先導の英雄   作:無銘のヲタク

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今回は皆さん絶対トラウマのあれです。


作戦決行

 

「団長、全員配置についた」

 

副団長の輝夜がアリーゼに真剣な面持ちで伝える。その一言で、現場に張り詰めていた空気がさらに一段階、硬度を増した。

 

あの会議から、装備の点検、戦術の詰め、各ファミリアとの連携確認……怒涛の三日間が過ぎ、ついに作戦実行の時が来た。俺たち【アストレア・ファミリア】は【ガネーシャ・ファミリア】と共に、闇派閥(イヴィルス)の本拠地の一つを任されている。

日は沈みかけ、空は血のような残照に染まっている。

 

「そう、わかったわ。敵には気づかれてる様子は?」

「現状、そのような気配はない…逆に静かすぎて、なにかあると勘繰りたくなるほどだ」

 

輝夜の言う通り。闇派閥の拠点の周りは妙に静まり返っていて、まるで俺たちがいるのが分かっていて奥へと()()()()()────そんな不気味な予感する。

 

「……でも、行くしかないわ。今日、なんとしてでも闇派閥の拠点を落とす」

 

アリーゼの顔にはいつものような余裕を感じる笑みはなく、緊張が色濃く表れていた。それもそうだろう。今回の作戦が成功すれば、長く続いた闇派閥との戦いも幕を閉じる…その重圧が、彼女の肩にのしかかっているのだから。

 

「アーディ...」

「なに、リオン?」

「...いえ。勝ちましょう」

「──うん!」

 

少し離れた場所では、リューとアーディが短く言葉を交わし、互いの生存を誓うように頷き合っていた。その光景を横目に、俺はアリーゼの元に歩み寄る。

 

「なぁ、アリーゼ。他の拠点の方はどうなってんだ?」

「一つの拠点には【戦車】と【猛者】が率いる【フレイヤ・ファミリア】。もう一つの方は、【九魔姫】、【勇者】とガレスのおじ様たち【ロキ・ファミリア】が既に準備完了しているわ。刻限になったらに三拠点を一斉に叩く」

「なるほど」

 

恐らく、この作戦は敵に漏れている。だとしたら敵の最高戦力はあちらの二ヶ所にそれぞれ配置されていると予想できる。となると、この前の女──ヴァレッタがここにいる可能性は極めて高い。俺は無意識に刀の柄を握り直した。

 

「ねぇ、レイ」

「ん、どしたアリーゼ」

「さっきはああ言ったけど、この作戦、私なにか嫌な予感がするの。何か取り返しのつかないことが起きる気がする...だから、くれぐれも無理はしないでね」

 

いつもはヘラヘラしているが、ここぞって時の勘は人一倍鋭い。

その彼女が『何かある』と言っている。それだけで、一層気を引き締めるには十分な理由だ。

 

「わかった。でも、ここで無理しないでどうすんだよ。今日で最後の日になるかもなんだろ?」

「それは、そうだけど...」

 

俺は不安が拭いきれない様子のアリーゼの頭に安心させるように手を置く。

 

「心配すんな。この前成功させるって約束しただろ。それに、お前が言うに俺は()()んだろ?」

「...そうね。らしくなく、弱気になっていたみたいだわ!」

 

大きく声を上げるアリーゼの顔からは、まだ不安は残るが、さっきと違い力強く、そして覚悟が見て取れた。

 

そして…

 

「...いよいよか」

 

作戦に参加する冒険者が覚悟を決め、その冒険者達の主神が眷属(子供)の帰還を願い、固唾を呑んで見守る中、ついに...その時は来た。

 

 

 

 

「──突入!」

 

 

 

アリーゼの号令が、夕闇を切り裂いた。「大抗争」の火蓋が、ついに切って落とされる。

 

────────────────────

 

「ぐあああぁぁあああ!!!」

 

「施設を制圧するわ!ネーゼ、マリュー!イスカ達を連れて散って!私達本隊は奥まで行く!」

「一人たりとも逃がすな!全員無力化し、捕縛しろ!」

 

両団長が先陣を切って施設へ雪崩れ込む。指示を飛ばしながら、襲いくる闇派閥をなぎ倒し、俺たちは足を止めることなく深部へと駆け抜ける。

 

「リオン──!」

「──【空を渡り荒野を駆け、何者よりも疾く走れ】【星屑の光を宿し敵を討て】!

 

 【ルミノス・ウィンド】!」

 

リューが走りながら紡いだ詠唱。放たれた風の弾幕が、通路を埋め尽くしていた闇派閥をまとめて粉砕した。

 

「並行詠唱...リュー、凄まじいな」

「あぁ、魔道士でもねえのに相変わらず馬鹿げた砲撃!敵もあらかた吹っ飛ばしたし、こりゃ楽勝だぜ──と言いてえが」

「あぁ、()()()()()()()()()()

 

ライラとシャクティが顔をしかめる。確かに先程から当たる敵に、いまいち歯応えを感じない。まるで()()()()()()()()突貫してきているような…

 

「やはり罠をこさえているか。敵の拠点であるのなら防衛の手段は然るべきではあるが...」

「だとしても作戦続行よ!相手も既に施設内の人員を大勢失ってる!このまま最後まで畳みかけるわ!」

「...! 道が開ける!最深部!」

 

アーディの言葉通り、闇派閥の軍勢を押しのけ先に進むと、さっきの通路よりも広い空間へと飛び出す。そして、そこに待ち構えていたのは、やはりあの女だった。

 

「よぉ、来たなぁ」

【殺帝】(アラクニア)...!」

 

ヴァレッタ・グレーデ。狂気に満ちた眼光が、俺たちを射抜く。

 

「フィンがいねぇ...チッ、あの(アバズレ)テキトーな情報よこしやがって。だがいいぜ、今、私が一番会いてぇ野郎がいるからな」

 

そう言うと、ヴァレッタは前と変わらず獰猛で狂気的な笑みを浮かべて、俺を見据える。

 

「女性に会いたいなんて言ってもらえるなんて、男として光栄の極みだが、今回については忘れて貰ってた方がありがたかったな」

「忘れるわけねぇだろぉ?てめえは私がちゃんと殺してやるって約束したんだからよぉ!」

 

モテる男はつらいものだ。こんな野蛮な女でも相手にしなくちゃいけないんだからな。

 

「にしても、てめえ等、ここまで来んのが速すぎんだろうがよぉ。電光石火どころじゃねぇぞ。ったく、困ったもんだぜ...」

「言葉と顔が一致してねーぞ。汚え笑みくらい消しやがれ...何を隠してやがる」

「さぁなぁ?てめえ等をブチ殺すための算段じゃねぇか?」

「ヴァレッタ・グレーデ!施設内は制圧した!兵士もほとんど捕らえている!大人しく投降しろ!」

「ヒャハハハハ!その台詞にはい、そーですかって頷く馬鹿が居るかよぉ!...出ろぉ、てめえ等ぁ!」

 

叫びと共に、壁の陰から、天井から、文字通り「湧く」ように闇派閥の増援が現れた。

 

「伏兵...!」

「まだこんなに!」

 

乱戦。驚愕する暇もなく、場は一気に混沌へと叩き落とされる。

 

「おい、お前ら!大丈────ッ!?」

「レイ!」

「てめえの相手は私がやるって言ってんだろ?」

 

他の救援に入ろうとした俺の鼻先を、ヴァレッタの凶刃が掠める。咄嗟に刀を抜き、次に迫る一撃を瞬時に受け止める。

 

「大丈夫だ、輝夜!こいつは俺が抑える!」

「分かった...死ぬなよ」

「当然っ!」

 

輝夜が俺の返事に頷き、大量の闇派閥の渦中に身を投じた。

 

「言うじゃねえか、お前。つーか、この前の魔法は使わねえのか?」

「あぁ、今日はそういう気分じゃないんでな...!」

「そうかよ。まぁ、どの道...使う暇なんて与えねぇけどな!」

「ッ!」

 

下からの蹴り上げをバックステップで回避するも、息つく暇もないほどに即座にヴァレッタが肉薄し、切り結ぶ。

 

「ヒャハハハ!前より動きがいいじゃねえか!」

「一度見た動きだ。油断しなきゃそう簡単にはやられねえよ」

「へえ...!じゃあ、精々楽しませてくれよ!」

 

上段から振るわれる刀を右に躱し、俺は刀を横薙ぎに振るう。それをヴァレッタは仰け反って躱し、そのまま手に持った剣で俺の顔面を刺し穿つ。

俺はそれを軽く上体を反らして回避すると、双方一度距離を開けて、再び武器が衝突する。

 

切り結ぶ火花の中、俺はアリーゼたちの様子を横目で確認する。

 

「はぁぁ!」

「退け!!」

「邪魔です!!」

 

「「「がぁぁぁぁっ!!?」」」

 

輝夜とリュー、そしてアリーゼが連携して敵を倒し、ライラは後方支援を、この中で一番レベルが高いシャクティは一人で闇派閥を制圧していた。

 

「おい、何処見てんだぁ?」

「おっと...!」

 

視線を戻した瞬間、こちらまで接近していたヴァレッタの長剣が既に眼前まで迫っていた。俺は直ぐ様、刀を攻撃に合わせ、鍔迫り合いとなり、金属同士の激しい悲鳴が鳴り響く。

 

「私を前に余所見とは、随分余裕じゃねえか」

「まぁ、いろんな女の子をまとめて相手できるのが、モテる男に必要な技術(テク)だからな」

 

そこから、俺とヴァレッタ両者共にさっきよりも速度を上げて、切り合い始める。

 

────いける。このまま俺がこいつを抑えていれば…!

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その時だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああ!」

 

「な...子供!?こんな幼い子まで巻き込んで...!」

 

アーディの元に、武器を手に突撃してきたのは、まだ十歳にも満たないような少女だった。

 

「あ、ああ」

「ナイフを捨てて!戦っちゃダメだ!君みたいな子に武器を持たせる大人の言うことなんか、聞いちゃいけない...!私は君を傷つけたりしないよ?さぁ、こっちへ──―」

 

震える子供に対し、アーディが武器を納め、優しく微笑んで手を差し伸べながら、ゆっくり歩み寄る。

 

 

その瞬間────

 

 

 

 

 

「──ヒャハッ」

 

ヴァレッタの笑みが深く、その狂気が一気に増大した。

 

 

心臓が跳ねた。嫌な予感が全身を駆け巡る。

 

 

 

 

「────ッ!!アーディ!その子から離れろ!」

 

俺の叫び。だが、アーディは既に少女の目の前だった。

 

「え...?」

 

少女は、虚空を見つめたまま、祈るように呟いた。

 

「────────かみさま。おとうさんと、おかあさんに、会わせてください...」

 

カチッ、と。

 

絶望的なほど明瞭に、何か()()()()()()()()()()()()が空間に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【迸れ(ナルカミ)】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、考えるより先に、俺は使わないと決めていた()()()()の魔法を叫ぶ。

 

()()が全身を駆け巡り、限界を超えて加速する。ヴァレッタを力任せに押し退け、視界が白むほどの最速をもってアーディへと跳ぶ。

衝撃と共に、アーディを自分と少女から遠ざけるように突き飛ばした。

 

「レイ────!?」

 

遠ざかっていくアーディの顔。俺はそのまま少女を抱きかかえ、彼女たちから一歩でも、一寸でも遠ざかるべく地を蹴る。

 

そして、抱えて離れて直ぐ、少女の身体が視界を焼き尽くすほどの光を放った。

 

……あぁ、くそっ……

 

爆発。

吹き荒れる熱風と衝撃で消えゆく意識の中、俺は自分を見つめるアーディたちの顔を、最後に目にする。

 

 

…悲しませたら、意味ねぇだろ……

 

意識が、白濁した光の中へと溶けて消えた。

 

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