ザルドの放つ大剣と俺の刀が真っ向から衝突する。
凄まじい衝撃が腕を伝い、骨が軋む。力で強引に押し切られそうになったその瞬間、咄嗟に【鬼神召還】を唱えようとする。
「【此ノ身に鬼ノ────】……っ?」
魔法を紡ごうとした刹那、警告音のような鋭いノイズが脳内を走り、視界に無機質な文字が浮かび上がる。
『残り発動可能回数二回』?……なるほど。力を貸すのはここまでってわけか?
俺は一時、魔法の発動を中断し、素の状態でザルドの攻撃をなんとか捌く。
なんだよ。どうせなら最後まで手伝ってくれてもいいだろうによぉ。
しかし、残り二回か…今この人これ無しで相手取れたりしないか?
考えている間も、ザルドの剣にはさらなる重圧が加わっていく。再び鍔迫り合いになれば、俺は完全に力負けし始めていく。
「軽いな」
短く、切り捨てるような一言。
その言葉と共に俺の体ごと強引に弾き飛ばされ、体勢が崩れる。そこへザルドの横薙ぎの一閃が迫る。俺は死に物狂いで刀を盾にした──────だが。
「うおぉっ!!?」
防御など関係ないとばかりに、「質量」そのもので殴り飛ばされた。
身体が浮き、真横の壁まで吹き飛ぶ。咄嗟に背面に炎を噴射して緩衝材にしたが、刀から伝わった衝撃に脳が揺れる。
うーん…無理だな。この魔法使わんと、今の俺じゃ力負けしすぎて、技に持ち込むことも出来ねえ。
「「小僧!!(レイ!!)」」
俺が弾き飛ばされたのを見て、シャクティとガレスさんが左右から同時にザルドを強襲する。だが、ザルドは一瞥をくれただけで、それを涼しい顔で受け止めた。
「邪魔だ、今お前達に構ってる暇はない」
「ぬんっ!?」
「くっ…!!」
ザルドが大剣を一振りした。ただそれだけで、二人の身体は木の葉のように吹き飛ばされる。なんとか受け身を取り、即座に追撃へ移る二人だったが、その差は歴然だった。
二人がかりだからやられずにいるが、シャクティは言わずもがな、重装のガレスさんでさえ、一発でもまともに喰らえば致命傷になりかねないザルドの攻撃だ。防御を固めていても、着実にダメージが蓄積していく。
よし。じゃあ、あともう少しだけ力貸してもらうぞ!
「【此ノ身に鬼ノ万力を】」
詠唱とともに、さっき以上の力が身体の底から湧き上がってくるのを感じる。
「
発動すると同時に地面を強く蹴って、瞬時にザルドの頭上へと移動する。
「!!来たか...!」
ザルドは少し驚いた表情を見せながらも、兜から覗く口元に獰猛な笑みを浮かべた。纏わりついていた二人を強引に引き剥がし、大剣で俺の刀を受け止める。
その瞬間、金属同士の衝突によって、さっき以上の勢いで火花が爆ぜた。
俺がそこから一気に押し込もうと力を込めると、それに呼応するように、身体を纏う赤雷が一層激しく迸る。
「ぬッ!」
ザルドは押し込まれるのを感じたのか、さっきより数段強い力で俺の刀を振り払った。
俺は空中で身をよじって着地し、間髪入れずに接近。再び、ザルドとの激しい斬り合いが始まる。
凄まじい力で振るわれる大剣を、俺が捌き、流す。その構図自体は変わらない。だが、先程のように一方的ではなく、対等な強者同士の戦いへと変貌していた。
「ザルドと互角...!?」
「赤い雷…!お前まさか…!?」
唖然とする二人を余所に、俺は一瞬の隙を見極める。振り下ろされた大剣に対し、俺は刀を沿わせるように構えた。
激しい火花を上げながら大剣を滑らせ、その剣先を俺の真横の地面へと突き刺させる。
そのまま刀をザルドの首元へ向け振るったが、彼は首を横に倒して回避。刃は頬を掠めるに留まった。
そのまま返す刀で再度切りかかろうとすると、ザルドが地面から引き抜いた大剣を振り上げる。
それを察知した俺は、わざと刀を手放した。
「!!」
当然のように、弾かれた俺の刀は宙に投げ出される。
だが、刀を弾くために力を込めて剣を大きく振ったせいで、ザルドの胴体は無防備になった。俺はそこへ向け、右拳を引き絞って構える。
「【吹き上がれ】!」
詠唱によって、腕から猛烈な炎が一気に吹き出した。その推進力で加速した一撃は、ザルドの重装甲と衝突し、轟音と共に彼の巨体を大きく後退させる。
「ぐッ!!(俺の装備の上からでもこの威力かっ!)」
「痛って!やっぱり装備着てる奴殴るもんじゃねぇな...」
俺は回転しながら落下してくる刀を右手でキャッチし、流れるような動作で横に構え直した。
「【纏い】、【切り裂け】!」
刀身に蒼炎を宿し、横一閃。生まれた炎の飛刃はザルドに衝突し、激しく爆発した。
「やったか!?」
「あ、シャクティ、それ────」
フラグだ、と言いかけた瞬間、剣圧によって土煙が薙ぎ払われた。
中から現れたのは、鎧からわずかに煙を上げながらも、あまり堪えた様子もないザルドの姿だった。
「あんま効いてねえ…いくらなんでも頑丈すぎだろ」
「小僧、そいつのスキルは
少し離れた所でなんとか立ち上がったガレスさんの言葉に、俺とシャクティは目を見開いた。
え、この人、ダンジョンのモンスター食べてるの?絶対まずいだろ。というか、そもそもモンスターって食べれるものなのか?
「人の事をよく喋るな、ドワーフ。やはり先に手負いの貴様から食らってやろうか?」
俺は、ザルドの意識が背後のガレスさんに向く前に、一直線に地を這うように迫る。
気づいたザルドの大剣と刀が衝突し、キーンッという甲高い音を立てて擦れ合う。
「アンタの相手は俺なんだろ?目移りしないでほしいな」
「それは悪かった。まずはお前と存分に戦り合うとするか!」
互いにギアを上げたことで、斬撃の応酬は激しさを増し、さっきより強く火花を散らして斬り合う。
上から迫る刃を躱し、そのまま左脚を軸に、足裏から炎で加速させた回し蹴りを放つ。
だが、それはザルドの左腕で防がれた。
「危ねっ!」
跳ね返された勢いで迫る大剣を、脚で蹴り出した反動を利用して右に跳び、寸前で回避。そのままバク転で距離を取り、後ろの壁を蹴って急接近。両手で刀を振り下ろす。
その一撃すら大剣の腹で受け止められた。だが────。
「【爆ぜろ】!」
「ぬっ!」
剣を支点にして、炎で爆発的に加速した蹴りを叩き込む。ザルドの巨体を壁までぶっ飛ばし、再び二人の間の距離が開いた。
ふぅ……。ん?なんかあっちの音が激しくなってきたな……うーん…。
「やっぱり、シャクティとガレスさんはあっちの加勢に行ってくんない?こっちは俺がなんとかするから」
「なっ!お前、そいつの相手を一人で....」
「現に俺一人で相手出来てる。あっちには逃げ遅れた民間人も大勢いたはずだ。二人が行ったほうがいい」
「だが!「いや、行くぞ、シャクティ」なっ、ガレス!?」
中々譲らないシャクティをガレスさんが制した。
「儂等がここにいてもやれることはない上に、小僧の邪魔になる。なら、小僧の言った通りにするのが賢明じゃろうて」
「それは....!くっ、分かった....レイ!」
「ん?」
「この前の約束、ちゃんと一日私の仕事を手伝ってもらう、必ずな」
そう言うとシャクティとガレスはその場から走って離れていく。
「……あれって一日一緒に過ごしてくれるってことだよな…すーっ....やる気出てきたな!」
改めて気合を入れ直すと、崩落した建物の中から大剣を抱えたザルドが出てくる。
「む、あのドワーフとヒューマンは行ったか」
「おう。あの二人に手伝ってもらう必要もないってことだ」
「元より、そんなつもりもないだろうが」
「まぁ、ね!」
俺の攻撃から、再び二人の衝突が始まる。
────────────────────―
あれから、もう百度は打ち合っただろう。一瞬たりとも目を離さず、目の前の敵に刀を振るい続けた。
振るわれる斬撃を躱して間合いを取り、魔法を放つ。時には刀でいなし、そのまま反撃に転じる。
一撃の重さで負けているなら、その分、速さと手数で相手を超えろ。
相手に攻撃があまり効かないなら、効くまで叩き込め。
今はただ相手を倒すのに全神経を集中させる。
ザルドの攻撃の合間を縫い、その胴体を素早く斬りつける。反撃が来れば、即座に間合いから離脱し、魔法で牽制する。
放った三発の炎弾。二つは剣で防がれ、もう一つは胴体に命中したが、やはり大したダメージにはならない。
「これならどうだよ!」
ザルドの巨体に匹敵するほどの炎の球を放つ。
それをザルドは────。
「フンッ!!」
一切の小細工なし。純粋な『力』のみの一撃で、粉砕する。
「嘘だろ....!」
今のでも届かないとなれば、
俺は接近してきたザルドの攻撃を捌きながら、思考を巡らせる。
とは言っても、生半可な威力じゃ当たっても大してダメージにならない。
一瞬の隙を作り、そこへ最高速度の一撃を叩き込むしかない!
考えを整理した俺は、ザルドが大振りの攻撃を繰り出した瞬間を狙い、魔法の出力を瞬時に跳ね上げた。刹那の間に後ろへ跳び、その背中へ三連撃を叩き込む。
「チッ!」
舌打ちしながらザルドが水平に振った剣。それが当たる直前、俺はその刀身に自分の刀を打ち付けて軌道を変え、回転しながら受け流した。
その回転の勢いのまま刀身に炎を纏わせ、至近距離から炎の斬撃を放つ。ザルドを後ろに吹き飛ばし、俺は着地と同時に追いすがろうとする。
だが、地面を削りながらすぐに止まったザルドは、俺が迫るより早く地面に剣を振り下ろす。そして、生じた凄まじい衝撃波が瓦礫を撒き散らしながらこっちに向かってくる。
「【噴き上がれ】」
その瞬間に、足元から地面を伝わせ、噴き上がらせた青い炎。それが衝撃波とぶつかり合い、激しい土煙を上げる。
煙に飲まれた俺は、視界を確保するために大きく上に跳んだ。だが、煙を抜けた先には、俺の動きを先読みして跳躍していたザルドの大剣が待ち構えていた。
「!!」
気づいた俺は刀で防ごうとするが、間に合わない。振り下ろされた大剣に身体が裂かれ──────
「!? 炎の分身...!!」
俺は、分身が囮として飛び上がったことで生まれた煙の穴から、弓を射るように凝縮した雷の矢を
「
放たれた一撃はザルドを直撃。稲光を撒き散らしながら激しく発光し、視界のすべてを白く埋め尽くした。
「ふぅ....ようやく良いのが入った。でも...」
俺は短時間とはいえ凝縮した赤雷を受けても尚、身体中から焦げたような黒い煙を上げながらも、立ち上がってくるザルドに目を向ける。
「今の喰らってなんで立ってられんの。流石に頑丈すぎでしょ」
「今のはかなり良かったぞ。これほどの一撃を食らったのは久しぶりだな。やはりお前は俺の期待通りだ」
「そりゃどうも」
普通に耐えられてから言われても、あんま嬉しくないわ。
「俺に喰らうだけの価値を示したお前には、俺も最高の一撃で答えるとしよう...!」
獰猛に笑い、ザルドは姿勢を低くして大剣を頭上に掲げた。
「【
ここに来て、詠唱か...!アルフィアとやったせいで、もうそんなに
いいぜ。今の俺の全部をぶつけてやるよ…!
「【目覚めよ】」
刀を正面に構える。俺の詠唱に呼応し、異なる精霊の魔力が俺を中心に増幅し始める。
「【上がれ、上がれ、上がれ】【纏い、交わり、収束しろ】」
俺が詠唱を重ねるごとに刀身から蒼炎が溢れ、紅雷が激しく迸るが、その魔力の奔流を制御し刀身に収束させる。
「【貪れ、炎獄の舌。喰らえ、灼熱の牙】!!」
「【捻り、渦巻き、練り上げろ】!!」
ザルドの剣には、すべてを抉り取り、食い尽くすような暴力的な力が渦巻く。対して俺の刀には、静かながらも強く燃え、疾走る魔力が刀身に宿る。
俺は一気に目を見開き、今俺に出せる最大の一撃を目の前の敵にぶつける!!
「【レーア・アムブロシア】!!!」
「【切り開け】!!!」
同時に放たれた一撃。片や地面を抉り、片や空間を切り裂きながら、一直線に突き進み──衝突する瞬間。
「────ここまでだ」
二人の間に降り立った存在。その手が触れた瞬間、激突するはずだった魔力は、まるで何もなかったかのように虚空へと消え去った。
「「!!?」」
「アルフィア....どういうつもりだ?」
突然何の前触れもなく現れた
「エレボスが
アルフィアが心底不愉快そうに腕組みをして言い放つと、凄まじい怒りの波動が滲み出てきた。
俺はあの邪神の凄惨な最期を想像し、背筋を凍らせる。ザルドも、同じようなことを考えたのか顔を引きつらせていた。
「大体、わざわざお前とレイが一戦交える舞台を私が整えなければならないんだ。……全く、本当に小癪な」
「........お前だってレイと戦り合っただろうが」
「何か言ったか、ザルド?」
「いや、なんでもない」
うわぁ...ザルド相手にも傲然な立ち振舞い....さすが女王....っ!!
俺は急激にやって来た倦怠感に、思わず膝をつく。
「ん?
「いや……あんたと、戦ってたせい、でもある、からな...?」
「そうか?なら、私達と共に来るのならば、その詫びに私の膝を使わせてやってもいいぞ?」
「え?まじ....?」
アルフィアほどの美人の膝枕……なんて魅力的な提案だっ!是非行かせて...って!
「だ、だだ、誰が、あんたらの誘いに、の、乗るかよっ!俺には家でアストレアママが待ってんだからな...!」
「声が震えているぞ、レイ....」
う、うるせぇ、やい!思春期男子は綺麗なお姉さんにそんな誘惑されたら、誰だって揺らぐものなんですぅ!
「冗談だ。お前のような喧しい奴が膝で寝ていたら、うっかり首をへし折るかもしれん」
危ねえぇぇぇ!危うく永遠の眠りに就くとこだった。やっぱりこの人、怖すぎる…。
「では、レイ。次会うときが最後の戦いだ、」
「あぁ、この街を護りたいと思うなら、」
「「この『
俺を見つめ、そう言い残すと、二人は今度こそ俺に背を向けて立ち去っていった。
その光景を見届けたのを最後に、周囲は静寂に包まれ、俺の意識は深い暗闇へと沈んでいった……。