先導の英雄   作:無銘のヲタク

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『正義』の答え

 

アルフィアが去って、エレボスと二人になった俺は「少し歩こう」と言ったこいつの言葉に従って、エレボスの歩き出した後ろを少し離れて歩き始めた。

 

「レイお前、あのアルフィアの魔法食らっても結構大丈夫そうじゃないか」

「こんなボロボロになってんのに、あんたの目は節穴か」

「だが、お前の身体の傷自体は殆ど消えてる。それも『精霊』の力か?」

「傷だけな。今にも痛みとか感覚のズレで倒れそうだわ。あー帰ってアストレア様の膝で寝てぇな...」

「はははっ。それは最高の眠りが出来そうだな。俺も是非堪能したいな」

 

「お前はあの【殺帝】(凶暴女)女王(アルフィア)にやってもらえよ」

「そんなことしたら、間違いなく首が飛ぶ。あと俺は強気な女はあまり好みじゃない。儚くか弱い女が寝台(ベッド)の上で俺の手によって狂い乱れる姿...最高だろう?」

「知らねえよ、変神(へんじん)の趣向に共感できるか」

「なら、お前はどういう女がタイプだ?」

 

 

「悪いが…それを教えたのは俺の親友と売れない()()()の二人だけだ。後にも先にもな。そいつ等以外に教えるつもりもねえよ」

 

「それは残念だ...話は変わるがアルフィアの()()は何色だった?」

「.............黒」

「おお、やっぱりか。アルフィアは絶対黒だと確信していた」

「ああいう大人の女性が乙女のような純白を履いてたりしてくれないかなぁ、とか思ってたんだけどな」

「お前も中々に変態じゃないか....」

 

こちらに振り返って、話しかけてくるエレボスと軽口を言い合いながら歩みを進めると、目の前に古びた建物が見えてくる。

 

外から見た作り的におそらく前は教会だったのか。

 

というのも一階に二つ、二階に少し大きさの違う一つの窓がついているが、その裏についていたであろうステンドグラスは罅割れ、崩れ去っており、おまけに建物の左右から生えた植物が建物を覆い隠そうと侵食し、今現在、教会として使われているとはとてもじゃないが思えなかった。

 

エレボスはその教会の今にも取れて倒れそうな扉を開き、俺はそのエレボスに続いて中に入る。そこには教職者が説教を行うための講壇ぐらいしかそれらしいものは残っておらず、信者のための椅子、いわゆるチャーチチェアは一つもなく、床の木板が朽ちて剥がれ、下の土台がむき出しになっているところがちらほら見えた。

 

「なんでこんなとこ選んだ?」

「ここからなら、あれがより近くで見れるだろう?」

 

そう言ってエレボスが目をやった先にはさっきの割れた窓があり、その先にはさっきよりもはっきり暴動を起こす闇派閥の奴らが確認できた。

 

「....悪趣味だな」

「『悪』とは元来そういうものだ。じゃあ、【英雄】。すこし(おれ)の余興に付き合ってもらおう」

 

そんな中、エレボスは奥の講壇にドカッと座り、俺を見定める。

 

「そもそも俺は最初、ここに連れてくるのはリオンにしようと思ってた。アレはアストレア・ファミリア(お前等)の中で一番純粋で潔癖で無垢。紛れもない『正義の卵』だ。そのリオンが『絶対の悪』を提示され、いかなる答えを出すのか。後学のためにも俺はそれを知りたかった」

「ほーん。じゃあなんで俺にした?」

 

いつの間にそんなことになってたんだよ。俺この神になんかしましたっけ?

 

「お前がかつて俺に述べた『正義』。あれが俺の考える『正義の定義』に限りなく近いものだった。だから興味が湧いた。下界の子供であるにも関わらず、神である俺と同じものを見出すお前に...」

「うえぇ...あの時のかぁ。こんなことになるなら真面目に答えなきゃよかった。でも、俺がちゃんと答えなかったらリューが来てたのか…じゃあ仕方ない。あんたみたいなのとリューを一緒にしたら何されるかたまったもんじゃない」

「おいおい、随分信用されてないな」

「弱った女の子が好物の変態の何を信用しろと?」

「確かにそうだ」

 

それなり変態である自覚あんのな。なんか少し安心したわ。いや自覚のある変態のほうが質悪いか。

 

「じゃあ、始めるか。最初にお前の『正義』は...おっと、これはもうこの前聞いたな」

「毎回思ってたんだけど。『絶対悪』を名乗るアンタが、何故『正義』を問う?」

「これは神聖な儀式だ。公平な問答でもある。何より、俺が下界の行く末を占っておきたい」

 

俺の質問にエレボスはそう答える。

 

「今のオラリオは世界の『縮図』だ。男神(ゼウス)女神(ヘラ)が『黒竜』に敗れ、下界そのものに混沌が渦巻いている」

 

『黒竜』...ねぇ。

 

「絶望による自暴自棄、快楽のための暴力、欲望による略奪......これらのことが今も、どこかで、必ず起こっている。

 

 光に照らされるか、闇に染まるか。世界こそが二者択一に問われている。

 

 そして俺は断然、闇に染まる方を支持しているわけだが....そうなると気になるのは『正義』の動向だ。

 

 この時代でなお、『正義』は真なる答えを持ち、反逆の剣を掲げてくるのか、否か────それを確かめておきたい」

 

「なるほどねぇ....『正義』を打ちのめすために『絶対の正義』とは何かを知りたいわけか」

「ただただ『気持ちのいいこと』を突き詰めるのが『悪』なら『正義』は何なのかを知りたい。そういう純粋な理由もあるがな。どうだ、理解してもらえたか?」

「いや、分かりはしたけど、理解は出来ないし、する気もねえよ。というか理解されないってあんたも分かってんだろ?だから衝突するんだ」

「あぁ...本当にお前は素晴らしい。やはりお前を選んで正解だった」

「そりゃどうも」

 

あんた褒められても、欠片も嬉しくねえよ。

 

俺は皮肉を込めて返事をする。

 

「では次は、ちょっとした『余興』をしよう。お前は『トロッコの問題』を知っているか?」

「『トロッコ』....?」

 

俺が知らないと伝えると、エレボスはその内容を淡々と話し始める。

 

「線路を走っていた貨車が、突如制御不能になった。このままでは前方で作業している五人の男が轢き殺される。彼等を救うには、分岐器を操り貨車の進路を変えるしかない」

 

だが、とエレボスは講壇から降りると、そのまま窓の方の傍の壁によりかかりながら外の光景に目を向ける。

 

「切り替えられる先の線路には....そうだな、『()』にしよう」

 

外を見て何かを確認してから、エレボスは俺にそう言った。

 

「男達と別の一人の『女』が、もうひとりの線路で作業していた。この場合、分岐器を切り替えるか、否か、どちらが『正しい』?」

「俺を呼び止めてまで聞きたかったことがその謎掛けかよ」

「そう言ってくれるなよ。これは思考実験の一つでな。下界の住民はいつも面白いことを考える。単純だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

は?今の状況?何を言って...

 

「分岐器を切り替えず、『男達』を見殺しにするか。あるいは切り替えて、『女』を自分の手で殺すか。多を殺し、個を救うか。()()を助け、『()』を犠牲にするか」

「....っ!おい、あんたまさか...!」

 

俺は慌てて、窓の外の闇派閥が襲撃している様子を目を見開いて観察する。そして、その場所には闇派閥から民衆を守り、身体に傷を負う女性、アスフィさんの姿が見えた。

 

「....ッ!!」

「お前がここから飛び出し、今にも死にそうなあの『女』を救おうとするなら────民衆はすべて殺す」

 

エレボスはどこまでも不気味なその笑みを浮かべながら、楽しいと思っているとすら感じる、いや実際に感じているのだろう、そんな様子で言葉を紡ぐ。

 

「絶対だ、我が真名に誓い、ありとあらゆる手段、軍勢、殺意を以て鏖殺を遂げる。

そしてお前が教会(ここ)に残り、『女』を自分の意志で見殺しにしたのなら────民衆は全て救い出そう。

嘘はない。我が魂を賭して、あらゆる暴力と蹂躙を終わらせる。

『女』の命を代価に、神の宣言をもって兵を退かせよう。アルフィアを向かわせることもしない。決して誰にも邪魔はさせないことを約束する」

 

これを聞いた人は皆、そんな言葉誰が信じられるか、邪神の言葉に耳を貸すものか、と叫ぶだろう。

だが俺には分かる。こいつは本気でやる。

俺が今ここに残れば本当に今蛮行をしている闇派閥共を全て撤退させるだろう。邪神(こいつ)はそういう風にイカれてやがる。

 

「........」

黙り(だんまり)か?もし、沈黙がお前の答えというのなら、それは『悪』だ。この俺が保証しよう。救える手段がありながら、誰をも見捨てるという選択肢は紛れもない『悪』。悪党(おれたち)と同じ最悪の『殺戮者』だ」

 

確かにそうだ。このまま何も選ばない、それは目の前の存在の死は私の責任じゃないと、自分の決断が人を殺した事実から目を背けることになる。じゃあどうするか...

 

 

 

「さぁ選べよ『英雄』。『百』を切り、『一』を救うか、『一』を切り、『百』を救うか。お前の『理想』は一体どっちだ?かつてこの俺に『正義』とは『理想の実現のための道標』だと!そう言いのけたお前の選択(りそう)を!この『絶対悪』(おれ)に示してみせろ!!」

 

 

 

 

「.............ああ、そうだな俺は」

 

 

手を広げ、高らかに説く、エレボスに対して俺は顔を上げ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トロッコをぶっ壊す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不敵に笑って、そう言ってやった。

 

「............は?」

 

俺の答えを聞いたエレボスは今までにないほど驚いた表情で固まっている。ようやくその気色悪い笑みが崩れたな?ざまぁみろ。

 

「んだよ。お前が答えろって言ったから答えてやったのに今度はそっちが黙りか?」

 

俺がそう言うと、エレボスはハッと気づいたようにして、一度気を取り直すように咳をする。

 

「俺はどれか選べと言ったはずだが?」

「選んださ。自分で第三の選択肢ってやつだ。俺最初に言わなかったか?『定められた理不尽な選択を蹴り飛ばす』って。お前ら神が勝手に決めた選択肢の中からわざわざご丁寧に選んでやる義理はねえよ」

「....」

「分岐器を切り替えようが切り替えまいが、どっちにしても誰かが犠牲なるなら、トロッコ壊してみんな助ける」

 

もしトロッコに人が乗ってんなら、体張って止める。

 

 

「大体『悪』に従って答え、『悪』に身を任せるなんてことしちゃ駄目だろ。

 

『悪』が用意した、障害も、絶望も、理不尽も、全部ぶっ潰して俺自身の手で、最高の未来を手に入れる。

 

それが俺たち『正義』の在り方なもんでね」

 

 

 

 

 

「........は、はは、ははははっ!!そうか、そうだな!正解ッ、大正解だ、レイ!!『悪』に結末を委ねず、自身の手で困難を超える!それこそが『正義』の在り方だ!!」

 

 

 

 

 

少し俯いて黙った後に、自分の目に手を被せて笑い始める。それはさっきまでの不気味な笑みではなく、ただ面白いことがあったから腹の底から笑う、そういう純粋なものだった。

 

「しかし、悪かった。俺は自分が認めた英雄を(おれ)自身の考えが及ぶ範疇でしか、考えようとしなかった!それが間違いだった。

 

お前達『英雄』はいつだって他者が考えもしない行動をして、試練を自らの手で乗り越え、『奇跡』を起こしてきた。

 

そんな奴等を神ごときの手中に収めようとするなんて、全くもって烏滸がましいことだった!!」

 

そうだよ、英雄なんてどいつもこいつも一癖も二癖もあるある奴ばっかなんだ。神が制御できるやつなんていねえっつの。

 

「だが、レイ。お前はこの状況でどうやって全員助けるつもりだ?確かにお前の速さなら、多くの民を助けることも可能だろう。だが、それでも全てを守るには今のお前ではまだ足りないだろう」

「それはお前あれだよ、足りないところは()()の力を借りるさ」

「なに...?...っ」

 

その瞬間、窓の外に映っていた都市の壁が激しい音とともに崩れる。そして、そこから現われた、小人族(パルゥム)とヒューマンの二人、そして長い金髪を風にたなびかせるエルフという、見覚えのある後ろ姿に俺はを思わず笑みを浮かべる。

 

「あれは...!」

 

 

「さぁ、いよいよ『正義の復活』だな」

 

 

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