聖園ミカがシャーレに馴染むまでの話   作:五色雨

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シャーレ部員と一緒に
シャーレ部員と一緒に①


 ミカがシャーレに初めて出勤した日から4日後。ミカはシャーレオフィスから徒歩20分ほどの距離がある公園に来ていた。

 3日前にティーパーティーのメンバーとお茶会をしている最中に届いた緊急通知を送ってきた部員と話し合い、ここで待ち合わせをしていたのだ。

 冬の昼前。天気は快晴だが、少し冷たい風が吹いている。

 ミカが訪れた公園はD.U.東部地域の中でもそれなりに広くて有名な公園だった。自然の地形を生かし、この辺りの地域一帯を望むことが出来る高台にあり、百鬼夜行自治区から購入した立派な桜の木が100本以上植えられたD.U.でも上位に入るお花見スポットでもある。勿論、現在は冬なので桜の花は見ることが出来ないが。

 

 そんな公園の入り口近くにあるベンチに座り、ミカは足を組んでスマホを見ていた。最近お気に入りのPコートを着込み、自販機で購入したホットココアを持ち、もう片方の手でスマホを持っている。最近D.U.で発売された自販機用のホットココアもまた、ミカのお気に入りだった。

 待ち合わせの時間まで、あと10分。電車の到着時間の都合上少々早めに来てしまったが、これくらいがちょうど良いのかもしれない。コートを着ていれば、何てもことはない程度の寒さなのだから。そんなことを考えていると、遠くから近付いてくる足音が聞こえてきた。

 顔を上げて音が聞こえる方を見るミカの目に、チャットで送られてきた待ち合わせ予定のシャーレ部員と同じ見た目の少女が2人、こちらに向かってくるのが見えた。

 

「あ、いたいた! 聖園ミカさーん!」

 

 声をかけられ、ミカはスマホをポケットに入れて軽く手を挙げながら立ち上がった。

 

「ご、ごめん、ミカさん! こっちから呼びかけて集合場所も決めておいて、あとから来るなんて……。アリス、早く!」

 

 先頭を走ってきた少女が慌てて近寄って来て、後ろを振り向いて声を上げる。少女の少し後ろをとてとてと追いかけてきていた少女が笑顔で言った。

 

「はい! アリスは、クエスト開始場所に到着しました! 久しぶりのD.U.です!」

 

 その少女は真剣な表情をミカに一瞬だけ向けると、空へ向かって大声を上げた。

 

「今度こそ、アリスはクエストクリアをして……シャーレの部員となるのです!」

 

 両腕でガッツポーズを作り両膝を地面につけて、可愛い声に反してスポコン漫画の主人公のような大袈裟な咆哮を天に向かってかます少女。人があまりいない場所で良かった。

 ミカは目を丸くした。その声にも驚いたし、実際に目の前までやってきた少女2人が思った以上に小さかったのにも驚いた。そして、それ以上に。

 

「え? シャーレの部員となる(・・・・・・・・・・)……って、何?」

 

 少女の言葉に驚いていた。

 

 

 ミカと待ち合わせてしていたのは、ミレニアムサイエンススクール1年生の才羽モモイと同じく1年生の天童アリスだった。

 モモイがシャーレ互助会専用チャットグループの緊急通知で送ったメッセージの「【急募】カッコよく戦える強い人」は、実際のところ、然程緊急という内容ではなかった。そもそもシャーレ部員が他の部員に助けを求める緊急メッセージ機能は、実際のところはほとんど使われていないらしい。基本的に緊急事態が発生した場合は、互助会のメッセージ機能で助けを求めるよりも先に先生に助けを求めた方が早いし、逆に緊急性が低いのならば、わざわざ互助会専用アプリの機能を使って他校の生徒にまで助けを求める必要がない。自分たちの学校の仲間や先輩に助けを求めればよい話である。

 このため、シャーレ部員が他の部員に助けを求める緊急通知はほとんど使われたことがなかった。ではなぜ今回、モモイがそれを使ったのかと言えば。

 

「緊急ではないけれど、喫緊の問題なんだよ!」

 

 モモイはそう言って、ふんす、と息を吐いた。ミカがモモイから事前に聞いた話によると、アリスに銃の戦いを指導してほしい、とのことだった。

 

「うん、それは全然構わないんだけどね、時間あったし。……それでさ、来ておいて何なんだけど、一体どういうこと?」

 

「ええっとね……一から話すと、ちょーっと長くなるんだけど……」

 

 ずっとミカのことをキラキラした瞳で見上げているアリスからの視線に若干居心地の悪さを感じつつ、ミカはモモイに尋ねた。このため、ミカはアリスの視線攻撃に耐えながらモモイの長い説明に耳を傾けることとなった。

 モモイの話によると、アリスは色々と訳アリの少女で、つい最近まで学校での授業や武器の扱いの指導を全く受けてこなかったという。

 これにもミカは驚いた。学園都市であるキヴォトスではアリウスのような例外中の例外を除き、大半の生徒がしっかりとした教育を受けることが出来る。というより、受けるのが義務だ。不良やスケバンのように自分たちから授業を受ける権利と義務を放棄する者たちも少なくないが、全く受ける機会がなかった、というのは尋常ではない。

 とはいえ、事情についてはモモイが言い淀んでいたし、きっと言いにくい内容なのだろう。それを察したミカは、あまり深く聞かないようにした。何よりアリスは首からミレニアムの学生証と共にシャーレのIDカードを下げていた。彼女はシャーレの部員、つまり先生が信頼する生徒である。ならば、自分が不信感を抱く必要なんてないだろう。そう思い、ミカはモモイの説明に集中することにした。

 

 経緯はよくわからなかったが、アリスはミレニアムの生徒となってシャーレに入部した頃、漸くまともに勉強する機会を得られたらしい。同時にゲーム開発部に入部し、一般的なキヴォトス生徒のように勉強と部活動と戦闘をするようになったのだが。

 

「アリスは、まだまだ経験値が足りないのです……魔王軍と96回に及ぶ戦闘を乗り越えたというのに……」

 

 そう言って、がっくり肩を落とすアリス。魔王軍って何? と思いつつ、ミカは取り敢えず黙って話を聞くことにした。ツッコミを入れていたら日が暮れる予感がしたからだ。

 どうやらアリスは呑み込みというか学習速度がかなり高いらしく、勉学については恐ろしい速度で授業の遅れを取り戻していったのだが、戦闘についてはそうもいかなかった。キヴォトスの生徒は大抵の銃器の扱い方や戦術についてもBDや実践で学ぶのだが、アリスはまずは進学やテスト対策のため、一般的な内容の自習を集中的に取り組んできたのである。その成果は確かに挙がっており、現段階でアリスの成績は必要十分な域に達していたが、しかし、反対に銃器の取り扱いや戦い方の学習は殆ど進まなかった。

 それでも全く実戦をこなしたことがないというわけではないのだが、今までアリスが戦ってきた相手は、その辺の不良以下の連中かミレニアム最強クラスの武闘派集団であるC&Cという。両極端にもほどがある戦績だった。

 蹴散らしたところで何の自慢にもならない不良か、多くの仲間と先生の支援があって初めて食らいつくことが出来たミレニアム最強クラスの相手としか戦ったことがないアリスは、シャーレで正式に任務をこなすようになってから、自分の戦闘経験と知識不足をはっきりと悟るようになったらしい。

 その悩みに拍車をかけたのが、アリスの武器であった。

 

「へぇ、ミレニアムってすごいんだねえ……」

 

 全く羨ましくはないけど。そう口にすることはなかったが、ミカは困った表情でアリスが背負っている巨大な武器を見つめた。

 アリスの愛銃(?)「光の剣:スーパーノヴァ」はエンジニア部が造り上げた巨大レールガンである。基本重量140キロ以上、発射時の反動は200キロを軽く超えるという到底常人には扱えない銃器である。そもそも最早銃ではなく砲である。しかも貫通力も極めて高く、最大までチャージすれば、理論上は防災シェルターの破壊すら可能らしい。それは凄いとミカは拍手しそうになった。シェルターを破壊するなど、自分のパンチ(中パンチ)並みである。

 基本重量140キロ以上と聞いた時は流石のミカも驚いた。何だこの子見た目に反して凄い力持ちだな、と感心した。ナギサが見れば「鏡を見てください、今すぐ見てください。見ないと私が見せますよ、ミカさん」と道端で朽ちつつあるペロロ様人形を見るような目を向けたに違いない。

 それにしても、140キロの武器を背負って走ることもできるとは大したフィジカルである。ミカだって、そんなものを背負っていればジャンプ力やダッシュ力が多少低下するかもしれない。

 

 それは兎も角、携行式巨大レールガン(流石のミカも元は携行式どころか宇宙戦艦搭載向けに開発された代物であることなど予想できるはずもなかった。しかし、これを自然と携行式だと思うくらいの感性ではあった)という前人未到の尖りすぎている銃器をメイン武器としているため、参考できる資料もなく、独自で訓練をするほかなかったという。おまけにこのレールガン、火力が高すぎて「試射」で訓練施設の天井に穴をあける始末であった。しかも射程もかなり長いので、屋外で空に向かって撃てば飛行中のドローンや飛行船等に当たりかねないという。駄目押しとばかりに、ミレニアム自治区の上空は絶えず無数の各種ドローンや無人輸送機が飛び交うキヴォトスの空でも最上位の過密エリアである。これでは、そもそも訓練でさえなかなかできない。

 

 訓練ですらこれなのだから、実際の任務での使い勝手は推して図るべしである。街中でチャージして砲撃するなど論外。チャージしなければまだ使用できる破壊力に収まるが、連射力は低い。砲撃そのものが曳光弾がマシに見えるレベルで目立つため、夜間で使用すれば射手(アリス)の居場所を全力で知らせるようなもの。そして何よりもあまりにゴツイ見た目をしているため、敵から真っ先に狙われる。敵からすれば、こんな目立つことこの上ない武器を担いで普通に走ってくる少女を、警戒するなという方が無茶だ。レールガンの破壊力は想像できなくとも、「あれを撃たせちゃだめだ」と誰もが思う。かといって街中では射程を生かした長距離砲撃は出来ないし、やったとしても味方を巻き込みかねない。

 

 このため、現在のアリスの戦い方は、巨大且つ頑丈な「光の剣:スーパーノヴァ」の砲身を盾代わりにして敵の射撃を防ぎつつ接近し、「光の剣:スーパーノヴァ」を振り回して殴りつけるか、接近してチャージしていない砲撃を行うというスタイルが基本となっている。攻防一体の悪くはない戦い方だが、レールガンの圧倒的破壊力と自慢の長射程という強みを月の彼方へぶん投げている。

 これでは開発者も泣くだろう、いや、開発コンセプト自体が崩壊している気がする。そう考え、ミカは唸った。なお、実際には開発したエンジニア部の面々は、「光の剣:スーパーノヴァ」が埃を被ることなく、使われているだけで大満足していることを、ミカは知らない。

 

 何故にそんな、日頃の訓練すらまともにできないような代物を愛銃に選んだのかと言いたいところだが、ミカは寸でのところでそれを堪えた。キヴォトスの生徒の世界において、相手の「愛銃」をけなしたり否定したりする行為は最大級のマナー違反である。多くの生徒が心を籠め、毎日整備を繰り返す。勿論、ミカも例外ではない。そんな愛銃を馬鹿にするような発言は、この世界では最低最悪の宣戦布告と扱われる。無論、発言者のモラルが周囲から徹底的に疑われるという意味で、である。メイクや髪形を侮辱するより遥かに酷い。

 

「しかし、アリスは負けません。勇者は戦場を選ぶことが出来ないのが世の常です。アリスは、どんなフィールドでもデバフに負けず、シャーレや仲間の皆と一緒に戦えなくてはならないのです。そこで、アリスは考えたのです!」

 

 握り拳で胸を叩き、アリスはキリっとした表情で胸を張った。

 

「レベルアップの方法は複数あります。強化先はツリー形式です! アリスの可能性は無限大で、様々な選択肢があります。まずは、戦い方を学ぶことです!」

 

 レールガンという武器で戦う者は、キヴォトス広しといえども天童アリスくらいであろう。しかし、他の武器を使う者の戦い方が全く参考にならないわけではない、とアリスは主張する。

 

「シャーレには先生のとってもすごい人脈のお陰で、最高レベルのガチ勢が揃っていると聞きました! アリスは師匠の選択に困りません!」

 

 そしてもう一つの方法が、他の銃器の使い方や特性を改めて知ることだ。はっきり言ってキヴォトスの一般的な生徒からすれば今更か、と言いたくなるほどの基礎レベルの話である。

 

「そこで、実際に銃器を使えるプロの人たちから、アリスは学びたいのです! 今回は、サブの武器も用意してきました!」

 

「……と、こんなことを前々から考えていたんだけど、色々と忙しかったんだ。大変な出来事が重なって、今まで引き延ばしになっていて……テスト前の勉強とか、あとは……ちょっとね、アリスが色々と大変で、訓練どころじゃないことがあって……それももう落ち着いてきたし、漸く取り掛かれるようになったってわけなんだ。それに……」

 

「先日、先生が危険な目に遭ったと聞いたのです!」

 

 モモイの補足説明を遮るように、アリスは一際大声を上げた。眉を吊り上げ、両手の拳を力強く握っている。

 

「状況は逼迫しています、アリスはすぐにでもレベルアップして、先生のお役に立ちたいのです! 先生のために満足に戦えなければ……アリスは、真のシャーレ部員にはなれません!」

 

 真剣な眼差しが、ミカを射抜く。成程、実に立派で素敵な理由だ、とミカは感心した。

 

「うん、私にできることなら、協力するよ☆」

 

 アリスが強くなるのなら、先生のためにもなる。ここまで聞いて乗らない手はないだろう。ミカがにっこりと2人へ微笑みかけると、モモイとアリスは飛び上がって喜んだ。

 

「ホント!? やったね、アリス! ありがとう、ミカさん」

 

「はい! パンパカパーン、アリスはミカのクエスト発生条件をクリアしました!」

 

 両手を挙げて喜ぶアリスを見て、ミカは笑みを苦笑に変えた。随分と個性的な子だなぁ、と思った。ナギサがミカの心を読んだなら、「今すぐ鏡を見ないと、口にロールケーキを3本ぶち込みますよ、ミカさん」と麗しい笑顔を向けたに違いない。

 ミカはふと、アリスに視線を向けた。見たところ、アリスは背負っているとんでもなく目立つ巨大レールガン以外の武器を持っているようには見えない。

 

「……あ、そういえば、サブの武器って?」

 

「あ、はい。これです!」

 

 アリスは真剣そうな表情に戻すと、着込んでいた上着の奥に手を突っ込み、腰のあたりをまさぐり始めた。どうやら、上着の下にヒップホルスター(腰に付けているホルスターは何故かヒップホルスターと呼ぶ)を付けているらしい。

 そして、アリスは標準的なサイズの自動拳銃を取り出してミカに見せた。

 

「この、Bluetooth機能付きの拳銃です!」

 

「え、何で?」

 

 ミカは普通にツッコミを入れた。もう我慢できる気がしなかった。




 いつもお読みくださいまして、本当にありがとうございます! これより新章の開始となります。お楽しみいただければ嬉しいです。
 また、最近ちょっと仕事が立て込んでおりますので、これが今月最後の更新となる予定です。ちょっと次の更新まで間が開くかもしれません。
こんな感じで適当にやらせていただいておりますが、これからも本作品をお楽しみいただければと思います。
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