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D.U.の東部公園は手前に駐車場があるが、そこからさらに車道が伸びており、坂を上っていった先にある中央広場まで繋がっている。そこから先は車道がなく、歩道と遊歩道、階段しかない。
中央広場は文字通りの広々とした空間で、隅には大型の野外ステージが設置されている。ヒーローショーや区が主催するイベントの会場として利用されているエリアだ。そこからさらに階段を上った先に中央の池とミカたちが待機している水上四阿、射撃場、さらにその上にアスレチック広場と天体観測用の広場がある。それぞれの広場は階段のほか、森や梅、桜が植えられたスポットを通る遊歩道で結ばれている。各遊歩道にはところどころに休憩用の四阿や茶室、そして小さな広場などが設置されている。全部散歩をしながら回るとすれば、1時間程度はかかるだろう。D.U.全体を見渡しても上位に入る広めの公園だ。
ハルカが売人を発見したのは中央の池より森の中の遊歩道を進み、階段を下っていった先にある花見用の小さな広場であった。もし、ゼルコヴァPMCの2台の車両の目的地が売人が移動していたルートのあたりだとすれば、車両に籠って中央広場で待機しているか、車両から降りて歩いてくるかのどちらかということである。
「あの人たちの目的は何だろう。……やっぱり、売人たちの回収、かな?」
ミカは四阿の天井に向かって息を吐きながら、Pコートを脱いでベンチの上に畳んで置いた。それは独り言に過ぎなかったが、この場にいる他の5人全員の耳に届いた。なお、モモイは既に試射と調整を終えて四阿に戻ってきている。
「移動ルートから推測すると、その可能性が高いと思います……」
ミドリがミカの方を振り向いて頷くと同時に、ユズが叫んだ。
「ゼルコヴァPMCの車両2台が、公園駐車場に入りました!」
ユズが持つスマホには、公園上空を飛行しているであろうユウカのドローンのカメラ映像が表示されていた。全員がそれを覗き込むと、APCとトラックがゆっくりと公園駐車場に入っていくのが分かった。しかし2台は駐車場に停車せず、そのまま通過し中央広場へ繋がる車道へ入っていった。
ドローンのカメラが中央広場の方へ向く。どうやらユウカも遠隔操作をしているらしい。
「どうする? 中央広場の方に行ってみる?」
「うーん……映像を見る限り、中央広場には数台車が止まっているけど、歩行者は見えないね。私たちが行ったらすぐ気付かれそうだけど……」
「待ってください、中央広場でロボットたちが下車する可能性もあります。……一先ずここで待機しましょう」
「確かに、クエストクリアには待ちの姿勢も重要です! わかりました、此方が人数では不利な可能性がある以上、ステルスモードで行くのですね」
モモイの声にミドリとハルカが答え、それにアリスが続いた。結局ハルカの意見が総意になり、全員が四阿で待機することとなった。
2台の車両は中央広場まで進むと、すぐに停車した。そして、APCのハッチから一斉に数体のロボットが下りてきた。続々と降りてきたロボットは、最終的に合計9体。全員都市型迷彩のアーマーを装備したロボットだ。カービンモデル(取り回しがしやすいように銃身を短くした銃のこと)のアサルトライフルを装備している。
「……カービン持っているね」
「流石に軽機(軽機関銃のこと)は持ち込まなかったかな?」
「暢気に言っている場合じゃないですよ……」
モモイとミカが小声で話し合っていると、挟まれている格好となっているユズが情けない声で言った。表情は完全に青ざめている。
アサルトライフル射手が9体。加えてAPCには12.7ミリ重機。他にも戦闘員や火器があるかもしれないというのに、判明しているだけでこれである。なかなかに侮れない戦力だ。
ロボットたちは円陣を組んだりAPCからタブレットを取り出したり、何かを組み立てたりしている。そしてロボットのうち1体が何かを放り投げた。それを見て、ミドリが顔を顰めた。
「あっ、まずい……
ロボットの手から放たれた小型ドローンは、高速で空を翔けながら歩道の方へ飛んで行った。ユウカのドローン、つまりスマホに映っている映像を撮影中のドローンに比べると飛行高度ははるかに低いが、ちょっと先を確認する程度の能力は十分備えている。この手の高速飛行ドローンの中には機関銃などを搭載したタイプも珍しくはないのだが、今ロボットが投げたのは非武装でより小型なタイプのドローンだった。
彼らの動きは、完全に敵地へ侵入する前のそれだった。つまり、前方に敵が待ち構えていることを前提とした行動である。
「……明らかに、敵との遭遇、戦闘を前提とした動きだね」
「そうですね……」
先程よりも表情が硬くなってきたミカが言うと、ハルカがそれに応えて低い声で言った。ハルカはそのまま周囲をぐるりと見渡し、全員の同意を得るかのように少し大きな声で言った。
「やはり、あの人たちの目的は売人たちとの合流、或いは売人たちの回収で……合流予定だった売人たちがどこにもいないため、警戒しているのではないでしょうか」
「うーん、そうかもね……」
ハルカの意見を聞いたモモイが首肯し、腕を組んで唸った。
「わかりました。つまり、先制攻撃はしにくいということですね」
「アリスちゃん……先制も何も、まだ敵かどうかもはっきりしていないんだよ。確信を持てなきゃ先制攻撃はダメだって」
妙に戦う気満々なアリスのキリッとした表情にジト目を向け、ミドリはため息をついた。そしてミドリは視線をカメラ映像に戻し、今度は呆れたように低い声で言った。
「うわぁ、あんな格好で9体ゾロゾロと公園を歩いてる。すっごく目立つよ、あれ」
映像では、ドローンから送られてきた情報を分析し終わったのか、ロボットたちが歩道を歩き出していた。確かに、これは目立つ。しかも公園の歩道は周囲に木々が植えられているため、白や灰色の都市型迷彩が一層目立っている。
9体のロボットは先頭に2体、中央に5体、後尾に2体のグループに分かれてゆっくりと進んでいた。おそらく中央グループのさらに真ん中にいるのが指揮官だろう。この手の行軍は前衛、側衛、後衛を設けるのが基本中の基本である。
「ドローンがこちらに来たら、どうします?」
「普通にしていればいいんじゃない? 射撃姿勢で待ち構えているわけじゃないんだしさ」
ハルカの問いに、ミカが即答する。公園の四阿で、生徒たちが駄弁りながら愛銃の整備をしているなど、キヴォトスではごくありふれた光景だ。トリニティ生徒とゲヘナ生徒とミレニアム生徒が一緒にお喋りしているのは異様といえば異様だが、決して異常とは呼べないだろう。珍しいが、不自然ではない。
そして突然ドローンが接近してくればそちらに視線を動かすのは当然だし、接近してくるドローンを観察する行為もこれまた何もおかしくはない。
「そうですよね。確かに、そうですよね」
「自然に行きましょう……全力で自然のスタイルにチェンジします!」
「アリス、それ不自然だよ、すごく」
引き攣った表情で頷くユズ。既に顔は緊張で固まり、ゴクリ、と唾を呑む仕草は到底リラックスしているようには見えない。ガッツポーズをとっているアリスも同様だった。ため息をつきながらツッコミを入れているモモイは2人に比べればまだマシだが、全体的に口調が真剣モードになっている。
一方でミカはテーブルに頬杖をつき、足を組んでにこやかな表情を浮かべている。それでいて、自然な動きで外の景色に視線を向けた。ドローンが飛んでくるであろう方向だった。
それを見て、ミドリは思わずおぉ、と声を上げた。成程、これがキヴォトスでも上澄みの実力者というものか。覇者の風格だ、と心の中のスケッチブックに急いで描き込んだ。ミカの戦いなど見たことはないが、ユウカが仕入れた情報によるとトリニティきっての武闘派だという。あの剣先ツルギと同等以上と聞いたときは
ミドリが感心していることなど気付かず、ミカは時折整えられた自身の爪を見ながらさり気なくドローンの襲来に備えていた。
約1分後、キーンという飛行音を上げ、小型ドローンが木々の合間を突き抜けて四阿の前まで飛んできた。キヴォトスではよく見られる浮遊型ドローンだ。中央にカメラを装備している。
「あれ、何だろう?」
モモイが少々大きな声で呟きながら、小首を傾げてドローンを見つめる。なかなか様になっている演技だ。横にいるアリスも開いた口を掌で覆い、驚いているポーズをしている。やりすぎ感が否めないが、クサい演技と即判断されるほどでもない。隣にいるハルカが微妙そうな表情を浮かべているが、あからさまにアリスを気にしている様子でもないのでこれまた合格点だ。モモイにつられ身を乗り出してドローンを見つめているミドリも、突然現れたドローンに興味を示したように見えるだろう。冷や汗を流してドローンに視線を固定しているユズがやや不自然な態度だが、顔色が悪すぎて警戒というよりはドローンを怖がっていると思われそうだった。そしてミカはつまらないものを見たかのような表情を浮かべつつも、ドローンの動きを目で追っていた。
ドローンはまずは四阿の近くを一通りカメラに収めてから高度を下げ、四阿に近づいてきた。ちょうど立ったミカの視線と同じくらいの位置である。そして四阿にいる6人にカメラを向けた。ミカ、ミドリ、モモイ、ハルカ、ユズ、そして最後にアリスにカメラを向けた。そのままドローンはピタリと停止した。カメラの方向がアリスを真正面に捉えた状態で固定される。
「……あれ? 何だかアリスを見ている気がします」
「本当だね、どうしたのかな?」
首を傾げて律儀にカメラを見返しているアリスにの方向に、モモイが顔を向けた。モモイの目が不思議そうな表情を浮かべているアリスを視界に収め、そして少し下も視界に入れる。
「あ」
モモイが大きな声を上げた。ほぼ同時にアリスに視線を向けていたミカ、ミドリ、ハルカ、ユズも気付いた。そして、最後にアリスが気付いた。
アリスの首からは、ミレニアムの学生証と共に
「……あ」
自身の胴体を見下ろしたアリスが声を上げると同時に、ドローンが向きを変えて高速で四阿から離れていった。
「……うわーん! アリス、ステルスモード失敗してしまいました!」
アリスの泣き顔はドローンのカメラに収められることはなかったが、そんなことは何の慰めにもならなかった。気まずい空気が流れる。
「あー……うん……いや、うん。私から普通にしていれば良いじゃんって言ったから……うん、面目ないね、ごめん」
フォローするようにミカが言った。口調と態度はかなりあっけらかんとしている。態と明るくしようとしているのが丸わかりだが、アリス以外誰も気にする素振りも見せずに首肯した。誰もがミカのありがたい雰囲気崩しに乗っかった。
「……でも、別にシャーレだって知られたくらいでどうってこともないんじゃないかな……。そもそも
か細い声であわあわしつつも精一杯アリスを慰めようとユズが言うと、これまたアリス以外の全員が頷いた。
そして、ユズの言葉に間違いはない。シャーレの部員は入部前の時点で他校にまでその名を轟かせている者が少なくない。ゲーム開発部と便利屋68は他の自治区には殆ど名前が知られていないが、それでもシャーレの一員としては古参組であり、シャーレの情報を積極的に集めているのであれば知っているくらいの知名度はある。そもそもシャーレは連邦生徒会の公的機関であり、特殊部隊でも秘密組織でもないため、活動方針や実績、所属部員等の情報は普通に公開されている。
「確かに、そうですね。寧ろシャーレと分かった以上はこちらとの衝突を避けようとするのでは……」
ハルカが小首を傾げながらそう言うと同時に、全員のスマホが鳴った。メールの通知音だった。
「あ、ユウカからだ。……ゼルコヴァPMCのトラックに動きあり……?」
ミドリがメールを読み上げると同時に、甲高い音が響いてきた。同時にユズがスマホの画面を見て絶叫した。
「トラックの荷台から、何かが射出されてる! 幾つも、数が多い……これは……!」
甲高い音はどんどん近付いてきて、次第に大きくなってくる。
「あ」
モモイが声を上げて空を指差した。向こうの木々の合間から、高速で小さい物体が無数に接近してくるのを、全員が視認した。
「
ミドリが叫ぶと同時に、全員が荷物を持って四阿から飛び出した。そしてそのまま同じ方向へ向かって走り出す。一番脚が速いミカを先頭に、ハルカ、モモイ、ミドリ、アリス、ユズの順番で脱兎の如く走っていく。
スウォームドローンは高度なネットワークで相互リンクしている小型の集団飛行型ドローンのことである。手榴弾程度の威力がある小型爆弾を内蔵しており、互いに連携しながら自律航行し、標的に向かって突入する。手榴弾程度の破壊力ではキヴォトスの生徒を戦闘不能に追い込むのは困難だが、手榴弾と違って高速で追尾してくるうえに大抵数十機で運用されるため、十分脅威といえる。
「ユウカの推測のせいでフラグが立ってたぁ! もー、ユウカのせいだよぉ!」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょお姉ちゃん!」
「こ、これ、さっきの私の台詞のせいですか!? ごめんなさいごめんなさい!」
双子とハルカのじゃれ合いを聞きながら、ミカは振り向いてドローンの群れを見た。優れた動体視力を持つミカは、高速で
「うーん、これじゃあ
その声にハッとなったアリスはミカに向かって頷くと、その場で足を止める。つんのめることもなく素早く背負っていた「光の剣:スーパーノヴァ」を構え、迫りくるドローンの群れを睨みつける。
「この光に仲間を護る意思を込めて――」
静かに、しかし力強いアリスの声が響くと同時に、「光の剣:スーパーノヴァ」の砲口で光が収束していった。それを見て、泣きそうな表情になっていたユズが真っ白になった顔をアリスに向けつつ足を止めた。
「ま、待ってアリスちゃん、公園の真ん中でチャージ砲撃は……」
「アリスちゃーん、気にせずやっちゃって☆」
「はい! 仲間は決して傷付けさせません!」
「聖園さぁああん!?」
悲鳴に近いユズの声に普通に自分の声を被せながら、ミカはウィンクしながらサムズアップをキメた。ちなみに全力で走りながら、である。そのままユズの空気を切り裂くような叫びもスルーしつつ、ミカは走りながらユウカ宛にメッセージを送った。
「……なーんか向こう側、自重する気なさそうだし……こっちも捨てよ☆」
「光よ!」
ミカが呟いたと同時に、青白い光がドローンの群れに向かって発射された。結果から言えば、これがD.U.東部公園における一連の戦闘の号砲となったのである。
次の投稿もゴールデンウィーク後になるかもしれません。ペースが落ちてきてしまっていますね、申し訳ないです……。気長にお待ちいただけると嬉しいです!