D.U.東部公園での戦闘は、少なくともシャーレ部員一同にとっては心理的な意味で奇襲を仕掛けられた格好となった。誰もがゼルコヴァPMCとの衝突の可能性を視野に入れていたが、こうも果断にそれなり以上の規模での先制攻撃を受けることになるとは、誰も予測していなかった。ミカたち6人のみならず、ドローンのカメラを通じて状況を観察していたユウカも然りである。
そしてスウォームドローンが大量に射出されていくのを見たユウカが慌てて先生に連絡を取っていた頃、アリスによる迎撃が行われた。初手で放たれた大技(レールガンのチャージ砲撃)を見て先生との通話中に椅子から転げ落ちそうになったユウカが、この戦闘における最初の犠牲者といえるのかもしれない。
それは兎も角、発射された青白い砲撃は公園に来ていた民間人の一部に目撃されながら、ドローンの群れの中へ飛び込んでいき、多数のドローンを瞬時に撃ち落とした。小さい爆発が無数に発生し、火の玉となって落下していく。スウォームドローンは小型ではあるもののそれなりに頑丈に作られているはずなのだが、アリスの砲撃の前では大して役に立たなかった。
図らずともずば抜けた長射程と破壊力を誇るレールガンの強みが実証された形となったし、幸いなことにゼルコヴァPMCのドローン以外には一部の木々が薙ぎ倒されるくらいしか被害が出なかったのだが、6人が喜ぶのはまだ早かった。
ドローンの群れは一瞬パニックになったように四散しようとするも、すぐに再び集まり、まるで巨大な一本の矢のようにミカたちに向け高速で飛んできた。ドローンを管制している相互ネットワークは未知の攻撃を受け、群体を分散しようとしつつも、すぐに四方に飛び散ったところでその分タイムロスが発生し、標的に反撃する猶予を与えることとなる可能性に思い至ったのだろう。或いは、二撃目はこないと考えたのかもしれない。当然、そんなことはなかったのだが。
「ミドリちゃん、中距離でドローン迎撃できる?」
「はい!」
「おっけー。じゃあアリスちゃんはそのまま対空砲撃を続行、撃ち漏らしたやつをミドリちゃんが迎撃、それも越えてきたドローンは残りの私たちで対処しよっか」
「わかりました!」
最初にアリスに指示を飛ばしたお陰か、流れでそのままミカが矢継ぎ早に指示を出した。肉声でしかも早口での指示だったが、まだ携行火器での射撃は始まっていなかったことと、6人が固まって移動していたことで、その声は全員の耳に届いた。ミカの声を聞き、全員が足を止めた。どの道闇雲に逃げたところで、ドローンに追いつかれるに決まっていたので、全員がミカの指示に同意した。
ミカからの指示を受けたアリスはすぐにチャージを開始し、ミドリはその場で右側の足をたたみ、その上に正座するように腰を下ろした。ニーリング(膝射)の一つで、ニーリングとシッティング(座射。座りながら射撃するポジション)の中間に位置する射撃姿勢である。
当たり前だが、射撃は動きながら撃つよりも立ち止まって撃つ方が命中精度が高くなる。そして立ちながら撃つよりも、シッティングやプローン(伏せ撃ち。うつ伏せになりながら撃つポジション)で撃つ方が命中精度がさらに高くなる。
敵はドローンで、待っていても向こうからこちらにやってくる。態々こちらから向こうに行く必要はない。ミドリの愛銃「フレッシュ・インスピレーション」は一般的なアサルトライフルよりも射程が長いので、尚更だった。
「
アリスが次の砲撃を放った。発射時の衝撃波を感じ、その場にいる全員が腰から下に力を入れる。再び発射された青い光は、正確な軌道で生き残ったスウォームドローンの群れに飛び込んだ。ドローンは青白い光を視認した直後に分散したが、それでも全てが逃れることはできず、またしても空に幾つか光の花が咲いた。爆音が響き、ドローンの破片が燃えながら雨のように落ちていく。
初撃に比べれば、明らかに撃墜数が少なかった。それを見たアリスは歯を食いしばり、再びチャージをし始める。そんなアリスの後ろ姿を見ながら、ミカは息を軽く吐いて視線を空へ向けた。
「残りは……30くらいかな?」
暢気に呟き、ミカは顎に手を当てた。生き残ったドローンは高度を上げ、上空からミカたちに襲い掛かろうとしていた。低空飛行で接近し、標的の近くで急上昇して高速で突っ込む。爆弾を内蔵した自爆ドローンがよくやる動きである。
アリスの砲撃の範囲を概ね把握したのか、ドローンは空中で幾つかの小グループに分散し、複数の方向から同時にミカたちを攻撃しようとしていた。その光景を見て、ミカは小さく舌打ちをした。
「これは危ない、突破されるかもね。用意しとこうか」
「うん!」
「ユズちゃーん、取り敢えず私の後ろに隠れといて。盾にしては小さめだけど、無いよりは良いと思うからさ」
「え、いや、それは――」
「は・や・く☆」
「は、はいぃい……」
ミカの号令を受け、ハルカとモモイも銃を構えた。モモイのアサルトライフルは兎も角として、ミカのサブマシンガンとハルカのショットガンは射程が短すぎて対空射撃には全く不向きであるが、手持ち無沙汰で突っ立っているよりはマシである。グレネードランチャーを持つユズに至っては、対空射撃をすることすらできない。
それにおそらくスウォームドローンには、既に偵察用ドローンで撮影されたミカたちの映像がインプットされているだろう。ミカとハルカとユズだけこの場から離れたところで、一部のドローンが群体から離れて3人を攻撃するだけだ。
対空射撃というのは
ミカに急かされたユズが、ミカの背中に隠れるように身体を丸めて伏せた直後、アリスが動いた。
「心に宿した、一本の強き槍――光よ!」
アリスはチャージが完了した愛銃「光の剣:スーパーノヴァ」を発射した。小グループに分かれたドローンの群れの中から、一先ず目についたグループを標的に選んだようだった。それで良い、とミカはアリスに向かって首肯した。今は時間との戦いだ。
「よし、始めます!」
青白い光に包まれて小グループの一つが消し飛んだ直後、ミドリが正確無比な連続射撃を開始した。次々と発射される弾丸は、迫りくるドローンを次々と撃ち落とした。高速で飛び回る小さなドローン相手に、恐るべき射撃精度である。ミカは思わず目を見開き、感心したかのようにミドリに視線を向けた。
そして、すぐにアリスに声をかけた。ここまでドローンの群れとの距離が近付いては、連射ができずにチャージする余裕もないアリスの「光の剣:スーパーノヴァ」にこれ以上の出番はない。
「アリスちゃん、こっちに! アリスちゃんも私が守るよ!」
「はい、今行きます! ミカ!」
アリスが「光の剣:スーパーノヴァ」を背負い、勢いよくミカの近くに飛び込んだ。それと同時にモモイが射撃を開始する。
飛翔するドローンは次々と空中で爆発し、破片がパラパラと降り注いでいた。しかし、それでもまだ10機ほどが残っている。
「じゃあいくよー。アリスちゃんもユズちゃんも、動かないでね☆」
丸まっているユズの背中と、うつ伏せの状態で顔だけミカの方に向けているアリスに微笑みかけたミカは、真剣な目でドローンを睨んだ。愛銃を両手で構え、銃口を空に向ける。
「それじゃ、やっていこう☆」
直後、ミカの愛銃「Quis ut Deus」の引き金がひかれた。轟音とともに無数に発射される弾丸。
「え――」
それを視界の隅に入れていたハルカは、思わず目を奪われて瞠目した。発射された弾丸はほとんど
サブマシンガンによる、連続の精密射撃だった。特別なアクセサリも技術も使用しない、力づくで反動を抑えての精密射撃。ターゲットに一瞬で大量の銃弾を叩き込み、即座に次のターゲットに狙いを移す。続けざまに3機のドローンを落とし、4機目に狙いを定めた直後、その機が爆発した。
「これで……! よし、次!」
撃ち落としたモモイがぐるりと顔を動かし、ついでに他のメンバーの顔も確認し、ポツリと呟いた。
「あれ? 終わった?」
沈黙。全員が空をぐるりと見渡し、代表してミドリが返答した。
「……終わったみたいだよ、お姉ちゃん」
結果はドローン全機撃墜。地上で爆発したドローンは一機もなかった。まさしく最良の結果である。
「……ふぅ、それじゃ次、行こっか☆」
汗一つ流さずに周囲に向かって微笑んだミカを見て、全員が同時に頷いた。出番が全くなかったハルカとユズが複雑そうな表情を浮かべていたが、それでも敵の先制攻撃は完璧に対処することが出来たのである。次は、反撃の時間だった。
◆
ユウカのドローンは相変わらず公園上空を飛行し続けており、カメラ映像は問題なくミカたちのスマホへ転送されていた。代表してミカが戦況をユウカに伝えつつ、ミカたちはそろそろと前進していった。
ゼルコヴァPMCの兵士たち9人は、ドローンによる先制攻撃が完了次第、こちらに追撃を仕掛けてくるかと思われた。しかし実際はそうではなく、或いは攻撃が不発に終わったことを何らかの手段で認識して追撃を中断したのか、行軍を一時中断し、射撃場と池があるエリアと中央広場を結ぶ歩道と階段の辺りで待機しているようだった。
とはいえこちら側も待機していてはどうしようもないので、ミカたちはドローンの映像を確認しながら、ゆっくりと前進することにした。
このまま進めば、階段の一番上からゼルコヴァPMCを迎え撃つことが出来る。階段上での迎撃といっても、階段と歩道には遮蔽物も何もない状態なので、大してアドヴァンテージが得られるわけでもない。しかし、それでも防弾性能など皆無な水上四阿や、池の脇にある何もない広場で迎え撃つよりはずっと良い。
階段上でこちらが戦闘を仕掛けるとして、今更奇襲になるとも思えない。向こうがどれほど情報を得ているかは不明だが、スウォームドローン50機でシャーレのメンバー6人を戦闘不能に追い込むことが出来たと楽観視する可能性は低いのではないか。
つまりは、双方が警戒している状態で、間に遮蔽物がない場所で行われる銃撃戦となる。このような戦闘は、敵の銃弾を防げずに避けることしかできないため、最終的には相手が全員気絶するまでしこたま銃弾を叩き込めた側が勝つ。つまり手数が多い方か、より多くの命中弾を得た方、またはより耐久力が高いメンバーがいた方が勝つわけである。クレバーな戦略などまるでない、銃器の性能かフィジカルでゴリ押しできた方が勝つ戦いだ。
それを悟ったらしく、モモイがうんざりしたかのように呻いた。
「気乗りしないなぁ。……ユズ、発煙弾とか持ってる?」
「ごめん、今日は持ってきてない……。任務では基本、街中で周囲に誰もいないタイミングでの襲撃を想定していたから。HE(高性能炸薬弾)と、念のためにHEDP(多目的榴弾)を幾つか持ってきているだけだよ。売人を捕まえることを想定していたから、煙幕弾や散弾は持ってきてない」
モモイの多分に愚痴を含んだ質問に、ユズが汗を流しながら答えた。
ユズの愛銃「にゃん's ダッシュ」はグレネードランチャーである。グレネードランチャーとは、早い話が爆弾を投射する武器である。アンダーバレル(ライフルに取り付けるタイプ)とスタンドアロン(単体で使用するタイプ)があるが、ユズの愛銃は後者となる。
グレネードにはいくつか種類があり、中には煙幕弾や催涙ガス弾、信号弾、照明弾などがある。しかしグレネードは銃の弾薬よりもかなり大きく、嵩張る。例えばユズの愛銃が使用するグレネードは40×46ミリ。前者が口径、後者が薬莢の長さである。比較すると、モモイの愛銃「ユニーク・アイディア」が使用する弾薬が7.62×51ミリである。見ての通り、全然違うサイズである。サイズも重量も異なるため、携行できる数も大きく変わってくる。
グレネードランチャーは豊富な種類の弾薬を投射できるのが強みであるが、実際は取捨選択して1~2種類の弾薬を携行するのが普通であるので、この点に関してユズには全く落ち度はない。
「うーん、じゃあいっそのこと、森の中にでも入って回り込んでみる? どうせ先生の指揮もないから、空から見えるところにいる意味もないし。ユウカのドローンが援護は、期待できないよね……」
「おそらくは。今の状況ではあのドローンの装備は公園の中では使えませんよ。多分、まだ民間人も避難していないですし――」
モモイがそう言いながらミカの方を向くと、ミカではなくハルカが返事をした。
その直後、公園の各所にある避難警報のサイレンが鳴り始めた。ヴァルキューレが管理しているD.U.中に配置された警報システムが仕事をし始めたらしい。流石にスウォームドローンまで使われた、到底些細な
「あ、ユウカからまたメールだよ。また車両の方で動きがあったみたい」
ミドリがそう言うと、全員立ち止まった。そしてドローンからの映像を映しているユズのスマホを覗き込んだ。
映像では、APCとトラックがゆっくりと動き出していた。そして、2台の車両は一気に速度を上げ、ミカたちが待機しているエリアと繋がる
「……へっ?」
間抜けな声をあげたモモイを尻目に、2台は歩道を
「……本当に自重しない人たちだねぇ!」
そんな光景に、とうとうミドリがキレた。若干涙目で天に拳を突き上げている。隣にいる姉のモモイは慰めることもできず、未だに間抜け面を曝したままスマホの画面を凝視していた。こちらはこちらで、完全に思考が停止している。さらにその横にいるアリスは「その手があったか!」みたいな表情を浮かべて両手をポンと合わせている。
「成程、相手はショートカットをしていますね。良い裏ワザの使い方です!」
「よくないよぉ! 絶対ダメなこと! 論・外!」
感心したように何度も頷くアリスに向かって大声を上げた後、ミドリは空に向かって両腕をぐるんぐるんと動かしている。八つ当たりされている空とお天道様からは、当然何の反応もない。
「……ま、まぁ、先生は百鬼夜行で、戦車でジャンプしたと聞いてるし、歩道を走るくらいは……」
「え、何それ」
何故かユズが敵のフォローをし、それを聞いてミカがユズの顔を真顔で見つめた。なお、ミカは知る由もないが、それをやらかしたのはミカが目の敵としているゲヘナ
「……あの、法律違反はよくないかと……」
「で、ですよね、伊草さん……」
ハルカの至極真っ当なツッコミに、ユズは苦笑しながら首を振った。なお、法律違反にかけてはハルカは他者に説教できる立場ではない。何せハルカは、あちらこちらに爆弾を仕掛けては起爆させること(勿論無断である)をよくやっているし、そもそも彼女が所属する便利屋68は存在自体がゲヘナの校則違反である。
しかし幸いなことに、ハルカにツッコミを入れる者は誰もいなかった。
「……おーけー。取り敢えず、また前提が変わってきたし……歩きながら、作戦会議しよっか」
何故自分が音頭を取っているのだろう。
そんなことを考えながらも、ミカは全員の顔を見渡した。