先導の英雄   作:無銘のヲタク

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決戦の兆し

 

闇派閥(イヴィルス)の襲撃から数日。

各ファミリアの代表が集う対策会議に出席するため、俺はアリーゼと輝夜に連れられ、ギルド本部へと足を向けていた…って。

 

「いやなんで、俺まで?こういうのって団長か副団長が参加するもんだろ?」

 

道中、俺が零した疑問に、隣を歩く輝夜が涼しげな横顔で答える。

 

「なぜだか知らんが、ロキ・ファミリアの【勇者】殿がお前を指名してきたんだ。一度会って話がしたい、とな」

 

【勇者】って…あっフィンのそっくりさんか。俺も彼については気になっていたし、話してみたいとは思っていたが…

 

「でもなぁ」

「何よ。何かやらなきゃいけないことでもあったの?」

「今日こそは、まだ見ぬ麗しのレディを探しに街へ繰り出すつもりだったのに。はぁ……」

「お前というやつは...」

 

心底呆れたという視線を輝夜から浴びせられる。いや、俺にとっては死活問題なんだぞ?

 

「あら、ならいいじゃない!なんたって完璧美少女のこの私と一緒にいられるんだから!感謝してもいいわよ!」

「…はぁ」

「もう!ため息なんてついたら幸せが逃げちゃうわよ!」

 

まるでキランッ!と効果音が鳴っていそうなほどのドヤ顔をするアリーゼ。俺はその姿を上から下までじっくりと眺め、一言。

 

「...チェンジで」

「私と一緒にいることすら恐れ多いってことね?照れちゃって可愛いわね!」

「お前何言っても意に介さないやん。無敵かよ」

「二人共、もう着いた。これ以上の醜態は晒すな」

 

輝夜に言われて前を向くと、ギルドの入り口まで来ていたので中に入り、ギルドの職員に案内をされるがままに一際重厚な扉を開ける。

そこにはファミリアの代表と思われる人たちが座っていた。

すると、同じようにここに呼ばれ、先に到着していたシャクティが「なぜいる?」と言いたげな驚きの表情を浮かべる。それを横目に、俺は見知った二人を見つけ、声をかける。

 

「あ、リヴェリアさんとガレスさんじゃないですか。どーもー」

「おぉ、あのときの小僧か」

「レイではないか、久しいな。しかしなぜお前が...?」

 

「──―僕が呼んだんだ」

 

首を傾げるリヴェリアさんに代わって、その隣に座る金髪の小人族(パルム)の男が口を開いた。

 

「やぁ、君がレイ・オーガかな?僕はフィン・ディムナ。ガレスたちから話は聞いているよ。なんでも、あのヴァレッタを退けたそうじゃないか。今日は、そんな君にも意見を聞きたくて…少し来てもらった」

 

うん…いや、本当にそっくりだ。見れば見るほどそっくりさんだなぁ…おまけに()()()ナか……

 

本当にここまでそっくりさんがいるとなると、いよいよこれが偶然かどうかが怪しくなってくるぞ……やはりこの都市に来たのは正しかったな。

 

「なるほど。かの【勇者】さんにそう言われて、こちらとしても光栄の極みです。俺ごときの意見であればいくらでも言わせてもらいますよ」

「助かるよ」

 

俺はフィンさんと固く握手を交わし、俺はアリーゼたちの隣、空いている席に腰を下ろした。

直後、再び扉が開くと、今度は何処か偉そうな小太りのエルフが入ってきた。

 

「各【ファミリア】代表、揃ったな。ではこれより、定例の闇派閥対策会議を始める──―その前に、現状の体たらくは何だ、お前達!連日のように襲撃は絶えず、つい先日には大規模な奇襲さえ許しおって!」

 

会議が始まるかと思ったが…なるほど、こういうタイプね。

 

「さっさと害虫を駆逐してえなら、闇派閥も追ってダンジョン攻略も進めろなんざ、間抜け注文を押し付けるんじゃねぇ豚が。遠征行った帰りに都市中を回らせやがって...頭の中身まで畜生に変わりやがったのか?」

 

そんなエルフに対して猫人族(キャット・ピープル)の青年が怒りのこもった強烈な罵声を浴びせる。そんな青年──―アレンを宥めようと、俺は声をかける。

 

「おいおいアレンくん。いくらなんでもいいすぎじゃねぇか?もう少しオブラートに包んだ方が──―」

「うるせぇよ、軟派野郎。てめぇはその減らねぇ口を一生閉じてろ」

 

助け舟を出したつもりの俺に、アレンが噛み付いてくる。

 

「んだと、コラ!お前だっていっつも主神のフレイヤ様のこといっつも必死になって追い回してるだろうが!今回だって、遠征で会えなかったのが寂しくて、一刻も早く甘えたいだけなんじゃねぇのか!?この発情猫が!」

「あ゛ぁンッ!?!?もういっぺん抜かしてみろ、変態クソ猿!」

「何回だって言ってやるよ!この主神(お母さん)離れができないマザコン野郎!」

「てめぇ……!」

 

俺は真向かいの席に座ってふんぞり返っているクソ猫と机を合わせて前のめりになって睨み合う。

 

「えぇ!?なんでいきなりこの人達喧嘩してるんですかぁ...帰りたい」

 

メガネを掛けた水色の美人さんが嘆いているが今は気にしている余裕はない。だが、後で名前は聞いておこう。

 

さて実を言うと俺はこいつとは知り合いである。何なら数回一緒にダンジョンに潜ったこともある。

 

最初に会ったときは、ダンジョンを歩いていて、偶々その階層ではあまり出会えないレアモンスターを見つけ、逃げられる前に早々に仕留めようとしたら、別の通路からアレンが出てきて、二人共ほぼ同時にモンスターを仕留めたため、どちらのものかを争い喧嘩した。

 

ちなみにその時は少し卑怯な手を使って俺が勝った。その後も何度かダンジョンで会っては仕留めた獲物の数や額で勝負したりしている。今は11勝9敗3引き分けで俺が勝っている。

 

「寝言抜かしてんじゃねぇ。俺の11勝9敗3引き分けで俺が勝ってんだ。まともに数も数えられなくなったのか」

「寝言抜かしてるのはお前だろ。てか、心読むの止めてくれる!?そういうは女の子じゃないと意味ないんだよ!」

「ワケわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」

「ちょちょちょ...!、レイが【戦車(ヴァナ・フレイア)】と知り合いなのは驚きだけど、今は会議中よ!?少し落ち着きましょう?」

 

アリーゼが割って入り、俺を座らせる。

 

確かに、今は大事な会議の最中だった。

 

「…そうだな。おいアレン。アリーゼに感謝しろよ?」

 

「……チッ」

 

アレンが不機嫌そうに視線を逸らし、ようやく本題へと戻った。フィンが地図を広げ、静かに語り出す。

 

「ありがとう、アリーゼ。さて、話を戻そうか。まず僕達は先の炊き出しでは『爆発物』による犯行に及ぶと想定していてね。ガレスたちにそちらを警戒するように伝えていた、それが今回では逆に仇となってしまった」

「『爆発物』?どういうこと?」

「一連の工業区の襲撃において奪われておった『撃鉄装置』、あれの用途は【爆弾】の製造ではないかと踏んでおった、ということじゃ」

 

アリーゼの疑問にガレスさんが淡々と答える。

 

「スイッチを取り付け、誰でも作動できる『爆弾』と化せば十分脅威になりうる。それこそ魔石製品を扱うようにな」

「魔剣や魔道具とも異なり、戦闘の心得のない『信者』でも設置及び作動できる。警戒していたのだが...山が外れたか」

「あるいは、まだ切り時ではないと溜め込んでいるのか、だ」

 

シャクティとリヴェリアさんは闇派閥が一体どんな計画を基に動いているのか、頭を悩ましている。

 

「なるほど。理解いたしました。どうせなら、先に情報を共有してほしかったものですが」

「あくまで予想に過ぎなかったというのが一点。もう一点は警備を厳重にするあまり、敵の動きを誘いにくくしたくなかった」

 

(それって...)

 

「...勇者様の中では、あの奇襲さえも予定調和であったと?犠牲者の数も算盤で弾いて、小を切り捨てたので?」

 

輝夜が、外用の笑みを浮かべたまま問いかける。その声の温度は低く、同時に相手を咎めるような思いが込められていた。

 

まぁ、フィンさんの言っていることは、要は炊き出しに来た民を敵を呼び出す『餌』として使ったということだ。民を守るのが役目の冒険者の所業としては、あまりに冷酷だ。

 

腹黒いなぁ……そういうとこも似てんのか。

 

「被害の規模までは読めなかった、と言っても言い訳にしか聞こえないだろう。が、おかげで敵の本体を叩くことができた」

「大した勇者がいたもんだな」

「全くだ。常に選択を迫られる今の状況と、それを覆すことのできない自分がつくづく嫌になる」

 

苦渋を滲ませるフィン。それに充てられ、会議室内にも重苦しい沈黙に包まれる。

 

「──―はい、この話題ヤメヤメ!私こんな不景気な話聞きたくないわ!嫌な気持ちになってお菓子をやけ食いしてしまいそう!」

「アリーゼ・ローヴェル...貴方という人は...」

 

アスフィが呆れたように呟くが、アリーゼは止まらない。

 

 

 

「だってそうじゃない!みんな都市を守るために最善を尽くしているのに、それを責め合うなんておかしいわ!」

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

「反省するところはする、いいところは称え合う!それが正しい話し合いというものよ!子供にだってわかるわ!」

 

満面の笑みで言い放つ団長に、ガレスが大笑いした。

 

「くっくっくっ...ハッハッハッ!相変わらず全く物怖じしない娘よ!しかし、その通りだ!」

「チッ...正論ばっかりほざきやがって」

「反論できないのなら、悪態をつくのは控えておけ。彼女の正論こそ今においては最も建設的であり、有意義な提案だ」

 

ガレスさんは笑って肯定し、あのアレンまで舌打ちしながらも、リヴェリアさんに言われて、口を閉じる。かくいう俺は...

 

 

 

「アリーゼ、お前……たまにはまともなこといえるんだな…!」

 

 

 

珍しく正論を言うアリーゼに過去一驚いていた。

 

 

「ちょっと、レイ?それってどういう意味かしら!?」

「いやだって、お前いつもやばい言動しかしてないだろ。だから、ちょっと見直したわ」

「お前が言えたものでもないだろ...」

 

輝夜が呆れ顔で突っ込んでくる。いや、俺のは女性限定だから。一緒にしないでほしい。

 

「ふふ...明るい話は生憎ないが、悪いことばかりではない。実は今回の事件、死傷者は極めて少なかった。レイ、君がヴァレッタを抑えててくれたおかげだ。感謝する」

「いえいえ、結局捕らえることはできませんでしたし」

「それでも、君の行動のおかげで失われるかもしれなかった命を助けられたんだ。それを誇りに思ってもバチは当たらないさ」

「……そうですね。はい、ありがとうございます」

 

「...」

 

「よし。それじゃあまず、シャクティ達が制圧した『悪人共の違法市(ダーク・マーケット)について情報の共有を──―』

 

────────────────────―

 

「──―情報の共有は済んだ。では、本題に入ろうか」

 

これまでの事件。そしてアレンとオッタルさんからもたらされた、敵側にレベル6以上の実力者が最低一人はいるという事実。黒幕には神が絡んでいるといった情報の整理を終え、フィンさんが本題を切り出した。

 

「【ヘルメス・ファミリア】の偵察によって、闇派閥の新たな拠点が見つかった」

 

「「「「!!」」」」

 

会議室に緊張が走る。そこからはフィンさんに代わって、アスフィさんが具体的な調査の結果を報告する。

 

「廃棄された施設を利用してるようで、これまでより大きな規模、それも三つ。内部までは探れませんでしたが、一般人を装った見張りの数から言っても、おそらくは『本拠地』と言っても過言ではないでしょう」

「そこで、この三つの拠点を同時に叩く。僕らとオッタル達が分かれるのは当然として、もう一つは【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】に任せたい」

「分かったわ。戦力では劣るかもだけど、機動力なら負けはしないもの!それに、レイもいるしね!」

「私の方もそれで構わない」

 

二人はフィンさんの提案に了承する。

 

「話の腰を折るようで恐縮ですが罠の可能性は?」

「それも見越した上で動く。突入部隊に十分な戦力は割くことはもとより、他の区画にも目を光らせる。【ヘルメス・ファミリア】は都市全域に警戒を。異状が会った際、迅速な情報伝達を頼む」

「了解しました」

 

ここに集った、それぞれの【ファミリア】に各々役割が与えられる。

 

「...さて、察しの通り、これは大規模な『掃討作戦』になる。拠点が発覚した今、放置の選択肢はない。こちらから打って出る。作戦の決行は三日後。敵に気取られないよう準備には細心の注意を払ってくれ...ここで戦局を決定づける」

「任せてちょうだい!やってやるわ!」

 

「では──―っと、何か気になることでもあったかな、レイ?」

 

フィンさんが解散を告げようとしたその時、突然俺に声を掛けてくる。それによってその場の全員の視線が俺に突き刺さる。

 

「え、俺ですか?」

「うん、どこか引っかかっているような顔をしていたからね」

「いやまぁ…あるにはあるですけど、あくまで自分の予想なんで。それを全体に言うべきかどうか…」

「君程の実力者の考えなら、ぜひ聞きたいね」

 

おぉ…期待とプレッシャーが重いなぁ。

 

「じゃあ…さっき、アスフィさんも言ってましたけど、闇派閥の動きが活発になったのって奴らに強大な戦力が加わったからで、それが【猛者(おうじゃ)】さんの言った手練れって奴のことですよね」

 

「そうなるね」

 

 

 

 

 

「じゃあ、最低でも一人じゃなくて二人いますね。しかも【猛者】さんより強い、ね」

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

「こいつより強いやつが二人?お前イカれたのか?」

 

「誰がイカれてるだ、しばくぞ」

 

一々噛みついてきやがって、発情猫はこれだから…

 

「...その根拠は?」

 

「だって、ここまで大々的に動いてるってことはその戦力だけでこの戦力差をひっくり返せるってことですよ?いくら強くても一人じゃあ、一級冒険者全員をまとめて相手にするのは流石にキツい。【猛者】さんだってロキ・ファミリア全員を一気に相手するのはむりでしょ?」

 

「………」

 

あ、これ出来ないとは思いつつ認めたくないやつだ。負けず嫌いなんだなぁ、この人。

 

「あとは、この都市の最高戦力はフィンさんのとこと【猛者】さんのとこの二つ。もし俺が仕掛ける側なら、それぞれの『最強』を確実に潰せる駒を一枚ずつ用意する」

「確かに…」

「あと、これも俺の推測なんですけど、『悪人共の違法市』にいた謎の美女。あれがもうひとりの戦力だと思うんですよ。フィンさん達覚えありません?

 

灰色の髪で、とんでもない威力の魔法を使う魔道士。ちょっと聞こえた声からおそらく詠唱(スペル)は…

 

 

 

 

福音(ゴスペル)】」

 

 

 

「!!それは...!」

 

リヴェリアさんが驚愕に目を見開き、勢いよく立ち上がった。彼女だけでなく【ロキ・ファミリア】の面々、それに【猛者】さんも皆一様に顔色を変える。

 

「おっと、誰か分かりました?」

「あ、あぁ。その女はおそらく【静寂】のアルフィア...()()()()()()()()()()()の魔道士で、レベルは、()...」

 

「ヘラ・ファミリア...!」

「しかも、レベル7...!?」

 

まじか、強いとは思ったが、想定以上に化物だった。

 

かつての二大派閥の、圧倒的格上。その名にアリーゼと輝夜が息を呑む。

 

「もし、あの災禍の怪物がいるのかと思うと寒気がするね」

「しかも、奴と同等の戦士がもう一人はいる...」

「それなら確かにこの都市を落とせるに足る戦力じゃと、納得がいくわい」

 

会議室に漂う空気は、先ほどまでの「掃討作戦」への意気込みから、一転して「死闘」への覚悟へと塗り替えられた。

 

「...だが、いつまでも闇派閥を野放しにしておくわけにはいかない。例えかの魔女が相手になるとしても、作戦は計画通り行う、いいね?」

 

フィンさんの言葉に、あのオッタルさんでさえも、静かな緊張を湛えて頷いた。

 

「では、解散」

 

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