先導の英雄   作:無銘のヲタク

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月流さん、matyさん、七奈南さん、路徳さん、リコリス21さん評価ありがとうございます!

誤字報告ありがとうございます

今回は三人称視点でお送りします。


神々の会談

 

「ごめんなさい、遅れてしまって」

 

清廉な空気と共に現れた正義の女神アストレア。その視線の先では、既に二柱の女神が円卓を囲んでいた。

 

「ホンマ遅刻や〜。うちらを待たすなんて、随分偉うなったなぁ、アストレアぁ?」

「率先して三下に成り下がろうとするの、流行りなの、ロキ?.....アストレアはまた子供の面倒?」

 

アストレアに対して突っかかっている赤髪の体の一部が著しく乏しい緋色の髪の女性は天界のトリックスターこと神ロキ。

それを涼やかな貌で窘める銀髪の美神フレイヤ。

この二人の神のファミリアは多くの冒険者や第一級冒険者を保有しているオラリオの二大派閥だ。

そんなオラリオの二大派閥を束ねる頂点の神々を前にしても、アストレアは穏やかな微笑みを崩さない。

 

「ええ。孤児院に少し。後は商店街の手伝いを。孤児(こども)達の力も借りて、スープを作って回ってきたの」

「かーっ、出たわー。『正義』なんかしらんけど自己満足の偽善〜。うちらも大概やけど、少しは女神としての自覚を持てや」

「貴女が大好きなお酒で管を巻くのと、似たようなものよ、ロキ。此れは私の趣味のようなもの。それに自分の眷属が都市のために戦い続けている。それなら主神(わたし)も、なにか行動を起こさないと示しがつかないわ」

 

アストレアの言葉は、濁りのない清流のように真っ直ぐだった。

 

「その純粋振った態度が気に食わんと言うとるんや。全知霊能の今のうちらで全員に公平に接することなんてできひん。エゴとわかった『正義』の実践...うちは自分のこと好かん」

「別にいいじゃない。私はそういう()()なこと好きよ。私も今度真似してみようかしら」

「ったく。こんな色ボケと偽善者が子どもたちに人気なんて世も末やな〜」

「ふふっ、貴方の言うとおりね、ロキ。それよりも、私がこの『お茶会』にお邪魔して良かったの?私のファミリアは、貴方達よりずっと勢力が下だけれど」

 

アストレア様は二人の皮肉交じりの言葉を余所に、変わらず笑みを浮かべたままアストレアは本題へと切り込む。

 

「駄弁って情報を共有するなら、クソ真面目に警邏しとる自分んとこの方が情報は豊富やろ」

「それに私は貴方個人のことを気に入っているわ。眷属も粒揃い。アストレアの子じゃなかったら奪っていたもの。それに最近新しい子が増えたみたいだし」

 

フレイヤの妖艶な眼差しがわずかに細められる。

 

「やめろや、その悪癖!その子のことはうちの『ママ』からも聞いとるで。相当おもろい子らしいやん。ママも口説かれたって言ってたし」

「あの子ったらまた……レイは頼もしい子よ。あの歳では考えられないほど達観してる。けれど…何処か危うい雰囲気を感じさせる子だわ」

 

──────────────────────

 

「ヘックション!誰か美人が俺の噂をしている気がする!!!」

「馬鹿も休み休み言えこの阿呆が。お前に関わろうとする物好きなぞいるものか」

 

オラリオの街頭。巡回中のレイは、隣を歩く輝夜へとおどけた視線を向けた。

 

「じゃあ今俺と一緒に巡回している輝夜はその物好きってことか?」

「...気まぐれだ。調子に乗るなよ」

「またまたぁ。ツンデレんなんだかr」

「死ね」

 

刹那、輝夜の鞘走る音が響き、鋭い刃がレイの鼻先を掠める。

 

「危ねぇ!今掠ったぞ!前髪少し切れたわ!」

「うるさい」

 

「うおっ!とうっ!ほっ!」

 

レイは照れ隠し(?)で切りかかってくる輝夜の刀を紙一重で回避していく。

 

「おいお前ら痴話喧嘩してねぇで巡回するぞぉ」

「してない!」

「そう見えちゃう?」

 

「あなたたちは何をやっているんですか...」

 

──────────────────────

 

「あの子のことは置いといて。情報を共有したいのだったら、ガネーシャは?子どもたちが憲兵として活躍する彼の意見こそ必要じゃない?」

 

 

「「うるさいから呼ばなかった」」

 

 

「ああ……」

 

ロキとフレイヤの見事なハモりに、アストレアは自分でも思うところがあり、苦笑するしかなかった。

 

──────────────────────

 

 

「俺がガネーシャだぁぁぁぁぁ!」

 

 

「ねぇお姉ちゃん。私達の主神様止めなくていいの?」

「...知らん。私はもう何も知らんぞ」

 

三人の女神が噂しているのもつゆ知らず、広場の中央で、象の仮面を被った男神が声を張り上げて自身の名を絶叫していた。

それを見て、シャクティは既に天を仰ぎ、アーディは面白そうにそれを眺めている。

そこへ通りかかったのが、巡回中のレイ一行だった。

 

「…なんだあれ、神様か?」

「あれは『ガネーシャ・ファミリア』の主神のガネーシャ様です。アーディ達、都市の憲兵はこのファミリアに所属しています」

「あの(ひと)がアーディとシャクティの主神様か。なんか…随分個性的だな。でも……」

 

 

「・・・一発芸やります!俺がガネーシャだ!!!」

「あーもう、うるさい!」

「でもなんか元気出た!ありがとうございます!ガネーシャ様!」

 

 

「民に人気がある良い神様なんだな」

 

騒々しい叫び声に呆れる者もいれば、その無垢な熱量に元気をもらう民間人も多い。レイは、その光景を見て温かい微笑みを浮かべた。

 

「よし!少し挨拶してくるか!」

「え?ちょっ、レイ!?」

 

驚く声を無視して、レイは輝夜たちから離れてガネーシャの前に飛び出した。

 

「こんにちは!俺はそちらの団長とその妹さんと仲良くさせていただいている、レイ・オーガという者です!」

「む!シャクティ達の知り合いか!俺が彼女らの主神、ガネーシャだ!!!」

「知ってます!大声を上げて民を元気づけるなんてすごいですね!」

「俺がガネーシャだ!」

「さっき聴きました!というかその声出し、俺もやってみていいですか!」

「俺がガネーシャだ!」

「では失礼して...俺がレイ・オーガだ!!!」

 

広場に、新たな絶叫が加わった。

 

「おい、誰だあれ?」

「あいつはアストレア様のとこの坊主じゃねぇか!なにやってんだ。まあいいか!この前は積荷の運搬手伝ってくれてありがとよー!」

「私も、うちの子供とよく遊んでくれてありがとねー!」

 

レイの奇行(?)に対し、周囲の民間人からは次々と感謝の声が上がる。

 

「ぬぅ!...俺がガネーシャだァァ!!」

「ッ!すぅ...俺が!レイ・オーガだァァ!」

 

二人共片方に負けじと叫び声がどんどん大きくなっていく。

 

「あははっ、レイは本当に面白いなぁ!」

「...胃が痛い」

 

そんな二人をアーディは面白おかしそうに、シャクティは厄介なやつが一人増えたとでも思ってそうに見ていた。

 

 

「「俺が!」」

「「レイ・オーガ(ガネーシャ)だァァァァァ!」」

 

 

 

「「「「「さすがにうるせぇぇぇぇぇ!!!」」」

 

広場を揺るがす特大の咆哮に、ついに周囲から一斉にツッコミが飛んだ。

 

──────────────────────

 

「...ねぇ、今なにか聞こえなかった?」

「気のせいやろ...そんなことより始めるで。

 

ロキが表情を消し、声のトーンを落とした。

 

「ウチがヘルメスんとこに頼んで調べて貰っててな、ここに来る前に【万能者(ペルセウス)】が一人、館を訪ねてきたわ。都市外で、闇派閥の下部組織の動向を掴んだそうや。フィンの読み通り、神から『恩恵』を授かってない非戦闘員、いわゆる『信者』を使(つこ)うて、外部活動させとるらしい」

「いつの時代も崇められる神々(私たち)から見ても、『布教』という名の侵略は恐ろしいものね」

「えぇ、『世界の中心』たるオラリオの乱れは、こうも下界に波及する。早々に手を打たないと世界中の非難の的になってしまうわ。」

 

三柱の視線が鋭くなる。

 

「にしても最近の闇派閥は妙に活発や。軍資金に物資……連中だけでは限界があるはず。となると、やはりアイツらのバックに『支援者』がおる」

「えぇ。おそらく、オラリオを出入りしている商人たちね」

「せやな。オラリオの魔石に関する取引をするために闇派閥に協力してギルドを打倒しようっちゅう腹積もりや。まったくもうちっと長い目で考えてほしいもんやなぁ」

 

ロキは『ギルド打倒』を謳ってオラリオを無法地帯に変えようとしている商人たちの行動に思わず嘆息し、いつもは細めている眼を薄く開く。

 

「ギルドが倒れれば誰がダンジョンを管理する?冒険者が死んで誰が怪物を、『黒竜』を討てる?オラリオ崩壊は下界滅亡と同義や。そんなもん少し考えれば誰だって分かる」

「悲しいわね。眼の前の利益を求めて、オラリオの混沌を助長するなんて...」

「愚かで、実に人間(子どもたち)らしいけどね」

 

フレイヤが怜悧な笑みを浮かべる。

 

「ただ問題は、なんで『今』になって商人たちが闇派閥の支援を始めたんかや」

「オラリオを転覆させようとする機会はこの八年間いつでもあった。それが今、こぞって支援するようになった理由は?」

 

アストレアの問いに、フレイヤが静かに口を開く。

 

「それに関してなのだけれど、この前オッタルたちから報告があったの。襲撃を受けた工場の超硬金属(アダマンタイト)で出来た壁が何者かに破壊されていたらしいわ」

「「──ッ!」」

 

その情報の意味を、神々が理解し損ねるはずもなかった。

 

「それはつまり...」

「えぇ、ギルドや冒険者に対抗し得る『強大な存在』が現れた。だからこそ、商人たちは勝ち馬に乗るべく動き出した……そういうことでしょうね」

「強引だが筋は通っとる。にしてもやっぱりこの感じ」

 

ロキは細められた眼の奥に鋭い光を宿し、卓上に置かれたまま冷え切った紅茶の表面をじっと見つめた。

三柱の女神の間には、言葉にせずとも伝わる、肌を刺すような重苦しい沈黙と緊迫感が立ち込める。

 

「ここに来て闇派閥の不穏な動き、商人たちとの結託、力を持った存在の出現...これはいるわね」

「えぇ、いるわ、間違いなく」

「裏ですべての糸を引いとる」

 

 

「「「厄介な『神』の影が...」」」

 

 

夕闇が迫るオラリオの空。三柱の女神が見つめるその先には、分厚い暗雲が広がり始めていた。

 

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