聖園ミカがシャーレに馴染むまでの話   作:五色雨

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ちょっとドタバタしてたので夜の時間の投稿となってしまいました。
 本作品に出てくるアリスのレールガンの構造については、本作品の独自設定です。そもそもあれってウタハが「ビームはロマン」みたいなこと言ってましたけど、コトリが「実弾兵器」って言っているんですよね。
 そもそも敵を普通に貫通しますし、あれって実弾じゃなくてビームなんでしょうかね。だとしたら、それってレールガンとは言わないと思いますが……。私が見落としているだけで何か明言とかされていたら、教えていただけますと嬉しいです。


シャーレ部員と一緒に③

「ん~、あとは威力を知りたいかなー。……ねぇ、アリスちゃん。ちょっと私に撃ってみてくれるかな?」

 

「はい…………はい!?」

 

「何言っているの!?」

 

 何の脈絡もなくとんでもない発言をするミカに向かい、アリスとモモイが驚愕の表情を向けた。特にアリスは華麗な二度見でミカを見ている。地面につくほどの長すぎる黒髪がばっさばっさと激しく揺れた。

 

「あ、気にしないでいーよ☆。見たところ、当たってもちょっと痛いくらいだと思うし」

 

「あれが!? 不良くらいなら一撃で昏倒させられるんだけど!?」

 

「大丈夫だよ、私、頑丈だから☆」

 

「限度ってあるでしょ!」

 

 アリスの愛銃の威力は相当なものだ。チャージせずとも、そこらの相手は一撃で沈めることが可能である。それを軽いノリで受けようとするミカに、モモイは本気で恐ろしいものを見たような表情を浮かべた。他校の先輩(しかも初対面)でなければ、「馬鹿だ!」と絶叫したいほどである。

 

「む、む、無理です! アリスの『光の剣』は、仲間を傷付けるものではありません!」

 

「え、駄目?」

 

 首を振り、さらに両手も大きく振って全身で拒否の意を示すアリス。それを見て、ミカは何かを考えるように虚空を見上げ、再びアリスに視線を戻してにこやかに笑った。

 

「あ、じゃあアリスちゃんが私の足元に撃って、私が弾丸を明後日の方向に蹴り飛ばすっていうのは? これなら何となく威力が分かるし私も痛くないし、万一失敗しても地面に当たるか私の足が被弾するだけだから、被害は少ないよ☆」

 

「いいわけないよ馬鹿なの!?」

 

 名案だとでも言うようにパチリとウィンクしたミカに、とうとうモモイは本気でツッコミを入れた。そして馬鹿というド直球な罵倒ワードが飛び出した。慌ててモモイは口元を抑えるが、ミカは腕を組んで無駄に綺麗な声で唸るのみだ。実際のところ、最近のミカはトリニティで一部生徒から罵声を浴びせられまくっているため、今更ツッコミで馬鹿と言われたくらいでは何とも思わないのだが、そんなことはモモイもわからない。あわあわと両手を振って誤魔化そうとするモモイを見て頭の上にクエスチョンマークを浮かべつつ、ミカはそれなら、と人差し指を立てた。

 

「仕方ないなぁ……でも、一応言っておくけれど私の戦い方って被弾するの前提だよ? 全部避けるの大変だし面倒だし、避けるのに成功しても姿勢によっては反撃しにくくなるし。銃弾躱すと姿勢が大きく崩れるかもしれないけど、受けちゃえばちょっと痛いだけで姿勢崩れないし。避けるよりも受けてた方が反撃しやすくない?」

 

「いやいやいや、おかしいって!」

 

 ニコニコと笑いながらそんなことを言うミカ。眩しい笑顔に戦慄を覚えたモモイは、手をパタパタと振った。勿論、横にである。

 

「うーん、そんなに駄目かな……?」

 

 心底不思議そうに唸るミカを見て、モモイは頭を抱えそうになった。ツッコミは妹の役目だった気がするのに、さっきからツッコミしかしていない。

 確かに生徒たちは銃弾を撃ち込まれても痛がるか気絶程度で済むが、それにしたって開き直りにも程がある戦法である。戦術に関してはあまり知識がないモモイでも、それが戦法という名のフィジカルゴリ押しだということは分かった。

 

「そ、それに、蹴り返すなんてできません。……貫通(・・)しますので」

 

 再び愛銃を背負ったアリスが、てくてくとミカに近付いてきながらおずおずと言った。

 

「えっ、貫通? 体に穴空くの?」

 

 ミカは目を見開いた。流石の自分もお腹に風穴が開けば死ぬ。多分。

 

「流石にそこまでじゃないよ! あ、そういえば言い忘れてた。んー、原理はよくわからないんだけど……アリスの銃の弾丸って、実弾とビームのミックスっていうか、なんて言えばいいのかな……電気をまとった弾丸? を飛ばすんだけど、それが例えば身体に当たった場合、弾丸は身体に当たってそれで終わるんだけど、電気のエネルギーが体を貫いてさらに直進するの。だから、その後ろの人にも当たるんだ。この電気のエネルギーも結構な威力で、やっぱりそこらの相手なら一撃必殺だよ。

 ちなみにチャージすると放出するエネルギー量が増えるから、攻撃範囲も広がるの。だから、すごく広範囲の破壊も可能なんだ。フルチャージした場合、壁とか天井に大穴が開くよ。フルチャージした砲撃は砲撃というよりまんまビームだね」

 

「えええ?」

 

 何それ、それはレールガンとは呼ばないんじゃないかな? ミカは思わず変な声を上げてしまった。ミカが驚くのも無理はない。ミカはこの「光の剣:スーパーノヴァ」が「大気圏外での戦闘を目的として開発された実弾兵器」というとんでもないコンセプトで研究されたものだということを知らないのだから。言わばこの武器は、レールガンを名乗りつつも実際はビーム砲と実弾兵器の合いの子のような代物なのである。

 

 そんなミカを見て、アリスがコクリと頷く。

 

「はい、ですからこの『光の剣:スーパーノヴァ』は、弾丸(・・)しか装填しません。発射に火薬を用いらないので、アモ(アミュニションの略。実包のこと。実包とは弾薬(カートリッジ)の別名)もいりません。通常の銃弾とは、そもそも根本から異なるのだと……コトリから聞きました」

 

 一般的に「弾薬(カートリッジ)」とは弾丸(弾頭)、発射薬(パウダー)雷管(プライマー)の3つを「薬莢」という金属製のケースの中に組み込んだものである。そして「実包(アモ)」は意味としては弾薬とほぼ同じである。キヴォトスではこれらの呼び方や表記が混在しており、弾薬や実包、カートリッジやアモなど皆好きに呼んでいるのが実情である。

 薬莢はものにもよるが、大体真鍮(しんちゅう)(銅と亜鉛の合金。基本的に銅が70パーセント、亜鉛が30パーセント)製か鉄製が多い。マイナーだがアルミニウム製やプラスチック製もある。一番多いのは真鍮で、このため薬莢は「ケース」或いは「ブラス(真鍮)」とも呼ばれる。

 ちなみに散弾銃用の薬莢は紙製やプラスチック製が多い。

 

 現代の一般的な弾薬の造りは、簡単に言えば底を塞いだ金属製の円筒(薬莢)に適量の火薬を入れ、先端に弾丸を嵌め込み、底の中央に点火装置であるプライマー(形状としてはボタン電池に近い)を埋め込んだものとなる。装填して引き金を引けば、先端の弾丸が飛んでいくというわけだ。

 つまり現代の銃器は、「弾丸を込める」ことはない。「弾薬」を込めて引き金を引けば、「弾丸」が発射されるわけである。

 

 しかしアリスの愛銃はレールガンなので、弾薬を装填することはなく、ただ金属の弾丸を込めて電気エネルギーと共に射出するだけの様である。弾丸(ブレット)というよりかは「矢じり」と言った方が良いのかもしれない。

 道理で弾道が一般的な銃と異なるわけである。そして、アリスがキヴォトスの生徒ならだれもが知っているであろう銃の構造やら戦術やらにあまり詳しくないわけである。この「光の剣:スーパーノヴァ」は、キヴォトスの一般的な銃器とは完全な別物だ。何かを射出する点くらいしか共通点がない。愛銃と呼ぶのすら、便宜的なものでしかないと言ってもよいだろう。

 最初に触れた武器がこれでは、銃に関する基礎知識すら身につかないのも無理はない。

 

「なるほどね……じゃあ、今のはナシで。ごめんねー」

 

 困ったように微笑むミカを見て、アリスとモモイは同時にホッと安堵の息を吐いた。

 

「でも、この武器がすごいってことに変わりはないよね。弾道はブレずに真っすぐ飛んでいくってことは、つまり敵が目の前に一列で縦隊になっていたら、真正面に向かって遠距離から狙撃すれば全員倒せるってことでしょ、しかもまとめて。狙う必要がなく(・・・・・・・)、ただ構えて撃てば正面の敵はどれだけ離れていても倒せる。なかなか悪くはないね。問題は、ビームっぽいから弾道が丸見えってところかな☆」

 

 ミカが称賛するかのように軽く手を叩きながら言うと、モモイが眉を下げながら小さな声で同意した。

 

「そうなんだよね。だから真正面にいると躱されちゃう。フルチャージだと広範囲だから避けるのも大変だけど、周囲の被害も凄いから多用は出来ないし、チャージ時間もかかっちゃう」

 

「だから接近して近くで構えて撃ち込むわけかー」

 

「はい……ですが、それではこの勇者の証は、最大の魔法を発揮できません……」

 

 再びしょんぼりするアリス。そんなアリスに微笑みかけ、ミカは膝を曲げてアリスに視線を合わせた。

 

「えっと、つまり長射程を生かしたいわけだよね? それじゃ、考えていこっか☆」

 

 黄金色のミカの瞳を見て、アリスは目をぱちくりさせると、青い瞳をキラキラと輝かせた。

 

 

「まず、今のアリスちゃんの基本戦法……つまり、『光の剣』を盾代わりにして敵に接近しつつ『光の剣』で殴るか、チャージせずに撃つ戦法は残しておこっか。それは別に悪くは無いしね」

 

 人差し指を立てて小首を傾げながらそう言うミカに、アリスは戸惑ったように眉を下げた。

 

「で、ですが、それではこの『光の剣』の長所を生かすことが……」

 

「あー、そういう考えはやめた方が良いよ。はっきり言っちゃうとナンセンスだね」

 

 ミカはアリスの言葉を遮り、両手の指でバツを作るジェスチャーをした。

 

「PMCのように統一された装備と部隊で戦うようなら兎も角、アリスちゃん個人やシャーレ(わたしたち)で戦うなら、銃器の使い方に絶対的なセオリーなんてものはないんだよ。武器の長所とか持ち味を出す戦い方をするのもそれはそれで全然良いんだけど、そのことや効率的な戦い方に拘る意味なんてあんまりないの。

 銃器の特性を生かしていなくても強い子なんて、キヴォトスには幾らでもいるんだよ? そもそも神秘の力を使って銃器のセオリーをまるっと無視している子とかも普通にいるしね」

 

 例えばシャーレに限っても、ショットガン2丁持ちの剣先ツルギなど、通常の使い方と異なる戦法を主流としているにも関わらず強い者は意外と多い。

 ミカは愛銃こそ普通のサブマシンガンであるが、格闘術を織り交ぜたり相手の動きを先読みしたりしてセオリーとは外れた超至近距離での戦闘を得意としている。何より異常なまでのタフさを存分に使い、必ず相手を仕留められる距離まで自ら飛び込み、しかし敵の射撃を受けても倒れないという敵から見れば理不尽の極みのような戦法で、これまで多くの敵を倒してきているのだ。

 このように武器の使い方や戦い方が独特な生徒は、キヴォトスではさほど珍しくはない。

 

「そして私たちは先生の指揮下で、時には先生の指揮下でない時もシャーレの仲間と戦うわけでしょ? なら、先生とシャーレ部員がアリスちゃんに出来ることを知っていれば、別にアリスちゃんが『光の剣』の長所を生かしたマニュアル通りの戦い方に拘る必要なんて、無いんだよ。いくらでもフォローができるからね。

 どんな戦い方を採用したところでさ、要は敵を倒せれば良いんだから」

 

 あっけらかんと言うミカに、アリスとモモイは唖然とした表情を向けた。

 

「な、成程……。必ずこちらの属性にあった魔法を使わずとも、相手の弱点属性を突かなくとも、確かに倒すこともできますね!」

 

「そ、そうだね。言われてみれば……」

 

「うん、そう。だから今アリスちゃんがあまりやる機会がない、そしてやりたいことをできるようにしつつ、今できることも伸ばしていった方が良いと思うんだ」

 

 両手でガッツポーズをして目を光らせるアリス。隣のモモイも敬意の籠った目でミカを見ている。この子さっきから独特な例えするな、と今更ながらそんなことを思いつつ、ミカは説明を続けた。

 

「だから今回の場合、肝要なのはアリスちゃんが今までやれてこなかった中距離から長距離にかけての狙撃の訓練。そして近距離での戦闘をよりスムーズに行えるようにする訓練。そして、最後にアリスちゃんがある程度の銃の知識を身に着けることと、拳銃とかいろんな銃器も最低限度使えるようにする訓練。これから時間をかけて、ちょっとずつやっていこっか」

 

「はい! え、時間をかけて(・・・・・・)って……」

 

 大きな声で返事して片手をシュバッとあげたあと、アリスは目を見開いて片手をあげた姿勢のままで固まった。

 それを見て、ミカはもう一度笑顔を浮かべた。

 

「うん、乗り掛かった船だしね。今日だけじゃ身に付いたりしないでしょ? アリスちゃんが自分で満足できるまで、付き合うよ☆。ちょっとずつ前に進んでいこうね」

 

「……はい! ありがとうございます! ミカ!」

 

 ミカの微笑みを見て、アリスは今日一番の笑顔を見せた。花が咲く様な、綺麗な笑顔だった。

 

「わぁ、ありがとう! ミカさん!」

 

 そんなアリスを見て、我が事のように喜ぶモモイ。いい子たちだな、とミカは眩しいものを見るかのように、うっすらと目を細めた。

 こういうのも悪くないなぁ、と順調に(ほだ)されていっている自分に内心苦笑しながら、ミカは相変わらず晴れ渡っている空を見上げた。そして大きく息を吸い、真剣な表情を作ってアリスを見下ろした。

 

「それじゃあ、まずは簡単なところから……その拳銃、使ってみようか。その使い方をマスターしたら、今度は私の戦い方も見せてあげるよ☆」

 

 

 その日も変わることなく、シャーレは忙しかった。まずはオフィスにいる先生の指揮の下、本日の当番6人が、D.U.で今日の任務を複数こなしていた。次にバイトでシャーレに来たトリニティ正義実現委員会のメンバー4人が、喫茶店ムエットの事件の調査で駅ビルマニオライ近辺での情報収集や、ヴァルキューレとの合同捜査を行っていた。そして、さらに当番とは別にシャーレ部員が、早瀬ユウカの指揮の下、事件の捜査のために動いていた。

 

 事件捜査を行う3人の中に、才羽ミドリがいた。ミドリはD.U.の街中で街路樹横のベンチに腰掛けつつ、スマホを見ていた。他の2人と互助会から続々と送られてくる情報に目を通し、小さくため息をつく。

 

「……やっぱり、ブラックマーケットかぁ」

 

 あそこは苦手なんだけどなぁ、と思わずひとりごちると、ミドリは憎らしいほどに快晴の空を見上げてベンチの背もたれに背中を預けた。

 ブラックマーケットは嫌いだ。何せ、あそこには。

 

「……あの女(・・・)がいるって話だったよね」

 

 あの女。先生を傷付け、殺そうとしておきながら、のうのうと今でも暮らしている女だ。今のシャーレでは連邦生徒会以上に敵意を集めている存在。あの女がブラックマーケットに出入りしているという情報が共有されたおかげで、少し前は色々と大変だった。今日一緒に捜査している彼女(・・)が、もう一度暴走しないといいけれど。

 そんなことを考え、無意識にあの女のことを心配していた自分に吐き気を覚えたミドリは、街の喧騒で隠れる程度の舌打ちをした。全く、先生があの女を気にかけているから、こんなことに。

 あの女もあの女だ。テロリストならテロリストらしく、闇の奥底で誰にも知られずに蠢いていればよかったのに。シャーレの一部の部員がちょっと独走したくらいで簡単に尻尾を捕まえられて、お陰で忘れることも出来ない。先生によってあの女への報復もロクに出来なくなっている以上、もうあの女のことで頭を使うことなんてしたくないのに。

 

 ミドリは飲み終わったジュースの紙パックを握り潰すと、立ち上がって近くにあったゴミ箱に放り込んだ。ゴミがゴミ箱に入る音を聞いた後、ベンチにかけておいてあった自らの愛銃を背負い直し、スタスタと歩き出す。

 そろそろ正午だ。高く昇った日が、街中に紛れていくミドリを見下ろしていた。

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