先導の英雄   作:無銘のヲタク

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大学忙しすぎて、全然手がつきませんでした!すいません!


最悪の襲来

 

 ────フィンの活躍によって希望の火が灯り始めた地上とは裏腹に、業火の渦巻く18階層はさらなる絶望、底知れぬ地獄へと変貌を遂げていた。

 

「なっ────!!下からの砲撃!?それもかなりでかい!」

 

 動揺する輝夜の視線の先には、まるで火山の噴火を思わせる凄まじい業火。幾重にも重なった地面を突き破り、上へと続く『大穴』をこじ開けながら、『何か』が昇ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「────破壊に苦しむダンジョンの慟哭──そして誕生祭(バースデイ)

 

 

 

 

 

 

 

 突如そこに一人の男の声が響き渡る。

 

「っっ────!!」

 

 この声……おいおい、出たがりにも程があるだろ…!

 

 

「邪悪の胎動。最悪の根源。原初の幽冥の名のもとに、契約をここに果たす……さぁ、【終焉】を連れてきてやったぞ」

 

 

 その男は、少しでも触れてしまえば矮小な生命など即座に潰える業火の海すらまるでなんとも思っていないように不敵な笑みを浮かべ、現れる。

 

 そして、その『絶対悪』(おとこ)の背後より遂に────

 

 

 

 

 

 

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼓膜を突き破らんばかりの咆哮と共に、『大最悪』(モンスター)はその全貌を現した。

 

 

「な、なんだよアレ……!?」

「翼を持った蛇……いえ、竜?でもあんな────!」

 

 現れたそれは前戦ったゴライアス級の巨躯でありながら、通常なら小型の飛竜種に備わっているであろう翼を持つ()()

 

「あの巨体で飛べるのか……!?」

 

 黒き外殻に覆われた体躯に所々から漏れ出す紫紺色の怪光。ただのモンスターというにはあまりに禍々しく、あまりに醜悪で、あまりに強大。ついに己が翼をはためかせ、この地獄へと降り立った。

 

 誰もが目にしたことのない『未知』の脅威を前に、その場の緊張感は極限まで張り詰める。

 

 

「『神の力(アルカナム)』によって引き寄せられ、3()7()()()より生まれた黒き異形。名をつけるとしたら、そうだな……

 

神獣の触手(デルピュネ)』といったところか」

 

 

「(うわぁ…また面倒くさそうなモン連れてきやがって…!)」

 

 大きさだけで言えばさっきの巨人(ゴライアス)も遜色ないが…纏う雰囲気はレイがダンジョンで出会った魔物の中では明らかに別格。

 

 

「『大穴(あな)』が見えるか、眷属ども?都合19もの階層を貫いた、奈落への入り口だ。冥府の門にして地下世界の象徴でもある。これを地上にまで開けてやろう

 

「「「!!」」」

 

「『バベル』は崩れ、神代は終わり、約束されし真話が始まる。そう────『闇と混沌の時代』だ。

 

 祝え。そして死ね。この『絶対悪(おれ)』が滅びを授けてやる。『正義』の輝きはもういらない」

 

 

 

 

 

 

グギャアァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 エレボスの宣告に呼応するように、『大最悪(モンスター)』────『神獣の触手(デルピュネ)』は再度階層全体を揺らす程の咆哮を上げる。

 しかし、今度は単なる威嚇ではない。咆哮と共に大きく開かれた顎へ、ここまで幾多の階層を灼いてきた獄炎が凝縮されていく。

 

「っ!!全員伏せろっ!!」

 

 レイの鋭い叫びに反応し、全員が反射的に身をかがめた瞬間。怪物の顎から極大の獄炎が放たれた。それは皆の頭上をかすめ、背後のダンジョンの外壁へと激突する。

 

 超高熱に曝された岩盤は、飴細工のようにドロドロに灼け爛れて溶け落ちた。

 

「「「────ッ!?」」」

 

『19もの階層を灼き貫いた』。

 

 その言葉に一切の嘘偽りがないことを、目の前の光景が、その絶望的な破壊力を否応なく全員に理解(わか)らせる。

 

 驚愕。恐怖。焦燥。各々の内に渦巻き、混ざり合うの多くの漠然とした感情の中、唯一その『意志』だけは明確に全員が一致する。

 

 

 

 

怪物(こいつ)だけは地上(そと)に出してはいけないッ!!』

 

 

 

 

 その怪物はもはや大規模な『破壊』という一点を見れば、アルフィアやザルドをも凌駕していると言ってもいい。そんな怪物が地上に出てしまえば、闇派閥との戦いで疲弊している冒険者達はいとも容易く蹂躙される。

 

 そう全員が警戒を強める中、『神獣の触手』による破壊活動は留まるところを知らず、辺り一帯をその獄炎を以て焼き払う。

 

『神獣の触手』と同様に迷宮(ダンジョン)より生まれ出ずる存在ではあるものの自らを畏れ、半狂乱状態となる同胞(モンスター)も、その絶対的な力から何とか逃げおおせようと抗う闇派閥共も、自身の眼下に映る存在の悉くを一掃する。

 

「くそっ、見境なしかっ!この破壊力…穴を開けるどころか、このままでは階層そのものが崩れ落ちるっ!」

「無視できる存在ではない…!早々に対処する必要があるぞ!」

「(なら、俺が────ッ!!)」

「レイっ!!」

 

 怪物に向けて駆け出そうとした瞬間、咄嗟に自分の前に蒼炎の壁を形成。次の瞬間にはその盾に砲弾の如き何かが被弾し、凄まじい衝撃共に炸裂する。

 

 衝撃が収まり、消えゆく蒼炎の先に立つ人物を、レイは睨みつけた。

 

「────お前は行かせん」

「まぁ…そう上手くはいかないよな…っ!」

 

 

 『大最悪』(モンスター)を討ち果たし得る『英雄』の介入を、『絶対悪』は許さない。

 

 

「あのバケモン討伐したいんで、どうか通してもらえませんかねぇ…?」

「はい、と言うとでも思うか?」

「デスヨネー…ていうかアレなんなの?明らかに今までのやつとはレベルが違うんだけど…」

「知らん。何せ、あのような怪物は私も()()()()()()()

「まじか。アンタも知らない怪物(モンスター)とかいるのか」

「それだけ迷宮(ダンジョン)の『未知』は限りないということだ。しかし…」

 

 アルフィアは一度言葉を中断すると、視線をその怪物に向ける。

 

「あの容貌(すがた)はまるで──―」

 

 アルフィアが言葉を切り、視線を怪物へと向けたその瞬間。

 

()()()を纏った何かが猛スピードでモンスターの群れ、もとい『神獣の触手(デルピュネ)』へと突撃する姿が目に入った。

 

 

 

 

「あれは────アイズ…?」

 

 

 

 

 映ったのは一瞬だが、レイの見たアイズの表情はいつものような感情の起伏に乏しいものではなく、底知れぬ『怒り』と『憎悪』に塗りつぶされていたように見えた。

 

 ────────────────────

 

「どいてッ!!」

 

 モンスターの群れに飛び込んだアイズは激情のままに自分と『神獣の触手』への道にいるあらゆる怪物(モンスター)を見境なく切り捨てていく。例えそれが普段であれば梃子摺るような怪物でも、荒れ狂う黒風は一息で仕留めることを可能にしている。

 

「ん?なんだお前──────」

「邪魔っ!!」

 

 目の前で逃げ回るエレボス達には目もくれず、ただ眼前の怪物だけを駆逐することだけに没頭している。

 

「おっと。驚いた。モンスターを葬ってくれるとは。敵である俺を助けて────」

「────フーッ、フーッ!!」

 

 理性を失った様子のアイズにもはやエレボスの言葉は届かない。

 

「聞こえていないか。小娘の皮を被った狂戦士(バーサーカー)。が、ちょうどいい。あれほどの『風』の力、特攻だろうと『神獣の触手』(デルピュネ)の足止めにはなるだろう。この隙に移動させてもらおう……この『地獄』の景色を見渡せる、特等席にな」

 

『神獣の触手』に直進していくアイズを尻目に、黒幕の邪神は舞台の観覧席へと姿を消す。

 

「さて……どうする、『英雄(レイ)』よ」

 

 ────────────────────

 

「おいっ!リヴェリアさん、アイズのあれはなんすか!?何か俺の勘があれはヤバいって言ってるんすけど!!」

「っ…あれはアイズのスキルだ。アイズの抱く『負の感情』の増大によって『怪物』(モンスター)に対する力が爆発的に高まる。普段ならばあそこまでではないのだが…よりにもよってあの黒竜(モンスター)は…!」

「今そんなこと言おうとどうにもならん!このままではアイズはやられるぞ!それだけ暴走したところであの化物相手に一人では太刀打ちできまい!」

 

 焦燥に駆られるガレスたちの前で、アリーゼたちもまたアイズの姿を追う。ついにデルピュネの元へ辿り着いたアイズは、激戦を繰り広げる。

 暴風の加速を借り、怪物の猛攻で傷を負いながらも、その数倍の斬撃を巨体に叩き込み、確実に傷を刻んでいく。

 

「…たった一人であの怪物と互角以上に戦えてる…!」

「今はな!あんな無茶苦茶な特攻、すぐガス欠になるわいっ!」

「それに…あの化物と削り合いするのは分が悪いみたいだぜ?」

 

 ライラの向けた視線の先には、体中の裂傷に今も凄まじい呻き声を上げ、そしてその都度受けた傷をありえない速度で()()()()()『大最悪』(モンスター)の姿が。

 

「なっ…!?傷が…!!」

「『自己再生』だと…!?」

「あれじゃあ【剣姫】がいくら傷を与えたところで、魔石まで届きもしねえ」

「なんて出鱈目な…っ!」

 

 階層の壁を一瞬にして溶かすほどの獄炎に全身を覆う黒鎧の如き硬い皮膚、おまけに自己再生能力すら持ち合わせた正真正銘オラリオ破壊のための最終兵器。いくら魔法で強化されたアイズでも一人では勝ち目はまずない。だからこそ誰かがアイズの加勢に向かう必要のある事態なのだが…

 

「シッ!!」

「ふっ…!」

 

 誰よりも(はや)く彼女の元に行ける人物は今怪物(モンスター)以上に厄介な存在と接近戦を繰り広げている。

 

「────【福音(ゴスペル)】」

「…!!【加速しろ(ナルカミ)】!」

 

 近距離で切り結ぶ中、僅かな隙にアルフィアは自身を中心に広範囲に魔法を放つ。レイは咄嗟に反応し赤雷による加速で瞬時に範囲外へと離脱する。

 

「(チッ!距離とっちまった…!)」

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 レイの予想通りか、魔法の衝撃によって上がった砂埃の内から不可視の音の弾丸が標的へと複数強襲してくる。

 

「【纏え】【切り裂け】」

 

 詠唱と共にレイは自身の得物に蒼炎を宿す。そして迫りくる幾つもの不可視の弾丸をほぼ()()()()()切り伏せる。土煙が晴れた先に立つアルフィアは、その光景に微かに眉を寄せる。

 

「厄介な魔法だ」

「いや、アンタに言われたくねぇよ。見えない上にエグイ威力の魔法をバカスカ撃ってきてるくせに」

「お前を屠るためだ、当然だろう。ほれ、足を止めている(いとま)はないぞ」

 

 その言葉と共にアルフィアは砲撃を開始、レイが赤雷を纏い直すことによって戦闘を再開される。レイは魔法の加速によってアルフィアの砲弾を搔い潜りながら、再び刀を振るう。

 

「(さて、ここからどうするか…!)」

 

 互いの攻撃を捌き合う高速戦闘の中、レイはここから取れる戦策を練る。

 

「(さっきの表情…今のアイズは明らかに正気じゃない。早く行ってやらないと…しかし問題はアルフィア(こっち)だ)」

 

 レイは今も目の前で自分の剣戟を見切り、刃を防ぐほどの手套を着けているとはいえ無手でありながら攻撃を捌き続けているアルフィア(怪物)にレイは内心歯噛みする。

 

「(最高出力の【ナルカミ】なら強引に抜けられる。だが…問題は──)」

 

 視界の端。周囲を囲う怪物たちに対処しながらも、その顔に『焦り』や『恐怖』を滲ませ、少ないとは言えない傷を負うアリーゼ達の姿。

 

「(俺があっちに行ったら、アルフィアの対処はアイツらに任せることになる…!リヴェリアさん達がいるとはいえ流石に…かと言ってアイズをあのままするわけにもいかない)」

 

 早急に迫られる選択にレイの焦りは加速する。

 

「(クソッ、どうする…!()()()でどうやってこの状況を────!)」

 

 相手の動きを冷静に分析しなければならない超近接戦、おまけに相手はあらゆる才能に呪われた(愛された)存在。

 かつて双極を成す最強の派閥の中ですら異端とされた傑物…そんな者の前で『焦り』(それ)は雑念でしかない。

 

「戦闘中に考え事とは余裕だな」

「(っ!しまっ────!?)」

 

 思考に意識が割かれた刹那。その隙を射抜くように、アルフィアの突き上げるような拳がレイの顎を狙う。顔を逸らして致命傷こそ避けたが、大きく体勢を崩され、間合いが開いた。

 

 常人にとってはほんの一瞬にも思える隙。だが、彼女の魔法にはそれで十分だった。レイが盾を形成しようとするよりも、死神の囁きの方が速い。。

 

「【(ゴス)────」

 

 無防備なレイの体に強烈な一撃が放たれる──────

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その寸前、レイの隙を()()()()()()アルフィアの左右からそれぞれ()()()()()()()()を宿した刃が同時に振るわれる。

 

 

「!!…アリーゼ…リュー……!!」

「面倒な…」

 

 

 アルフィアは鬱陶しいそうにしながらも、レイに放とうとした魔法を中断し、迫る双方の刃をそれぞれ片手で受け止めて迎撃する。

 

「私たちを忘れてもらっちゃ困るわっ!!」

「貴女の相手は()()()ではないっ!」

 

「(──────そうだ…)」

 

 二人の介入によって、アルフィアの意識が分散する。レイの思考に、一筋の余裕が生まれた。

 

「吠えるな、小娘共。お前たちが来たところで何も変わりはしない」

 

 アルフィアは二人の武器を掴むと、そのまま体ごとレイの方へと投げ飛ばした。

 

「なっ──!?」

「くっ!!」

 

「────【福音】(ゴスペル)

 

「【阻め】!!」

 

 飛んできた二人を咄嗟に受け止め、追い打ちの魔法を今度は間に合った蒼炎の盾で防ぐ。だが衝撃は殺しきれず、三人まとめて後方へ吹き飛ばされた。

 

「────っ!!ごめんなさい、助かったわ」

「おう」

 

 レイの魔法のおかげで3人は怪我もせず、すぐに態勢を立て直す。

 

「しかし、ここからどうしたものか…」

「……なぁ、お前らに頼みたいことがあるわ」

「…何かしら?」

 

 

 

 

 

「お前らにアルフィアを任せてもいいか?」

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

「割と無茶なことを言ってるのは分かってる、でも()()。俺をアイズのとこに行かせてくれ」

「……貴方じゃなきゃ駄目なのね?」

 

 確かに、ここには同じファミリアの仲間である、ガレスやリヴェリアがいる。彼女を正気に戻す役割としては、家族に近い彼らが向かうのが妥当だ。だが、それでは足りないのだとレイは知っていた。

 

「今の激情に呑まれてるアイズには『言葉』だけじゃ…多分足りない。例え、()()の言葉でもあいつの心には届かない。だからあいつを正気に戻すには直接行って奥から引っ張り出すしかねぇ」

 

 そう言って、レイは決意を示すように自身の拳を固く握りしめる。

 

「そして、ここにいる中でそれが出来るのは俺だけだ」

 

 今のアイズを止めるには、彼女の元に向かう道に蔓延るモンスターを蹴散らす『強さ』と、誰よりも早く向かい、彼女の隣を共に走ることができるだけの『速さ』が要る。この場でそれが可能なのはレイをおいて他にいない。

 

「だから、頼む。俺をアイツの元に──────」

 

 

 

 

 

「おっけー!じゃあそっちは任せるわ!」

「ええ。私たちはアルフィアに専念しましょう」

 

 

 

 

 

「!!」

 

 断られる、あるいは渋られることも覚悟していた提案。あまりにもあっさりと背中を押され、レイは思わず目を丸くした。

 

「あら、何その顔?もっと嫌がられるとでも思ってたの?」

「いや、だってよ…」

 

 今までの戦いでさえ、レイがいた上でそれでもアルフィアとは互角だった。そんな状況でレイが離脱してしまえばその均衡は崩れる…つまりそれだけ『死』の可能性がより高まるということだ。そんな生死を分かつような提案をしたのだから、多少躊躇するのが当然だろう。

 

「まぁ、正直すっっっっごく怖いわ!でもね、それ以上に嬉しいの」

「え?嬉しいって、何が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたに頼ってもらえたことです

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 そう言ったリューの表情はアリーゼと同じで少し嬉しそうに微笑みを浮かべている。

 

「貴方は強い。私達の助けなどは必要とせず、むしろ私達が貴方の力に助けられてばかり…貴方が居なければ私達やアーディだけでなく、オラリオに住まう多くの人々が命を落としていたでしょう」

「ほんとにそう!……でもそんなレイでも『一人』じゃ全部は救えない…何処かで取り零してしまう命がきっとある。だからいつも私たちは、少しでもレイの力になりたい、そう思ってたわ…だから!」

 

 アリーゼは後ろ手に組んでレイの顔を覗き込むように少し屈むと、

 

 

 

「今、貴方に頼ってもらえて、凄い嬉しい…!」

 

 

 

 いつものように、いやいつも以上に満面の笑みでそう言った。

 

「アリーゼ…」

「あっでもあれよ?アルフィアとやり合うなんて命が幾つあっても足りないから、なるべく早く、ぱぱっと、スピーディにあの怪物(モンスター)を瞬殺してきてもらえたらとっっっっても助かるわ!!!」

 

 

「────団長殿、貴女は最後まで真面目にできないのか…」

「まったくだ。最後の最後で締まらねえなぁ、ほんと」

 

 

 アリーゼに悪態をつきながらも、彼女の背後から輝夜やライラ、【アストレア・ファミリア】の面々がやってくる。

 

「お前ら…」

「レイ、私も団長やそこの青二才エルフと同じだ。ここは私達に任せてお前は『あれ』を仕留めてこい」

「ああ。正直化け物(アルフィア)と戦り合うなんざ死んでもごめんだが…怪物二体を同時に相手にするよりか幾分かマシだ」

 

 

 他のメンバーも、誰一人として反対する者はいなかった。

 

 

 

 

「────はい!そういうわけで……もうわかったでしょレイ?みんな貴方を信じてる。だから貴方も私達を信じてあの囚われのお姫様を救ってきなさいっ!」

 

 

 

 

 

 アリーゼに背中を叩かれ、前を向いた瞬間、彼女たちの瞳がレイの目に映った。

 

 そこに映る全員の瞳には『絶望』も『諦念』も存在せず、映っているのは『希望』の感情、明日を信じる『光』のみだ。

 

 

 

 

「(…はっ。今、失うのを一番怖がってんのは俺か…)」

 

 

 

 

「あら、なにニヤニヤしてるの?もしかして今更、私達のような美少女に出会えたことに幸福を噛み締めているのかしら~?」

「…そうだな。お前等まじで最高に良い女だよ。愛してるぜ」

「……へ?」

 

 何やら呆けているアリーゼを横目にレイは再度武器をアルフィアではなく、その背後に聳える怪物に狙いを定め、魔力を練り上げて自身の速度を極限までに高める。

 その姿に静観していたアルフィアも警戒を強める。

 

 

「──────【駆け抜けろ】。じゃあ、お前ら…信じてるぞ」

 

 

 その言葉と共にレイは自身の最速をもって怪物の元に直進する。

 

「(!!疾い…!)」

 

 一段上の速度で駆け抜けるレイを、流石のアルフィアも瞬時に捉えることはできず、微かに舌打ちして眼前のアリーゼたちへと意識を切り替える。

 

「あの馬鹿無しで、私と戦うつもりか?」

 

「確かに、私ひとりじゃ貴女の足元にも及ばない……でも!

 

 

 

 私には【アストレア・フ(みんな)ァミリア】がいる」

 

 

 

 アリーゼは自分の仲間たちの存在をアルフィアに強く示すように腕を横に大きく広げてみせる。

 

 

「あの時の借りをようやく返させる時が来て、私は歓喜しているぞ。なぁ小人族(パルゥム)?」

「お前みたいな戦闘狂と一緒にすんな。まぁでも、吠え面ぐらいは拝んでおきてえな」

「私は、私たちはもう二度と『悪』に屈しはしない!!」

 

 アリーゼのその言葉に、皆が堂々とアルフィアに向き合うとともに武器を構える。

 

「それに…」

 

 

 

 

『愛してるぜ』

 

 

 

 

「…今の私、過去最大に絶好調なの!貴女になんか負ける気しないわ!!」

 

 

 

 燃え上がるように紅き髪を棚引かせ、翠緑色の瞳をより一層輝かせてアリーゼは目の前の『敵』に高らかに謳う。

 

 かつての楽園は怪物に溢れ、都市を破壊し得る『獣』が蔓延る。地獄とも言えるこんな最悪の状況で、今一度復活を遂げた『正義』は圧倒的強者たる『絶対悪』と戦うことを決意する。

 

 本来紡がれるはずだった本史(ストーリー)が思わぬ形で今、幕を開ける。

 

 

 

「……ならば来い、小娘共。英雄の、そしてその()の作法を教えてやろう」

 

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