先導の英雄   作:無銘のヲタク

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評価・感想ありがとうございます。

今回の話も是非読んでってください。


力の差

 

「──────【鬼霊召還】。【纏え(ナルカミ)】!」

 

 魔法を出し惜しみせず発動し、雷鳴と共に一気にザルドの間合いまで踏み込む。

 

「フンッ!」

 

 当然、それに対しザルドも迎撃に来る。

 空気を引き裂き振り下ろされる大剣を紙一重で躱し、がら空きの側面へと滑り込む。

 

「【吹きあがれ(シラヌイ)】」

 

 そこから蒼炎の噴出による爆発的な加速を乗せた蹴りを叩きこむ。凄まじい衝撃波を撒き散らし、ザルドの巨体が大きく吹き飛んだ。

 

 今のうちに────ッ!

 

 背後に生じた微かな空気の震え。俺は迷わず刀に炎を纏わせ、振り返りざまに一閃を放つ。

 確かに()()()手応えと共に、その先に掌を翳して立つ女の姿が目に映った。

 

「…防いだか」

「危ねえな…!」

 

 見えないってのは頗るやっかいだな、まったく……。

 

 俺は吐き出す息と共に熱を捨て、アルフィアへと駆け出した。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 距離を詰める俺を目がけ、音の弾丸が空間を歪めながら翔ける。

 目に見えぬソレを、研ぎ澄まされた直感だけを頼りに切り捨て、最短距離を突き進む。

 

「…ちっ」

「ハァァァ!」

 

 どうせ、付与魔法(エンチャント)を纏ってんだ、蒼炎(ほのお)は要らない。

 

 纏っていた蒼炎を消して肉薄。アルフィアへと刀を振るう。

 

 右、左、斜め。魔法を用いて強化された肉体で何度も刀を振るうが、往なされ、躱され、上手く捌かれ、俺の刀をアルフィアの鈍く光る灰髪を掠めるに留まる。

 

 あーもう、本当に…後衛の動きじゃないって!

 あと、たまに服の方にも掠ってるってのに、まともに傷がつかないんだけど…。どんな装備だよ。極めつけは…

 

 上段から振り下ろした渾身の一撃。それが彼女の頭に届く直前、無造作に上げられた()()()によって阻まれる。

 

 あの手套だよ。刃を正面から受け止めて火花を散らすなんて、どんな強度してやがる!

 あれが無きゃ、まず間違いなく俺の方が有利だっただろうに…。

 どうする……こうなったら、蒼炎で威力増してゴリ押して──────

 

「……私だけに構っていていいのか?」

「──────ッ!!」

 

 それを避けれたのはほぼ直感だった。

 

 背後に膨れ上がった強大な『殺気』。俺はアルフィアをガードの上から蹴り飛ばし、瞬時にその場で身を屈める。先程まで俺の頭があった位置を、漆黒の質量が猛烈な速さで通過した。

 

 …………。今、屈まなかったら、首が刎ね飛ばされてた…!

 

「俺だけ、仲間外れにしてくれるなよ」

「いやぁ…もう少し、休んでてもいいんだけど?」

「断る」

 

 拒絶の言葉と同時に再度迫る大剣。振り返りざまに放った一刀が正面から衝突し、鼓膜を震わせる金属音と共に激しい火花を散らした。

 

「ちゃんと『待て』が出来ない猛犬はこれだから…!」

「極上の獲物を前に、餓えた肉食獣が我慢できると思うか」

「ったく…面倒くさい、なぁ!」

 

 刀を振り抜き、反動を利用して一度距離を取る。

 

 真正面から殴り合ったら、どうしても力負けする。だったら…

 

 俺はそこから、旋回する風のようにザルドの周囲を囲う軌道で走り始めた。

 

「【纏え(ナルカミ)】」

 

 赤雷が剣を這うように迸り、刀身を赤く染め上げる。

 急速な方向転換。慣性をねじ伏せ中央のザルドへと肉薄し、一閃。

 

「────っ」

 

 そんで、反撃が来る前に離脱して…もう一回!

 

 遅れてやってくる大剣の旋回に合わせ、再度高速で斬りかかる。赤雷に染まった斬撃が鎧の隙間を掠めると、凄絶な電撃がザルドの巨躯を縛る。

 

 ザルドの武器は大剣。長い剣身から繰り出される圧倒的な攻撃範囲に加えて、その一撃に込められた破壊力が持ち味とされる。

 そんな得物(もん)がザルドのステイタスから放たれたら…あら、びっくり!どんな防御もゴミ屑同然に粉砕する破壊兵器の爆誕だ。ザルドが持つのに、これほど相応しい武器は他にない。

 

 ただ、そんな強力な武器の弱点が、大きな攻撃動作だ。その大きな剣身故に、攻撃がどうしても大振りになって、俺の攻撃に対して反撃が遅れる。おまけに、赤雷の麻痺で僅かに動きを縛れば、反撃はさらに遅れる。

 

 

 故に追いつけない。

 

 

「はぁぁ!」

 

 何度も、同じ流れでザルドを攻め続ける。その度に確実にザルドの体にダメージは蓄積されていく。

 

「このまま一気に叩く」と決め、俺が大地を強く踏み抜いた瞬間────視界を漆黒の大剣が埋め尽くした。

 

 ッ!!この速さでも、もうカウンターを合わせてきた…けどな、あんたらの化け物っぷりは、散々身に染みてんだ。それぐらい想定内だ…!

 

 直撃の寸前、紙一重で身を躱す。さらに踏み込み、空いた背中へと刀を叩きつける。

 

 よし、もう一度────

 

 

 

 

「────飽きたな」

 

 

 

 

 呟きが耳に届いたのと同時に、ザルドが剣を持たぬ側の手で、俺の足を掴んでいた。

 

 ……は?

 

 驚く間もなく、持ち上げられた俺の身体は地面へと思い切り叩きつけられた。

 

「がぁっ…!……っ!」

 

 背中から伝わる衝撃に、肺の中の空気が無理矢理吐き出される。

 追撃とばかりに振り下ろされる大剣はギリギリのところで転がって躱し、一度距離を取って乱れた呼吸を整える。

 

「……なんで、電撃喰らってんのに硬直無し(ノータイム)で動けんだよ…」

「その雷にはもう()()()

「……えぇ…」

 

 慣れたって……おーけー、わかった。俺の認識が甘かった。この人達は俺の想定を超える化け物だったわ……おっと。

 

 咄嗟に後方へ跳ぶ。直後、さっきまで俺がいた場所へアルフィアの魔法が着弾し、大地が大きく爆ぜた。

 

「この程度か?『英雄』よ」

「俺達はまだ、何も満足していないぞ」

 

 好き勝手に言ってくれるなぁ……。大体この人達なんでこんな動けんだよ!

 いやまぁ、俺のせいなのかな……?

 

 悪化した持病を緩和する『大聖樹の枝』、怪物の猛毒を抑えるための解毒剤……。それらの代わりに、この人たちは戦闘中に精霊の加護が色濃く混ざった俺の血を浴び、魔を絶つ俺の聖炎を喰らった。

 おそらく、それがこの人たちの力を、今まで以上に引き出しちまったんだろうなぁ……いやぁうん。アリーゼ達や【猛者】(オッタル)さんには申し訳ないことした気がする……これ、症状緩和されてなかったからワンチャンあいつら勝ててたんじゃね…?

 

 はぁ……ちゃんと、自分の失態の尻拭いしないとな。

 

 

「【纏え(ナルカミ)】────【纏え(シラヌイ)】」

 

 

 詠唱と共に俺の体に赤雷が走り、そこからさらに重ねて、体を蒼炎が包み込む。

 

「……魔法の重ね掛けか」

「まだそんなものを隠していたか」

「これ、結構身体に負荷がかかるんだよ。けど…あんたら相手にそんなこと言ってられないからな」

 

 とりあえず今は、目の前に蔓延る高い壁…俺はそれを全力で、乗り越えよう。

 

 刀を腰の鞘に戻し、左足を半歩後ろに下げ、右手は柄に。右足が地面を擦るように前へと少し屈み、目は真っすぐ敵を見据える。

 

「──────行くぜ」

 

 柄を握り、刀を抜くと同時に、両足で大地を強く踏みしめ──────一息に踏み込んだ。

 踏み込みと同時に、魔力が爆ぜ、爆発的な加速を以て、大地を駆ける。

 

「!!」

 

 僅かに瞠目するザルド。その構えられた剣に俺の刀が触れた瞬間、解き放たれた爆炎がザルドの巨体を押し飛ばす。

 

 もう一歩。

 

 再度踏み込んだ瞬間、そこから爆ぜた蒼炎が体を押し出し、迸る赤雷による加速で、距離の離れたザルドに一瞬にして追いつき、横から刀を振りぬく。

 

 …浅いかっ。

 

 直前で身を引いたようで、俺の一撃はザルドの体を掠めるにとどまる。だが、これだけでは終わらない。さらに踏み込んで、ザルドのリーチを潰し、超接近戦で切り結ぶ。

 

「ふっ!」

「っ…おぉぉ!」

 

 防戦を嫌ったか…無理矢理俺との間に剣を入れて、距離を離した……。そんで、間合いを確保してからの振り下ろし。

 

 その一撃に刃を沿わせると、剣からその膂力に見合う『重さ』を伝わってくる。だが、刀から炸裂させた蒼炎の衝撃で、その威力を強引に地面へと受け流す。

 

「────!」

 

 そこから空いた上半身へと切り込むも、下から振り上げられた大剣に弾かれる。

 

「胴ががら空きだぜっ!」

「ぐっ…!」

 

 隙を突き、ザルドの腹部へ回し蹴りを叩きこむ。接触した瞬間に蒼炎を炸裂させ、その威力を倍増させてザルドを吹っ飛ばした。

 

 

 

 俺の二種類の力は纏う際、それぞれ違った特性がある。赤雷(ナルカミ)は纏えば常に【敏捷】を底上げし攻撃時には相手を麻痺させるのに対し、蒼炎(シラヌイ)は踏み込んだ瞬間などの一時的な【敏捷】の増大と攻撃の際の威力増強に特化している。

 

 だからさっきみたいに自分より強い【力】で振るわれる一撃も無理矢理弾いたり、蹴りを放った瞬間に炸裂させてその威力を増幅させるような使い方が出来る。

 

 

 

 ただ、さっきも言ったが赤雷(ナルカミ)を使った上で蒼炎(これ)も使うと『器』に見合わない力を振るう『反動』がある。だから、こっから早めに距離を詰めて────ちっ。

 

 踏み込む直前、身体を強引に捻る。横槍を入れるように飛来した不可視の魔弾を紙一重で躱した。

 

「邪魔すんなよ…!」

 

 やっぱり遠距離(アルフィア)から、やらないとダメか。

 

 身を翻して一気に駆け出す。魔法の照準を狂わせるため回り込むように走れば、俺の後ろでとてつもない衝撃が鳴り響き、生まれた暴風が俺の背を叩く。

 

「ちょこまかと…」

 

 アルフィアがバックステップで距離を取るが、俺の加速がそれを凌駕する。

 一気に踏み込み、刀を振るおうとした────その時だ。

 

 

 

 視界の端に映った漆黒の影。俺は転身し、防御の姿勢を強制された。横合いから突撃してきた大剣を必死に受け止める。

 

 この人、どうやって俺に追いついて…まさか、アルフィアと俺が間合いが消える場所を先読みして、最短距離で突っ込んできたのか…!?

 

「猪かよ…!」

「それはあのオッタル(糞餓鬼)だ」

 

 ザルドは突撃してきた勢いそのままに、鍔迫り合いの状態で俺を力任せに押し出す。

 

 くそっ、これだと【力】の差で押し切られる…!

 

 俺は地面を蹴り、蒼炎の炸裂で無理やり横へと抜ける。だが奴は逃がさない。俺の動きを追うように放たれた横薙ぎの一撃に、刀ごと弾き飛ばされた。

 

「【福音】」

「!!【切り裂け(シラヌイ)】」

 

 空中の俺へアルフィアの砲撃。死に物狂いで反応し、衝撃波を切断して致命傷を避ける。

 

「ふんっ!!」

 

 休む暇もない。ザルドの大剣が頭上から迫る。

 

「きっつい、なぁ!」

 

 着地と同時に再度爆発。身体を右へと独楽のように回転させ、大剣を側面から叩いて軌道を逸らす。

 

「ほう、よく凌いだ」

「お褒めに預かり光栄だよ…!」

 

 軽口を叩く間にも次の攻撃が。俺はそれを……()()()()()()()()()()()、掌で蒼炎を炸裂させてその反動で高く跳び上がった。

 

「!!…猿か?」

「【放て(シラヌイ)】!!」

 

 俺が空中にいたまま、砲撃(魔法)を放てば、ザルドの巨体が爆炎に包まれる。

 

「誰が猿だよ!」

「【福音(ゴスペル)】」

 

 そう来ると思ってた…!

 

「【阻め(シラヌイ)】」

 

 俺に放たれた魔法を凌ぐも、空中では衝撃を殺しきれず、少し吹き飛ばされながらも空中で態勢を整えて着地する。

 

 危ない危ない。さて、ザルドの方は……

 

 

「────熱いな」

 

 ……やっぱそんなに効いてないなぁ…

 

「アンタ頑丈すぎだろ。結構な威力だったと思うけど?」

「足りないな。俺の体を焼き尽くすには、この程度の熱量ではまだ(ぬる)い」

 

 そんな湯加減みたいな言い方されてもなぁ……あぁぁ、誰か今すぐ聖域(オリンピア)の『天の炎』を借りてきてくれ…!

 

「さぁ、続きだ…!」

「っ…はぁぁぁぁぁ!!」

 

 口元に笑みを浮かべたザルドへと、俺は再び大地を蹴った。

 

 ────────────────────

 

 二柱の『最強』を一人で相手にする。

 嘗ての彼らを知るフィンさん達からすれば、無謀も良いところだろう。

 でも、確かに今の俺は確かに、彼らと互角に勝負を繰り広げていた。

 

「【迸れ(ナルカミ)】!【爆ぜろ(シラヌイ)】!」

 

 赤き雷が四肢を叩き起こし、蒼き炎が背中を押し出す。

 二つの力を纏う俺は、爆発的な機動力で階層を縦横無尽に駆け抜けた。

 

「シッ!」

 

 一瞬でザルドの死角へ。赤雷を纏わせた鋭い一太刀が、漆黒の大剣の隙間を縫って奴の喉元を狙う。

 ザルドは眉一つ動かさず、最小限の動きで大剣の柄を立ててこれを受け止めた。

 

「じゃあ、これならどうだよ!」

 

 衝突の瞬間、刀から蒼炎を炸裂させる。その衝撃を利用して、俺は重力に逆らうように空中へと跳ね上がり、そこからさらに炎を噴出させて反転。真上から弾丸のような急降下攻撃を叩き込む。

 

「ぬんっ!」

 

 ザルドが吠え、大剣を豪快に振り上げた。

 相変わらずのバカげた反応速度に舌を巻くが、俺は空中で蒼炎を爆ぜさせ、ありえないような方向転換でその一撃を回避。着地と同時に振り上げたことで隙が生まれたザルドの背中に一太刀浴びせる。

 

 今度はそこから今度は離れた位置で掌を向けていたアルフィアへと肉薄する。

 

「【福音(ゴスペル)】」

「【切り裂け(シラヌイ)】!」

 

 放たれた不可視の衝撃を。俺は蒼炎を纏わせた刀で正面から断ち切った。

 そのまま、目にも留まらぬ踏み込みでアルフィアの懐へ。

 

 刀身以外に赤雷を回し、超高速の連撃を浴びせる。

 

 右、左、袈裟、逆袈裟。

 

 アルフィアは静寂を纏ったまま、そのすべてを手套や身のこなしで捌いていく。だが、俺もただ振っているわけじゃない。一撃ごとに蒼炎の小規模な爆発を混ぜ、奴の防御を強引にこじ開け、その体に切り傷をつけている。

 

 

 ──勝負になっていた。

 

 かつて三大クエストの内、二つを屠った英雄二人を相手に、俺は一人で立ち回り、その猛攻を凌ぎ、なおかつ反撃の糸口を掴もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 状況は、徐々に、けれど確実に俺を追い詰めていく。

 

「──────甘い。【福音(ゴスペル)】」

「……っ、がっ……!」

 

 やべ……間合いミスった…!

 

 繰り広げられる接近戦の最中、僅かに間合いが開いてしまった瞬間に、アルフィアの魔法が放たれ、俺の体を掠める。

 

 直撃は避けてる上に、魔法を纏って防御してんのによぉ…!

 

 威力を削いだ上で、そのたびに内臓が揺さぶられるようなダメージが蓄積していく。

 不可視の攻撃、不可避の余波。 一言(ワンワード)だけで放たれる、馬鹿げた砲撃に俺はもう半ギレである。

 

 おまけに…

 

 アルフィアを攻め立てる中、突如として割り込んできた剛撃を耐えながら、回避。

 そして、すぐさま俺が蒼炎による加速でザルドの背後を取った瞬間。

 

 

 

「もうその動きにも慣れた」

 

 奴は振り向きもせず、大剣の石突きを俺の鳩尾へと突き出してきた。

 

 速い…いや、読まれたのか。加速のタイミングをもう完全に読み切ってやがる…!

 

 俺は咄嗟に刀を盾にするが、伝わってくる【力】に抗いきれず、そのまま押し切られた。

 

「くっ…!?」

 

 勢いのままに、弾丸のように後方へ吹き飛ばされる。

 それに追いすがるザルドの剣。

 

「っ…!【縛れ(ナルカミ)】!!」

「むっ」

 

 咄嗟に展開した、赤雷の鎖がザルドの体を拘束した。

 

 少し止まっている間に距離を────

 

「脆いな」

 

 そう吐き捨てるように言い放つと、ザルドが全身に一気に力を込めて鎖を引き千切る。

 

「うそだろ…!!?」

「足りん」

「ぐ、ぅぅぅぅぅッ!!?」

 

 構えていた刀ごと弾き飛ばされる。地を滑り、体勢を整えるが、身体の節々が悲鳴を上げていた。

 

 おい、『大最悪(モンスター)』も拘束できた魔法だぞ!?なんで、そんな糸をプチっと千切るみたいな感覚で壊せんだよ…!

 さっきの一撃も、刀越しだってのに、腕の骨が少し逝ったぞ…!

 他のとこも魔法の負荷で大分消耗してるし、頭の方もちょっと揺れてる。

 ったく、化け物がすぎるんだよ、本当に。

 

 

 今の俺は確かにあいつらと『戦えて』る。だが、『勝てて』はいない。

 

 越えているのは【敏捷】、競り合えてるのは【器用】。

【力】に関しちゃザルドには及ばないし、精神力(マインド)はともかく【魔力】の出力はアルフィアが上。

【耐久】は自然治癒でなんとかできてるが、それでもあのバカげた威力のせいでギリギリもいいところだ。

 

 対してあっちは、いくつか裂傷はあるが、致命傷と言えるものは見られない、絶望的状況。

 このままやっていても、じり貧か……

 

 あぁぁ!今すぐこんな戦いなんてやめて、アーディに膝枕してもらいながら、頭を撫でてもらって、その笑顔を下から眺めていたいよぉ…!!

 

「……突然、頭を抱えて項垂れ始めたぞ」

「なんで俺一人でできるとか言っちゃんだよ、俺は!」

「あれほど堂々と私達に宣戦布告したというのに……女々しいやつだ」

「その場のノリと勢いで、つい口走っちゃったんだよ!」

 

 それに、女の子の前では、堂々と見栄を張りたいだろうが……!

 今からでも、あいつら加勢してくれたり……だーめだ。アイツらも完全にモンスターに集中してる、こっちなんて見向きもしてねえ……あれだけ、引き留めてたんだからもう少し興味持ってもいいのよ?

 

「そもそもあんたら元気すぎだろ……ザルドは【猛者(おうじゃ)】さん、アルフィアはアリーゼ達と散々戦ってきたでしょうが!」

「今度は泣き言を言いだしたぞ……」

「見るに堪えん。もっとも…その原因はお前が一番よくわかっているだろうに」

 

 あーあー、私の力が悪さしてるんでしたね、そうでしたね!

 

「はいはい、俺が悪いですよ…これで満足ですか!?」

「仕舞いには八つ当たりか…おい、アルフィア。これが本当に俺たちの望む『英雄』の姿か…?」

「……何も言うな。私も頭痛がしてきたところだ」

 

 酷い言い草……

 

「ほんと…しんどいなぁ、まったく…」

 

「では……()()()()()?」

「『悪』を前に、その脚を止めるのか?」

 

 

 ……『諦める』……か。

 

 

 

『だって君は、諦めなかっただろう』

 

 

 

「────はっ、なわけねえだろ」

 

 それだけはしない。それは俺を信じてくれたアイツらを……『親友』を裏切ることになる。

 俺を『英雄』と呼んだあいつの期待を、捨ててたまるか。

 

 不敵な笑みを浮かべ、俺は立ち上がる。

 

 相手とのステイタスに差がありすぎる?

 こっちはボロボロなのに、相手はまだピンピンしてる絶体絶命の状況?

 

 そんなもん、関係ない。

 

「一度男がかっこつけたんだ…最後まで格好よくいたいだろ。お前ら程度、一気にちょちょいのちょいっ、だわ!」

「はっ…粋がるなよ、糞餓鬼」

「その襤褸布のような風体でどうするつもりだ?」

「だから……今、言ったろ────」

 

 

 

 

 

 

 

「【開け】」

 

 

 

 

 

 

 

「──────ここで、()()()決めるって…!」

 

 

 俺は深く腰を落とした。

 解き放たれた全身の魔力を、折れかかっている自分の『器』の限界を無視して注ぎ込む。

 

「「!!」」

 

 赤雷が神経を極限まで焼くほどの出力で全身を迸り、

 蒼炎が体中から唸りを上げ、周囲を炎で包み込む。

 身を焦がすほどの『熱さ』が、全身を駆け巡り、支配する。

 

 体中がもう無理だと、悲鳴を上げた。

 だが、それを無視する。崩れる身体は自然治癒で無理矢理に生かす。

 

 

 目の前に蔓延る、絶望的なまでに高い壁。

 それを今この一瞬で──────貫く。

 

 

 

 

 

「……【奔れ】ッ!!!」

 

 

 

 

 

 詠唱と共に大地を蹴った。

 

 18階層の地面が、その圧力に耐え切れず粉砕されるほどの踏み込みを以て、ザルドの背後に回る。

 今まで以上の加速。流石のザルドも反応しきれていない。

 ザルドの剣が届く前に、俺の刀が背中を切り裂く。

 

「ぐっ!」

「【渦巻け】」

 

 貯めろ。ザルド相手に、生半可な攻撃は通用しない。だから、練り上げろ。最大威力の一撃を。

 

「【(ゴス)────」

「【集え】」

 

 貯めろ…。

 

 アルフィアが魔法を唱えるよりも早く、刀を振るう。だが、その攻撃が届くよりも先にアルフィアには身を引いて躱される。

 

「まだだ…!」

 

 柄の底を炎を噴出させて放つ、最速の突き。思わず目を開くアルフィアの頬を刃が掠める。

 

「おぉぉッ!」

 

 背後から振るわれるザルドの一撃。それが届く前に、アルフィアを蹴飛ばし距離を離す。そして一気に加速して攻撃を躱し、再び死角へ回る。

 

「甘いわ────ッ!」

 

 だが、先程よりも遥かに早く動く俺にも、ザルドは攻撃を合わせてきた。

 

 もう、対応してきた……けど、遅えよ。

 

 カウンダ―で放たれた一撃も、今の俺なら回避できる。

 そのまま懐に侵入し、強烈な蹴りを打ち放ち、吹き飛ばす。

 

「【集え、集え】【収束しろ】」

 

 まだだ、もっと貯めろ…!

 

 刀身を紅く光り輝せながら、もう一度踏み込み、すぐさまザルドに追いつく。

 

「【光れ】【光れ】【光れ】。【満ちろ】【集え】【高まれ】」

 

 ザルドの攻撃を避けながら、繰り広げられる剣戟の中、俺の詠唱と共に刀が一層その光を増していく。

 

「おぉぉッ!!」

 

 自分の周り全てを薙ぎ払うようなザルドの一撃に俺は、一度距離を取り、そして……

 

「【集え】【集え】【集え】……【満ちろ】」

 

 これなら、いける……。

 

「その光が、お前の全力か」

 

 動きを止めた俺を前に、ザルドも察しがついたのか、その大剣を再度構えなおす。

 

「……迎え撃つ…!」

「────はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 俺は大地が砕けるほどの力で踏み込み、地面を這うように一気に最高速度で距離を詰める。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 だが、完璧なタイミングで、低空姿勢で迫る俺に、ザルドの大剣が()()()()()()()

 

 この人、この速さすらもう完全に見切ってきた……!しかもこの一撃、今まで以上に力が込められているのが分かる。俺がザルドに一撃放っても、この攻撃が止まることはない。

 

 俺がこの一撃を凌ぐには、刀に溜まった力を使うしかない。

 

 くそ──────

 

 

 

 

 

 ────なんてな。

 

「【爆ぜろ】」

 

 俺は刀を()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なにっ…!?」

 

 魔力の解放と共に、()()()勢いよく振り上げられた刀は、大剣を上へと弾き飛ばした。

 武器同士が衝突した瞬間、右腕が軋みを上げ、何かが砕けたような音が鳴り響く。

 

 っ、右手くそ痛ってぇ……けど、これで()が出来た。

 

「溜め込んだ力を捨てた…!?いや、まさか…」

「その、まさかだよ」

 

 俺は、刀に宿っていたものとは比にならない魔力を込めた()()をザルドのがら空きの胴体へと伸ばす。

 

 左手(こっち)が本命だ…!

 

 低空姿勢で近づいたのは、ザルドに()()()剣を()()()()()()()ため。

 剣を見せびらかすように光らせたのは、アンタに剣が本命だと刷り込ませ、その一撃をアンタの全力で阻んでもらうよう誘導するため。

 

「全て、その本命(ひだりて)を通すための演出(ブラフ)か…!」

「正解……そして、気づいてももう遅い────」

 

 俺の手は既にアンタへと伸ばされている。

 

 

 

 

「──────【吼えろ】!!」

 

 

 

 解放。

 

 最後の解号と共に、『大最悪』に放った以上の威力の極光が、ザルドの体を飲み込んだ。

 その衝撃に、大地は砕け、周囲で燃え盛る炎を一息にかき消し、光り輝く極光が視界全てを白で塗りつぶした。

 

 

 

「はぁ……はぁ…はぁ……」

 

 荒く呼吸をする俺の目の前に広がるのは、視界の先まで続く黒い痕。

 高熱の光が、地面を抉り焦がしたことで生まれた破壊の足跡だった。

 

「よし、これで……。じゃあ────次だ」

 

 右腕は…まだだめか。でも左腕は動く。なら……いける。

 

 俺は刀を手に取り、体を反対方向へと向け、駆け出した。

 

 痛みで僅かにぼやけた視界の先に、確かに俺へとその掌を向ける、敵が見えた。

 

 

「──────来い」

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

 

 

 最短距離、最高速度で大地を駆ける。

 

 その瞬間、目の前にいる存在の魔力が、急激に高まった。

 

 

「【福音(ゴスペル)】──────【サタナス・ヴェーリオン】」

 

 

 正面から放たれたのは、一切の慈悲も、逃げ場も存在しない絶望の濁流。

 階層そのものを震わせる破壊の『音』が、物理的な圧力となって俺の視界を真っ白に染め上げる。

 

 この射程、広域制圧。回避の選択肢など存在しない。

 足を止めて防御しても、ただ押し潰されるだけ。そうなれば二度と、あいつの懐には辿り着けない。

 

 

 だったら、正面突破しかねえよな…!

 

 

 俺は防御のための魔法障壁を展開しようとする意識を、力ずくでねじ伏せた。

 身を守るための盾なんていらない。

 今の俺に必要なのは、あいつの喉元に届くための『最速』だけ。

 

「【爆ぜろ(シラヌイ)】ッ!!」

 

 一歩目。

 足元で爆炎を炸裂させ、俺は『音』の奔流の中へと身を投じた。

 

「ッ、が、ぁ……あぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 凄まじい衝撃。

 アルフィアの魔法が俺の皮膚を、筋肉を、内臓を、内側から粉砕せんとかき回す。

 鼓膜はとうに悲鳴を上げ、全身の毛細血管が弾けて、蒼炎に混じって赤い血飛沫が舞う。

 

 止ま…るなっ!進むんだよ…前に!

 

「【爆ぜろ(シラヌイ)】! 【爆ぜろ(シラヌイ)】!!」

 

 二歩、三歩。

 魔法の本流、その最も威力が高い中心部を、俺は『爆発』を繰り返すことで無理やり突き進む。

 一歩進むたびに、魔法の衝撃と、自分自身の魔法による負荷が身体を内側から焼き切っていく。

 左腕一本で刀を握り、折れた右腕を庇う余裕すらない。

 

 ああ、痛えよ! 死にそうだ! 身体がバラバラになりそうだよ…!

 

 だけど、そんなの関係ねえ。

 一歩でも止まれば、そのまま飲み込まれて終わりだ。

 

 意識を保てっ。痛みなんて今は知らない。ただ前に…前に!

 

「【爆ぜろ(シラヌイ)】【爆ぜろ(シラヌイ)】【爆ぜろ(シラヌイ)】ッ!!!」

 

 連続詠唱。

 爆発的な加速が、アルフィアの『福音』を無理やり食い破る。

 視界に映る灰色の髪が、みるみるうちに近づいてくる。

 俺の身体からはもはやボロ雑巾のように血が噴き出しているが、意識だけはかつてないほどに冴え渡っていた。

 

 

 

 魔力の本流を切り裂き、爆音の中を突き抜ける一筋の蒼い閃光。

 

 

 

「──────はぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 叫びは声にならない。だが、俺の意志は、確かに魔法の壁を突き抜けた。

 衝撃の濁流を抜けたその瞬間、目の前には、驚愕に僅かだけ目を見開いたアルフィアの顔があった。

 

「──────」

「────っ、届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 俺はありったけの力で、左手の刀を振り抜いた──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────炸響(ルギオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の耳に、その呟きが届いた瞬間。

 周囲に漂う『音』の魔力が一気に爆ぜる。

 

「…っ、がぁっ………!?」

 

 爆散(スペル)(キー)……!?今まで使ってこなかったのをここで…!

 

 全方向から伝わる衝撃に、俺は苦悶の声と共に……()()()()()

 

 止まるな……前に…刀を振るえば────

 

 今一度、前へと視線を向けた。

 そこに映っていたのは、至近距離でこっちに手を翳す、アルフィアの姿。

 

「──────ぁあ…っ」

 

「……終わりだ。【福音(ゴスペル)】」

 

 至近距離、回避不能。掌から放たれた衝撃波が、俺の視界と意識を、文字通り「白」一色に塗りつぶした。

 

 身体が浮く。

 重力も、慣性も、積み上げてきた全ての覚悟も、たった一撃の『音』によって無価値に等しく押し流される。

 咄嗟に盾にした左腕の刀。幾多の死線を潜り抜けてきた俺の半身。

 

 

 

 それが、耳障りなほど高い音を立てて────砕け散った。

 

 

 

「あ……」

 

 スローモーションのように、視界に破片が舞う。

 赤雷を帯び、蒼炎を纏っていたはずの白銀の刀身が、ただの鉄屑となって霧散していく。

 右腕は使い物にならず、唯一の武器も失い、俺の身体はそのまま後方の岩壁へと叩きつけられた。

 

「カハッ、げほっ……ごほっ……!!」

 

 あぁ……くそっ、これでも届かないのかよ。

 

 意識が朦朧とする視界で俺が捉えたのは、アルフィア────そして、全身から煙を上げながらも、未だ倒れぬザルドの姿だった。

 





戦闘描写が難しすぎる…!
誰か代わりにやってくれぇ…!
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