あの後、俺は街のパトロールに出掛けて、特に何事もなくホームに......いや、あったな。そういえば道中でシャクティに会ったわ。挨拶したら、これまた驚いたような顔をされた。何でも、アーディから聞いてはいたらしいが、あの状態のアーディの発言だ。シスコンのシャクティでも半信半疑といった感じだったらしい。
いつも以上に顰めっ面で色々小言を頂いたが、最後は、生きててくれてよかったと涙ながらに言われてしまった。あのシャクティに泣かれるとは思わなくて、流石に申し訳なくなったからシャクティからも何か一つお願いを聞いてあげることにした。
顎に手をやって何やら考え込み始めたので、
「俺が1日身の回りのお世話をしようかぁ?」と冗談めかして言ってみると、「....それも面白そうだな」と言っていた。
まじ?俺としては美女と一緒にいれるから願ったり叶ったりだぜぇ!とか思ってたが、やっぱり五月蝿そうだからやめておくのだそうだ。解せぬ。
そんな感じで話した後、今俺はシャクティと別れてホームへ帰ろうとしている途中である。改めて街の様子を見てみると、そこかしこに破壊の後が残り、ひび割れた街灯と微かな月明かりだけが街を照らしている。
「───さて、こんな夜中に人のこと影からジロジロ見てんのは、どちらさんかな?」
俺が立ち止まってそう言うと、前の路地の暗闇から一人の男が、いや
そいつはそこらの泥棒に財布盗まれるような情けない貧乏神で、おまけにエルフの美少女にしつこく付き纏う重度のストーカーにして、さらにはその娘やその仲間を質問責めにして悦に浸っている変態であり、そしてこの都市をドン底に陥れた黒幕張本人である。
「あんたは……神エレン…いや今はエレボスだっけか?」
「何やら不名誉なレッテルを貼られた気がするがまぁいい。久しぶりだな、レイ。覚えてくれてたのか」
「あんたみたいな
「まぁな。なんだ、
「ほざけ。どっちにしても腹立つ顔してんのは変わんねえよ。ただ前のあんたより、仮面外した今の方が幾分かましってだけだ」
「そうか、それはよかった。俺としてもあれを演じ続けるのは苦痛だった」
そう言うとエレボスは腰に手をやってため息をつく。まぁ、あんたの声がアルに似てて非常にイライラするのは前と変わらねえけどな。
「んで、噂の邪神様が俺に何の用だ。まさか此処でおっ始める気か?」
俺は腰の刀に手をやって警戒を強める。
「いや、今日は芽吹いた
「...この距離なら俺はいつでもあんたを
「そうだな。だから俺もそれなりに用意はした」
エレボスがそう言うと、エレボスと俺の背後の路地に最初から潜んでいた闇派閥がぞろぞろ出てくる、出ないで姿を隠してる奴らも合わせてざっと30人ってとこか。面倒だなぁ。それに...
「どうも、久しぶりですねぇ」
「げっ、お前もいんのかよ」
前に18階層でやり合った赤銅髪の男が出てきて、エレボスの横に立つ。そいつの他にも信者ではない
「そう嫌そうな顔をしないでください。私の方は貴方に会えるのをずっと楽しみにしてたのですから」
「俺は全然会いたくねぇよ、どっか行ってくれ」
「あぁ、やはり貴方はつれませんねぇ...ともあれ、流石にこの人数、いくら貴方でもすんなりとはいかないでしょう」
そう言って、細目の男は余裕を感じさせる笑みを浮かべる。俺は刀にかけていた手を下ろす。
「流石、懸命な判断です」
「...お前なんか勘違いしてないか?」
「?」
確かにこの男は前戦ったときも本気で戦っていないようで底が知れない、だが────
「お前ら程度、3分あれば事足りるぞ?」
「ッ!!」
そう言った目の前の男から放たれた強烈な
「(こちらが思わず身震いしてしまう程の覇気ッ!これはあの
それはつまり目の前のレイという男は、自分で歯が立たないような相手の彼らと並ぶ存在だと理解し、ヴィトーは戦慄する。一方で、神エレボスはどこか歓喜しているような笑みを浮かべる。
「────ただ、流石に今の俺じゃあ、3分
俺が殺気を解くと、ヴィトーや他の闇派閥達は圧迫感から解放される。
「だからお前ら、今回は見逃してやる。じゃあな」
俺はそう言って、背を向ける。
「ッ!あまり舐めないで頂きたい!」
俺の言葉が癪にさわったのか、自身に背を向ける俺に腰の剣を抜こうとする。
だが────
「ッ!?」
「二度は言わねぇぞ?」
俺が刀を喉元に突き付けて、それを制止する。
「(反応出来なかった!いつの間に...!以前とは一線を画す速さ!この短期間で一体...!) くっ...」
ヴィトーは渋々といった様子で剣の柄から手を離す。俺もそれを確認して刀を鞘に納めて、今度こそホームに戻ろうと背を向ける。
「あぁ、待ってくれ。一つだけ聞かせてくれよ」
「......なんだよ?」
「お前にとって『正義』とは?」
「...またそれか」
「これで最後にするさ」
「...別に考え方は前と変わってねぇよ。『理想』の体現のための行動、それが俺の『正義』だ。ただ少し目指す『理想』が誰かじゃなくて、俺が願う『
俺がそう言うと、神エレボスは突然拍手を始めた。
「
「...」
俺はその言葉を最後に、やっと歩き始めると、背後にいた複数の気配は遠ざかっていった。
「......やけに発音よかったな、あの
────────────────────―
ホームに帰ると、俺が今日会った奴以外のファミリアのメンバーが飛びついてきて玄関でそのまま倒れた。美少女に抱きつかれてまさに天国だった!まぁ、その後
「レイが心配させたお詫びに一発殴っていいってよ!」
とか、ライラが言ったせいで全員から袋叩きにされるとかいう地獄も同時に味わったんですけどね!そんなこともあって俺は疲れた身体を癒そうと風呂に入っている。
「痛てて...あいつら本気で殴りやがって帰ってきたばっかの仲間にこの仕打ちはおかしくねぇか...」
まぁ、それだけ心配してくれてたってことか?それなら...いや危ない危ない。もう少しで許しちまうところだった...なんかこのままだとあいつ等に調教されそうじゃないか?怖っ
俺はそんな事を考えながら、浴槽を出て体を洗い始める。そのついでで自分のステイタスの確認を頭で行う。
「【魔力】以外はG、【魔力】はHか。まぁ、あんま魔法を使うほどの奴とやってないしな。にしても、これ【耐久】Gって、俺ほとんど攻撃食らってないんだが...これさっき殴られたせいとかじゃないよな?流石にないか、うん。多分あれだ、爆発で生き残ったからだな、そうに決まってる」
俺はランクアップしたのは、爆発の後だという事実からは見てみぬふりをした。
風呂から出た俺は置いていた自分の服を着て自室に向かう。その途中でアリーゼが一人廊下にある窓から外を眺めていた。夜の僅かな光に照らされているその姿は外側だけは美少女に見えなくもない。
「お前まだ起きてたのか。明日も巡回だろ、とっとと寝ろよ」
「あ、お風呂出たのね、レイ。うん、分かってるんだけど、ちょっと寝付けなくて」
「そうか。まぁ、眠くなったらさっさと寝ろよー」
俺はそのまま通り過ぎようとするが、
「ねぇ、レイ」
アリーゼに呼び止められて、後ろを向く。
「貴方に少し聞きたいことが──―」
────────────────────―
「ふわぁ...眠い」
あの後、アリーゼと少し話した後、自分の部屋に戻って寝て、いつも通りアリーゼの大声で叩き起こされた。そして、軽い朝食を取った後、俺は今、輝夜とライラとともに町の巡回に出ている。
「あ、そういえばリューは?」
「あの青二才なら、団長達と一緒にバベル周りの広場に敷かれたキャンプで補給物資の受け取りに行っている」
「今のあいつは、あんまり敵とやり合うような場所に行かせないほうがいいからな」
「なるほどね」
「だが、あのエルフは何処か焦りや不安などのそういう危うい感じは消えたように見えた。今は何かに真剣に悩んでいるといった様子だった」
「それでぼーっとしてやがる時もあるが、少なくともこの前みたいに気絶するなんてことはなさそうだな」
「へぇ、そっか。ならば良し」
俺の言葉でなにか少しでも変わったかなぁ、と思っていたが、いい方面に進んだようで安心した。
「その様子...またお前の仕業か」
「仕業って。その言い方だと俺なんか悪いことしたみたいじゃん」
「何をした?」
「大したことはしてねえよ。ちょっとお前らがいない間に、あいつの人生の視野を広げるアドバイスをな」
「あー、お前が玄関の前で気色悪い笑みを浮かべてたあの時か」
「気持ち悪いは余計だ。って、ここは...」
そうこうしていると、アリーゼ達が民から石を投げられたあの広場の近くに来ていた。
「げっ、嫌な場所に来ちまった」
「ここの住民と接触するのは得策ではないな。怪しいものがいなければ、すぐに離れて──―ん?」
「なんだあの人集り」
俺たちの視線の先には人々が順番に並んで、何かを受け取っていた。あ、配ってる人、女の子だ。
「あれ、ここでギルドの炊き出しなんてあったっけ?」
「いや、そんな予定はなかったはずだ」
「じゃあ、あれ自主的にやってやがんのか。すげえな。誰も彼も余裕がねえこんな状況でやるなんて」
「あぁ、すげえ...すげえ可愛い娘だ」
「フンッ!」
「ぐべっ!?!!?」
隣の輝夜から腹に鋭い肘打ちを食らって、痛みに悶絶して腹を抑えて蹲る。
「お前はそれしか考えられんのか、馬鹿者」
なんか、日に日に俺に対する暴力のキレが増してません?しかし、このご時世に矢面に立って炊き出しやるなんてすごいなぁ…ただ…
「妙だなぁ」
「あ?何がだ?」
「可愛い子なのに、なんか違和感があるというか...なんか
まじで何だこの感覚...今までで初めてだぞ。
「お前の好みなんぞ知らん。それよりもう行くぞ」
そういうのじゃないんだけどなぁ、と思いながら輝夜たちについて去ろうとした瞬間────
「無駄だ、無駄だぁ!!炊き出しなんてしても、意味ねえんだよぉ!!」
「「「!!」」」
さっきの炊き出しの場所から男の叫び声が聞こえてきて、思わず足を止める。
「どうせ俺たちは死ぬ!餓死しなくたって、闇派閥共に殺されて終わりだ!!」
「....そんなこと、ないと思います。そんなことにならないように今、冒険者様たちが...」
さっきの薄鈍色の髪をした少女がその男を宥めようとしているが、男は止まらず、人目も憚らず叫び続ける。
「......こんなんなら、石投げられる方がまだマシだったな」
「....」
ライラと輝夜も男とその周りの人々を見て暗い表情を浮かべる。
「終わりだよ、もう...冒険者もオラリオも、全部!!」
「う〜ん...
じゃあ、みんなで死んじゃいましょうか?」
「「は?」」
「...まじか」
女の子の衝撃の発言に全員が唖然とする。さっきまで叫んでいた男に至っては、目の前で口をあんぐりとさせて硬直している。
「死んでしまえば、苦しみから解放されて楽になれますもんね!みなさーん!この方と一緒に死にたい人はいっらしゃいませんかー?」
「は?え?は?」
「............なんだあの女、やべぇ」
「あぁ....」
流石の二人でも、笑顔で死にましょう発言するのには動揺を禁じ得ないらしい。かくいう俺も今まで生きてきたなかでもトップクラスにやべえ女が出て来て困惑している。
「お、俺は何も、死にたいわけじゃ....」
「はい、知ってます。ごめんなさい、意地悪して。でも、それは冒険者様だって同じです。誰も死なせたくはない」
「!!」
「冒険者様達は何時だって命懸けで私たちを守ってくれています。だから、責めないであげてください。あの方達を一番責めているのは、民を守ることの出来なかったあの方達自身なのですから」
その言葉に男は思わず喉をつまらせる。
「...それでも、守れないなら、最初から『守ってみせる』なんて期待させるなよ!口だけの『正義』なんて、ただの自己満足だろ!あんな奴等を『
「『偽善者』。結構じゃないですか」
「え...?」
「誰も自分で一杯一杯な中で、誰かの力のなりたいと思う。そんな『偽善』はとても尊いものだと、私は思います。同時に私はそんな『偽善者』に成れる人こそ、
「!!」
「だから、皆さんも戦ってみませんか?『英雄』になれなくても、『英雄』の力になれるように」
その言葉でさっきの男のみならず周りの人も全員思い詰めたような表情で沈黙する。
「......おい、『英雄』だってよ」
「よせ。体がむず痒くなる。それは私にとってもっとも縁のない言葉だ」
「にしても、あのヒューマンちゃん、すげえな。叫ぶおっさんに全然物怖じしねえで、自分の意見を口にできるなんてよ」
「....あぁ、そうだな。本当に
まじで
「さて、そろそろ巡回を再開して────」
俺達がそう歩き出した瞬間…周辺の瓦礫が突然爆発した。
「「「!?」」」
「都市内地だからといって護衛もつけずに、油断しきった愚かな民衆よ!貴様らの断末魔をもって、冒険者共にさらなる絶望を与えてやろう!!」
爆発と共に現れた闇派閥達は足早に逃げて行く周辺の住民達へと襲いかかる。
「皆さん、逃げてくださいっ!」
「貴様も死ねぇぇ!!」
「!!」
さっきの娘がどうやら、他の住民の避難を優先していたようで、逃げ遅れたその娘に闇派閥が襲いかかる。だが、
「寝てろ」
「がッッ!?」
俺は闇派閥の手がかかる前にそいつを手早く気絶させる。輝夜とライラも襲われている他の民間人を次々に助けていく。俺は少女の周囲の敵を粗方片付けてから、少女を抱えて離れた場所まで運んでから降ろした。その時、その薄鈍色髪の少女が俺を見つめてくる。
「あなたは...」
「なに...『英雄』になりたい一人の馬鹿な『偽善者』だよ」