「よいしょっと」
俺は気絶させた闇派閥を、爆弾が付いていないか確認した後、縛り上げる。この辺りの襲撃は粗方収まったが、他のところから散発的な戦闘音が聞こえてきて、その場を輝夜達に任せた俺は、ボロボロになった街道を一人駆ける。
「ん?あれは...!」
闇派閥の集団に見たことある人が囲まれているのを視認し、地面を強く蹴って素早く接近する。
「ぐぁっ!?」
すれ違いざまに間にいた闇派閥を二、三人吹き飛ばし、中央の
「あ、貴方は...オーガさん?」
「おう。久し振り、
俺が今抱えてる銀髪のこの子は【ディアンケヒト・ファミリア】所属の《アミッド・テアサナーレ》ちゃん。
なんと、この子まだ12歳。そんな歳の子が冒険者やってる時点で凄いし、しかもかなり優秀な
俺がポーション買ったりするのはいつもこの子のファミリアだ。
余談だが、この子かなりの美少女で、今でこそ少し幼さがあるが、俺の予想では6、7年したら大人な美人さんになると確信している。
「アミッドちゃん、何で一人でいんの?仲間は?」
「それが先程、爆発での住居の倒壊で分断されてしまって...」
「なるほどね...少し待っててな」
俺はアミッドちゃんを地面に下ろして、さっきの闇派閥共と向かい合う。
「黒い髪で青き瞳を持ち、極東の服に極東の武器を携えた男...!貴様があの方の言った『切り札』か!」
いや、切り札って…なんか御大層な渾名がつけられてるなぁ…まぁいいや。
「それよりお前ら、この聖女さんは今忙しいんだ...悪いがすぐ終わらせるぞ?」
地を強く蹴り出し一瞬にして闇派閥の目の前に接近。相手の顔が驚愕染まっているのも束の間、一番前の二人の頭を掴んで地面に叩きつける。
「ッ!!?き、貴様ッ!」
仲間が一瞬でやられ、激昂した奴等が俺に向かってくる。
一人は攻撃を屈んで躱してから掌底を腹に打ち込み、もう一人はその姿勢のまま刀の柄に手を置き、鞘を着けたまま引き抜いて、そのまま顎に向かって振り上げる。
その後ろからも三人来るが、先頭の奴の足を払い、バランスを崩させてから、後ろ二人も巻き込んでまとめて突き飛ばす。
「なっ!?こいつ...!囲め!数で仕留めろ!!」
その言葉に合わせて残りの敵が周囲から一斉に襲ってくる。
俺は全員がある程度近づいたタイミングで跳躍し、刀を両手で持って頭上に構える。
「【此ノ身に鬼ノ万力を】」
【魔法】によって身体能力を強化してから、落下すると同時に地面に刀を振り下ろす。その瞬間、凄まじい衝撃波が発生すると、全ての闇派閥を吹き飛ばし、建物にぶつかるなどして気絶させる。
それを確認してから【魔法】を解除し、アミッドちゃんの側に戻る。
「...すごいですね」
「まぁね...どう、惚れた?」
「そう、ですね。とても鮮やかな手際で、思わず見惚れてました」
「うーん...そうじゃないんだよなぁ」
「?」
アミッドちゃんは何のことか分からないっといった表情で(ほぼ無表情だけど)首を傾げる。
そういう表情も可愛いものだ。
「まぁいいや。それより、急ぐんだろ?」
「はい」
「じゃあ、少し失礼」
「え?」
俺はさっきと同じ要領で、アミッドちゃんの肩と膝の関節を持って身体の前で抱える。
「俺がこのまま運んで、怪我人を見かけたらアミッドちゃんを下ろすってことで」
「......これは、少し恥ずかしいのですが」
いつも幼いのにほぼ無表情のアミッドちゃんが、珍しくちょっと頬を赤らめている。
こういうところは年相応だなぁ…何か少し安心。
「生憎と、女性運ぶ時にこれ以外の運び方を俺は知らないもんで。悪いな」
「......わかりました」
アミッドちゃんは渋々といった様子だか納得してくれた。まだ顔少し赤いけど。
「じゃあ、ちょっと見渡せるとこに行くか」
俺は建物の間を飛び跳ねて、屋根まで登る。
「オーガさん、あちらに数人倒れている方達がいます!」
「了解!しっかり捕まっといてな!」
俺はその場所に向かうため、次の建物に跳び移った。
────────────────────
「───はい。これで傷は全て治療できたと思います」
アミッドちゃんが離れると、その人は自分の身体の状態を確かめてから、感謝を伝えると、他の仲間に連れられて行ってしまう。
「では、この付近の方の治療は終わりましたので次のところに行きましょう」
「あいよ」
俺はアミッドちゃんを同じように抱えて走り出す。この作業を繰り返してもう5、6回。未だに辺りからは戦っている音や誰かの叫び声が聞こえ続けている。
「────しかし、大丈夫か?アミッドちゃんさっきからずっと働きっぱなしだけど、少し休憩するか?」
「いいえ、大丈夫です。重症な方はいらっしゃらなかったので、ポーションでほとんど済んで
こちらを見つめる瞳に映るのは、とても12歳の少女がするとは思えない強い覚悟と決意。
これだけ強い意志があるのは凄いと思う反面、こんな女の子でも戦わなきゃいけないこのご時世を思うと…色々複雑な気持ちだ。
よく考えたら、アイズはあの歳でレベル3なのか...やっぱりあいつかなり規格外だなぁ…
そうして走っていると、視線の先でこちらにギルド職員の服装をした人が切迫した表情で手を振っているのが確認できた。俺は抱えているアミッドちゃんに一声掛けてから、加速してそこに向かう。
「やはりっ!そちらの方は『聖女』殿ですね!こちらで爆発による被害を受けた方達がいるんです!治療をお願いします!」
「私はそのような大層な二つ名で呼ばれるほどの者ではないのですが...分かりました。案内してください」
ありがとうございます、と感謝を告げて、俺たちを連れて歩き始める。歩いた先には街道の端に結構な人数の怪我人が横たわっていて、しかもその殆どが重傷者で、ざっと数えても十五人はいる。
「これはポーションでは埒が明きません。皆さんを一ヶ所に集めてください。一斉に治療を行います」
その指示に従い、ギルド職員や俺を含め動ける冒険者達が怪我人をアミッドちゃんのところまで運ぶ。
「【癒しの滴、光の涙、永久の聖域】」
アミッドちゃんが目を瞑り詠唱を始めると、彼女を中心に魔法陣が形成される。
「【
【癒しの
彼女が言葉を紡ぐ度に、その魔法陣に膨大な魔力が収束していく。
【傷の埋葬、病の
【
詠唱が完了するとともに、彼女は目を開き、
「【ディア・フラーテル】」
その魔法の真名を口にすると、魔法陣から光が溢れ出し、その光は周りの人達を包み始める。包み込んだ光が、爆弾による傷を塞ぎ、金属毒に侵された身体を癒やし、怪我人全員を快復させる。
「おぉ...すげえなこりゃ」
魔法陣の範囲はざっと5Mってとこか?その範囲の全員をどんな状態でも例外なく
こんなの見せられたらそりゃ『聖女』って言われるわ。今も「聖女様ぁ...!」ってなんか涙流しながら感謝してる人いるし。
それより…
「なんでこんなとこにいるんですか、アストレア様...」
俺は俺の横にいつの間にか立っていた、我らが主神様に問いかける。
「あら、眷属の貴方達が頑張っているのよ?私だけホームで閉じこもってるなんてできないわ」
「いや、そんな満面の笑みで言われましても…貴女がやられるとアリーゼたちが困ると思うのですが…アストレア様ってやっぱりちょっとお転婆ですよね」
なんかこう見た目のお淑やかそうな感じとは裏腹にわりかしアグレッシブなんだよなこの神様。多分、本質的に座して待つってことが出来ないのだろう。
「そういうギャップがあるのは嫌いかしら?」
「いえ、むしろそそられます」
あ、やべ。つい口が滑った。
「ふふっ。レイにそう言ってもらえると、嬉しいわ」
「......あんまそういう事言うと、勘違いしちゃいますよ?俺」
「勘違いしてくれてもいいのよ?」
唇にそっと人差し指を添えて、俺にウィンクする。清楚なイメージの強いアストレア様がやると、一層蠱惑的なその姿に俺は思わず胸を押さえる。
くっ!この悪魔!とことん純情な俺の心を弄んでやがる!そんな、悪戯成功!みたいな子供っぽい笑みを浮かべてッ!可愛いなチクショウッ!
「.....何をしているのですか?」
俺が心のなかで葛藤していると、怪我人の対応が終わったであろうアミッドちゃんがこちらをジト目で睨んでいる。
まずいっ!このままではアミッドちゃんの中の俺の頼れるお兄さん像が崩れてしまう!
「ん゛んっ!...なんでもないよ?」
「今更取り繕っても遅い気がするけれど...」
うるさいですよ、アストレア様。誰のせいだと思ってるんですか。
「はぁ....今回は手伝ってくださりありがとうございます」
ため息を吐いた後、アミッドちゃんは俺にそう言って軽く頭を下げる。
「レイさんがいなかったら、治療が間に合わなかったかもしれません。本当にありがとうございます」
「本当に律儀だなぁ...別に気にしなくていいさ。可愛い女の子が頑張ろうとしてんのを手伝うのは男として当然だからな」
「ふふっ。なんですか、それ。本当に面白い方ですね」
俺の言葉に顔を上げた彼女はいつものような無表情ではなく、あどけない少女の笑顔をしていた。
いや、うん。マジで絶対超絶美人さんになるわ。絶対この子目的でポーションとか買いに来る客増えるって。なんなら俺が話に行くわ。
「レイ、貴女またそんな可愛い子と仲良くなって...アリーゼ達に怒られちゃうわよ?」
「確かに...こんなところで自分だけ女の子と油売ってたらキレられそうだ」
「うーん...そこではないのだけれど...」
なにやら呆れたような様子で、額に手をやりアストレア様が唸っている。
そうやって会話をした後、そろそろ警備に戻ろうとしたその時、
「ッッ!?」
離れたところから、けたたましい音が響く、その方向を見ると、激しい土煙が上がっているのが確認できた。
「何だ今の!?また爆弾か!?」
「でも、さっきから聞こえて音より激しい気が...」
「じゃあ、一体何が...?」
他の冒険者も今の謎の轟音に驚き、その正体が何なのか、困惑した様子でみんなが話している。そんな中、俺だけはその正体に見当がついた。
「(今の
「──行ってきなさい」
俺が言葉を発する前にアストレア様は許諾が返ってきて、少し面食らう。
「言っても止まらないのでしょう。だから...必ず帰ってきなさい」
その目から先程のようなお茶目な様子は消え、毅然とした、当に神と呼ぶにふさわしい面持ちである。
「──了解!」
俺はアミッドちゃんにアストレア様を頼むよう言ってから、走り始める。
「少し急ぐか」
俺は紅い雷光を纏い加速する。視界に入った敵は足を止めること無く、すれ違いざまに無力化する。
「さっきの...確かこっちの方向だったな」
俺が記憶を頼りに走り続けていると、視界の端に
うぉぉぉ!?今にもとどめを刺す雰囲気ぃぃぃ!?
俺はそれを認識した瞬間、自分の出せる最速でそこに向かう。
間に合えっ!!
「「ッ!!?」」
「む?」
俺は横から二人をかっさらって、止まらずにそのまま十数M先まで駆け抜けた。
「二人共大丈夫か...って」
ん?なにやら両手に柔らかい感触が...
「ッ!!お前、何処を触ってんだ!?」
「ッ!!お前、何処を触っている!?」
「ゴフゥッ!!」
おっと、どうやら勢い余って二人の尻を触っていたらしい。俺は毎度のように地面に叩きつけられながら告げる。
「ご、ごちそうさま、でした」
「「死ねッッ!!」」
追い打ち止めてくれぇ!!
「...お前、突然現れたと思ったら、どういうつもりだ...?」
俺が二人にいじめられていると、頭のおかしいモノを見る目で灰髪の女性──―アルフィアが声を掛けてくる。
「いやぁ、俺もかっこよく助け出そうと思ったんだけどね。うまくいかないもんだ」
俺が二人に蹴るのをやめてもらって、服についた砂を払いながら立ち上がり二人の前に出て、アルフィアと向かい合う。
というかよく見ると、近くにあの邪神(笑)と赤髪薄目君もいるじゃん。暇なのか?
「暇ではないさ。今はヴィトーと一緒に用を足しに来ただけだ」
サラッと人の心読んでんじゃねえよ。あと、そんな理由で黒幕が出てくんな。
「じゃあ、ここでさよなら....ってわけにはいかないか」
「当然だろう?」
「デスヨネー」
さっきから明らかに俺だけは逃がさんって意思がビシビシ伝わってくるわ。だけど、逆に他の二人に大しての関心は薄れたような気がする。
「……仕方ない。二人は先帰っててくれ」
「なっ、お前一人でやる気か!?」
「無茶だ。お前が強いのは知っているが、奴はかつての最強派閥のレベル7、一人で太刀打ちできる相手ではっ!」
「【目覚めよ】」
その一節で、俺の身体に眠る精霊達の力が解放される。
「「は?」」
「これでも足りない?」
俺は後ろの二人に不敵な笑みで問いかける。
「青い、炎...!」
「赤き稲妻...」
大方この二人も、これで察しがついただろ。
「これが…!」
ヴィトーは目を見開いて驚き、アルフィアも少し目を開くが、神エレボスだけ何故か嬉しそうに笑みを浮かべる。
やっぱりあの神、変だよ。
「これで分かっただろ?俺は大丈夫だから。それにその身体…特に輝夜はもう歩くのもやっとだろ?ここは任せて二人は行ってくれ」
「.....死ぬなよ?」
「当然!」
かなり悩んだ様子だったが、渋々といった感じで輝夜をライラが支えて歩いていく。
「────手、出さないでくれんのね」
「抜かせ。私が何かしようとしたら、即座に邪魔しようとしただろうに」
「まぁね...にしても、あの時のミステリアスなお姉さんが本当に敵なんて、信じられないわー」
「そうか?私は貴様とあの時会ったときから、お前と相対する時が来ると確信していたぞ」
「これはこれは、まさか貴方から再会を望まれてたなんて、嬉しい限りだねぇ」
「何処までいっても、お前は口が減らんな」
「それが売りなんでね」
このまま、くだらない雑談するだけで終わってほしいなぁ…
「ヴィトー、俺たちは離れておくぞ」
「そうですね。あの方達の側にいたら、生命がいくらあっても足りません」
神エレボスとヴィトーの二人が離れたことで、俺とアルフィアの間には誰も近づけないほどの張り詰めた緊張が走る。
「────【
その静寂を破ったのはアルフィアの魔法。超短文詠唱で放たれる不可視の音の弾丸を、俺は────
「【拒め】」
自身の周りから蒼炎を目の前に収束させ、まるで《盾》のように展開する。その瞬間、激しい魔力の激突が起こり、炎が少し揺らぐが、やがてその衝撃は収まり、最終的に俺の身体に傷は付かなかった。
「!...ほう」
「あの魔法を、防いだ....!」
そこから、盾となっていた炎が徐々に流動し、砲弾の形を成していき…
「【放て】」
俺は、生み出した炎の弾丸をアルフィアに射出する。圧縮されたそれは外気の影響を受けることなく、標的に向かって直進。
「【
そして、アルフィアが手を向け、魔法を唱えた瞬間に霧散する。
「やっぱり意味ねえかぁ...まぁでも、あの二人をあんだけ傷付けられちゃ、綺麗なお姉さんとは言っても、流石に少し痛い目見てもらうぜ?」
「やってみろ」
言い終わると同時に、俺とアルフィアは互いに掌を相手に向けて、魔力を放出し、ぶつけ合う。
「あぁ!見せてくれ、レイ!お前が描く『英雄』の姿をっ!!」
これ、ヒロイン複数とハーレム、どっち付ければええんやろ