先導の英雄   作:無銘のヲタク

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レイがあの夜の英雄だと知っている奴が(エレボス以外)いないように書き換えました。ご了承ください。

あと、今回はアーディの視点が少し使われます。


少女の笑顔は涙に勝る

 

あの『大抗争』のあった夜の二日後…この間に都市の状況は以前から一変した。

 

僅かばかりに存在していた賑わいさえも今は鳴りを潜め、辺りに響くのは剣戟と破壊の音ばかり…もはやこの前の炊き出しの際の盛況さは見る影もない。

 

舗道は罅割れ、建物は崩れ落ち、街灯はひしゃげている。

 

そして今俺は、そんな崩壊寸前の都市のあちらこちらで散発的に発生する闇派閥の襲撃に対処すべく、オラリオ中を走り回っている。

 

「────ん?あれは…」

 

視界の端に映った光景に俺は思わず足を止める。

 

「やぁぁぁ!」

「おい、アイズ!一人で先行するな!」

 

そこには、リヴェリアさんと思われるエルフの制止を無視して、金髪金髪の幼子───アイズが出現した闇派閥の集団を次々と一人で鎮圧していく光景が広がっており、その幼体で闇派閥をな薙ぎ倒す様は正しく【戦姫】であった。

 

「子供なのにすごいな、アイズ……俺も行きますか」

 

俺は地を蹴ってその場所まで接近し、アイズを背後から襲おうとしている奴の意識を奪う。

 

「な、お前はっ!」

 

「っ!!レ、イ…?」

 

二人は俺の登場に信じられないものを見たといった表情を浮かべる。

 

「…?なにその目?何か言いたげですけど…ま、とりあえずこいつらを片付けてからにするぞ、アイズ」

 

「...うん、分かった」

 

俺とアイズは背中合わせの状態から同時に駆け出し、闇派閥の集団へと突撃する。

 

「な、なんだ貴様は、ぐぁ!!」

 

「まず一人...」

 

俺は動揺する闇派閥の一人の頭を右手で掴み、そのまま地面叩きつける。

その光景に恐れをなしたのか、闇派閥の動きが停滞する。

その好きを逃すまいと俺は接近し刀を抜いて、殺すこと無く三人を気絶させる。

 

「ッ!う、うおおぉ!!」

 

ようやく動き始めた他の闇派閥が迫る。全てを手刀や峰打ちで次々と鎮圧していると、最後に残った一人が自身についた火炎石の機構で自決しようとする────だが…

 

目覚めよ(ナルカミ)

「がぁっ」

 

その前にそいつに高速で肉薄し、意識を刈り取る。

 

「自爆なんてさせねえよ」

 

俺は辺りを見て、こいつが最後だと確認してから刀を鞘に戻す。すると、アイズの方も終わったようで返り血がついたままこちらに走り寄ってくる。

 

「おいアイズ、血塗れじゃねえか。ちょっとこっち来い」

 

俺の言葉に従い、こっちに体を寄せてきたアイズの身体に付いた血を懐からハンカチを取り出して拭き取る。

 

「んっ。ありがとう、レイ」

「どういたしまして」

 

「──アイズ!」

 

俺がハンカチを元に戻していると、向こうからリヴェリアさんが歩いてきて、

 

「ふんっ!」

 

「ふぎゅう!?」

 

「あちゃあ...」

 

こっちを向いたアイズに拳骨を食らわせる。するとアイズは可愛らしい叫び声を上げて、涙目になりながら頭を抑えて(うずくま)る。

 

「馬鹿者!今のオラリオはダンジョンよりも危険な場所と化している。レイがいたとはいえ、迂闊な真似はするな!」

 

「うぅ、ごめんなさい...」

 

なんか、俺がアイズと会う時、毎回怒られている気がする...それはそうと

 

「あんまり、怒らないであげてください、リヴェリアさん。アイズだって何か思うことがあってやったんだと思いますよ、なぁ、アイズ?」

「うん...リヴェリア、まだ怪我してるから。私が頑張らないと、って」

「!!」

「もう、みんなが傷つくの、嫌だから...」

 

まだ痛む頭を抑えつつ、アイズは口から自分の気持ちを吐露する。

 

「そうか...その気持ちは嬉しい、だが、私もお前と同じ思いだということを忘れないでくれ。私も、お前が傷つけば悲しい。それこそ自分のこと以上に」

 

そう言ってリヴェリアさんがアイズの頭を撫でると、アイズは目を細めてされるがままにしている。その様子は本当の母と娘の関係のようだ。

 

「して、ギルドでの会議以来だな、レイ」

 

「そうですね。リヴェリアさんはママやってるみたいで」

 

「だれがママだ。そんなことより…私はお前が生きていたことに驚いたぞ」

 

「うん、私もすごいびっくりした」

 

「へ?なんで?」

 

死体どころか、寧ろ動きっぱなしで体バキバキなんだが…

 

「なんでもなにも、昨日【アストレア・ファミリア】が闇派閥の拠点にお前を探しに行ったが、お前の死体は確認できなかったから、闇派閥の自爆攻撃で死んだものだと、判断されていた。お前昨日は一体何をしていた?」

 

「あ……いや〜」

 

昨日は俺はホームに帰らず、オラリオ中の爆弾処理のために奔走していた。

前の時のように都市で一斉に爆発が起きたりしないように、都市中を爆弾が仕掛けられてないことを確認していたのだ。

案の定一目につかないような所に爆弾が仕掛けられていて、それの処理を行っていたら夜が明けていたんだけど…確かに一日何も連絡しなかったら死んだことにされそうだなぁ…失敗失敗!

 

「私…レイが死んじゃったって思ったから…悲しかったよ…?」

 

「それは…悪かったな…ちょっといろいろやっててね…」

 

「では、そのやることが終わったならば早々にホームに戻った方がいい。貴様がいなくなったせいで、あの者達の士気が著しく落ちているからな」

 

「まじか。じゃあ、今から行きますわ」

 

そんな感じなのか…もしかして俺って意外とアリーゼたちからの好感度が高い…?少し嬉しいかもな……少しだけな?

 

 

 

「────ねぇ、レイ」

 

「ん?どうした、アイズ」

 

突然袖を引かれて下を見るとアイズがこっちをじっと見上げていた。

 

 

「レイはこの前の『英雄』の人の声、聞いた?」

 

 

「あぁ…まぁ、あんだけデカイ声で話してたら。流石に聞こえたわ」

 

自分だとバラすと面倒そうなので、適当に濁すことにする。

 

「すごかったよね。みんな敵にやられちゃって暗い気持ちになってたのに、あの人の言葉で元気取り戻してた」

 

「そうだったな」

 

俺は「それ、俺なんだよなぁ」と内心苦笑いしながら、アイズの話を聞いていた。するとアイズが少し黙って下を向いた後、もう一度こっちを向いて言う。

 

 

 

 

 

 

私にも『英雄』は来てくれる?

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

リヴェリアさんはその質問に驚いた後、少し神妙な面持ちになる。

 

「…アイズは英雄に会いたいのか?」

 

「うん。お母さんは、お父さんが自分の『英雄』だって。それと、私にもいつか私の『英雄』に会えるって言ってたから」

 

大衆のための英雄ではなく、自分だけの英雄か…

 

「なるほどな…まぁ俺も未来が分かる訳じゃないから何とも言えないんだが...」

 

「そっか...」

 

アイズは俺の返事に少し落ち込んだ様子で下を向いてしまう。

 

 

 

「でも、アイズが来て欲しいって思うなら、『英雄』はいつか必ずお前の所に現れるよ」

 

 

 

「!!本当...?」

 

「おう。『英雄』ってのは自分を求める存在の前に必ず現れる。それが『英雄』だ。だからアイズにも、リヴェリアさんの言うこと聞いて良い子にしてれば、必ず来てくれるさ」

 

俺の言葉を聞いて、アイズは少し何処かホッとしたような安心した様子で頷く。

 

「そっか…なら、頑張ってみる」

 

「ならばよし」

 

俺はアイズの頭にポンポンッと軽く叩いた後、二人に背を向けて少し歩く。

 

「じゃあ、アイズもリヴェリアさんもまた」

 

「あぁ」

 

「バイバイ」

 

俺はアイズに軽く手を振ってから【アストレア・ファミリア】のホームに歩み始めた。

 

─────────────────────

 

 

 

私は今、オラリオの街中を一人、重い足取りで歩いていた。

 

昨日、レイのことを探そうと、お姉ちゃんやアリーゼ達と一緒に私たちが襲撃した闇派閥の拠点の一つに行った。

 

レイが生きている、という一縷の希望に懸けて必死に探したが、建物が崩れて積み重なっていた瓦礫を退かしてみたらそこには()()()()()()()がたくさんあって、しかも焼け焦げていて、どれが誰のものなのかは分からないらしい。

 

私はもしかしたら何処かで倒れているかもと思い、建物の周囲を捜索したが、レイの姿は何処にも見つからなかった。

 

私はその時、改めて『レイが死んだ』という事実を目の当たりにして、目から涙が零れ落ちた。

リューも私と同じように膝をついて涙を流していて、アリーゼや輝夜たち、お姉ちゃんだって泣いてこそいなかったけど、その表情からは悲しみと辛さがひしひしと伝わってきた。

 

私はその後、ホームの自分の部屋に閉じ籠った。

 

お姉ちゃんが「お前のせいじゃない」ってずっと声を掛けてくれてたけど、そんなわけかない……

 

ずっと自分のベッドの上で膝を丸めて顔を(うず)めながら考えていた、私があの時あの子に近づいていなければ、私がもっと注意していれば、レイは死ななかったんじゃないか。そして、そう考えれば考えるほど現実の非情さに打ちのめされる。

 

今はファミリアの活動として巡回をしてはいるが、やっぱり元気はこれっぽっちも出てこなくて、何も手につかない。

 

そうやって何もできないでいるほど、お姉ちゃんは悲しみを抑えて頑張っているのに、それ比べて私はなんて情けない人間なんだろうと、無力感や劣等感のような暗い感情が積み重なっていく。

 

そして、私は歩くのを止めて、道の端に膝を抱えて座り込む。

 

「あぁ...会いたいなぁ、レイに...」

 

そうして、また涙が込み上げてきた瞬間、

 

 

 

 

「──あれ?なにやってんだ、アーディ?」

 

 

 

 

それはとても聴き馴染みのある声で…でも、決してもう、聴くことはないと思っていた声。聞こえてきた方に顔を向けると…

 

「何でこんなとこで、膝抱えて座ってんだ?」

 

キョトンとした表情を浮かべてこっちを見つめる、レイがいた。

 

─────────────────────

 

何か、アーディが道の端で座り込んでいて話しかけたんだけど…目の端に少し涙を溜めて、滅茶苦茶驚いたような表情を浮かべている。

 

「え…レイ…?なん、で…?」

「いや、何でって。こっちが聞いてるんだがまぁ、俺は今からアリーゼ達のとこに帰るところよ」

「これ…夢…?幻覚……?」

「いや、違うよ?ちゃんとここに居るよ。ほれ」

 

俺は震えながらこっちを見てくるアーディの目の前に屈んでから、その手を取って自分の胸に当てる。

 

「実態あるし。こうやって心臓も動いてんだろ?」

「じ、じゃあ…!貴方は、本物のレイ……?」

「だから、さっきからそう言って────」

 

その瞬間、俺の言葉を遮るようにアーディが勢いよく抱きついてくる。咄嗟のことに思わず倒れ込むような形で尻もちをついた。

 

「え?ち、ちょっと…アーディ?どうした?」

 

そう問いかけてもすぐに返事は返ってこない。少しすると絞り出すようなか細い声で呟く。

 

「......死んじゃったと思ってた」

「あー、いやぁ、昨日は色々やってましてね?」

 

俺はどうにか弁解しようと、あれこれ考える。

 

 

 

「......私のせいで、死んじゃったって...」

「!!」

 

思いがけないその一言で思考が一瞬にして止まる。

 

「でも、生きてたんだ...よかった...ホントによかった...!」

 

そう言ってアーディは俺をより一層強く抱き締めてくる。

 

「…アーディ…」

「怒ってるよね…!死ななかったって言っても、凄く痛かっただろうし…!私のせいだよね…ごめんね...本当に、ごめんなさい...!」

 

アーディは今までの嘆きや後悔といった感情を込めて、俺に泣きながら謝罪を繰り返す。その姿は普段の天真爛漫でいつも笑顔な彼女の姿とは程遠い。

 

彼女は優しい。それゆえに自分の罪に対する意識が他者より何倍も強いのだ。

 

自分の過ちで他人が危機に瀕してしまったという事実が今彼女に強くのしかかっている。そしてその重責はたとえその相手が無事に帰ってこようと彼女に突き刺さった罪の十字架は消え去ることはないのだろう。

 

そして彼女は自身の罪に対して、俺からの罰を求めている。愚かな自分を叱責した欲しいと強く望んでいる……

 

 

 

じゃあ……今の俺にできるのは────

 

「ごめん、なさい…!ごめんなさ────」

 

 

 

アーディ

 

 

 

君を『赦す』ことだ。

 

 

 

いつまでも彼女の口から流れ出す謝罪の言葉を遮って、彼女を呼ぶ。

彼女の腰に右手を回し抱き留め、左手でアーディの頭の後ろを優しく撫でる。

 

「レ、イ…?」

「アーディ。俺は別に怒っちゃいない」

「……どうして?レイは私のせいでっ!」

 

俺は自分を責める声を上げる口を人差し指でそっと塞ぐ。

その行動に少し目を開き、頬を染めるアーディの姿はとても可愛らしい。

 

「アーディのせいなんかじゃない。あれは俺がお前を守りたいからって勝手にやったことだ。だから気にする必要はない。ほら、顔を上げてくれ」

「でも、私があの子に不用意に近づかなかったたらあんなことにならなかったのに……!!」

「それこそ怒らねぇよ。だってアーディは目の前悲しむ少女を助けようとしただけだろ?褒めることこそしても、恨んだりなんてあるわけ無い」

 

そう言って俺が左手で撫でるのを止めると、アーディは顔を上げて、まだ端に涙が残ったままの、その青い瞳で俺を見つめる。

 

「何で、レイは私のことをそんなに...?」

「それ、前も言わなかったか?

 

 

 

 

──────アーディの笑顔が好きだからだよ」

 

 

 

 

「!!」

 

 

()()()()と同じように、他の人も笑顔にできる、その笑顔が大好きで、いつも助けられてるんだ。

 

だからさ、アーディ...

 

 

 

 

 

()()()()()。俺は泣き顔より、そっちの方が嬉しい」

 

 

 

 

 

 

「っ…ぁぁ…!」

 

 

堰を切ったように溢れ出す涙。アーディは顔を下に向けて顔を腕で擦った後、再び顔を上げた。

 

 

 

 

 

「っ……うん…!!レイ、ありがとう!!」

 

そこには…いつもの花のような笑顔でこちらに感謝を伝えるアーディの姿が映る。

 

 

 

 

 

 

「はい、どういたしまして...ところで、アーディ」

「?...なに?」

「いつまでこうしてるつもりかな?」

 

俺の言葉にアーディが自分が今置かれている状況を認識し、途端に顔を真っ赤にして、バッと俺から即座に距離を取ると、両手で顔を覆ってその場に立ち尽くす。

 

「~~~~~~~~ッ!!!」

「おっとぉ?流石の天然美少女アーディさんでも、男に自分から抱き着くなんて経験は初めてのようですねぇ?」

「う、うぅ~~~~~~~!!」

「ははは、やめてくれー...ねぇ、本当にやめて?ちょっとアーディさん?痛い痛い!本当にやめてください!」

 

顔を俺に見えないようにして、俺の胸を両拳で叩いていると、だんだん一撃の威力が強くなって、普通に痛くなってきたので、アーディに止めるように懇願する。

 

「────ふぅ。あぁ、スッキリした!」

「ちょっと?人を気晴らし用のサンドバッグにするの止めて貰えるか?」

「だって、レイが揶揄ってくるから...」

 

むぅ、とアーディは頬を膨らませて此方を睨んでくる。そんな顔しても可愛いだけである。

 

「というか、レイ。怪我はないの?」

「おう。前も言ったが、俺は特殊な体質だからな。一日もすれば治る」

「ならいいけど……それでレイはこれからどうするの?」

「さっきも言ったけど、一回ホームに帰るよ。元々そのつもりで歩いていたからな」

「そっか…なら、リオンは特に気に掛けてあげてね?私と同じで凄く落ち込んでたから」

「了解した。あ、そうだ最後に」

「?」

 

アーディは俺の言葉に首をかしげながらこちらを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりアーディには、笑顔が一番似合うな。今もう一回見て確信したわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......そっか。ありがと!」

 

そのアーディの笑顔を最後に俺は今度こそホームに向けて歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうとこ、ホントにズルいなぁ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーディが最後に言った言葉は俺の耳には届かなかった。

 




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