過去とのけじめを付け、意識の覚醒と共に魔力を解き放つ。刹那、爆心地からオラリオの上空へ向けて、夜の帳を焼き払うほどの巨大な炎の柱が力強く突き上がった。
かつての相棒たちが遺し、今や俺自身のものとなった蒼き熱量………だが。
「熱っっっっちゃぁぁぁぁ!!!」
感動の再会から一転、俺は自分から放った炎で盛大に身を焼いていた。
「久しぶりに解放したせいで、調整出来てなかったァァァァ!」
必死の思いで燃え盛る蒼炎から脱出し、転げ回りながら自分についた火を払う。
「ふぅ、危ない危ない……。かっこよく意気込んで戻ってきたのに、あっさり消し炭になるとこだったぜ。それにしても...これはどういう状況だよ?」
眼下に広がるのは、地獄そのものの光景だった。至る所から立ち昇る、神の送還を示す光の柱。
「都市の最強派閥の冒険者が!我等に味方せし二人の戦士に破れたぞ!」
「【恩恵】無き冒険者など、恐るるに足らず!」
そこら中で、歓喜に闇派閥の面々に対し、恐怖に飲まれ這いつくばる冒険者たち。
「都市最強…フィンさんと【猛者】さんのとこ負けたのか。それに【恩恵】が無くなった?もしかして、いくつか上がってるこの光の柱は神の送還か……だから、こんな惨状になってるわけだ」
オラリオの「最強」と「拠り所」が同時に消失したことで、士気は底を打っている。このままでは、冒険都市の崩壊はもはや時間の問題だろう。
『────なら、君がそれを変えなければならないね?』
つまるところ今、オラリオは『英雄』を欲している。
「────分かってるよ。見とけよ、アル」
これが『英雄』になる俺の物語を始める第一歩だ。
────────────────────
「────拝聴しろ!オラリオの冒険者たちよ!!!」
「「「「「ッ!!!」」」」」
その一喝は、爆鳴のように都市の隅々まで響き渡った。
戦う意志を捨てかけていた冒険者、逃げ惑う民、そして邪悪なる神。すべての者が、天から降ってくるようなその「声」に意識を奪われた。
「何故、お前達は戦うことを止め、ただ滅びを待っている!」
「この声は一体...!?」
幾重にも重なったような不思議な響き。主の声が誰なのか把握できない。
「こんな結末を、受け入れるな! お前達が立ち向かわずして誰がこの都市の脅威を退ける!誰が戦う術を持たぬ民を、愛する者を守ることができる!」
力強い言葉が、絶望に塗りつぶされていた冒険者たちの耳に、そして魂の奥底に突き刺さる。
「都市最強が敗れたから、もう終わりだと? ならば、俺が代わりにお前達を『勝利』へ導こう!お前達の先を進み、この背中でお前達を奮い立たせてやる!!」
失意の淵にいた者たちの心が、微かに波打つ。だが…
いくら力強い言葉でも、最強の象徴であった【猛者】の敗北を目の当たりにした彼らにとって、まだ立ち上がるには勇気が足りない。
「俺の力が信じられないというのなら、見ろ!我が権能を!」
刹那、先程炎が吹き上がった場所を中心に、て蒼き炎が荒れ狂い、紅き雷が夜空を裂いた。それらが一つに収束し、形を為していく。
それは誰しもが一度は目にした、英雄譚に出てくる精霊の化身。人外の力を持ち、神の御子たる超常の存在。
その姿に誰もが圧倒され、目を奪われる。
「この炎と雷こそ、俺の力の一端。これを見てまだお前では不足だと、そう言うか!」
神々しきその御業は、冒険者達の昏き瞳に僅かに光を灯し始める。
「【神の恩恵】がないから戦えない?馬鹿を言うな!
古代の英雄達はそんなもの無くても、自身の力で強敵を打ち倒してみせた!
ならお前達にそんな言い訳を言う資格などありはしない!
ここは下界だ!
地上を守るのは、決して....神々なんかじゃない!俺たち…人間だ!」
それは、神の恩恵が支配する『神時代』ではなく、己の意志のみで世界を切り拓いた『古代』を生き抜いたレイだからこそ、紡げる真実の言霊。
「さぁ、冒険者共!その怯えて震える手足に力込めろ!剣を握り、立ち上がれ!!」
「……ぐっ、ぐうぅぉぉ……っ!」
地に伏していた冒険者たちが、泥に塗れた剣に、槍に、もう一度手を伸ばす。
「その弱気になった心を叱咤し、眼前の敵へと一歩踏み出せ!!!」
「う、うおおおおお……!」
怯えて縮こまった内に秘めた『闘志』を呼び起こす。
「お前達は何のために
お前らの『
ある者は巨万の富を築くため…
ある者は偉大な名声を手に入れるため…
また、ある者は自身の強さを確かめるために。
各々が思い思いの『夢』を叶えるためにこの都市にやってきた。
忘れかけていた冒険者としての矜持が蘇り、瞳に強烈な闘志が灯る。
「意志を言霊に乗せろ!絶望に吼えろ!!こんなところで死んで堪るか、と!眼前の敵に咆哮を上げてみせろ!!それこそが...!
お前達、『冒険者』だろうが!!!」
レイの咆哮がオラリオの全域を呑み込んだ。そして────
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
地を揺るがすほどの、爆発的な雄叫び。
オラリオ中の冒険者が、一斉に反撃の産声を上げた。
「な、なんだ!?」
「急に冒険者共の勢いが……っ、ぐあぁぁ!?」
押し寄せる冒険者達に闇派閥達は変わらず自爆特攻を繰り出すがそれでも勢いが増した冒険者達の進撃は止まらない。驚愕する闇派閥を、執念と怒りを取り戻した冒険者の波が押し戻していく。
一変した戦局に、敵の幹部たちは困惑と驚愕を隠せなかった。
「さっきまで戦う気力が微塵も無かった冒険者共が...!息を吹き返しやがった...!」
「ここまでの『悲劇』が...塗り替えられた...!」
「誰だ……この声の主は一体何者だァァァ!」
レイは最後に、その言葉の矛先を賭しに蔓延る闇派閥へと向けた。
「そして、闇派閥共よ、覚悟しろ!お前達がこれから相手にするのは、己の心から目を背け、『弱さ』を盾に逃げる臆病者でも、『理想』に成り代わろうとする偽物でもない!」
レイは今一度、自らの覚悟を…
人に───神々に───
────下界に示す。
「『
本物の『英雄』だ!」
その瞬間、レイの背中の【恩恵】が激しく発光した。
レイの覚悟に呼応し、仮初めの【代行】は消え、スキルは進化を遂げる。
レイ・オーガ 18歳
Lv.4
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《発展アビリティ》
剣士 C
幸運 E
先導 A
《魔法》
【鬼神召還】
・原点回帰
・一定時間の階位昇華
・詠唱【此ノ身に鬼ノ万力を】
【蒼炎紅雷】
・炎魔法
・雷魔法
・詠唱変化による属性変化
・詠唱添加による性質変化
・詠唱【
《スキル》
【
・早熟する
・前に進む意志が続く限り効果継続
【
・ステイタスの自律的更新
・精霊の加護
・魔力と
・
【守護者】
・守る対象がいる際、全ステイタスに高補正
その真の『英雄』の登場にこの動乱の黒幕たる邪神は…
「──────は、はははははっ!蒼き炎と赤き雷、しかも『精霊』の加護だって?それはまるで...」
「「【先導の英雄】。零牙」」
エレボスの横に立つザルドとアルフィアが、同時に同じ存在の名を口にした。
「『アルゴノゥト』に綴られた、異端である極東の英雄!
強さ故に語りの手によって作られた
彼の姿がまさに『英雄・零牙』の存在の証明!」
エレボスは恍惚とした表情を浮かべる。ザルドとアルフィアもまた、予想だにしない強敵の登場に、その口角を吊り上げた。
「...まさか、これほどの獲物がこの都市にいたとは...!」
「あぁ....あれこそ私達が求める『古代の英雄』...して、どうする。始めるか?」
「────いや、やめておこう。今日は『英雄』に免じて一旦引いてやろうじゃないか。じゃあ...また会おうぜ」
エレボス達三人、そして闇派閥の幹部の者達は都市の闇へと消えていった。
────────────────────
「...ふぅ、これでいいか」
大規模な演説を終えた俺は、建物から飛び降り、軽やかに着地する。
「痛てて……まだ傷が完治してねぇか。だが、啖呵を切っちまった以上、無様な姿は見せられねぇからな!」
俺は再び刀を握り、怒号と火花の飛び交う戦場へと身を投じた。
その夜、オラリオは歴史上もっとも長い夜を迎えた。
多くの傷を負い、仲間を失い、主神を奪われた者もいた。
だが、冒険者たちは最期まで、泥を啜ってでも戦い抜いた。
あの絶望的な状況下にあって、闘志を失う者は一人として現れなかった。
失った痛みを抱えたまま奮起する彼らの背中は、
『オラリオは終わらない』
そう、力強く、残酷なほど気高く語っていた。
すいません。アルゴノゥトといた時のレイの名前を