先導の英雄   作:無銘のヲタク

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前話の文章を少し変更しました。


英雄との邂逅

 

「...んぅ...ん?何処だ、ここ?」

 

まどろみから覚めた俺の視界に飛び込んできたのは、柔らかな陽光が注ぎ、どこまでも草木が波打つ果てしない草原だった。

そのあまりに穏やかな光景を眺めているうちに、意識を失う直前の──あの地獄のような熱風と爆鳴の記憶が蘇ってくる。

 

「あぁ...もしかしてここ、天国?」

 

嫌な予感に突き動かされて飛び込んだが、まさかあそこまで凄まじい爆発が起きるとは思わなかったな。

闇派閥の連中が『撃鉄装置』をかき集めていたのは、あの子どもたちを爆弾に変えるためだったわけか。

 

いやぁ……失敗した失敗した!まさかこんなとこで、二度目の人生が終了するとは、人生何が起こるか分からないもんだな!ははっ………何やってんだ、俺は。

 

誰も周りにいないのに、まるで自分の気持ちを誤魔化すように、空元気でつらつらと言葉を吐き出す俺自身に、乾いた笑いがこぼれ出る。

 

「……結局、俺は『英雄』にはなれなかったな」

 

悪いな、アル。まぁ、最後は、仲間の盾となって散った…俺にしてはいい幕切れだったんじゃないか?

 

自身に眩しすぎる願いを託した親友への謝罪と苦し紛れの皮肉を、乾いた風の中に呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい。君ともあろう者がそんなすぐに諦めるなんてらしくないな!」

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

その声は、耳の奥にこびりついて離れないほど懐かしく、そして二度と聞くことは叶わないと諦めていた響き。俺は弾かれたように、黄金の波が打つ背後を振り返った。

 

 

 

「アルゴ...ノゥト...?」

「そう!私は君の最高の親友、アルゴノゥトだ!久しぶりだな、レイよ!」

 

 

記憶の中にある姿と少しも変わらない。不敵で、どこかおどけた笑みを浮かべ、かつての「道化の英雄」がそこに立っていた。

 

 

「お前、アル……なんでお前がここに……あぁ、やっぱり俺、死んだんだな」

「悪いが、それは外れだ。ここは一種の夢のような、魂の休息所さ」

「死んではねえのか。俺の身体ってば思いの外頑丈だな。んじゃなんだ、お前がわざわざ人の夢に化けて出てきた要件は、いったいなんだ?」

「……謝罪ためさ。私が君に犯した酷い罪の」

「謝罪?お前が?どの事についてだよ。俺が作ったお菓子を根こそぎ食べたことか?

 

それともお前が欲しい物買うために俺の財布から勝手に金を抜いて使ったことか?

 

それか、お前がフィーナの着替え覗いたのがバレて追いかけられてる時に俺がフィーナの魔法に巻き込まれてふっ飛ばされたことか?

 

正直、思い当たることがありすぎてどれがどれだか…」

 

 

「我ながら、結構、親友に対して酷いことしてるな、私!だが、あの饅頭の件に関しては私は悪くない!レイがいいと言ったから食べたんだ!」

「いや、俺は『少し、食べてもいいぞ』って言ったんだよ。何処にそう言われて全部平らげる奴がいるんだよ」

「あの頃の私は思春期真っ盛りで食欲も旺盛だったからね。そんな私にとって、あの饅頭達は『少し』にしか過ぎなかったということさ!」

「……いや、お前あの後『く、食いすぎた』って腹壊して寝てただろうが」

「全く覚えがないネ!」

「都合のいい脳みそしてんな、こいつ……で、実際何のことだよ?」

 

毒気を抜かれ、呆れ混じりに応じてから、本題を入る。そこでアルは冗談めかした空気を切り捨て、らしくないほど真剣な、射抜くような眼差しで俺と向き合った。

 

「...()()()の私が君に送った言葉、それに対する謝罪がしたかった」

「...」

「今さら何を言おうと遅いだろうが…私はあの時君に『私』のようになれとは……」

 

 

 

「あぁ、それか……()()()()()。お前がそんな意味で言ったんじゃないってことは。あの神に言われる前からな」

「!!」

 

 

 

分かっていたさ。

 

『楽園』から追放され、追われる身になったとしても、悲しき『運命』に縛られたたった二人の女の子を『笑顔』にするために戦い抜いた。そんな真の『英雄』たるお前が、親友に自分の生き方を押し付けて縛り付けるような真似をすることがあるはずがない。

 

あの時のアルは、俺が本当に「英雄」を導く者になれると、心の底から信じていただけだったんだ。……でも。

 

「俺は…あいつらを死なせちまったあの日から、分からなくなったんだ。アル、お前がなんで俺なんかに、全てを託したのかが」

 

 

アルは自分が後の英雄を乗せる『英雄の船』となると宣言した。後の世にはそんな『アルゴノゥト』こそ『始まりの英雄』だと、そう謳う者だっている。

 

そんな偉大な英雄の後釜が、俺?無理だ。務まるわけがない。

 

 

「俺は昔からお前の背だけを見ていた。その眩しすぎる後ろ姿を、ひたすらに追い続けてきたんだ」

「あぁ、そうだ。君はいつも私の側にいてくれた」

「でも、そこに俺自身の意志はなかった。お前みたいに高尚な思想も、人を惹きつける輝きもない。俺はただお前という『英雄(ひかり)』に縋り付いていただけだった」

 

 

だから、空っぽの俺に残された道は一つしかなかった。

 

「お前の真似事をして、お前に()()()()だけが、『英雄』に至れる方法だとそれを信じて、俺なりに頑張ってみたんだ。でも、やっぱり俺じゃ駄目なんだ。どれだけあがいても、俺には…決定的に欠けてるものがあった」

 

 

『英雄』とは、目の前で苦しむ者がいれば誰であろうと手を差し伸べる者だ。それが『アルゴノゥト』であればその人をたちまち笑顔に変えてしまう。

 

が、俺の心にはそんな純粋な献身なんてない。目の前で赤の他人がどれだけ悲劇に見舞われようと、俺の心を巡るのは上っ面の同情だけ。やってやれるのは、自分の手が届く限りのとこまで、お前達『英雄』のように自身の命を賭して、誰も想像しえない幸福の未来をつかむことはできない。

 

「自分に『英雄』の資格はない…そんなことは、俺が一番よくわかってんだよ…!」

「……レイ」

「でも、そんな『英雄(アルゴノゥト)』が、俺なんかに託してくれたんだ。そんなの、期待に応えたくなっちまうだろ…!」

 

だからこそ、俺はその足りない心を『強さ』で埋めようとした。ひたすらに自分だけで戦える強さを突き詰めることで、自分の手の届く範囲を広めようとしたんだ。

 

だが、その『強さ』すらもこの都市に来て崩れ去った。

結局、俺一人ができることなんて、『英雄』のそれには足元にも及ばない。

 

俺には、お前みたいに世界を照らす光なんてなかった。

どれだけ『英雄』らしく振る舞おうとしても、俺の根っこにあるのは、ただの臆病で身勝手な、どこにでもいる『人間』なんだよ。

 

誰かを純粋に助けたいなんて高潔な意志じゃない。ただお前に、アルゴノゥトに認められたくて……お前が愛したこの世界で、お前が託してくれた『英雄』という偶像を守り抜くことに必死だっただけなんだ。

 

そんな空っぽの器に、いったい何ができる?

目の前で子どもが爆弾に変えられ、狂ったように笑う純然たる悪意を前にして、俺ができたのは心中紛いの無様な自爆だけ。

誰も救えない。何も変えられない。

 

「二度目の人生をもらって、あれだけ足掻いて、強さを求めて……結局、俺は誰の希望にもなれねぇ、ただの役立たずなんだ……ッ!!」

 

今まで、誰にも伝えたことのない俺の本音が、嘗ての親友を前にして堰を切ったように溢れ出る。

 

「人を助ける心も、他より優れた『力』も、俺にはない!そんな俺が『英雄』になんて成れやしねぇよ...!アルもこんな俺に託して、後悔し────」

 

 

 

 

俯き、己を呪おうとした瞬間。目の前にいたアルの腕が、俺の肩を力強く抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

「っ、ア、ル?」

「...すまない。私は『道化』であるのに、一番近くにいた君を笑わせることが出来ていなかったようだ...これでは英雄失格だな」

 

アルは俺の耳元でそう呟き、乾いた、それでいて慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「そんな私だが、これだけは言っておこう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君は、『英雄』になれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!何を言って...」

 

俺から離れ、もう一度こちらを射抜くアルの瞳には、欺瞞も疑念もない。ただまっすぐ自分の真意を俺に伝えている。

 

「君に人を救おうという心が無い?そんなわけがないだろう!もし、無かったのなら、どうして君はあの()()()()()を助けたんだ」

「ッ!それは...お前ならそうすると思って...!」

「違うな。君は確かにあの時、自分の意志で彼女を救おうとしただろう?自分の心に嘘をつかないでくれ」

「それは...」

 

「孤児院の子供たちを救っているのも、君自身の意志だろう?」

「......あれは、ただの『同情』だ!大切な者がいない彼奴等の姿が、昔の俺と重なって────」

 

「大いに結構じゃないか。痛みを分かち合えることも、英雄の立派な資質だ」

 

アルは畳み掛けるように、言葉を俺の心へ叩き込む。

 

「さらに極め付きは!君はさっき自分が弱いといったが、そんなわけがないだろう!だって君は、君自身が『英雄』と称する私より、遥かに強いではないか!」

「...お前の力は強さじゃない。お前はその言葉と行動が他の奴等に勇気をくれるっ!それはお前だけにしかない『力』...!」

 

 

 

「なんだ……その力なら、君にもあるじゃないか」

 

 

 

「は…?何を言って....」

「おいおい、気づいていなかったのか?ユーリやガルムス、リュールゥとエルミナに、オルナにアリアにフィーナにクロッゾ。そして私だって、君の姿に救われた」

「お前を真似ているだけだった俺に....なんで....?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって君は、()()()()()()だろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

「確かに彼等を──()()たちを失ったとき、君の心は折れた。でも君は、歩みを止めることはしなかった。

 

……かつて、私が壁にぶつかり足を止め、諦めかけた時も、君だけは常に前を向いて、進もうとしていた。私はその姿を見て、もう一度立ち上がることができたんだ。

 

『親友に負けてたまるか!』ってね!」

 

アルの瞳が、熱を帯びて俺を射抜く。

 

「君は私を追ってばかりだと言っていたが、私だって君の進み続けようとするその姿に()()()いたさ」

「アルが...俺に?」

 

思ったこともなかったその事実に俺は驚いて目を見開いた。

 

「そして、私は確信したんだ。君にはその姿で後に続く【英雄】を()()()()()があると!だから、君に『英雄の船』を託したのさ」

 

自分に止まっている暇はない。必死にあがき続けていた俺の姿が……『英雄』の力に……。

 

「さぁ、私がここまで自分の心を晒け出したんだ。君も自分の真意に蓋をしないで、秘めたその思いを聞かせてくれないか?」

 

真っ直ぐな、深紅の瞳。俺の心奥を見抜く、逃げ場のない眼差しに、俺は少しずつ堰き止めていた心の声を溢し始めた。

 

 

「俺は『百』の人間を守れるとは思えない...」

 

 

「なら手の届く場所にいる人は全力で救うんだ。最も君なら全部を助けられると私は思うがね」

 

 

「絶望して、心が折れるかもしれない...」

 

 

「それでも君は諦めはしないさ。私はそう確信している」

 

 

「俺だけでは勝てないような強い敵が現れるかもしれない...!」

 

 

「なら君の仲間を頼ればいい。それこそ精霊(相棒)の力を」

 

 

「...頼っていいのか?彼奴等を死なせちまった俺が...」

 

 

「それは君の『力』だよ。諦めない『強さ』を持ったレイだからこそ得ることが出来た。君自身の力さ。それに彼等は消えてなどいない。今も君のその()()に宿っている」

 

俺は自分の背の、かつて彼等によって刻まれた『()()』に意識を向ける。

 

 

「本来、神によってしか与えられない『恩恵(ファルナ)』。

 

それを二人の()()()が自身の命を犠牲にするこで再現することを可能にした。原理なんてこの際どうでもいい!その『奇跡の実現』こそ彼等の、君の力になりたいという思いの表れだ」

 

「そうなのか...?」

 

背中が、熱い。まるで『そうだ』と頷くように。背中に宿るこの熱が、俺に『答え』を教えてくれる。

 

あぁ...!お前達はずっと、俺の側にいてくれたのかよ…!

 

「彼らは常に君と共にある。彼らは君であり、君は彼らだ」

 

……もう十分だろ。

 

 

 

憧れた『英雄』に、君には『素質』があると────

 

 

 

かつての相棒には『英雄』になるための『力』を授かった────

 

 

 

あと必要なのは俺の『思い』だけ。

 

 

 

「...成れるのか、俺が英雄に?」

「成れる!君が憧れた『英雄(わたし)』が言うのだ、間違いないだろう?」

 

 

 

 

 

 

だったら、俺の答えは、最初から決まっていたんだ。

 

 

 

 

 

 

「俺は!

 

 

 

 『英雄』に()()()()...!

 

 

 

 目の前にいる……大切な『十』を守れる、そんな英雄に!」

 

 

 

 

 

「────なら成ろう。私に倣ったものではなく、君自身が思い描く最強の『英雄』に...」

 

 

そう言って微笑むアルは正しく俺が憧れた『英雄』の姿だった。

 

 

「……あぁ〜…ったく。相変わらずお前は、人をその気にさせるのが上手いな」

「私はあのオルナすらも言い合いで負かしたこともあるんだ。舌戦だけなら世界一だ!」

「ドヤ顔で言うことじゃねぇっつの…」

 

 

本当に憑き物が落ちたような気分だ。凄く身体が軽い。

 

 

「なぁ、アル」

「なんだい、レイ!」

「…もう会えないのか?」

「……」

 

この世界から…この夢から覚めてしまえば、何となくだがもうここにいるアルとは会えない。そんな確信があった。

 

「...私は現世への未練を残した亡霊のようなものだ。君に思いを告げることの出来た今、ここに留まる力はもうない」

「……そっか」

 

 

 

 

 

「だが、私は確信している!私たちは再び相まみえると!!例えば姿形は違えど…私の『魂』はもう一度、君と冒険をする!」

 

 

 

「!!…その根拠は?」

 

 

 

 

勘!!

 

 

 

 

「ふっ…宛になんねぇな……でもそうだな、リュールゥとガルムスに似た奴もいたんだ。お前に似たやつもいつか現れるか。あっでも、お前みたいに五月蠅い奴じゃないので頼むわ」

「私からそれを取ったら、ただの童顔美少年になって、年下好きお姉さんたちでハーレムを作ってしまうではないか!」

「あと、おとなしい性格にして喋り方を普通にすれば完璧だ」

「それもう私の要素が顔だけなのだが!?もしかして私のこと嫌いなのか!?」

「......そんなことないヨ」

「今の間は!?」

 

 

かつてのように、馬鹿みたいに他愛のない会話で笑い合う。そんな当たり前の『日常』がとても懐かしくて、手放すには惜しいものだ。

 

だが、そんな俺の心とは裏腹に、アルの身体が足元から光に溶け始める。それは、幸福な時間の終わりを告げていた。

 

 

「おっと……どうやら、時間みたいだ」

「………あぁ、そうみたいだな」

 

かつての親友との再会なんていう、夢幻はここまでか…寂しくないって言えば嘘になるが…こいつとの別れの前でそんなみっともない顔はできねぇな。

 

「じゃあ最後に改めて...

 

 

 ありがとうアルゴノゥト、俺に道を示してくれて。

 

そんなお前のため、彼奴等のためにも────

 

 

 

 

()()()()()()『英雄』になる」

 

 

「そうか...それは安心だ!」

 

光に包まれて消えゆく親友に、俺は最後の一言を贈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またな、俺の親友(えいゆう)

 

「また会おう、『()』の英雄(しんゆう)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一人は英雄であった親友に、もう一人は、これから英雄となる親友に…別れを惜しむわけでも悲しむわけでもなく、ただ…いつかの再会を願って。

 

独り残された何処までも続く黄金色(こがねいろ)の草原。天を仰ぐ俺の頬を、冷たい涙が零れ落ちる。

 

「……いや、今は独りじゃないんだったな。よし、それじゃあ俺()も戻るか。行くぜ、お前ら」

 

俺は涙を拭い、()()()()【魔法】を唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【目覚めよ(シラヌイ)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺は再び、戦火飛び交う都市に舞い戻った。

 




恩恵の設定が有り得ないだろと思う人もいるかもなぁ...ご容赦ください。
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