今回の決闘で使用される戦術試験区域は市街地を模したものでビルをはじめとした建物の要害物が多いフィールドとなっている。
決闘が開始され、ガンダムサナトスはフィールド上で最も高いビルの屋上に位置取りをして周囲を索敵する。
「見つけた」
すぐに何度かジャンプしながら移動しているルブリスV2を見つけると狙いを定める。
シズカがボタンを押し狙撃用ビームライフルが放たれる。
ビームはルブリスV2から逸れて着弾すると、ルブリスV2はビームの飛んできた方向にメガビームキャノンを撃つ。
狙撃後にすぐに移動していたため、ビームはビルの上を吹き飛ばすだけだ。
屋上から移動し、降下しながら2射目、3射目とビームを撃つもいずれもルブリスV2に当たる事はない。
ルブリスV2は再びビームの飛んできた方向にメガビームライフルを撃つ。
空中でフレキシブルブースターを使い急旋回をしてビームをかわすとビル群の中に着地する。
「狙いが逸れてるわね。全くいい加減な仕事をして……」
これまでの3回の射撃は全てルブリスV2は回避行動を取る事なく外れている。
シズカの想定では直撃とまではいかなくてもルブリスV2に回避行動を取らせるなり何らかの行動をさせる事ができるはずだった。
しかし、シズカの狙いよりも大きくそれてルーカスにこちらの居る方向を教えて反撃させる余裕も与えている。
それはシズカの狙いが悪かった訳ではなく明らかに狙撃用ビームライフルか肩のセンサーユニットの調整がおかしいせいいだ。
「仕方がないわね。ある程度は自分で修正するしかないわね」
専属メカニックたちの怠慢を愚痴っている余裕はない。
シズカはパーメットスコアを2に上げる。
調整の不備で照準がおかしいのであれば機体とリンクして自らの感覚で修正すればいいだけのことだ。
スコアを上げているとルブリスV2はメガビームキャノンで射線上の障害物を吹き飛ばしながらガンダムサナトスが着地した方向をビームで薙ぎ払う。
「ありゃもう始まってんじゃん」
地球寮のブリーフィングルームに仮眠していたマキアが入ってくる。
「向こうのガンダムは長距離射撃用かぁ……それにペイル社らしい高機動や空戦にも長けてるねぇ。それにルブリスは高火力ってバカじゃん! ルカ君は何考えてるのさぁ」
「装備はルーカス様の気分で選びました」
マキアはすぐに相手のガンダムの特性を見抜く。
同時にルーカスが今回の決闘で使用した装備を見るとそう評価する。
「ペイル社のガンダムなら機動力がある事は分かるじゃん。それに足の遅い高火力ってさぁ。普通に考えれば高機動一択じゃん。ジェタークの時の近接用の時もそうだしなんで装備選びが雑なのさ! ルブリスは古い機体だから装備を特化させて相性のいい装備で優位に立たないと勝ち目は薄くなるって事前に説明したじゃん!」
事前に相手のガンダムの情報を得る事は出来なかったが、ペイル社製のMSの傾向からある程度の機体特性は想定できる。
そこから機動力の低い高火力パッケージは悪手でしかない。
前回のジェターク寮との決闘でもわざわざ相性の悪い近接戦闘用パッケージを使い苦戦している。
ルブリスV2は近代化改修をしているが、ペイル社やジェターク社の最新鋭の技術を使って開発されているガンダム相手では機体性能では劣ってしまう。
それを補うために装備を相手に合わせて換装することで機体特性を有利にして機体性能の差を埋める事を前提にしている。
「それを気分で選ぶとかふざけんな! ばーか!」
マキアがモニターに向かって罵倒しているとルブリスV2のメガビームキャノンにビームが直撃して破壊された。
「狙いが良くなったか」
メガビームキャノンを失いルーカスはすぐにエネルギータンクもパージする。
「キャノンを失ったけど。まぁ何とかなるか」
ルブリスV2はメガビームライフルを何度か撃つ。
貫通力の高いビームは射線上の障害物を貫通していく。
「撃ち合いになればこっちが不利ね」
最大射程ではガンダムサナトスのほうが上だが、ルブリスV2は障害物をぶち抜いて撃ってくることが出来る。
単純な撃ち合いではシズカの方が不利だ。
その上で照準を知覚リンクで補いながらビームを避けながら行わなければならない。
「はぁはぁ流石に……」
フレキシブルブースターを前方に向けた状態で後ろに下がりながら狙撃を行いルブリスV2と距離を取っていく。
「……はぁはぁ、何?」
一度身を隠しながら着地するとシズカは息苦しさを感じる。
パーメットスコアを2で維持しながら射撃を回避を行い負担は大きいがまだ体力は戦えるだけは残っている。
「まさか……何で……データストームが」
単純な疲労ではなくデータストームが起きているようだが、まだパーメットスコアは2までしか使っていない。
スコアが2でも絶対にデータストームが起きないという保証はないが、ふと視線をスコアの数値に向けるとそこには3と表示されている。
「いつの間に……3に!」
シズカはスコアを2で維持しているつもりだったが、いつの間にかスコアは3にまで上がっていた。
だが、パーメットスコアは常に決闘員会の方で見られているため、スコアが3になった時点で反則負けとなり決闘が止められるはずだ。
いつスコアが3になったか分からないが、エマがそれに気づかないとは思えない。
シズカは知らないが、エマの方で把握しているスコアは2を維持した状態で固定されている。
「くっ……」
状況を把握する前にルブリスV2のビームが飛んでくるため回避する。
「何なの。動きが……」
スコアが3になれば2の時よりも機体性能は向上しているが、明らかに機体の動きが鈍くなっている。
スコアを下げようにもシズカの意思では下げる事も出来なくなっている。
「何だ? 動きが悪く……そういう事か。汚い真似するな」
ガンダムサナトスの動きが悪くなったことはルーカスの方でも確認できた。
序盤の狙撃精度の悪さと合わせてルーカスも向こうの機体に細工されているという事は分かった。
「……そういう事なのね。私に死ねって事か」
一方のシズカも機体に細工されている事に気づき、同時にそれを行ったのがペイル社だという事にも察した。
学園の決闘では賭けが行われており、度々賭けに勝つために負けて欲しい相手のMSに細工する生徒がいるが、ペイル社の最高機密でもあるガンダムサナトスの警備が厳重で部外者が細工出来る事は不可能だ。
メカニックを買収するにしても後でバレた時のリスクを考えれば買収されるメカニックもいないだろう。
決闘前に少し様子のおかしかったメカニックがいたことを考えばペイル社の方から指示があって細工をしたのだろう。
元からこの決闘においてペイル社が勝つメリットがない。
勝ってガンダムサナトスの性能を証明したところで、グループの跡取りのルーカスを死なせてしまえば意味はない。
例えルーカスが同意していたとしても、ジェターク社やグラスレー社が跡取りを死なせたことを喜々として責めるだろう。
それに比べれば負けてガンダムサナトスとシズカを失った方が損失としては軽い。
機体に細工をして長所の射撃制度を落とし、パーメットスコアを3まで上げる事でデータストームと動きを鈍くすることでシズカへの負担を上げ、あわよくばデータストームの影響で死んでくれれば負ける事も出来る。
スコアの表示を改ざんして反則負けにさせないのはどの道負けて失うのであればスコアを上げた状態での戦闘データ収集を集めたいというところだろう。
「このまま決闘で負けて死ぬか、粘ってガンダムに殺されるか……どの道、私は……」
データストームの影響で呼吸が荒くなり、視界もボヤケ始める。
ビームが狙撃用ビームライフルを直撃して破壊される。
「どうするシズカ。これで終わりか?」
「……けないでよ」
狙撃用ビームライフルを失い勝機はもう残されていない。
後は大人しく負けるが、逃げ回り続けてデータストームで死ぬかしかない。
「ふざけないでよ! 私を買って! 人生を弄んで! 死に方まで決めて!」
ガンダムサナトスは左肩の小型シールドからビームサーベルを抜いて構える。
「まだやるか。そうこないとな」
一気に加速してガンダムサナトスはルブリスV2の方に向かう。
「死に方くらい! 私が決める!」
ビームを回避しながら接近するとビームサーベルでルブリスV2のメガビームライフルを切り裂く。
すぐにルブリスV2もビームサーベルを抜いて左腕のアームガトリングで弾幕を張る。
「動きがさっきより良くなってんな。スコアを上げたか」
スコア3で機体の動きを鈍くするように細工されていて、スコアを自分では下げる事は出来なくなっていたが、上げる事は出来たようでシズカはパーメットスコアを4にまで上げていた。
ペイル社もシズカが自らスコアを上げる事は想定していなかったようでスコアが4になれば動きの鈍さも感じられない。
「エマが止めないって事はスコアの改ざんもやってるのか。まぁここで止めるなんてことが無粋だから良いか」
ルブリスV2は迫るガンダムサナトスをビームサーベルで迎え撃つが、回避されてアームガトリングの砲身が切り裂かれる。
すぐに砲身をパージして蹴りと同時に脚部のビームガンを展開して撃つが、ガンダムサナトスは腕部のビームガンを撃って脚部のビームガンを潰す。
「どうせ死ぬなら貴方を殺して会社も道連れにしてやるわ! ざまぁみろ!」
シズカも自らの死を望む会社を道連れにするために決闘にだけは勝つつもりのようだ。
「ちょこまかと……アイツは狙撃用なのによく動く」
ルブリスV2は脚部の追加装甲もパージして身軽となり左手にもビームサーベルを抜き頭部のビームバルカンで応戦する。
「さあ、来い。お前の絶望を全部俺にぶつけて来い」
ビームバルカンをかわしながらガンダムサナトスは再び接近し、ルブリスV2に切りかかる。
ルブリスV2はビームサーベルで弾きながら防ぐ。
「うるさい! アンタはそうやって私の一人の世界に土足で入り込んで壊して!」
ガンダムサナトスの猛攻をルブリスV2は確実に凌いでいく。
「一人なら失う事も無い。傷付くことも無い。それなのに!」
2本のビームサーベルでガンダムサナトスのビームサーベルを受け止めるが、パワーで押し切られる。
「アンタのせいで! ようやくお父さんやお母さんのところに行けると思ったのに!」
「それがシズカの望みか? ガンダムで死ぬことが」
「そうよ! こんな世界で生きていたっていい事も何もないただ生きているだけの世界なんて!」
ルブリスV2の頭部をビームサーベルの突きで狙うが、最低限の動きでかわす。
両親を失い性質の悪い医者に借金を背負わされ、その借金を肩代わりしたペイル社にガンダムに乗せられて命を賭け続けている。
そんなことしか起こらない世界にシズカは絶望し、そんな世界で生きるよりも両親のいるあの世に行くことを望んでいた。
「それなのに! アンタのせいで思ったじゃない。こういうのも悪くないって!」
始めは情報収集のつもりでルーカスに接していた。
話は基本的にルーカスが一方的に話し、話題も一貫性もなくその時々のルーカスの気分で変わる。
情報収集としては何の意味もなく、無駄な時間でしかなかったが、その無駄な時間もいつの間にかシズカの中では満更でもなくなっていた。
「責任取りなさいよ! 責任を取って死ね! 私も後から死ぬからさ!」
「無茶苦茶だな。まぁ死ぬ気はないけどね。死にたかったら。一人で死ね。後、ガンダムを自殺の道具にすんな迷惑だ」
「うるさい!」
ガンダムサナトスは左腕のビームガンでけん制を入れて接近する。
ルブリスV2はビームをビームサーベルで弾く。
「アンタが全部悪いのよ! アンタが!」
「とんだ濡れ衣だ」
「アンタが人の気持ちも考えずに!」
「興味ないからな」
「そんなんだから友達がいないのよ!」
ガンダムサナトスはビームサーベルを振るいルブリスV2の左腕を切り落とす。
そのまま左肩のシールドを掲げてルブリスV2に突撃し、後ろのビルまで突っ込む。
ルブリスV2はビルに叩きつけられる。
「いってぇ……」
「はぁはぁ……後、少し……後少しだから」
パーメットスコアを4まで上げたことでデータストームの影響も強くなりシズカへの負担も大きくなり意識も朦朧として気力で機体を動かしている。
ガンダムサナトスはビームガンを連射する。
ルブリスV2は右腕で頭部を守るが、ビームの直撃で装甲にダメージを受けていく。
ビームガンの威力はそこまで高くなく、装甲にダメージを負うがフレームまでは到達していない。
「後少しで私もそっちに行ける。死ねるから……」
シズカは自身の限界を感じ、死が近づいてくることを感じている。
死を意識すると脳裏にある光景がよぎる。
それは両親と両足を失った時の光景だ。
つい少し前までは両親だった肉塊を目の前に両足の激痛すら感じる事もなく、ただ咽が壊れかねないほど叫んだあの時の光景だ。
その光景はシズカにとって死を象徴している。
「……くない」
息が乱れる中、シズカは口を開く。
「嫌だ……死にたくない」
今まで世界に絶望し、死を望んでいたシズカだったが、死を近くに感じた時にその言葉が出た。
ただ死ぬのが怖いという言葉だ。
「……そっか。それが絶望を全部吐き出して残った事か」
その言葉はルーカスにも届いていた。
「うん。シズカは俺とは違って自分の意思でそう言えたんだな。なら、生きないとな!」
ルーカスは機体のスラスターを最大出力で使う。
ルブリスV2はビルの外壁を崩しながら上昇する。
バックパックに相当なダメージを受けるが、その勢いでガンダムサナトスの後方に着地する。
「だから俺は勝つ。勝ってお前の命は俺が貰う」
ルブリスV2はビームサーベルを投げつける。
振り向きざまにガンダムサナトスはビームサーベルで飛んできたビームサーベルを弾き飛ばす。
バックパックのスラスターはダメージでまともに使えないため、ルブリスV2は走って距離を詰める。
シズカは朦朧とする意識の中で反射的にビームサーベルを振り下ろした。
ギリギリのところで避けるがルブリスV2の右肩から右腕を切り落とした。
「後、一歩だ」
最後の一歩を詰める為にスラスターを使おうとするが、ダメージでバックパックが爆発するが、その爆風で最後の一歩を詰める事が出来た。
ルブリスV2とガンダムサナトスは正面から激突する。
「これで俺の勝ちだ!」
ルブリスV2は衝突しバランスを崩す中でガンダムサナトスの頭部に頭突きをお見舞いする。
同時に頭部のバルカンを撃つことでガンダムサナトスの頭部を破壊する。
そのまま2機は吹っ飛び倒れる。
「はぁはぁ。エマ」
「分かってるわ。勝者、ルーカス・ナボ・レンブラン!」
ガンダムサナトスの頭部のブレードアンテナが破壊されたことでエマがルーカスの勝利を告げた。
「負けたの……でもこれで……」
自身の負けを宣告され、シズカの意識は遠退きやがて完全に失った。
意識を失ったシズカの表情はどこか全てを受け入れて満ち足りた様子だった。