先導の英雄   作:無銘のヲタク

42 / 49

いや、ホントに全然書く気力なくて、ずっとサボってました。すいません…

最近、もう一度ダンまちのアニメを見てやる気が再燃しました。

また、いつ出せるかは分かりませんが、気長に待っててください。

追伸。この小説のここまでの文章を全部、修正・加筆して、一部変わった描写もあるので良ければ読んでください。


英雄の隣を歩む者

 

「(あれは……あれだけはっ……!!殺さなきゃ!!)」

 

『大最悪』に鬼気迫る表情で斬りかかっていく今のアイズの心にはもはや目の前の敵に対する猛烈な憎悪以外は存在しない。

 

 溢れ出る負の感情に後押しされるように、彼女の『スキル』は今の彼女では手に余る程の『力』を授ける。

 

『黒い風』を纏い、加速したアイズは怪物の周囲を縦横無尽に駆け回り、その巨躯に無数の傷をつける。しかし、怪物の表皮にいくら傷をつけようと『魔石』()に届かない限り、その全ては瞬く間に再生してしまう。

 

 断続的な攻撃ではこの怪物には意味をなさない。冷静に判断するならば、無駄な消耗を避けるためにも一度相手の出方を伺うべきだろう。しかし、今の正気を失ったアイズにそんな思考を持ち合わせていない。

 

 捨て身の特攻を繰り返す度に彼女の身にのみ傷が増え、さらには膨大な力を与えるスキルによって彼女の体力が蝕まれていく。

 

 だが、今のアイズの攻撃が『神獣の触手』(デルピュネ)の侵攻を阻んでいるのは紛れもない事実であり、怪物自身も自分にいつまでも突っかかってくる矮小な存在に苛立ちを覚える。

 

 

「グオォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 ついには周囲を這いまわる存在を自らの手で葬らんと、天空から鋭く尖ったその爪をアイズへと振り下ろす。

 

 アイズは喰らえばいともたやすく自身の命を奪い取る攻撃を体に掠めつつも避け、返す刃で怪物の巨腕を斬りつける。だが、そこから追撃するように怪物はもう一方の腕を周囲の木々をなぎ倒しながら横凪ぎに振るう。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!!」

 

 その瞬間、アイズの纏う激しく吹き荒ぶ狂嵐が障壁となり、怪物の一撃を僅かに食い止める。

 

 その隙にアイズはその場から抜け出すと、そのまま怪物の足元に侵入、がら空きの胴体に刃を突き刺して胸部から下半身まで『風』で空を翔けるように一気に切り裂く。

 

「グギャアァァァァァァァァァァァァァ!!??!?!」

 

 今までより激しい痛みに喚くように怪物が大きく咆哮を上げる。痛みに悶えるその姿は戦いの中での明らかな隙を生む。そこを逃さんとアイズは宙へと舞い上がり大きく晒されている背部に狙いを定め、今自身が放てる渾身の一撃をぶつけるために荒れ狂う魔力を掻き集める。

 

 

「リル…!!ラファ────」

 

 

 

 激しい戦闘の中生まれた明白な隙。暴走している状態でも本能的にアイズはそこに飛びついた。

 

 いや、飛びついてしまった。

 

 それ故にただでさえ狭まったアイズの思考から、『防御』という発想が完全に消え去る。その『空白』の油断を突くように怪物の第三の刃が牙を剝く。

 

「────ぐっ!!?」

 

 アイズの死角から迫ってきた黒き靭尾によって、地に叩き落される。

 

「かはっ…!?」

 

 叩きつけられると同時に少し目を剥き、灰の中の空気と一緒に赤い鮮血が吐き出される。

 

「(体が、動かない……!!)」

 

 纏った風が僅かに衝撃を和らげたもののまともに防御行動もできないまま、地面を割る程の強烈な一撃を肉体に食らったことで体が動きを停止する。何とか力を込めてアイズが立ち上がろうとするが、そんな余裕を『大最悪』は与えない。

 

 再度翼を翻して空に舞い上がり、アイズに向き直る。その体には先程のアイズが切り裂いた傷口は綺麗さっぱり消えていた。

 

 階層中に轟き渡る程の咆哮を上げ、目の前の少女を自身の最大の息吹(ぶき)を以て滅するためにその口腔から溢れんばかりの獄炎を収束させる。そんな絶望的な光景を前にアイズの脳裏には──────

 

 

「(────お父さん…お母さん………!)」

 

 

 嘗て、最強の派閥(ファミリア)の猛者たちでさえ敵わなかった黒竜に立ち向かう両親の後ろ姿、何もできずただ泣き叫ぶことしかできない憐れな自分の姿が浮かび上がる。

 

 次の瞬間には動けない彼女諸共、万物を灼き滅ぼす竜の息吹が周囲全てを覆い尽くす──────

 

 

 

 

「っ──────?」

 

 死を覚悟し思わず目を瞑ったアイズ。しかしその予想とは裏腹に彼女のの身体に一向に猛火で焼かれるような痛みは訪れない。それどころか()()()()()()()()()()()()()()()()()にアイズが恐る恐る目を開ければ……

 

 

「レ、イ……?」

 

「────間一髪だったな。生きてるか、アイズ?」

 

 ────────────────────

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 リューとアリーゼがアルフィアを挟み込むようにして同時攻撃を行う。

 

(ぬる)い」

 

 だが、そんな絶え間なく繰り出される連撃にさえ、アルフィアは掠りもしない。それどころか、連撃の綻びを見つけ迫る刃を二本の指で先端を挟み込めば、迫り来る剣戟の嵐が一瞬にして沈黙する。

 

「また指の力だけで────!?」

「足を止めちゃ駄目よ、リオン!」

 

 僅かな動揺さえも、アルフィアの前では致命的な隙になる。

 瞠目するリューはアリーゼの言葉で辛うじてその集中を取り戻す。

 

 阻まれた刃を引き戻し、二人は距離を取ってアルフィアを取り囲むように駆ける。そして再び二人はアルフィアの前方斜め左右からそれぞれ攻撃を仕掛ける。

 

「馬鹿正直に今度は正面からか?」

 

 アルフィアは二方向から迫る攻撃に対処するため構える。

 

 だがそこに迫るもう一つの影。アルフィアの死角を突くように洗練された足運びを持って忍び寄り、輝夜は腰に構えた鞘から刀身を引き抜く。

 

 新たに迫る三方向目の攻撃にアルフィアは目もくれることなく、その視線は正面へと向けられたままだ。確実に入るという確信と共に輝夜は刀身を加速させる──────

 

 

 

 

 だが、その急速に迫って来る刃を()()()()()アルフィアは涼しい顔で上に蹴り上げる。

 

「(この速度を一瞥もせずに──!!)

 

 化け物めっ!!」

 

 アルフィアは悪態をつく輝夜の腕を右手で掴んで正面の二人に投げつける。迫ってくる輝夜を目を開きながらも咄嗟にアリーゼとリューは武器を引いてそれを受け止める。

 

 だが攻撃が呼んだ瞬間、動きの止まった三人へとアルフィアは掌を向けて唱える。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 三人に向かって、音の魔弾が迫る────その三人の前に()()()が庇うように飛び出してくる。

 

 

『ぬおぉ────!?』

 

 相変わらずの凄まじい魔力。その塊に殴りつけられ、全員吹き飛ばされる。しかし、ガレスが庇ったこともあり、全体的に軽症で済む。

 

「ガレスのおじ様!大丈夫!?」

「問題ない。あの小僧が抜けた穴は儂が埋めてやらんとなぁ。おまけに────」

 

 そこにすぐ後衛の仲間が駆けつけ、魔法と回復具(アイテム)を使って彼女達を回復する。

 

「こっちは回復薬(ポーション)万能薬(エリクサー)も山ほどあるからな!死ななきゃすぐ治してやる!」

「そこは【勇者】様々だな。しかし、相変わらず出鱈目な奴だ…!」

「ほんとにそう!こっちが必死になって頑張ってるのに涼しい顔して対処してきて嫌になっちゃうわ!」

 

 あまりの理不尽具合に愚痴を吐いていると、『神獣の触手』(デルピュネ)の方で激しい炎の爆発が起きているのが目に映る。

 

「おいおい。あっち地獄みたいになってんぞ。レイの奴大丈夫か?」

「レイを信じましょう。それに彼はそう簡単にやられるとは考えられない」

「そうよ、ライラ!今は目の前の敵に集中。大体レイなんかより私たちの方がよっぽどピンチなんだから!」

 

 そういうアリーゼ達の前には、レイの手によって僅かに手傷を負ってはいるものの自分達の攻撃を受けても息一つ上がっていないアルフィアの姿。

 

「それもそうか。ったく、面倒な役回りを押し付けられたもんだ」

「面倒でも、今の私達にはそれしか道はあるまい」

「その通り!それじゃあ、皆!ここから益々全力で行くわよ!

 

 ──────【アガリス・アルヴェシンス】!」

 

 魔法名を叫ぶと共に、アリーゼの身体を紅き焔の鎧が包み込む。

 

 これこそアリーゼの切り札(とっておき)であり、彼女の二つ名の由来たる炎の付与魔法(エンチャント)。手足や剣に纏わせた炎によって、移動速度や白兵戦での戦闘能力を飛躍的に向上させる。

 

 そしてさらに──────

 

「────【集え、大地の息吹。我が名はアールヴ】!

 

【ヴェールブレス】!」

 

 次に唱えられたのは、【ロキ・ファミリア】の最強魔導士であるリヴェリアの魔法。

 

「防護魔法だ。効果が持続する限りお前たちを守る」

 

 準備は整った。【アストレア・ファミリア】、加えてその隣に並び立つガレスは己の武器を目の前の敵に再び構える。

 

「お主達は自由に動け。危なくなれば儂が盾になる。だから迷わず突っ込め!」

「至れり尽くせりでありがたいわ!じゃあ…行くわ!」

 

 アリーゼの言葉と共に、再び彼女達はガレスを加えてアルフィアへの攻撃を再開する。

 

 前衛4、中衛5、後衛4。レイが抜けた分支援を厚くした陣形で攻め立てる。

 

「合わせて!リオン、輝夜!!」

 

「はい!」

「了解!」

 

 魔法によって加速したアリーゼに合わせて、【アストレア・ファミリア】はさらに早く、互いを補完し合う連携によって追い詰め、さらに攻撃を仕掛ける際には決して一人では行わず、常に同時に二人以上の対処をアルフィアに強いる。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

「ぐっっ!?」

「──────マリュー、回復!!」

「任せて!」

 

 そして、魔法で吹き飛ばされようとも先程と同じように、中後衛がすぐに回復して、戦線復帰させることでアルフィアに行きつく暇を与えない。

 

 

 

 次から次へと執拗なまでに攻撃を仕掛けられているその状況に、流石のアルフィアも僅かに眉を顰める。

 

「(徹底的な魔法対策に加え、間断ない攻撃と絶妙な距離感による迎撃の強制。加えてあの妖精(ハイエルフ)の防護魔法と危機的状況における(ドワーフ)の妨害。

 

 呆れるほどの『音』の通りの悪さだな。そして極めつけは…)」

 

「【吹雪け三度の厳冬──我が名はアールヴ】。

 

【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 アリーゼ達がアルフィアから距離を取った直後、後方から営業を終えたリヴェリアの魔法が氷嵐となって襲いかかる。当然のようはアルフィアの魔法によって無効化される。だが…

 

「(私の頭に魔法攻撃の意識を留めさせ、常に【静寂の園】(シレンティウム・エデン)を使わせようとしている。この如何にかして体力を削ろうとする()り方……

 

 やはり、奴等の狙いは持久戦か)」

 

 アルフィアの魔法やその()()を加味すれば、物量では優っているアリーゼ達にとってこれこそ最も最良の戦い方だと言えるだろう。

 

「あの男から私の魔法について知らされていればこうなるのも必然か」

「ええ!貴女の嫌なことやり尽くしてあげるんだから!」

「威勢が良いな、赤い娘」

 

 浮かぶ表情は飄々と、ただし振るう剣は力強く。アリーゼも他の者も決して油断なく敵を攻め立てる。

 

 数的優位、持久戦、手の内の判明。

 

 あらゆる要因がアルフィアにとって不利に働く。その環境は確かに彼女の絶対的な力を削いでいた。

 

 

 

 

 

 だが────

 

 それでも、足りない

 

 先刻から繰り返される怒涛の連続攻撃。だが、それら全てがアルフィアの身体に掠りもせず、さらには捌き続ける彼女の顔に汗一つ見えない。

 

 

 

「(クソっ!!【剣姫】とレイの共闘からどれだけ攻め続けていると思っている…!!)」

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 その一言(ワンワード)で、暴嵐が起き、輝夜達は吹き飛ばされる。

 

「先に我々が力尽きては元も子も────」

 

 冷静に戦況を俯瞰した上で、好転することはおろか悪化していると感じられる事態に、輝夜の脳内では焦燥が滲み出す。

 

 

 

 

「──────おや、既に始まってしまいましたか…どうやら、しっかりと遅刻してしまったようですね」

 

 その軽薄そうな声は場の空気に似つかわしくないほど落ち着いている。決戦のただ中にも関わらず、その()はまるで舞踏会の招待状でも持って現れたかのような空気を纏いこちらに歩み寄る。

 

「ですが…宴を楽しむことはまだまだ出来そうだ。いやぁ、良かった良かった」

 

 軽薄な笑みを浮かべた赤髪の男──────かの邪神にヴィトーと呼ばれていたその男は数人の『闇派閥』(イヴィルス)を引き連れて、18階層に忽然と姿を現した。

 

「貴様は、あの時の…!何故ここにいる!?まさか『バベル』から下ってきたのか!?」

「そんなこと、どうでもいいでしょう。私達はここにいる。ならば貴方達と存分に踊るまで。違いますか?」

 

 本来その場にいるはずのない存在の登場に輝夜は困惑の表情を浮かべ声を荒げるが、対するヴィトーは質問に対する返答はなく、ただその口元に不敵な笑みを浮かべるのみ。

 

 ──────ああ、ヴィトー。来たのか。

 

 この轟音飛び交う戦場の中、一柱(ひとり)の神の呟きなど聞こえるはずはない。だが確かにヴィトーはこの場にいる主神の気配を感じ取った。

 

「ご無事で何より。我が主。ですが、どうか焼き払われないよう注意してください。貴方が送還され私の恩恵(ステイタス)が封じられれば、彼女達との宴も楽しめない」

 

 そして、ヴィトーは目の前の輝夜に再び意識を向ける。

 

「……以前貴様が18階層に足を運んでいたのは、この時の為の『下見』だったというわけか」

「その通りです。何せ主神自らダンジョン(ここ)に赴くというのですから。手間とはいえ、万が一が無いように、と」

 

 しかし、と続けてヴィトーは饒舌に語り始める。

 

「そんな手間のおかげで貴方達(【アストレア・ファミリア】)と出会い、ひいてはかの御仁(レイ)とも心躍る闘いができた。これが出会いの運命、というやつですかね?」

「おぞましい、吐き気がする。何が運命だ、糞め……」

 

 興奮したよう好奇の笑みを浮かべ話すヴィトーとは対照的に、忌々しそうに輝夜はそう吐き捨てる。

 

 すると、舞い上がる熱気と煙の中の向こうからライラの声が響く。

 

「──────おい輝夜、どうした!っ敵の援軍!?ちくしょう、こんな時に────」

「来るな、リオン達にも知らせるな!」

 

 駆け寄ろうとしたライラをは輝夜の言葉に制止する。

 

「リオン達の集中を切らせば即座にやられる!こんな雑魚なんぞ私一人で切り捨てる!!」

「ばっ……!お前、この数を一人でなんて────」

「代わりに、お前は私の穴を埋めろ!頼んだぞ!」

「は!?そんなの無理に決まって────」

 

「た・の・ん・だ・ぞ!!」

 

「………嗚呼、くそっ!地上に戻ったら一杯おごれよ!!」

 

 有無を言わせない輝夜の剣幕に、ライラは折れてその要求を承諾する。そして、輝夜に背を向けるとその場から早急に立ち去り、再びそこには闇派閥(イヴィルス)と輝夜だけが残った。

 

「ふふふ…雑魚とは酷い言われようだ。私にもかけら程ある矜持に傷がついてしまいます」

「黙れ、屑。構ってやるのだから、ありがたく思え。本当ならば私は、あの女をブチのめしたくて堪らないのだ。レイに頼まれたのもあるしな…

 

 最後に小声で言った発言は、ヴィトー達には届かない。

 

 そして、輝夜は不敵な笑みを浮かべると自身の得物に手を掛け、ヴィトー達に向き合う。

 

「…だが、貴様にも散々、舐めた真似をされたからなぁ。その分きっちり返してやろう」

「はははっ!なんと獰猛なご令嬢だ!ならば是非、貴方一人で我々と踊って頂きましょう!」

 

 ヴィトーに続くように、闇派閥達は得物を構え、次々と襲い掛かる。

 

「心しろよ、三下共。団長同様…今の私は頗る調子が良いぞ!」

 

 

 

 

 舞台はアリーゼ達の戦場へと移り変わる。

 

 終始乱れぬ連携によってアルフィアの守りを何とか打ち崩さんと攻撃を繰り広げる。

 

「力と速度が上昇しているな。特に赤い髪のお前。『魔法』の効果だけではあるまい。稀有な『スキル』を持っているか」

「フフン、よくぞ見抜いたわね!その通り、私のレア・スキル【正華紅咲】(ルブルード・ベキア)の効果は────」

「アリーゼ、敵にスキルをバラしてはダメだ!」

 

 何故か戦っている相手に、自分のスキルの内容を自慢げに語ろうとするアリーゼを呆れ顔でリューが止める。

 

「……本当に、お前達は特別やかましいな。早く消し去るに限る」

「あら、やかましいのも捨てたものじゃないわ。だってこうして貴女の『注意』を惹きつけられるもの」

 

 その言葉にアルフィアが僅かに眉を顰めたその一瞬、小さな影が地を這うようにアルフィアの背を強襲する。

 

「おらぁああああああ!!」

 

 だが、虚を突いたその一撃ですらアルフィアは振り向きざまに受け止める。同時に自分に振るわれた攻撃の異様さに気づく。

 

盾の突撃(シールドバッシュ)?ドワーフでもない小人族(パルゥム)のお前が、何の真似だ?」

「うるせーな。頼まれちまったんだから、仕方ねぇだろ…」

「あの極東の娘は…そうか、まぁ構わん」

 

 アルフィアに自身に張り付いたライラを、その手に持つ盾を掴むと、ライラの体ごとアリーゼ達へ勢いよく放り投げる。

 

「痛ってっ!」

「大丈夫、ライラ?」

「ああ、問題ねぇ」

 

「幾度も放たれる魔法に、鬱陶しい連携。お前たちは余程、私に体力を消耗させたいようだな」

 

「その通り。お前が魔法を警戒し、その『鎧』を解かない限り、その涼しい顔に見合ってねえ精神力(マインド)がゴリゴリ削られ続ける」

「同時に、私達が絶えず攻撃を仕掛けることで、貴女の体力も奪う」

「私たちが力尽きるのが、相手がバテるのが先か。うん、わかりやすくていいわ!本当、レイには感謝しとかないと」

 

 これまで幾度も攻め続けたにも関わらず、顔色を変えない絶対的な敵を前にしても、彼女達の瞳は『勝機』の光を失わない。

 

「…つくづく忌々しい奴だ、アイツは。だが、私の魔法についてアレから聞いたならば、私のこの魔法の()()()()()も分かっているのか?」

 

 次の瞬間、まるで()()()()()()()()()()アルフィアから途方もない魔力が溢れ出す。

 

「っ!当然、わかってるわよ!」

「──────【吹雪け三度の厳冬──我が名はアールヴ】」

 

 それを待っていたかのように、いつの間にか後方にいたリヴェリアがその詠唱を終えた。

 

「!!」

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 

 極寒の三条の吹雪が吹雪が、無防備に佇むアルフィアへと急速に迫り────

 

 

 

 

 ────霧散した。

 

 

 

 

「!!」

「僅かに早まったな、エルフ。私が詠唱を開始した直後であれば、その冷気が私に届いていたかもしれん」

 

 そこには体が凍てついた様子もなく、『静寂』に身を包むアルフィアの姿。だが、それも一瞬。

 再度、アルフィアの体から莫大な魔力が流れ出る。

 

偽動作(フェイク)っ!?」

「まずいッ!みんな、退避────」

「遅い」

 

 危険を察知し叫ぶ、アリーゼの声を、魔女は冷酷に遮った。

 

「【福音(ゴスペル)】──────【サタナス・ヴェーリオン】」

 

 従来の超短文詠唱。そして紡がれる破壊の真名。

 

 全ての音を奪う空間の震撼の後、極大の『福音』がかき鳴らされた。

 

「「「────────────」」」

 

 鐘の音に似た轟然たる魔力の叫喚は、正義の眷族の悲鳴すら許すことなく、その全てを破壊の渦へと押し流した。

 

 

 

「なっっ!?」

 

 闇派閥の者たちと相対する輝夜の元にも、その破壊の余波が砂塵と共に吹き寄せてきた。

 

 体を地面に打ちつけられ、大地を転がりながらも、輝夜は何とか体勢を立て直し、アリーゼ達の姿を確認しようと顔を振り上げた。

 

 だが、そこに広がるのは巨人の足跡のごとく扇状の破壊の痕だった。

 

「団長……ライラ……リオン!?」

 

「ふっ────ははははははははっ!!強すぎる!あの堕ちた英雄がいる限り────オラリオに未来はない!」

 

 

 

 ただ一人、佇むのはアルフィアその人。

 

「産声を上げる前から、私が犯した原罪の証……嗚呼、やはりこの音色が一番忌々しい」

 

 自分が作り上げた光景に、アルフィアは達観とともに吐き捨てる。

 

「今も昔も、全てを奪うことしかできない」

 

 ────────────────────

 

「くっ……ぅぅ……!?」

 

 何とか立ち上がろうとする呻き声が、轟々と燃える炎の大地に溶けていく。

 

「………おい、生きてるか、おまえら……」

「………生きてる、けど……どうして、生きてるんだ、わたしたち……?」

 

 間違いなく決定的な砲撃を受けたにも関わらず、耳飾り(アクセサリ)があったとはいえ、未だに命を繋ぎ止めている状況に誰もが疑問を持つ。

 

「ぅう………!!おじ様っ!!」

 

 立ち上がったアリーゼが目にしたのは、目の前で膝をつく、ガレスの姿。

 

「ぐおぉ……くぅっ………!」

「おじ様っ!!」

 

 すぐに駆け寄ったアリーゼに、ガレスはその手に持っていたボロボロの『何か』を手放した。

 リューは落ちたそれを、手に取って確かめる。

 

「……これは、『盾』……?まさか、【重傑(エルガルム)】!これで私達を庇って…!」

「そんな……!」

 

「なに……儂の役目はお前たちを護ることだ……それを全うしたに、過ぎん」

 

 全身から多くの血を流しながらも、まだ辛うじて息をするガレスは少女たちに声を掛ける。

 

「それに、お前さんらを一人でも死なせようものなら、あの小僧に何をされるかわかったもんじゃないからのう……!」

「おじ様……」

 

 瀕死の状態になっても、豪快に笑ってのけるガレスの姿に皆は悲しみながらも、少し安堵する。

 

 

「──────私の魔法を受け、まだ原形を保っているとはな」

 

 耳に届いたその声に、一同は即座に顔を向ける。

 その視界の先には、五体満足でこちらを睥睨する魔女が佇んでいた。

 

「本当に無駄に頑丈だな、ドワーフ。おまけに…」

 

 アルフィアは視線をアリーゼ達から移し、その後方へと目を向ける。

 

「……ぐっ……お前達、無事でいるか?」

「リヴェリア様っ!」

「私達を庇って……!」

 

「少し離れていた故に、威力が僅かに和らいでいたとはいえ、まだ息があるか…」

 

 そこでは、魔法による回復や攻撃をしていた、【アストレア・ファミリア】の後衛の前に、リヴェリアが杖を支えに膝をついていた。

 

「一つの雑音も排除できないとは…私の魔法の腕も衰えたか……いや、ここは意地を見せた爺婆共を評価するべきか」

「っ……!」

「だが、お前達を守っていた加護も弾けた。もう次はない」

 

 足音もなく、無防備に近寄ってきたアルフィアに、リュー達の顔が歪む。

 

 

「──────お前たちにとって、英雄の伴侶に必要なものはなんだ」

 

 

 足を止めたアルフィアは、突如として彼女達に問いかける。

 

「突然、何を…!」

「お嫁さんになる条件なんて、私たちと恋バナでもしたいのかしら?」

 

「そんなくだらん話に時間を割くつもりはない。私のこれは単なる『問答』だ。今のお前たちの惨状を理解させるために過ぎん」

 

 アリーゼの言葉も意に介さず、アルフィアはただ静かに、自らの問いを目の前の彼女達に語り掛ける。

 

「……そうね……『愛情』、とか?」

「違う。そんなもの、添い遂げるのならばあって当然だろう」

 

「その……おいしい料理でしょうか…?」

「違う。お前の料理が不味かろうとどうでもいい」

 

 アリーゼもリューの言葉も偏に切り伏せられる。

 それから全員が各々の考えを口に出すが、そのどれもに対して返ってくるのは否定を示す言葉ばかり。

 

「情愛、献身、家庭……そんなものは、陽の当たる場所で命を繋ぐ凡夫たちの理だ。死地を往く者たちが口にするには、あまりに脆い」

「じゃあ、貴女が思う資格って、一体何?」

 

「ただ『強くあれ』。それだけだ」

 

 アルフィアによって示された答えは、彼女達の想像していたより遥かに単純(シンプル)なものだった。

 

「強くあれば、『英雄(奴ら)』の隣で戦える。そして、強くあり続ければ、奴らに置いて行かれることもない。どこまでも早く、誰よりも前を駆ける奴らについていけるだけの『強さ』と『覚悟』。それがあってこそ、英雄の伴侶足り得る……。だが、どうだ。今のお前達の無様な姿は」

 

 彼女は、膝をつくガレスとリヴェリアの姿を一瞥すると、冷徹な双眸で、傷ついた少女たちを射抜く。

 

「弱い。これまでも、そして今この時も、誰かに守られ、行かされているに過ぎない。そんなお前達が『英雄』と共に歩むことなどできると思うか?」

 

 アルフィアはただ淡々と、少女の心を追い詰めるように言葉を振るい続ける。

 

「数多の犠牲の上に成り立つお前達と、その犠牲を無くそうとするあの男とでは決して相容れない」

「……」

「加えて、あの男は疾い。お前達ではどうあっても奴には追い付け────」

 

「────さい」

「……何?」

 

 

 

「────うるさい!貴女に言われなくてもねぇ、そんなこと一番私が分かってるのっ!」

 

 いきなり堰を切ったように上がるアリーゼの怒号。さすがのアルフィアも、その表情に動揺が浮かぶ。

 

「私達だって必死に頑張ってるわ!でもね!レイってば、いつもすぐに突っ走るし、私の指示を聞かないし!私達なんて無くても一人で先行っちゃうのよ!!」

「しかも、アタシ達じゃ到底追いつけないような速さでな」

「そして、散々無茶をしてはボロボロになって帰ってくる始末!」

 

 最初のアリーゼの言葉を口火に、ここぞとばかりに、レイに対する愚痴が次々と周りから溢れ出していく。

 

「……開き直ったところで、お前たちの現状は変わらんぞ」

「分かってるわよ!今の私達じゃ、あの人の足を引っ張ってしまうことなんて…だから!

 

 

 

 今の私達ができるのは、あの人の居場所になってあげることよ!」

 

「!!」

 

 アリーゼの目が、凛と一層光り輝く。

 

「今の私達に、彼と肩を並べて戦うだけの『強さ』はない。だが、彼の『帰る』場所になることは私達にもできる!」

「アイツが、どんだけボロボロになっても帰ってこられるように、な!」

 

 

「だから今の私達は、全力でこの居場所を守るだけ…自分達の命を、この都市(オラリオ)を!!」

 

 アリーゼはその翠色の瞳でアルフィアを捉え、眼前の敵に向けて剣を構える。

 

「そのために、貴方を倒してみせる!!」

 

 再び、アリーゼの体を炎が覆う。そして、アリーゼの決意に呼応するように首元に光るペンダントは光り輝き、一層炎は強く燃える。

 アリーゼ以外の者達も、剣を持ち、拳を握り、杖を構えて、確かにアルフィアへとその眼差しを向ける。

 

 正義の眷族達は、あれだけの(絶望)を前にしたにも関わらず、その目は何処までも力強くアルフィアを射抜いていた。

 

 

 

「…馬鹿な……!何故、あれほどの力を前にして、絶望しない!?何故今もなお、無謀にも『強者』に立ち向かうことが出来る…!!」

 

最強(アルフィア)』を前にして、綴られた言葉は、絶望に対する嘆きではなく、『生きる意志』。

 

 ヴィトーにはその光景が理解不能だった。なぜならば、彼は『最強』を前に正しく怯え、絶望することしかできなかったのだから。

 

「はっ、そんなもの決まっているだろう。その『絶望』よりも強い『希望』を私達は知っているからだ!」

「……っ!!」

 

 輝夜もまた、自身の刀をそこに蔓延る敵を討つべく、力強く振るう。

 

 

 

「(あれだけ私との力の差を感じようと、未だその瞳から光が失われることないか…)」

 

 その時、確かにアルフィアの口元に、微かな笑みが浮かんだ。

 

「ならば、精々抗い続けるがいい。醜く足掻いて、私の失望を無くしてみせろ」

「言われなくとも、どこまでも抗ってあげるわ!

 

 みんなっ、行くわよ!!」

 

「「「「はい(おう)!!!」」」」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。