先導の英雄   作:無銘のヲタク

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その日、『大抗争』以上の出来事が、レイへと振りかかる。


英雄が死んだ日

 

 青く澄んだ空の下、温かい陽光を浴びながら、俺は一人オラリオをぐるりと囲う外壁の上で、眼下に広がる街の風景に目を向ける。

 

『大抗争』が終わったとはいえ、都市の空気は劇的に好転したというわけではなかった。

 

 大切な場所を失い、途方に暮れる者。

 愛する人を奪われた悲しみに暮れ、涙を流す者。

 

 未だに闇派閥の引き起こした破壊の跡が、生み出された悲劇の残響が色濃く残っていた。

 それは、根深く…決して一朝一夕で取り払うことのできるものではない。

 

 

 だが、そうやって俯く者ばかりでもない。

 喪失感を感じながらも、その痛みから立ち上がり、再び前に進む者もいる。

 

 

 確かに、あの戦いで俺たちは多くのものを失った。

 だが、あの『絶望』を乗り越えたことで俺たちは前進した。

 

 それはもしかしたら、ほんの小さな一歩なのかもしれない。

 でも、確かにそれによって、都市は再起の道を歩み始めたのだ。

 

 絶望に沈んでいた都市に、確かに希望の火が灯り始めた。

 

 ひとえにこれは、フィンさんやオッタルさん達の影響が大きいだろう。

 

 都市を揺るがす脅威を乗り越えたという確かな証。

 これほどの理不尽を打ち破った彼らなら、これからどんな苦難が降りかかろうときっと乗り越えられる、と人々は信じている。

 

 瞳に刻まれた、彼らの雄姿が民衆に希望の光を示してくれた。

 確かな証明を見せてくれた『英雄』の功績はとても大きいものだろう。

 

 ──────そして! 

 

 深層より現れた『大最悪(モンスター)』をアイズとともに討ち滅ぼし……闇派閥の切り札である、最強の二人を倒してみせた……

 

 この俺っ! レイ・オーガこそ、さぞかし人々の称賛を一身に受け──────というわけでもないんだよな。

 

 まぁ、仕方ない。なぜなら──────

 

 

 

 

 

 英雄は、あの夜……()()()()()()()

 

 ────────────────────

 

 エレボスを天界へと送還する光を見送った後、俺はそこにいる二柱の神様の方に体を向ける。

 

「さて、じゃあ。ここからは、戦いの後処理のことを話しましょうか」

 

 俺の言葉を聞いて、二神(ふたり)は頷いてくれる。

 

「ではまず、さっきは自分勝手に言いましたけど、アルフィアとザルドに関しては問題ないですかね?」

「そうだね……この下界はいつまでも人手不足だ。彼らのような猛者が手を貸してくれるというのなら願ったり叶ったりだ。ただ……」

「この都市に残しておくというのは、難しいかもしれないわね」

 

 俺の言葉を一応肯定はしたが、両者共に困ったような、申し訳なさそうな顔でそう語る。

 

「いくら理由があったとしても、彼らは闇派閥の両翼として子供達の脳裏に刻まれている。恐怖、そして憎悪の対象である彼らが赦され、普通に都市で過ごすなんて。子供達は納得しないだろう」

「あぁ…まぁ、そうなっちゃいますか…」

 

 そりゃそうか……。自分達を追い詰めた存在も、実は被害者でしたーって言っても、それじゃあ仕方ないですねとはならないよな。

 

「あと、一つ思ったんだが……確か、ザルドって公的には死んだことになってるんじゃないかな?」

「え? ……あっ」

 

 そういえば…この人、死体を偽装する魔道具(マジックアイテム)使って、こっちに来たって言ってたな……。

 

「俺も正直、ここに来る前にアストレアから説明してもらわなきゃ驚きのあまり、声を上げていただろうさ」

「ああぁぁ…! じゃあ、俺の脚本ほとんど意味ねえじゃねぇか! ザルド! アンタが潔く【猛者】さんに負けとけば、解決してただろ!!」

「ほざけ。あそこで使わねば、お前と剣を交えることが叶わなかった。最上の馳走を前にして指を咥えて、我慢することなど出来ん」

「クソっ! この美食家(バトルジャンキー)が……!」

 

 省みるような様子も見せずに、ふんぞり返るザルドを、俺は恨みのこもった目で睨みつける。

 

「そこでだ。俺に一つ提案がある」

「……その案っていうのは?」

 

「二人共────本当に死んだことにしないか」

 

「!!」

「幸いにも、ザルドと違い、アルフィアの姿は君達【アストレア・ファミリア】とロキの子供達ぐらいにしかちゃんと見られてない。それを利用して、『悪』の両翼は、冒険者達に討たれ、死亡したことにする」

 

 ふむふむ……見られてないことを良いことに、その生死を偽装すると。

 

「そうすれば、君達を人目のつかないところに軟禁する必要もないし、余計ないざこざを招く心配もない。なにより……人々の敵意の矛先を、諸悪の根源たる闇派閥(イヴィルス)という存在に向けることができる。これの打倒という指標の下に都市は再起の一途を辿るだろう」

「なるほど……可哀想な被害者という背景も相まって、向けにくかった敵意を、皆の共通のにぶつけることで都市を一致団結させようってわけね」

「そういうこと。だから、そういった悪意や記憶が薄れるまでは、ザルドとアルフィアにはオラリオの外へと姿をくらましといて貰いたいんだけれど……それでも二人は構わないかな」

 

「別に構わん」

「もとより、あの子の元に向かうつもりだったのだ。今更、異論はない。寧ろ、窮屈な牢屋に閉じ込められでもしたら、うっかり街ごと破壊してしまいそうだ」

 

「おやめろください。洒落にならん」

「冗談だ」

 

 本当かよ…。やりかねないからな、この女王様。

 

「あはは……それじゃあ、できれば今日にでも出発してもらいたい。誰にも気付かれずに、脱出する手筈は俺の方で整えよう」

「いいんですか、そんな何から何までやってもらって…」

「俺なりの褒賞だよ。都市を救ってくれた英雄への。むしろ全部を叶えることが出来なくて、申し訳ないくらいさ……じゃあ、皆それで問題ないかな」

「そうすね……あぁ、いや。どうせならもう一つ」

「…? なにかな」

 

 都市を前へと進めるためだ。使えるものは何でも使ってしまおう。

 

 

 

 

「俺を──────殺してください」

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

「レイ、それはどういう────!」

「あぁ、ごめんなさい。言葉足らずでした。正確には、都市を守った『英雄』という存在を、です」

「それは……」

 

 さっきのヘルメス様の要領なら、これも利用できる。

 

「あの日、都市に希望を見せた『英雄』は『正義』の冒険者達と力を合わせて『悪』に立ち向かい、激闘の末に『悪』と差し違えた。そして、残された冒険者達は『英雄』の死を糧にさらなる向上を目指す…」

 

 うん。今度こそ、完璧なシナリオだ。

 

「レイ。お前……」

「誰かも分からない『希望』より、確かに目の前で敵を打ち破った『希望』の方がが注目された方が人は信頼できる」

 

 フィンさんあたりにこれを伝えれば、『英雄』を餌に冒険者達を焚き付けてくれるだろ。

 開戦前の集会でも、同じようなことやってたしな。

 

「……レイ君。君の案は確かにもっともだ。人は目に見えぬものより目に見える指標があった方が人は意志を統合しやすい。だが、それでは────」

 

貴方(レイ)は、子供達にとって()()()()()()()()()()

 

 貴方が為した偉業は大衆の戦果となり、あくまで貴方は立ち向かった勇敢な者達の一人としてしか扱われない」

 

「君が手に入れるはずだった、栄光も、名声も、地位も、羨望も。その全てが君の手から離れ、君を『英雄』として感謝する者はいなくなる」

 

「レイ……貴方は、それでもいいの?」

 

 ……そうだなぁ。

 

「確かに、俺を讃え、熱烈な気持ちを向けてくれる女の子達がいなくなっちゃうのは滅茶苦茶寂しい……!」

「え、えぇ……。気にするとこ、そこなのかい……?」

「一番重要でしょ!」

 

 嗚呼……! 俺が『英雄』と知れば、いったいどれほどの美女美少女が俺の元にやってくることか……それこそ、オラリオの男子諸君が羨むほど、モテモテになったに違いない! 

 

「でも……俺は万が一にも都市を()()させる要因になりたくないんです」

「停滞……?」

「『英雄』って良くも悪くも劇薬なんですよ。人々を奮い立たせる光にもなれば……堕落させる毒にもなる」

「「!!」」

「きっとどんな困難があっても『英雄』がいるから大丈夫。『英雄』に任せれば心配いらない。『英雄』に縋るその空気が蔓延すれば、やがて他の者達は歩みを止める」

 

 勿論、皆がそうなるわけじゃないだろう。

 幾人かの高い志を持つ者達は、英雄に負けるものかと邁進する。

 

 ただ、今回はそれだけじゃ足りない。

 絶望の淵から何とか蘇った都市が前に進むためには、全員が前を向かなきゃいけない。

 

「『英雄』の存在は、すでに人々の意志()を灯す役割を果たせた。だったら、今度は人々に自覚と危機感を呼び起こすために、俺は喜んでその称号を溝に捨てる」

「レイ……」

 

 何を馬鹿なことを、と思われるかもしない。けど、それでも構わない。

 

 もし、『英雄』という存在が少しでも人々の足を止める要因となってしまうなら……彼らが奮い立つ原動力()となってくれるなら、そんな称号なんて薪に焚べてしまおう。

 

「それに……俺はもう十分です。かつての『最強』には『英雄』だって認めてもらえた。仲間達は俺がやったことを知っている……。正直、俺にはそれだけで満足なんです」

 

 不特定多数の誰かに知られてなくてもいい。大切な人たちが分かってくれてるなら、それでいい……。

 

「君は本当に……分かった。君の願いを聞き入れよう。そして、すまない」

「こっちこそ、色々我が儘言ってすいませんね」

「何を言ってるんだい。君は俺たちを……この都市を救ってくれた。この程度のこと我が儘の内に入らないさ」

 

 ヘルメス様はそう言って笑った後、真剣な眼差しで俺へと向き直る。

 

「改めて……礼を言わせてくれ────ありがとう。君のおかげで俺たちは明日を夢見ることが出来る。この神ヘルメスの最大の讃辞を君に捧げよう」

 

 帽子を外して手に持つと、ヘルメス様は深々と頭を下げる。

 

「私からも…ありがとう、レイ。このオラリオを守ってくれて。そして、良く帰ってきてくれたわ」

「貴女が待っていてくれると言うのなら、俺はたとえ地獄の底からでも戻って御覧に入れましょう。あ、ヘルメス様ももう頭上げていいですよ」

「おいおい……アストレアと俺で対応が違いすぎやしないかい」

「当然です。ヘルメス様だって、よく知らない男に感謝されるより、自分が大切に思う女性に感謝してもらった方が嬉しいでしょ」

「ははっ、違いない。……じゃあ、俺は準備を進めるとするよ」

 

姿勢をもとに戻し、ヘルメス様は手に持つ帽子を被り直す。

 

「よろしくお願いします。くれぐれも秘密は守ってくださいね」

「ああ。このヘルメスの名に誓って、ここでのことは俺達だけの密約としよう。では、アルフィアとザルドはもう少し夜が更けたら、都市の門のところに行ってくれ。それまでに出発の手筈を整えておく」

 

「ああ」

「わかった」

 

 そうして、ヘルメス様はこちらに背を向けてその場を後にする。

 残った俺たちも、アルフィアとザルドはオラリオの門に近くの人目のつかない所で待機。

 アストレア様も俺たちの本拠地(ホーム)に戻った。

 

 そして、俺は一人、ゴブニュ様に協力して作ってもらった秘密の工房に足を運び、最後の仕上げを行った。

 

 

 

 

 しばらくすると、ヘルメス様の眷属が知らせに来て、俺は都市と郊外を繋ぐ門へと足を運んだ。

 そこには、既にアルフィアとザルドが、二人とも何やら怪しげなローブを被って立っていた。

 

「二人ともそれは?」

「【万能者(ペルセウス)】とかいう小娘が用意した、被ったものの認識を阻害する魔道具(マジックアイテム)らしい」

「ここら辺りを巡回する冒険者も僅かにいるからな。オラリオから離れるまでは身に着けておけとのことだ」

 

 認識阻害のローブ……それを使えばもしかして……!? 

 なんて素晴らしい魔道具なんだ!! 

 

「おい、貴様。何かくだらんことを考えてはいまいな」

「へ? い、いや? 全然? これ使えば、女湯覗き放題なんて、これっぽっっっちも考えてないぞ!」

「……【(ゴスぺ)──」

「おう待て待て待て! 流石にそんなもんぶっ放したらバレるって!!」

「そうだぞ、アルフィア! 大体、こいつも冗談で言っただけだ。だろ、レイ!?」

「うんうん! その通り! 別れる前の暗い雰囲気を和ませようとした小粋な冗談だぜ!」

「……ちっ」

「「ほっ……」」

 

 この女王様の機嫌は絶対に損ねてはならない。

 俺とザルドはその一点において、心の中で固く手を取り合った。

 

「そうそう。俺もアンタらに渡したい物があるんだよ」

 

 とは言っても、アスフィさんの作った世紀の大発明と比べれば、俺のはなんて事ない代物なんだけど……。

 

 俺は、自分のポケットからさっき工房で完成させたものを二人の前に取りだす。

 それは、一見するとただのアクセサリーが二つ。

 

 片方は、青色の宝石が先に着いている耳飾り(イヤリング)に、もう片方は、紅の宝石が埋め込まれた腕輪(ブレスレット)だ。

 

「これは……?」

「俺の血と精霊の力を結晶化させた宝石を使った魔道具だよ」

「「!!」」

「アンタらの身体に宿る、毒と病は確かに俺との戦いを通して快復に向かってる。けどまぁ、完全に消えたわけじゃない。だから、少しでも良くなるように作ったお守りだ」

「そのような超常的な効果がこの魔道具に……」

「お前こんなもの……さっき作ったのか?」

「完成したのはさっきだよ。

 

 作り始めたのは、最終決戦準備の夜からだけど」

 

「「……は?」」

 

 フィンさんたちから、この二人の状態を聞いてから作り始めたからな。

 大聖樹の枝とかで症状は緩和してたらしいし、精霊の力があれば、もしかしてどうにかなるんじゃね? という俺の思い付きである。

 

「それでさぁ……特に難しかったのが腕輪の大きさでさぁ。測ってないからどうしようかと思ったんだが、何とか装備者の大きさに合わせて、調整できるように────」

「いや待て。少し待て。お前は開戦前にこれを作り始めたんだよな?」

「そうだけど…」

「では……最初から私達の命を救うつもりだったということか?」

「えっ、今更何言ってんの。当たり前じゃん」

「「──────」」

 

 え、何言葉を失ったような顔して固まってんの……。

 せっかく仲間にしても、すぐに病気で死なれたら困るだろうが。

 

「お前というやつは……」

「なんだよ。なんか言いたいことでもあんの?」

「いや……本当に、大馬鹿者だと思っただけだよ」

「ああ……。まったくだ。ヘラの娘を孕ませたあのバカ以上の阿呆だな」

「作ってもらっといてなんだその言い草は! 良いんだぞ? 別に渡さなくたって!」

 

 一応作ったが、なんか予想以上に俺との戦いで症状はほとんど消えてたし、ほぼ保険として渡しておくだけだしな! 

 

「悪い悪い。それでどっちが俺のだ?」

「ったく……腕輪の方がザルドで、耳飾りの方がアルフィアのだよ」

「この魔道具、効果はどの程度続く?」

「アンタらの魔力を吸うから長続きはするぞ。まぁ、それでも精霊の力は薄くなっちゃうから、1,2年したら、アンタらのとこに会いに行くよ。そのローブ使ってそっちが来るでもいいけどな」

 

 俺の説明を聞いて、ザルドはその腕輪に腕を通す。すると、腕輪が持ち主の大きさに合わせるように大きさを変えて、ちょうどよく手首に収まった。

 

 そして、アルフィアの方も──────ん? なんか止まってる? というか手に乗っけた耳飾りを俺に差し出してる……? 

 

「えっと……アルフィアさん、これはどういう…?」

「…………お前が着けろ」

「えっ……いまなんて────」

二度は言わん

「はいっ! ありがたく、着けさせていただきます!!」

 

 俺はさっとアルフィアの掌から耳飾りを手に取ると、アルフィアの耳元へと手を伸ばす。

 覆い被さる綺麗な灰色の長髪を、彼女は手でどかすと肌白い耳が露わになる。

 俺は微かに震える手を抑えつつ、耳飾りを彼女に優しく取り付ける。

 

「……どうだ」

「はいっ! 大変よくお似合いです!!」

「……世辞は良い」

「いや……ほんとに、綺麗だよ」

「…………」

 

 黙っちゃったよ……。さっきからこっちに目も合わせてくれないし。

 あんまり気に入らなかったのか…? 

 

「……お前。このように人に物を贈るのは、初めてか?」

「え? あぁ……いや、この前アリーゼに送ったのが初めてだから。二回目かな」

「……あの赤髪の小煩(こうるさ)い小娘か……」

 

 そう呟くと、アルフィアは何かを思うことがあるように、再び俯き、沈黙する。

 

「っ、レイ、お前なぁ…!」

「何だよ、ザルド…俺なんかしたか?」

「そこは、『お前が初めてです』って言うものだろうが……!」

「え、何で俺、アンタにモテる男の技術(テクニック)を説かれてんの? というか、順番とか、あのアルフィアが気にするとは──────」

 

「──────おい、レイ」

 

「はいっ、なんでしょ──────」

 

 僅かに語気が強く、名前を呼ばれて俺はアルフィアの方へと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 

 俺の視界に映ったのは、目の前まで迫っていたアルフィアの端整な顔立ちだった。

 

 俺が驚く間もなく、どうにも出来ずにいると──────俺の口が、()()()()()()()()()()によって瞬く間に塞がれた。

 

 

「──────」

「──────ッ!!!!?!?!??」

 

「…………まじか」

 

 俺はまるで何が起きているのかも理解できず、さらにはその細腕のどこにそんな力があるのかと思えるほどの力で体を掴まれ身動きも取れず、抵抗もできず、俺はただアルフィアにされるがままでいるしかなかった。

 

 永遠とも思えるような、数秒の時が過ぎて、俺はアルフィアからようやく解放される。

 ただ、あまりの出来事に腰が抜けて、情けなく地面に座り込む。

 

 少ししてから、俺はようやくまともに頭が回るようなってきて、同時に今起きた、俺史上最大級の事件に心が激しく動揺していた。

 

「……お……おぉ……おまおま、お前! アルフィア! アンタいきなりどういうつもりで……!」

 

「なに……あの小人族(パルゥム)の娘が(そっち)にはもうしていたからな。私は(こっち)をもらっただけだ」

 

 なるほど…? ……いや、え、いや、いやいやいやいや、なんにも分からんわ!! 

 

「理由になってないだろ!」

「喧しい男だな……大体、お前が言ったじゃないか」

「へ? お、俺が? 何言ったっけ?」

「忘れたのか? ダンジョンで私に言っただろう。『アルフィア(お前)の人生はレイ()のものだ』と」

「あっ……いや、言ったけども! あれは何というか、違うだろ!! あんたらが何が何でも死のうとするから、説得するための言葉で……!」

「知らん。事実、お前は私に言ったんだ。だから……」

 

 アルフィアは、地面に腰を下ろす俺の顎に手をやって、自身の顔と向い合せる。

 その時に映った彼女の顔は、どこか高揚したように僅か頬を赤く染め、その口元はまるで悪戯が成功した小悪魔のように、蠱惑的な笑みを浮かべていた。

 

 

「────責任、とってもらうぞ?」

 

 

 普段の彼女からは想像をできないほど、妖艶な空気を纏う、その容貌に俺は目を奪われ、自身の顔が熱を帯びていくのを感じた。

 

 そして、その俺の様子にアルフィアはどこか満足そうにふっと微笑んだかと思えば、唖然とする俺を置いてきぼりにして、彼女は俺に背を向けると身を隠すようにローブを深く被り、歩き始めた。

 

 残された俺とザルドは、顔を向かい合わせる。

 

「……え、なんだったの、今の」

「さあな。あの女王(おんな)の考えなど、俺には理解できん。ただまぁ……頑張れよ!」

親指立て(サムズアップし)てんじゃねえ、張っ倒すぞ」

 

 はぁ……もう何が何だか訳が分からん……まぁでも、あんな別嬪さんからこんなことしてもらったし……幸せに感じとくか……急すぎて、現実感まるでないけど。

 

「……ほんじゃ、ザルド……。またな」

「……ああ。また会おう、英雄よ」

 

 そうして、アルフィアを追って歩き出したザルドを見送り、少し先で足を止めてこちらを向くアルフィアに小さく手を振りながら、俺は二人を送り出した。

 

 ────────────────────

 

 ……といったようなことがあったんだが。

 いやこれ、『英雄』云々とか最早どうでもいいな。後半に起きた出来事が衝撃的過ぎて、そんな話とか頭から吹っ飛んだわ。

 

 え、俺マジであのアルフィアに…………何か、感動で涙出てきたな。

 えーと、なんだっけ? あーそうだ。

 

 そんなこんなで、その夜、都市を復活させた、幻想の『英雄』は死んだ。

 

 そして、俺が話した内容がヘルメス様によってもう伝わっていたようで、翌朝には亡くなった『英雄』や冒険者を弔うために祈りを都市の全員が祈りを捧げた。

 

 自分で自分の冥福を祈るというのは、中々新鮮な体験だった。

 

 それからは俺の予想通り、フィンさんが、自分達の為に命を賭した『英雄』に報いようって感じに、人々を焚き付けてくれたおかげで、オラリオは少しずつ前へと進み始めた。

 

 そして今の俺は、巡回のついでに、ちょっと美味しい空気を吸いたくなって今ここにいる。

 

「あっ、そういえばこの後、フィンさんに呼ばれてるんだった。巡回も終わる時間だし、そろそろ行くか」

 

 俺はオラリオの周囲に広がる壮大な草原を背にして、塀の上から飛び降りた。

 

 そして、俺は、復旧が始まった街の中を目的の場所を目指して歩き始めた。

 





きゃー!アルフィアさんってば大胆〜!

ちなみに、あの後アルフィアさんは、歩いてる間、何度も自分の唇に手をやって、その都度、どこか嬉しそうな恥ずかしそうな様子で頬を赤く染めてたそうですよ。ザルドが言ってました。

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