先導の英雄   作:無銘のヲタク

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開幕

 

 あの後、【ゴブニュ・ファミリア】に依頼していた新装備を受け取ったアリーゼたちと合流し、俺たちはバベルの地下、ダンジョン入り口で待機している。

 

 俺たち【アストレア・ファミリア】に下された任務は、ダンジョンを下から突き進んでくる『大最悪』討伐のための少数精鋭部隊。

 作戦は、俺たちが機動力を活かしてモンスターを攪乱し、隙を作ったところにリヴェリアさんの極大魔法を叩き込んで一気に仕留める──というプランだったのだが。

 

「……なんで、ガレスさんとアイズがいるの?」

 

 そこには、地上での闇派閥(イヴィルス)殲滅を任されたはずの二人が、当然のような顔をしてリヴェリアさんの隣に立っていた。

 

「なんだ、お主。儂らが居ることに文句でもあるのか?」

「当たり前でしょ!!折角の男一人の美少女ハーレムだったのに....クソッ!」

 

 ホント急に一気に男臭さが増しちゃってさぁ、まったく。……ちょっと皆さん、なんすかその顔は。やめてよ、いいでしょ別に!男の子なんだから!

 

「リヴェリア、『はーれむ』って何?」

「......お前が知る必要はない」

 

 首を傾げて尋ねるアイズから、そっと目を逸らして答えるリヴェリアさん。幼いアイズはますます疑問が深まったようで、少し眉間に皺を寄せている。その後、リューから「不謹慎です」とたっぷりお小言を頂戴してから、改めて二人がここにいる理由を聞き直した。

 

「えっとね、フィンが何か『感じた』らしいよ。そしたらわたしたち二人はこっちに着いた方がいいって」

「へえ、勇者の『勘』ってやつか?」

「あやつのそれは最早、勘の域を超えて予知みたいなもんじゃからの。『勘』なんぞ信用ならんと思うかもしれんが────」

 

「いいですよ。あの人のなら信用できますから」

 

「む?そうか、ならいいが....」

 

 それに、()()持って来てるってことはそういうことでしょ。

 

 俺は、少し離れた場所で話しているライラとネーゼの方に目を向ける。

 

 

「ライラ....その『盾』、どうしたんだ?背に無理矢理くくりつけて、亀みたいになってるぞ?」

「誰が亀だ、バカヤロー。こりゃ『秘密兵器』だ、『秘密兵器』。レイの言ってたのを元に【万能者(ペルセウス)】に『お願い』して作ってもらった、な」

「なにが『お願い』ですか!!いきなり来たかと思ったら、無理矢理連れて行ったじゃないですか!!おかげでこっちは3日徹夜してるんですからね!!!もう本当に....!これで私がやられたら、貴女のせいですからね!!!」

「....私が謝るのも筋違いかもしれませんが……申し訳ありません、アンドロメダ」

 

 

 魂を削り出すように嘆き叫ぶ彼女の目元には、遠目からでもはっきりと分かるほど濃い隈が刻まれている。三日間連続労働という、人道に反する苦行の代償がそこには現れていた。

 

 うん。彼女は不憫枠なんだな。いつか美味い酒でも奢ってあげよう。

 

「レイ」

「ん?どうした、アイズ」

「この戦いに勝ったらすべて終わるの?」

「……ああ。これで悪い奴らとの抗争は全部、おしまいだ」

「そっか……がんばろ?」

「おう」

 

 いつまでもアイズのような子供に、こんな凄惨な光景を見せ続けるわけにはいかないからな。今回ですべての決着をつけてやる。

 

 

 

 夜明けが近づくにつれ、都市中の冒険者たちは武器を握る手に力を込め、始まる戦いへ向けて精神を研ぎ澄ませていく。

 

「リヴェリア、準備が終わった。もういつでも出られる」

「よし────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────そして。

 

 地平線から僅かに差し込んだ陽の光が、夜明けの訪れを告げる。

 

 

「殺るぞ、てめえ等ァ!今日でオラリオを終わらせる!!」

 

 

 ────―『悪』は『秩序の崩壊』を謳い、殺戮を望み。

 

 

「鬨の声を上げろ!迎え撃て、オラリオ!!」

 

 

 ────―『正義』は『希望の再生』を掲げ、安寧を望む。

 

 

「討伐隊、出るぞ!」

「続けぇ、ひよっこ共ぉ!」

 

 世界の命運を分かつ『正邪の決戦』が、今ここに幕を開けた。

 

 ────────────────────

 

 

 ダンジョンへ突入した直後、いつもとは明らかに様子が違うモンスターたちが牙を剥いて襲いかかってきた。

 

 

「モンスター共が興奮している!いや、奴らも混乱しているのか!」

「そりゃそうだ!アホみてえに足元が揺れて、バカみてえな花火が鳴り続けてやがる!迷宮も大騒ぎになるってもんだろ!」

「さっきまでも感じてたけど、ダンジョンの中だと、衝撃がぜんぜん違うぞ....!」

「近づいてくる者全てに攻撃してる!どうするの、アリーゼちゃん!」

 

「無視無視無視っ!無視よ!!私達の目標は召喚されたっていう『大最悪』(モンスター)だけ!速度を緩めず強行突破!邪魔するなら蹴散らして!進軍進撃進攻(ゴーゴーゴー)!!!」

 

「「「了解!!」

 

 アリーゼの号令に従い、全員が進行速度を一切落とすことなく突き進む。向かってくる敵だけを最小限の動きで迎え撃ち、全速力で迷宮を駆け抜ける。

 

 その最前線。誰よりも速く、疾風のごとくモンスターを切り捨てていく影が一つ。

 

 

「──―斬る」

 

 

 行く手に立ち塞がるモンスターを、愛剣で一瞬にして細切れにし、塵へと変える。

 

「強っっ!!」

「十にも満たない齢で、あれほどの剣技....あれが【ロキ・ファミリア】の【剣姫】」

「ホントすごいわね....でも」

 

 

 感嘆の声が上がる中、アリーゼが一人不敵にほくそ笑む。その瞬間、一団からもう一つの影が高速で抜け出した。

 

「うちの人も負けてないんじゃない?」

 

 アイズの頭上から奇襲を仕掛けようとしていた三体のインプを、抜刀からの一閃でまとめて葬り去る。

 

「!!....レイ」

「一人で突っ込むなって、やられたらどうすんの」

「大丈夫、やられる前に斬るから」

「いや、その前に襲われたら……」

「じゃあ、そうなる前に全部斬る」

 

 

 ......はぁ、駄目だこの娘。ちょっと、おたくの教育どうなってるんですか!おいこら、目を逸らすなっ。

 

「ったく....お前は自由に動け、俺が合わせる」

「! うん、分かった」

 

 次の瞬間、再度アイズは飛び出して、モンスターの群れに突っ込む。俺も軽くため息をついてから、アイズの元に駆ける。

 

 次の瞬間、再びアイズが飛び出し、モンスターの群れへと突っ込んでいく。俺も軽くため息をついてから、彼女の元へと駆けた。

 そこからは、アイズが目の前の敵を一心不乱に斬り伏せ、俺が彼女の死角から迫るモンスターを優先的に仕留める。

 

 二人で突き進む様は、まさに戦場を吹き抜ける一陣の嵐。モンスターの群れの最後尾に辿り着いた時、そこにはただ灰と魔石だけが残されていた。

 

「確かに、うちの奴も大概だな」

「ほら!私達も負けてられないわよ!」

 

 その光景に発破をかけられ、一同は再び加速する。

 

「ちなみに、召喚されたそいつと、どこでやり合うつもりなんすか?」

「ダンジョン内に僅かに存在する特殊な階層、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』────18階層だ」

「あー、なるほど。確かに彼処なら十分なスペースが....え、ってことはフィンさん(あの人)....」

「ここまで計算して私達を『大最悪』召喚してすぐには向かわせなかったんだろうな」

「怖っ、あの人怖っ」

 

 かつての彼と変わらぬ、悪魔的な予測能力に背筋が寒くなり、俺は思わず自分の肩を抱いて震えた。

 

 それからは【アストレア・ファミリア】との連携を保ちつつ、突っ込みすぎるアイズのフォローをしながら階層を下っていく。目標の第18階層が近づくにつれ、ダンジョンに響く衝撃音は地鳴りのように大きくなっていった。

 

「よっ!ほっ!邪魔だ、おらぁ!!」

 

 多方向から天然武器(ネイチャーウェポン)を手に迫るアルミラージたちをすべて躱し、まとめて蹴り飛ばしたところを一気に仕留める。

 

「!!上にヘルハウンド三体!」

「了解ッ!」

 

 崖の上に陣取る三体のうち、まずは左の一体へ一歩で跳び寄り首を落とす。二体目が放った炎弾を紙一重で回避しながら斬り伏せ────

 

「お座りッッ!!」

 

 最後の一体が炎を吐く前に、鼻先へ踵落としを見舞って強制的に口を塞ぐ。そのまま刀を突き立てて灰へと還した。周囲の安全を確認し、下の階層を走る皆に合流する。

 

 そろそろ18階層の道だけど....っ!

 

「レイ、どうした....!!あれは」

 

 立ち止まった俺達の前には、楽園への入り口を塞ぐ門番、『迷宮の孤王』──―ゴライアスが立ち、自身の支配階層への侵入者に咆哮を上げる。

 

「おい、なんでゴライアスがいやがる!まだ復活する時期じゃなかったんじゃねえのか!?」

 

 まぁ、フィンさん曰く、『大最悪』ってダンジョンに入った神を殺すために無理矢理召喚されたらしいし、そんな異常(イレギュラー)起きたら、階層主の出現間隔(スパン)も狂っても仕方ないか。

 

「無視じゃ!此奴に構っておったら、目的の『大最悪』(モンスター)が儂等より早く18階層に登ってくるぞ」

「でも、あいつ入り口に陣取ってやがる。とても素通りなんて出来る感じじゃないぜ?」

 

 うーん....こうやって考えてる時間が勿体無い。

 

「?お前、何を──―」

「【目覚めよ(ナルカミ)】」

「っ!!赤い雷…!」

 

 一気にゴライアスの背後へと回り込み、壁を蹴って巨人の頭部まで駆け上がる。

 

「【燃え上がれ(シラヌイ)】」

 

 壁を蹴って、身体を反転させる勢いのまま、刀を振り抜く。

 唸り燃え上がる蒼炎を纏った刃は、あっさりと剛皮によって守られた巨人の首を切断する。

 俺が着地するとともに巨人の首がするりと地に落ちる。

 

 敵を排除するべく存在する、階層の王は生まれて接敵してから僅か数秒で絶命し、灰へと霧散した。

 

「────終わったんで、行きますか」

 

 何事もなかったかのように進み始めたその背中を見て、その場にいた全員が戦慄した。

 

 

 これが、『悪』も認める『英雄』の力だと──―

 

 

「本当に、あの夜の英雄は…」

「まぁね。それはここにいる人達だけに教えとくわ」

「ふふっこれ以上に頼もしいことはないわね」

「……レイがあの『英雄』だったんだ」

「とはいっても、まだ発展途上の英雄見習いだよ、アイズ。さぁ、ぐずぐずせずにさっさと行こう」

 

 

 ────────────────────

 

「これが......18階層?」

「あの美しかった木々は、一体何処に....!」

 

 辿り着いた18階層を目の当たりにして、リューもアリーゼも絶句した。

 

 いつものような水晶で出来た綺麗な空も、たくさんの冒険者で賑わうリヴィラの街も、『迷宮の楽園』足らしめる全てが消え去り、そこには肌を焼き、息をするのも苦しい程の熱さが広がる灼熱の大地……。

 

 まさに『地獄』と呼ぶに相応しい光景が、目の前に広がっていた。

 

「これは、まさか....いや、これではまるで....!」

「ああ、まさしく『()()()』....!深層域と同じ状態になっておる」

「『竜の壺』....?ガレスのおじ様、それは一体──―」

「アリーゼ、ストップ」

 

 咄嗟に隣のアリーゼを引き寄せた瞬間。

 

 轟ッ!! という轟音と共に、さっきまで彼女が立っていた地面から火柱が噴き出し、全員が驚愕に凍りついた。

 

「え、ええ?なにこれ」

「地面が火を噴くだと!?一体何が──―」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な....ッ!?」

 

「間違いなく、目標の『大最悪』だ。下の階層から進出するため、岩盤を破壊しているのだろう。未だ男神(ゼウス)女神(ヘラ)のみしか踏破していない層域、『竜の壺』。儂等もギルドの情報でしか知らんが、52階層から下では平然と『階層無視』の攻撃が行われると聞く。おそらく敵も同じことをやっているのだろう」

 

「これが52階層相当の地獄絵図だってのか!?ふざけんなよ、もう規模(スケール)が違いすぎて何がなんだか分からねえ!!」

「今更、嘆いたって何も始まらないわよ、ライラ!とにかく今は目標の『大最悪(モンスター)』が現れるまでに陣形を整えて──―」

 

 

「いや、どうやらそんな暇は与えてくれなさそうだ....そうだろ?」

 

 

 よく分からないといった表情をするメンバーもいる中、俺はある方向に目を向けた。、

 

 

 

 

「──―ああ。お前達は余計なことをせずに、ただ『世界の中心(オラリオ)』の滅亡を眺めていろ」

 

 

 

 

 灼炎の地獄に響く、冷徹な絶望の声。その主を認めた瞬間、全員の脳裏に激しい疑念が渦巻いた。

 

「【静寂】の、アルフィア......!」

「どうやってここに....!本陣の警備を盗んで、ここまで来たというのか!?」

 

 

「私が答える義理はない......が、驚いてない者もいるようだな」

 

【ロキ・ファミリア】のあの二人はフィンさんが『勘』に従って来てたわけだし。俺もあの盾がこっちにあるの見て、概ね予想はついていた。

 

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい。『最悪』が現れるまで、もう間もなく....喚かず、動かず、哭かず、沈黙の(ぼく)となることを約束しろ。であれば、手をくださずにいてやる」

 

「「「っ....!」」」

 

 

 隔絶した力を持つ、圧倒的強者の宣告。【アストレア・ファミリア】の面々は思わず息を呑み、その身を強張らせる。

 

「破壊も、慟哭も免れる。悲憤も喪失も味わずに済む。神塔(バベル)とともに神時代が潰えるその時まで、黙って見届けると誓えるのならば──―」

 

 

 

 

 

 

 

「────ムリね!!!!!!」

 

 ────ただ一人、彼女(アリーゼ)を除いて。

 

 

「時代がどうとかっていうのはよくわからないけど、都市の滅亡を指をくわえて待つなんてムリムリ!! 絶対ムリよ!!

 

 そもそも、こんな大一番で『ハイ待つわ』なんて言うわけないじゃない!」

 

 炎のように赤い髪を棚引かせ、いつもの調子で得意気に笑ってのける。

 

「いい?私達の『正義』は全っ然っ物分りが良くないの!どう?参ったかしら!フッフーン!!」

 

 静寂が訪れる。あまりの物言いに、一同が唖然とした。

 

「.............くっ。はははっ」

「ぷっ。くくくっ」

 

 アリーゼのあまりに彼女らしい姿に、さっきまでの緊張はどこへやら、全員が笑いを堪えきれなくなった。ガレスさんは「いいぞいいぞ」と囃し立て、リヴェリアさんの口元からも笑みがこぼれる。かくいう俺も。

 

「お前ってやつは....ホントに『控える』ってことを知らないな」

「当たり前じゃない!私は、アリーゼ・ローヴェルはそういう人間(もの)なの!

 

 どんなに負けそうで、挫けそうで、絶望しそうになっても、誰よりも前に立って

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

「!!....その言葉....」

 

 

 かつて親友(あいつ)が一人の少女に言ったのと似た言葉。

 

 どんな相手を前にしても絶やさないその笑顔が、ますます彼奴に重なって見えて。何処か癪に感じながらも──。

 

 

「ふっ。確かに、アリーゼらしいな」

「そうでしょ?」

 

 自然と笑みが溢れ、体の奥から勇気が湧いてくる。

 

「さてさて、では悪党(アルフィア)さん。見ての通り、こっちの人達皆そうやすやすと引き下がるつもりはないみたいだけど?」

 

 俺はそう言って、両手をわざとらしく広げてみせる。

 

 

「....聞き飽きた冒険者共の蛮勇の歌......やはりオラリオは、オラリオか。

 

 いいだろう──―ならば、途絶えろ。闘争の雄叫びも、生命の音も、等しく終焉を辿れ。それこそが今の私が贈る唯一の慈悲だ」

 

 

 一瞬浮かんだ笑みも消え去り、顕現した『悪』が牙を剥く。

 

「っっ....!来るぞ!!」

「行くわよ、みんな!頑張って、踏ん張って、ちょっと世界を守ってみせましょう!」

「ええ、アリーゼ!!」

 

 

 了解した。任せとけ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────『団長』!!

 

 




なんか個人的にアルゴノゥトとアリーゼって似てる気がするんですよね。
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