途中で三人称視点になります。
評価やコメントをもらえると、もれなく私が小躍りします。
業火に焼かれ消えゆく階層の中、俺とアイズは僅かに残った森の陰に身を隠す。
「──────よし。これで応急処置は済んだ」
「……ありがとう、レイ」
俺は自分が持っていたポーションや止血剤などを幾つか用いて、生傷だらけだったアイズの治療を終える。
「じゃあ…」
「待て。お前、まだ体力も戻ってないだろ」
「関係、ない…」
「今行っても、またやられるだけだって。止めときなさい」
フラフラと立ち上がって歩き始めようとするアイズの肩を掴んで制止する。
傷自体はある程度消えたけど、それでも『
「ここは一度態勢を整えて────」
「嫌」
「嫌って…お前なぁ…。今のお前じゃ天地がひっくり返ってもアイツには────」
「邪魔しないでッ!!!」
怒りの形相で突如として叫んだアイズは、俺の手を容赦なく振り払う。
こいつ…話を聞いちゃいねぇ……それに…。
「フゥ…!フゥ……!!」
今のアイズの目には、目の前にいる敵しか映っちゃいねぇ。
「あれは……わたしが……絶対に、斃すッ!!!」
アイズの叫喚と共に、再び黒い風がアイズの周りに吹き荒れる。
周囲の何もかもを破壊せんと渦巻く風から、俺は一度距離を取った。
おうおう…ったく、あの顔…完全に我を失ってる感じだな。
一体、あの怪物の何がアイズをここまで駆り立てているのかねぇ?
アイズの表情に顕れているのは、『神獣の触手』に対するひたすらな『敵意』と『憎悪』。
齢十にも満たない女の子が、こんな顔しなきゃいけないなんて…この世の中はつくづく残酷なもんだよな…。
「あァァァァァァ────!!」
……はぁ、仕方ない。
俺は今もなお、アイズの周囲を轟々と吹き荒ぶ嵐の中に、足を踏み入れた。
「あの
感情のまま叫ぶ少女に向けて、一歩。また、一歩と、増える傷も厭わずに歩みを進めた──────そうして、俺はアイズの元に辿り着く。
「…おい。アイズ──────」
そして、俺は目の前の少女の頭に手を伸ばし──────
「────いい加減にしなさいっ」
多少は手加減しながらも、確かに痛みを感じ取れるような威力の手刀を、アイズの脳天にお見舞いする。
「ふぎゅ────!?!」
可愛らしい悲鳴が聞こえると同時に、アイズの周りを囲っていた『風』が止んだ。
「っ……痛い…!」
「そりゃそうだ。痛くなるように調整したんだからな」
「うぅ……」
涙目のアイズは、頭を手で押さえてこちらを恨めしそうに睨んでいる。
だが、少しすると何かに気づいたような様子で体を向ける。。
「レイ…その怪我…!」
「いいか、アイズ。よく聞け」
俺の体を心配するように見やるアイズの両肩を掴み、俺はその金色の瞳と目を合わせる。
「お前は今、俺の傷を見て何をした?」
「…?心配した…?」
「そうだな。じゃあ次に、傷だらけの俺を見て、どう思った?」
「…悲しくなった?」
聞かれている意味がよく分からないって感じだな。
「──────じゃあ、今の俺と同じように傷ついたアイズを見たら、お前の仲間はどう思う?」
「!!」
そこでようやくアイズは、ハッとしたように目を見開いた。
「そうなんだよ、アイズ。お前が今、俺を心配したようにアイズの傷ついた姿を見たら、俺も心配するんだ」
「……」
「俺だけじゃない。リヴェリアさんやガレスさん、それにここにはいないお前の【ファミリア】のみんながお前ことを大事に思ってる。だから、そんなお前が一人傷つく姿なんて誰も見たくねえんだよ」
「……うん…」
「それに、あんまりにも無茶をしたら、もうジャガ丸くんを食べられない体になってしまうかもな~」
「!!そ、それは困るっ!!」
……この言葉が一番効いてそうだな。
「だったら、一人で突っ走るな。誰でもいいから助けを求めろ。お前の仲間は可愛いお前のお願いを、無下にするほど薄情な人間じゃないだろ?」
「うん……ごめんなさい」
まぁ…一人で何でもやっちゃうことに関しては、俺が言えたもんじゃないんだけど。
「────アイズ、お前が戦う理由は何だ」
「……皆を守るため…」
「なら、それを何よりも強く心に刻め」
目の前で自身の胸に親指を立て、アイズに言い聞かせる。
「俺には、お前とあの怪物の因縁なんざ全くわからん。けどな、お前の一番強い思いが『皆を守る』ことってなら、その『怒り』に飲まれちゃだめだ。その『怒り』と『憎しみ』を制御しろ」
「制御、する……?」
あ、なんか頭から湯気出てきた…ちょっと言ってることが難しすぎたか。
「要は、嫌いな怪物じゃなくて、自分の大好きな仲間のことを頭に思い浮かべて戦えってことだよ」
「!!……うん、分かった。頑張ってみる…!」
「よし、いい子だ。アイズなら絶対できるぞ」
俺は拳をぎゅっと握りしめて気合を入れるアイズの頭に、優しく手を置く。
うんうん……やっぱりアイズは可愛──────
その瞬間、俺たちの上空を黒い影が覆い、そのままこっちめがけて振り下ろされた。
辺り一帯に広がる大地の震撼。
周囲の木々も吹き飛ばしてしまうほどの衝撃波と砂煙がその場を包み込む。
「────────?」
だが、砂煙が晴れ、そこに残る破壊の痕に俺たちはいない。
「……ったく、折角人がほっこりしてたってのに」
俺はさっきいた場所から少し離れた岩場に、腕に抱えていたアイズをそっと下ろす。
「さて、そろそろあのバケモンを討伐するとしますかねぇ…」
「──────ーねぇ、レイ」
アイズからの呼びかけに、俺は一度振り返る。
そこにいたアイズの表情は、まるでわがままが叱られるの怖がるような、拒絶されるのを不安がるようなもので…
「どうした、アイズ」
「さっき誰でもいいって言ってたよね。それはレイでもいいの?」
「当たり前だろ。現にこうしてここに来てるし」
「そっか、なら………わたしの、『英雄』になって欲しい」
「!!」
意を決したように、放たれた言葉に、俺は僅かに瞠目する。
『英雄』か……
アイズの様子に目を向ければ、僅かに不安を残しながらも、その瞳には確かな決意と……『願い』があった。
「……アイズ。お前は前に俺が言ったことを覚えてるか?」
「えっ」
「あの時、俺は言ったよな。自分を求める奴の前に、『英雄』は必ず現れるって」
「うん」
じゃあ、『答え』は決まってるじゃねえか。
「お前は今、俺に『助け』を求めた、だろ?」
「!!じゃあ…!」
「おう。なってやるよ、お前の『英雄』に」
アイズみたいにかわいい女の子から、『英雄』なって欲しいなんて言われて断る男がどこにいるってんだ!
と言っても、多分だがアイズにはもっと相応しい奴が現れると思うんだがな…
「レイ、ありがとう…」
「どういたしまして。さて、救いを求めるお姫様、貴女はこの英雄に何を望む?」
わざと仰々しく問いかける俺の姿に、アイズはクスっと笑みを浮かべる。そして、今一度手に持った愛剣を握りしめ、大きく息を吸い込んだ。
「────一緒に戦ってほしい」
「仰せのままに…ってな」
俺は再び、背後に振り返り、俺たちへと咆哮する怪物に向けて、刀を抜く。
「じゃあ…行くぞ、アイズ!」
「うん!!」
その言葉と同時に、俺とアイズは大地を蹴って、『
────────────────────
「【
紅き雷が燃え盛る大地を駆け、破壊を続ける漆黒の怪物へと蒼炎を撃ち放つ。
撃ち込まれた炎の弾は怪物の表皮を抉り、苦悶の叫びをあげさせる。
「なんか…思ったより効いてないな。炎を扱う竜種だから多少の耐性があんのか?」
「──────ー!!!」
「おまけに、やられたとこから即再生…おっと」
そこからレイを狙って、何度も飛んでくる砲撃の全てが魔法によって加速した彼の背後の地面を抉ることしかできない。
「おいおい、俺にばっかりに構ってていいのか?」
「────【
「グガァァァァァァ!!?」
怒号の如き咆哮。その怒りをぶつけるように、溜め込んだ業火を吐き出さんと今度はアイズに向けて口を開く────が。
「【縛れ】」
「グアァァァァァァッ、──────!!?」
突如として現れた蒼炎の鎖が、怪物の顎を縛り付ける。溢れ出そうとしていた炎は怪物の口の中で爆発し、自らの喉を焼け焦がす。
「アイズ、合わせろ!」
「うんっ、やぁぁぁぁぁ!!」
自身の炎に身悶え隙を晒す『
飛ぶ手段を失った怪物は、そのまま大地に墜落する。
「さて…これで少しは堪えてくれるとありがたいんだが…」
地面に着地したレイたちは、咆哮を上げ地に伏せる『
次の瞬間、怪物の口から炎が漏れ出すとともに、その口が彼らの方に向けられる。
「「!!」」
すぐさま二人はそれぞれ左右に回避。その二人の間を抜けるように、放たれた獄炎が大地を溶かした。
「まだまだ元気だなぁ…」
「もう、翼もほとんど再生してる」
爆破されたはずの口部はすでに元の状態に戻り、翼も全体の七割近くまで再生している。
「いや…再生どころか…。
レイの言葉の通り、治りかけの翼の下から、新たにもう一対の異形の翼が顕れようとしていた。
「(あの感じ…今もなお成長の最中ってわけか)」
都市を破壊するために生み出された『大最悪』は、目の前の障害を取り除くべく現在進行的に『進化』していた。
「ダンジョン深くの階層主ってのは、あんな馬鹿げた再生能力を持ってるもんなのか?」
「ううん。フィンたちからも、そんな
「流石は
「倒せるまで切り続ければ…倒せるよ?」
「……脳筋過ぎるだろ」
本人としては至って真剣と感じ取れる表情で、物騒なことを口走るアイズに、レイは思わずあきれ顔になる。
「まぁ、こういうタイプの対処法は大抵一つだ」
「それって…?」
「一撃必殺だ」
魔石狙いの一点突破。
どれだけ強力な再生能力を持とうとも、
「ただ、そのためには魔石が何処にあんのか見つけなきゃならない」
「じゃあ、魔石が出てくるまで切りまくる…?」
「またお前そんな乱暴な……いや、意外とアリか?」
今度のアイズの提案に対し、レイは先程のように呆れたようにため息をつくのではなく、顎に手をやって少し考える。
「……よし、アイズ。少し乱暴なやり方だが、アイツの全身の
「そうすれば、あの
「おう」
「分かった。私の『英雄』の言葉を信じる…!」
「任せとけっ!」
その言葉を最後に、アイズとレイはそれぞれ左右に分かれて、『
「グオォォォォォォォォォッ!!!」
それを捉えた『
だが、いくら大地を溶かすほどの高熱の炎を放とうと、『風』と『雷』を纏う二人を炎が捉えることはない。
「【
「【
猛烈な旋風は漆黒の剛皮を抉るように。
凄絶な紅雷は黒鎧を灼き切るように。
二種の斬撃が織り成す広域連撃は、怪物の巨躯を覆う漆黒の外殻を剥がし、階層全体に『
「グガアァァァァァァァッ!!」
一時的に再生が追い付かないほどの斬撃の嵐。怪物の強固な鎧が剥がれ、生々しい肉が剝き出しになったその瞬間────
「【
レイは地面を蹴り、無防備な肉壁へと肉薄。赤雷を纏いし刀を剝き出しの肉に突き立てる。
そこから『
それは攻撃のための雷ではない。強大な怪物の肉体の魔石を探り当てるための触覚。
怪物の体中を暴れ回る赤雷の感触が、レイの脳内に「地図」として描き出されていく。軟らかい内臓、硬いそして──。
「……見つけた」
赤雷が流れる体内の一ヶ所。それまでの分厚い肉とは違う、硬い『壁』のような感触。
「……ッ!!?」
だが、それに気づいた瞬間。『
その衝撃で怪物の肉体から刀が抜け、その反動でレイは思わず上体を反らす。
「ぐ────ッ?!」
レイに生じた確かな『隙』。そこを突くように漆黒の靭尾が彼の体を殴りつけ、後方へと吹き飛ばす。
「っがァ……!」
「──────レイ!」
土壁に身体を叩きつけられたレイの元へ、アイズが風を纏って駆けつける。
「痛てて……」
「レイっ、だいじょうぶっ!?」
「悪い、少し油断した。大丈夫だ」
レイのことを心配するようにペタペタと身体に触れるアイズに、問題ないと伝えるように手を軽く振い笑って答える。
ただ、それでもまだ離れようとしないアイズを落ち着かせるために、レイは彼女を一度抱えて自分の正面に降ろした。
「アイズ、あれの魔石の位置が分かった」
「!! ほんと?」
「胸辺りだ。ただタダでさえ大きい上に、他のとこより幾らか頑丈な
「じゃあ、どうするの…?」
少し不安そうに首を傾げるアイズに、レイは快活な笑みを浮かべる。
「削ると同時に、一撃で魔石を貫く。そうすればアイツを討てる」
「私は何をすればいい?」
「俺がアイツの表皮を削る。アイズはそれまで力を溜めてくれ。そんでいざその時が来たら、お前の出せる最大火力をぶつけろ」
「それまで、レイが一人であの
「お前の『英雄』が信用できないか?」
「…ううん。私は私の『英雄』を信じるよ」
アイズは力強く頷くと、自身の
「よし…ここで決めるぞ、アイズ…!」
「うんっ…!」
「いよいよ、英雄と怪物の雌雄が決する時か……君もここに来て、それを見届ないか?」
業火に包まれる階層で、エレボスの側に倒れるのは
彼等を切り捨てた冒険者達に守られ、現れたその
「ごめんなさい。貴方の隣は遠慮させてもらうわね」
場違いとも思える、純白の衣装に身を包んだ女神──────ーアストレアが、18階層の地に現れた。
「つれないな…。その冒険者…ヘルメスの子か。戦いに臨んでいる己の眷族の代わりに、ここまで護衛させたというところか?」
「ええ。無茶をして力を貸してもらったの……貴方に会うために」
「ここで『
これまでの騒動の元凶を討つ絶好の機会。しかし、それを前にしてアストレアは
「
「……であれば、最初の誘いを断る必要はなかったんじゃないか?」
「ふふ、それとこれとは別よ」
強かに微笑む女神を前に、邪神は僅かにため息をついた後、再び『
「『英雄』による怪物退治……さぁ、ありふれた英雄譚の結末をこの俺に見せてくれ」
「──────グオォォォォォォォォォッ!!!」
再び響き渡る怪物の大咆哮。
開かれた口からは、またしても悉くを焼き尽くす業火が放たれた。
「【
対するレイの刀に宿るは静謐な蒼い炎。
大地を駆け出し、振るわれた斬撃は目の前の獄炎を僅かな衝突の後、両断する。
「──────!?」
「同じ炎だろうと、
今の感触を確かめるように刀を握り、レイは怪物への疾走を再開する。
そこから、レイを目掛けて砲撃が幾度も放たれるがその全てを身を翻して躱すか、蒼炎を纏う一刀によって切り捨てられる。
「──────いい加減…」
『
自身の目の前に現れた敵を今度こそ滅するために、怪物は口を大きく開き、砲撃を構える。
「その口閉じろっ!!」
だが、鞘を着けた状態で怪物の鼻先へと振り下ろされた一撃が、業火が放たれる前に強制的に口を塞ぐ。溢れ出そうとしていた炎はそれが叶わず、自らの口の中で炸裂する。
「もう一丁!!」
飛んだ勢いをそのままに抜刀し、怪物の後頭部から背中まで流れるように斬り付ける。そして、背中の上でレイは一度足を止めると、怪物の両側に広がる異形の翼に両手を向ける。
「【
紡がれる短文詠唱。両の掌から打ち出された赤き雷槍はその翼に風穴を開け、『
そして、次の瞬間には赤雷を纏い、怪物の目の前に降り立つ。腰に構えた刀を引き抜けば、魔石が眠る胸部へと連撃を浴びせる。
「グアァァァァァァァァァァァ!!?」
繰り出される攻撃は、嵐に迸る雷のように激しく降り注ぎ、怪物に叫喚を上げさせる。
だが、『
「ちぃっ……まだまだぁ!」
蒼炎の壁を展開し威力を弱め、空中で体勢を整えると、吹き飛ばされた土壁を踏み締め、すぐさま『
「【
『
自らを蝕む赤雷を前になすすべもなく倒れ伏す漆黒の巨竜。その存在の目の前にレイは再びその姿を晒す。
「────ッ!? グガァァァァァァァァァァッ!!」
目と鼻の先に佇む
だが、その凶爪がレイの命を刈り取るより先に…彼の言葉が綴られた。
「【
その一言が響いた瞬間、レイを引き裂こうとしていた巨腕は突如として動きを止める。
怪物の腕部を、いやもはやその巨躯全体を、赤雷によって形作られた鎖が縛り付けていた。
「──────ッ!!?」
「詰みだ。──────【
怪物の胸部に添えられたレイの掌から、竜の息吹の如き巨大な赤雷が、『
迸る雷撃は、怪物を覆う硬い表皮と肉を諸共に灼き尽くす。
「…ふぅ…お前、
身を焦がす赤雷に苦しみながらも、自身の肉体を縛る鎖を引き千切ろうとしている『
レイが戦っていた後方、アイズは剣を構え、魔力を高める。
「…まだ、足りない……あれを倒すには……まだ…!」
前に蔓延る強大な敵を打破するために、アイズは力の全てを注ぐ。
「もっと、力がほしい……!」
その欲求に応えるように、アイズの『風』が再び黒く染まり始める。
「(あれを倒さないと……また、だれかを傷つける…!だから、今ここで…わたしが…!!)」
怪物を倒すというアイズの強い思いが増せば増すほど、彼女の意識を『怒り』と『憎しみ』……感情の渦へと今一度引き戻す。
彼女の周りを渦巻く黒い風はその欲求に同調し、激しく吹き荒れる。
そして、感情の高まりのままに増大する黒い風はいつしかアイズを包み込み──────
「私が……わたしがぁ──────」
「────アイズ」
「!!」
アイズの肩に触れたレイの手と呼び掛ける声が、深淵に沈んでいた彼女の意識を現実へと連れ戻した。
「
「でもっ…!」
「代わりに…これを持ってけ」
触れていたレイの掌からアイズの身体へと魔力が流れ出す。迸る赤雷は彼女の武器へと移り、燃ゆる蒼炎は彼女の肉体を包み込んだ。
「これって…」
「俺の魔法をお前に付与した」
「……あったかい…」
「あんまりやり過ぎるとお前の身体に負荷がかかるから、これ一度限りの技だ…いけるか?」
「……」
少女はそっと目を閉じ、頭の中に優しきエルフ、強靭なドワーフ、頼れる団長…【ファミリア】の家族達──────そして、自身の『英雄』の姿を夢想する。
その金色の瞳が開かれた時には、黒い風は消え去り、緑の『風』が強く吹き上げていた。
「……うん、ありがとう────行ってくる」
「おう。行ってこい……後はお前に任せるよ」
レイの手がアイズの背中を押すとともに、彼女は『
「──────ッ!!!」
死期を悟った『
だが、彼女の瞳に恐怖はない。
その身体を包み込むのは、彼女自身の『翠風』、そしてレイから授けられた『蒼炎』と『赤雷』。
「ハァッ!!」
迫りくる獄炎の直前、アイズの背後で蒼炎が爆轟を起こした。
自身の風と、レイの炎による爆発的な推進力。
物理法則を置き去りにした超加速が、アイズの身体を『弾丸』へと変える。
迫る火柱を紙一重で回避し、アイズは虚空を駆ける。
右へ、左へ。放たれる追撃の全てを彼女は置き去りにする。その軌跡は、暗雲を切り裂く一筋の流星のようだった。
「グガァァァァァァァッ!!?」
怪物の視界から、獲物の姿が消える。
次の瞬間、アイズは怪物の懐────レイが暴き出した、魔石を護る胸部へと肉薄していた。
「────行くよ」
アイズは愛剣を正眼に構え、全魔力を一点へと収束させる。
吹き荒ぶ緑の旋風が、刀身に宿る赤雷を巻き込み、蒼き炎を纏って巨大な『槍』へと変貌した。
「行け、アイズ────」
アイズ自身の【風】を主軸とした巨大な螺旋は、真っ向から迫りくる獄炎を真っ向から切り裂き、怪物の胸部へと到達する────
「──────ーリル・ラファーガ!!」
三種の精霊の力を合わせた究極の一突き。
吹き荒れる絶大な『風』は『
そして──────ー貫いた。
衝撃波が階層全体を震わせ、吹き荒れる緑の残光が周囲の業火を丸ごと飲み込み、静寂へと変えていく。
中心にいた漆黒の怪物は、心臓を撃ち抜かれた絶望にその身を震わせ……やがて、未練を残すことさえ許されず、音もなく灰へと還っていった。
「………やった…」
「────お見事。かっこよかったぞ、アイズ」
背後から、少し疲れたような、けれど晴れやかな声が届く。振り返ると同時に、その温かい手がアイズの頭にやさしく置かれる。
「……うん。レイが、いてくれたから」
そう言って、アイズは今日一番の、年相応な少女らしい微笑みを浮かべた。
────────────────────
「倒した…」
「……深淵より連れ出した怪物をも屠るか…」
目を見張るアストレアとは、対照的にエレボスは神妙でな面持ちで、それでいてどこか満足そうな表情で呟く。
「────ここからは、新たな英雄への『試練』だ」
だが、その表情も一瞬。その視線が向く先は、轟音響く次の戦場。
「レイ、お前は……