいが、こういう場所も悪くないな」

「そうでしょ。ほら輝夜もリオンも空気を胸いっぱいに吸って!そしたら気持ちも穏やかになるわ。現実を見つめるのも、高い志を持つのもどっちも間違いじゃない。だから、今は少しだけ力を抜きましょう」

 

アリーゼの言葉に促され、二人は生い茂る木々の澄んだ空気を小さく吸い込んだ。

 

「……団長とこの景色に免じて手打ちにしてやる」

「なんですか、その言い草はっ……まったく」

「面倒臭い事ばかりのダンジョンでもここだけはいいな。アタシは怪物(モンスター)が居なかったら家でも建てたいぜ」

「あっ私もそれ賛成!」

「本当にいいよね。楽園みたいで...ねぇ私が死んじゃったら誰かここに埋めてくれない?」

 

「なっ!?」

 

団員の一人がふと漏らした言葉に、リューが驚愕の声を上げた。

 

「へぇ、家じゃなくて墓か。いいんじゃね、死んじまえば怪物も関係ねぇからな」

「そうだね」

 

「ライラとネーゼまで何を!?」

 

「真に受けんなよ、リオン。半分冗談だ」

「私たちは冒険者だから、いつ死ぬかも分からない。ならせめて死ぬ場所くらいは選びたいよね」

「それは、そうですが...それでも不謹慎だ...」

 

「なんだ青二才め、お前は死ぬ覚悟はできてないのか?」

「そう言うわけではっ!」

「はいはい、やめろ戦闘馬鹿共。せっかく来たのに口論始めようとしてどうすんだよ」

「そうよ!二人とも...さ、気分転換は終わり!地上に戻りましょう!少しでもより良い明日をするために!ほらレイも、そんな大の字で寝てないで行くわよ!」

 

 

「もう少し寝てたかったんだけど、なっ!」

 

 

俺は地面に転がった状態から跳ねるように起き上がり、歩き出した皆の後に続こうとした。すると…

 

 

「...レイ」

「ん?」

 

背後から、消え入りそうな声で名を呼ばれた。振り返ると、そこには顔を伏せたまま立ち尽くすリューがいた。

 

「私は、間違っているのでしょうか…私は皆が死んでしまう、そんな日は来てほしくない。だからこの時間を守りたい。かけ替えのない友と、ずっと共に在りたい...こう思う私はおかしいですか?」

 

不安げに揺れる瞳で、彼女は俺に問いかけてくる。水晶の光を反射する彼女の瞳は今にも零れ落ちそうなほどに揺れており、その声は風に消えてしまいそうなほどに弱弱しい。

 

「……間違っちゃいないし、おかしくもねぇよ。リューも、あいつらもな」

 

俺はリューの隣に寄り添い、その頭にそっと右手を置いた。

 

「!!い、いきなり何を!?」

「まぁまぁ、今は抵抗すんなって…リューは怖いんだな?いつか自分の大切な人が目の前から居なくってしまうことも、その可能性を考えることすらも」

「...はい」

 

「誰だってそういうもんだ。俺だって大切なものを失うのは怖いし、もう()()とそんな瞬間を見たくない。けど、俺たちは人間だからな。『死』はいつだって隣り合わせだにある。こんな暗黒期(とき)なら尚更な。

 

だから…否応なしに、俺たちに『失う覚悟』を強要される。

 

ただ、そんな時、たとえ死んでも仲間と同じで場所で眠ることができる…そう思うと少し寂しくなくなるだろ?」

 

「みんなと、同じ場所で……」

 

リューはそう呟き、縋るような上目遣いで俺を見つめた。俺はその柔らかな髪を優しく撫でながら、言葉を続ける。

 

「おう。だから、仲間の死を全く気にするななんて、そんな薄情なことは言わない。

 

ただ散っていった仲間の遺志を背負ってやれるのは生きた奴らだけだ。それは心に留めておいてくれ」

「………」

「まぁ、そんなすぐに理解する必要はねぇよ。これから自分の中でじっくり考えればいい」

 

俺が手を離すと、リューは少し時間を置いてから顔を上げた。その表情は先ほどまでの思い詰めた様子よりかは、幾分か晴れやかになったように俺には見えた。

 

「……すみません、私の我儘に付き合わせてしまって」

「別にいいさ。珍しくしおらしくしてるリューを見れたしな。かわいかったぜ!」

「なっ、あ、あなたはいつもいつも私をからからうのは止めてください!」

「からかってるつもりはないぞ?本心だよ」

「~~っ!あ、アリーゼたちが行ってしまいましたし、私たちも行きますよ!」

「ふっ、そうだな」

 

赤くなった顔を俺に見せないように足早に歩いていくリュー。その背中を俺は微笑みながらついていく。

 

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