聖園ミカがシャーレに馴染むまでの話   作:五色雨

38 / 48
 すみません、大変遅くなりました! 来月はもっと執筆時間が取れると思いますので、お待ちいただけると幸いです。


シャーレ部員と一緒に⑫

 ミカたちがスウォームドローンを全て撃破していた頃、早瀬ユウカは焦っていた。

 事前に先生の許可を得たうえでのD.U.におけるスクーナーの売人捕縛任務だったが、その最中に突如現れたゼルコヴァPMCという組織、そして彼らによるシャーレ部員への問答無用の先制攻撃。それも50機程度のスウォームドローンを使用した大規模な襲撃である。たまたま近隣に一般市民はいなかったし、スウォームドローンは事前にターゲットをインプットされた誘導兵器であるとはいえ、公園のど真ん中での暴挙に、ユウカは少なからず動揺した。確かにミカたちに自重する連中かどうか怪しいというニュアンスの言葉を語ったし、ユウカ自身ある程度覚悟はしていたのだが、敵はユウカの想定以上にやらかしてきた。

 

 最悪だ。

 ユウカはミレニアムサイエンススクールのセミナー執務室で頭を抱え、髪を掻き毟った。

 

「な、何てこと……みすみす部員を危険に曝してしまうなんて……」

 

 歯を食いしばり、ユウカはドローン操作用のノートPCの前で声を荒げた。

 

 現時点で一般市民に被害が出ていないのは僥倖だし、既にヴァルキューレによる避難警報も出た。しかし、ミカたち6人が先生の指揮も援軍もなく、こんなことを平然と仕出かす連中と相対しているのは問題だ。しかもユウカの要請で作戦に参加しているハルカとミドリ、ユズと違い、ミカとアリスとモモイはプライベートで公園に来ていたのになし崩し的に巻き込まれた形だ。

 

 売人捕縛作戦は4人中3人を捕らえることに成功しているが、そんなことは何の慰めにもならない。先生が折角ユウカに指揮を任せてくれていたというのにこの様だ。ゼルコヴァPMCは、ユウカ指揮の作戦中に言わば外部から殴り込んできたようにも見えるのだが、それを言い訳にすることはできない。そもそも「敵」の全容や正体が不明な現段階では、突発的に新たな敵戦力が現れてシャーレ部員を攻撃してくるということは想定しておくべきであった。

 

 いや、実際に想定していた。だからこそ、ゼルコヴァPMCを警戒したのだ。しかし、まさか話し合いも何もせずにこちらがシャーレと認識した途端にこんなことをしてくるとは。

 甘かった。これに尽きる。嘆きつつも反省点が次々と浮かび上がり、この先すべき行動についても冷静に思考している自分の脳内に嫌気すら覚えてくる。

 独り言を呟き、ユウカは苛立ちをかき消すかのように乱暴な仕草でコーヒーカップを呷った。一気飲みするには少々温度が高い液体が己の喉奥に注がれていくのを感じたが、それを気にする余裕はない。

 

「……一先ず、先生に状況は伝えたけれど……あぁ、何て様……!」

 

 己を叱咤しつつも、すぐさまユウカは先生に交戦開始を伝えた。幸いにも、先生との通話中に椅子から転げ落ちることはなかった。アリスの砲撃を見て変な声が喉の奥から出て、頬を赤く染める羽目になったが。

 現在、先生はD.U.北端エリアで戦闘をしているシャーレ部員3人の指揮をしている。先生が持つ指揮管制用ドローンもそちらに駆り出されている。指揮管制ドローンは合計3機がシャーレオフィスにあるが、間が悪いことにそのうちの1機はミレニアムでエンジニア部による定期メンテナンスを行っている最中である。このためもう1機を慌てて公園上空まで飛ばしたが、先生といえども二方面での同時戦闘指揮は簡単に出来ることではない。不可能ではないだけで十分先生の指揮能力が高いことを実証しているのだが、それでも1機で行う時のようにスムーズにはいかないだろう。

 

 しかし、それでもドローンの得た情報をレンズを通してミカたちに送信することはできる。指揮管制用ドローンが公園上空に到着するまではどうしてもある程度の時間がかかるし、ドローンが公園上空に辿り着いても、先生が状況を把握してからでなければ指示を出せないので、先制攻撃を許した後でドローンを飛ばしたところで遅すぎるのだが、何もしないよりはマシだと先生は判断したのだろう。

 

 自分の判断と指揮の結果、先生が後手後手の対応を取らざるを得ない状況になっている。そう考え、ユウカは切歯扼腕した。情けなさと先生やミカたちへの申し訳なさで、心の中で炎が燃え盛るのをユウカは感じた。

 

 現在、ユウカがコントロールしている重武装ドローンの装備は使えない。このドローンには誘導爆弾(スマートボム)や対レーダー誘導弾、対地誘導弾などが搭載されているのだが、いくら避難警報が出ているとはいえ街中の公園で気軽に使用できるものではない。それに現時点で、既にミカたちとゼルコヴァPMC双方の距離はさほど離れていない。ドローンの兵装は何れも広範囲の標的を撃滅することが出来るミレニアム製の強力な代物ばかりだ。この状況で使用すれば、ミカたちにとって超至近着弾となる。いくら精密爆撃が可能な兵器ばかりとはいえ、衝撃波は着弾地点から無差別に広がる。ミカたちが巻き込まれるリスクに目を瞑ってまで使用するほど、状況は逼迫していない。つまり、現状では何の役にも立たない。

 

「み、見ていることしかできない……」

 

 ここまで来れば、ユウカに出来ることはドローンの映像を通して得られた情報を、ミカたちに伝えることくらいだ。

 シャーレオフィスには部員たちが待機中だが、それらを指揮するのは先生の役目だ。それに戦闘が始まっている以上、今更駆けつけることも出来ないだろう。障害物も何もない公園で、援軍到着まで持久戦をさせるわけにもいかない。

 あの6人でこの自重を放り捨てた連中を対処してもらわねばならないのだ。

 

 ユウカは低い声で唸り、モニターを睨みつけた。

 

 

「ユウカ先輩から連絡です。先生がドローンを飛ばしたそうですので、レンズを付けてくださいと。但しドローンがここの上空に到着するまではもう5分ほどかかるそうです」

 

 スマホを睨みつけたユズの声を聞き、全員が異口同音に返事をした。そして、一斉に「レンズ」を目に付けた。新たな装備を装着したアリスが謎のポーズをとりながらキメ顔で元気に叫んでいるが、全員スルーしている。多分、いつものことなのだろう。

 

 現在、ミカたちはそろそろと前進しながら、敵の攻略方法について意見を交わしていた。

 ゼルコヴァPMCはAPCとトラックの到着を待って攻勢に出るつもりなのか、それともミカたちが無傷なのを知って待ち構えているのか、まだ階段の下側で待機していた。

 

「……このままでは向こうに重機を搭載した装甲車とトラックが合流します。運転手が降りてくれば、敵歩兵の数も増えると思われます……」

 

 数秒スマホの画面を見つめていたユズは、か細い声で呟いた。既に警報は鳴り止み、数分ごとに避難指示の自動音声がスピーカーから聞こえるのみとなっている。このため、ユズの呟きは他の5人の耳に届いた。

 

 心配するほどのことでもないんだけどな。

 そう考えるも、ミカはそれを口には出さない。突然奇襲を受けて始まった戦闘の最中だが、ミカの思考は至って冷静である。驕りでも何でもなく、ミカはあれくらいの敵ならば自分1人で殲滅できると考えている。しかし、ミカの実力を知っている者はこの場にはミカしかいない。自信満々に「私がいれば大丈夫☆」といっても、何にもならない。

 だからこそ、建設的な話しかする気はない。

 

「それで、どうしよっか。階段の上の方を陣取って、先生の指示を待つ? それとも、その前に仕掛けちゃう?」

 

「そうですね……」

 

 ミカの声を聞き、ハルカが呟いた。虚空に視線を向け、顎先に指を当てている。自信無さげな声色ではあるが、ハルカは実戦経験が豊富な戦闘のプロである。古参のシャーレ部員であり、戦闘も汚れ(ダーティな)仕事も請け負う便利屋68の平社員でもある。ゲーム開発部の面々より遥かに戦闘に参加する機会が多い。

 そしてハルカ自身、高い戦闘センスと実力を持つ。自分を肉盾代わりにすることに躊躇がなさすぎたり、隙あれば特攻したがったりと悪癖もあるが、戦闘能力はシャーレでも上位に入る。

 

「……先生の指示よりも前に、ちょっと、交戦()るも悪くないのではないでしょうか? 私たちは、敵の全貌を把握しておりません。もしかしたら、スウォームドローン以外にも秘匿された兵器を所持しているのかもしれません。

 どうせ敵の装備の詳細を確認できなければ大雑把な攻撃計画しか練ることはできませんし、威力偵察をしてみるのもアリかと。このまま敵に時間だけ与えるのも良くないと思いますし、プレッシャーを与えるのも大事だと思います。

 先生の命令は絶対ですが、先生の命令が届くようになるまでにはまだ時間がかかるでしょう。何よりあんな連中に先生のお手を煩わせるのは業腹なりません。一刻も早く排除しなければ……。1割ほど意識がある状態で確保できれば十分ではないかと思います。あとは解体(バラ)してしまいましょう。……ゼルコヴァPMCはブラックマーケットに本拠地があるそうですし、バラしてそこに送り返してしまいましょう」

 

「ひぃい……」

 

 卑屈そうに笑いつつも、吐き捨てるように放たれた苛烈極まりない言葉に、ハルカの背中を見つめていたモモイが震え上がった。なお、隣にいるミドリは歯を食いしばりながらコクコクと激しく首肯している。憤懣(ふんまん)やるかたない、と言いたげな表情を浮かべるミドリに、モモイは気付いていないようだった。

 

 「威力偵察」とは、敵の殲滅を目的としない小規模な攻撃を仕掛けることで、敵情(敵の装備などの情報)の把握に努める偵察行動のことである。

 

「成程、この状況ではドローンによる偵察も斥候もあまり意味はないだろうし……仕掛けてみるのも、確かにアリだよね」

 

 全くもって冷静そのものの声でミドリがそう言った。表情は激怒を腹の底に抑え込んでいるような有様だったが。

 

「う、うん、賛成! 落花生(らっかせい)に打ち倒さなきゃいけない理由もないし、まずは小手調べに仕掛けるのも良いよね。受けてばっかじゃフラストレーションが溜まるよ」

 

 モモイが元気良く片手を上げながら言うと、隣のミドリが舌打ちを我慢しているような表情を浮かべてモモイを睨んだ。

 

「……お姉ちゃん、それを言うなら一気呵成(いっきかせい)でしょ。変に難しい言葉を使おうとしないで。爆弾持たせて階段から蹴り落とすよ?」

 

「すみませんごめんなさい許してください」

 

 氷のように冷たい声にビクリと肩を震わせ、モモイは涙目で返事をした。任務モードのミドリは姉の粗相に厳しいのである。姉妹に向けるものとは思えない温度のない視線の前に、モモイはあっさり姉の威厳を放り捨てた。第三者視点からすれば、そんなものは最初から無かったとも言えるが。

 

「……ふーん、えっと、ユズちゃんとアリスちゃんは?」

 

 姉妹漫才は自然に見なかったことにしたミカがくるりと誰もが見惚れるくらいに華麗にターンし、笑顔でユズとアリスに視線を向けた。

 

「そ、そうですね。威力偵察か……どうせなら、敵装備の確認だけでなく一部破壊を狙ってみては……どうでしょうか……。12.7ミリ重機を乱射されるかもしれませんが……まずは重機を破壊したいです」

 

 ユズが緊張のあまり若干声を上ずらせつつも、しっかりと考えながら返答した。まだミカと普通に会話をするのは困難なようだが、それでもコミュニケーションそのものを放棄するつもりもないようだ。私情で作戦行動に支障をきたすのは避けたい様子だった。

 

 一方、アリスは力強く首肯すると、ミカに向かってやる気に満ち溢れた顔を向けた。

 

「はい! ボス攻略には段階を踏み、徐々に削っていくのもよくある事です。何より、敵にダメージを与えない限りは勝利は得られません!」

 

「成程ね。……じゃあ、私が行ってみるよ。皆は援護をお願いしていい?……あ、でもハルカちゃんの愛銃はショットガンだし、遠距離での援護は難しいかな……」

 

 ミカが全員の顔を見渡しつつ、一度頷いて宣言した。そして、その後眉を下げてハルカを見つめた。ミカに視線を向けられたハルカは苦笑し、卑屈そうに笑いながら首を横に振った。

 

「問題ありませんよ。これがありますので……」

 

 ハルカはそう言うと、(おもむろ)に上着のボタンを外してそこに腕を突っ込んだ。そして、何かを引っ張り出す。それを見て、ハルカ本人とアリス以外の面々が顔を引き攣らせた。

 それはベルトに繋がれた、大量の手榴弾だった。手榴弾にはいくつか種類があり、代表的なものが「破片手榴弾(フラググレネード)」と「衝撃手榴弾(コンカッショングレネード)」である。破片手榴弾は周囲に広く破片を撒き散らして広範囲を攻撃するタイプで、衝撃手榴弾が爆風(つまり爆発時の衝撃波)で狭い範囲を攻撃するタイプである。

 ハルカが大量に持ち込んでいるのは後者の衝撃手榴弾だった。破片手榴弾と違って効果範囲は狭いが、言い換えれば接近戦でも問題なく使用できる。また、破片手榴弾の破片は装甲や防盾などで簡単に防御できるのに比べ、衝撃波で標的を打ち倒す衝撃手榴弾は装甲服を着たロボットや障害物越しの相手にも相応のダメージを与えられる。

 効果範囲が広すぎる故に市街戦では使いどころが難しい破片手榴弾に比べ、街中での接近戦でも味方を巻き込む可能性が低い衝撃手榴弾は、基本的に市街地で活動することが多いキヴォトスの生徒にとっては使い勝手の良い基本装備みたいなものとすら言える。そのためハルカが持ち歩いているのは別におかしくはないのだが、問題は量だった。ぱっと見ただけで、10個以上は携行しているように見える。

 

「これを投げて、援護します。ご心配なく、こう見えても、手榴弾や爆薬を使うのは手慣れていますので」

 

 そう言いながら口元を三日月形に歪め、喉の奥から笑うハルカはかなりの迫力があった。

 

「……ハルカ、ひょっとして、他にもいろいろと持ち歩いてる?」

 

 モモイが恐る恐るといった風に尋ねると、ハルカはあっさりと頷いた。

 

「ええ、C4を幾つかと、破壊筒(バンガロー)も持っています」

 

「何と戦う気なの!?」

 

 平然と答えるハルカに、モモイが思わず大声でツッコミを入れた。

 障害物や敵車両など様々なものの爆破に使えて色々と潰しが効くプラスチック爆弾C4は兎も角(それでも売人捕縛任務に使い道があるのかは疑問だが)、地雷処理や鉄条網突破などに使用されるバンガロール破壊筒は、街中の何処で何に対して使うつもりなのだろうか。そして、この細身の身体に一体幾つの危険物を仕込んで持ち歩いているのだろうか。もはや歩く火薬庫状態である。

 モモイのツッコミを聞きつつ、ミカはもうこの子を突っ込ませて全部起爆させればよいんじゃないかな、と洒落にならない外道なことを考えてしまっていた。勿論、口に出したりはしない。

 

 なお、ハルカは先生からの指示があれば嬉々として特攻してその身もろとも敵を倒そうとするし、先生からの指示がなくても特攻しようとする超ド級の問題児であるということを、ミカは知らない。

 

「……あー、ハルカちゃん? その手榴弾、幾つかアリスちゃんに渡してもらっていいかな? 流石に『光の剣』は接近戦をしている味方への援護には向いていないよ」

 

 代わりにミカの口から飛び出たのは、至って現実的なお願いであった。ミカの言う通り、アリスのレールガンは貫通する上に砲撃そのものが広範囲で、敵陣を前に動き回るミカへの援護には向かないだろう。

 ハルカは頷くと、手榴弾を幾つかアリスに渡した。再びアリスが謎のポーズをとった後、手榴弾を上着のポケットに突っ込んでいくが、これまた全員スルーしている。

 

「では、わたしのグレネードランチャーで先制攻撃を行います。そしたら聖園ミカさんが飛び出して行って……重機を狙いつつ、敵の出方を伺う。わたしたちは援護射撃。……これで、良い……ですか? 聖園ミカさん」

 

 額の汗を拭いつつそう言ったユズに、ミカはにこやかに微笑んで頷いた。

 方針が決まり、反撃が始まる。

 

 

 ドローンの情報によると、既にAPCとトラックはゼルコヴァPMCの兵士たちと合流していた。APCの重機関銃は階段上、つまりミカたちの方角を向いており、射手も取り付いている。

 ミカたち6人は腰を落とし、そろそろと進んだ。

 

「……」

 

 先頭にいたミカが腕を水平に伸ばして元に戻す動作を繰り返した。「散開して」のハンドサインだ。それを視認した5人が一斉に散り、それぞれ階段上から身を乗り出せる場所に陣取った。

 

 まだレンズには何の情報も出力されてこない。先生の指揮管制用ドローンが公園上空に到着するまで、もう少しかかりそうだった。

 

 さて、そろそろいってみようか。

 にっこりと微笑んで周囲を見渡したミカは、スッと片手を上げた。彼女の動きに、5人の視線が集中する。

 

 ミカは少し離れたところに待機したユズに向かい、親指と人差し指を突き出す指鉄砲の形を作った手を掲げるように見せ、指鉄砲を撃つように手首を上げた。「攻撃、開始」のハンドサインだ。

 首肯したユズは愛銃を宙に向け、引き金を引いた。グレネード弾が発射される。空に飛びだしたグレネード弾を視認し、ミカは勢いよく駆け出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。