機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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13話

決闘を終えたルーカスは機体を地球寮のハンガーへと戻す。

 

「重たい……」

 

 コックピットから気を失っているシズカを抱きかかえたルーカスが出て来る。

 ルブリスV2は右腕は肩から左腕は肘から下を失っているため、戦利品であるガンダムサナトスを持って帰る事も出来ず戦術試験区域においてきたが、パイロットのシズカだけは回収し、機体の方はセシルを回収に向かわせている。

 

「……私のルブリスが……徹夜で直したのに……」

 

 地球寮に面々がルーカスを出迎える中、マキアはボロボロになって戻ってきたルブリスV2を見て呆然としていた。

 

「マキア。シズカを頼む。データストームにやられてる」

「そんなところじゃ……ああ、うん。分かった。担架持って来て。医務室に連れてく」

 

 ルーカスに文句の一つも言いたかったが、流石にそんな状況ではないと察して指示を出す。

 すぐにコウタロウとフレットが担架を持って来てマキアと共に意識の無いシズカを医務室へと運んでいく。

 

「大丈夫なのか?」

「生きてはいる。原因はデータストームだしマキアに任せておけば大丈夫だろ。あれでガンダムだけじゃなくて人間の方も見れるからな。もっとも興味があるのは患者の生き死にじゃなくてデータストームが人体に与える影響の方だけどな」

 

 マキアは本職はメカニックだが医療関係の知識も持っている。

 しかし、本人の興味はガンダムのデータストームが人体に与える影響を確かめる為に医学を学んだに過ぎない。

 一般的なケガや病気に関しては最低限の知識しかないが、今の学園においては常駐している医者よりも役には立つ。

 

「そっか。まぁお前そういうならそれを信じるけどさ。分かってんだろうな?」

「分かってるって」

「バックレんなよ?」

「善処する」

 

 ルーカスはそう言い医務室へと向かう。

 マキアの応急手当のお陰もありシズカは命の別状もなく、医務室からフロントの病院へと移されると数時間後に意識を取り戻した。

 

「……私は」

「ようやく起きたか」

 

 シズカは声の方に視線を向けるとルーカスが椅子に座っていた。

 

「取り合えず1か月は入院して安静にしとけってさ」

「入院? そんな必要もないでしょ。私は負けたのだから」

 

 シズカはゆっくりと上半身を起こす。

 まだ体は怠いが意識ははっきりしている。

 

「そうだな」

 

 ルーカスはシズカが自室に隠していた銃を放り投げる。

 シズカは黙って銃を取ると自分に向けて目をつむる。

 引き金に指をかけるが、中々引き金を引くことが出来ない。

 次第に手が震えやがて、銃を下した。

 

「情け無いわね」

「まぁわかったけどな。シズカは本気で死ぬ度胸のない構ってちゃんのメンヘラ女だって事はさ」

 

 ルーカスはシズカから銃を取るとシズカに向けて躊躇う事なく引き金を引いた。

 シズカは思わず両腕で身を守ろうとするが銃から弾が出る事は無かった。

 

 「シズカさ、これを撃ったことないだろ。ペイル社の奴らからすればコイツで自殺でもされると困るからな」

 

 シズカの持っていた銃は護身用としてペイル社から極秘裏に学園に持ち込んでいたものだ。

 しかし、ペイル社はこれを使われることを避ける為にわざと限りなく本物に近い偽物の銃をシズカに渡していた。

 この銃で他の生徒を撃った場合はある程度は隠蔽が出来るが、ペイル社としてはこの銃でシズカが自身の環境を苦にして自殺することを恐れていた。

 それ自体の隠蔽は難しくはないが、シズカをガンダムのパイロットとして買った値段は安くはなく、値段分の仕事をする前に無駄に死なれるとそれだけの損失になる。

 

「……いつでも死ねるように用意してもらったのに馬鹿みたいね」

「そうだな。馬鹿だよ。お前は死にたくもないくせにさ」

「……そうね。でも、決闘で負けた以上はさっさと殺しなさいよ」

「やだよ。面倒くさい。それに決闘で賭けたのは命であって負けたら死ぬことを賭けたんじゃない。お前の命は俺の物だから俺の好きにする権利があるだけだ」

 

 元々、ルーカスとシズカの間で賭けたのは命であって負ければ死ぬという物ではなかった。

 だからこそ、決闘後に勝者が敗者の命を生かすも殺すも勝者の自由だ。

 

「シズカが本気で死にたいっていうのであれば俺もシズカを殺していたけどさ。けど、シズカは言ったよな。死にたくないって」

「そうだったかしら?」

 

 本人は死を望んでいたが、最後の最後でシズカは死を恐れ生きる事を願った。

 その最後の言葉はしっかりとルーカスまで届いていた。

 

「絶望も憎しみも全て吐いて最後に残ったの死にたくないっていうならシズカはまだ生きていたいんだろ? 俺とは違って」

 

 その言い方ではまるでルーカスは生きる意志がないようにも取れる。

 

「……どういう事? 私からすれば貴方は恵まれ過ぎているじゃない」

「まぁね。その自覚はある。でも……俺にとっては何の価値も無かったんだよ」

 

 ルーカスは養子とは言えベネディットグループの総帥の息子として富や権力を持っている。

 少なくとも生きる上で不自由はなくその気になれば大抵の物は手に入る。

 

「今でこそ親父が俺の存在を証明しているから俺でいられるけど元々は何者でもなかったからな。俺は」

 

 ルーカスはどこか遠くを見ているような気がする。

 

「シズカはヴァナディース機関って知ってる?」

「ええ。まぁ」

 

 ガンダムに関わる者としてシズカも知らないはずがない。

 ガンダムに搭載しているGUNDフォーマットに関する研究をしていた機関で学園の授業でも出てきている。

 

「ここから先の話は親父しか知らない事だから他言無用だけど、俺はそこで作られた」

「作られた?」

 

 ヴァナディース機関に関わりのある人間は徹底的に取り締められており、総帥であるデリングはかつてヴァナディース機関を壊滅させたことで英雄視されている。

 ルーカスがそこの出身であることを知りながら養子としたことも驚きだが、それ以上にシズカはルーカスの言い方に引っかかった。

 ルーカスは関係者や出身者ではなくそこで作られたと言っている。

 

「ヴァナディースはGUND-ARM、つまりはガンダムのデータストームを何とかしないといけなかったが、その過程で大きく分けて2つの研究が進められていた。1つ目はデータストームを発生させない研究。もう1つはデータストームの影響を受けなくする研究だ」

 

 シズカもその辺りの話は理解できる。

 圧倒的な性能を持ちながらもデータストームのせいでパイロットを殺すガンダムはその問題を解決しなければいけなかった。

 その際に解決策として挙げられたのがガンダムからデータストームを発生させないようにする方法とデータストームが起きてもパイロットに影響をなくす方法だ。

 どちらか実用化すればガンダムの倫理的な問題はなくなるはずだった。

 

「俺はその過程の中で人為的に作りだされた。遺伝子レベルでいろいろと弄られて優れた肉体に優秀な頭脳、あらゆる病気に対する抵抗とかいろいろと出来うる限りをな」

「……あり得ないわ。そんなの」

「まぁなガンダムの生命倫理の問題とは非じゃない。命の冒涜だ。けど当時の研究者はそこまで追い詰められていてGUNDの生みの親であった婆さんも抑えきれなかった。で作られたのが俺ってわけだ」

 

 当時の研究者たちにとってはGUNDの倫理問題は速やかに解決しなければならない問題ではあったが解決の糸口は見つからなかった。

 その中で人間の遺伝子を改造することでデータストームを克服できる可能性が提示された。

 GUNDフォーマットの提唱者であるカルド・ナボ博士も倫理問題を解決するために別の倫理を侵してしまえば意味はないと反対したが、最終的には一部の研究者たちの独断で実行されることとなった。

 

「その結果として俺はデータストームの影響を受けなくなったが、間抜けな事にどこをどう弄った結果でそうなったのかは分からなくなった上に再現しようにもコストも時間もかかり過ぎるから出来ないと来た。連中からすれば始めから上手くいく算段なんて無かっただろうからな」

 

 元々人間の遺伝子を弄る事でデータストームを克服すること等始めから可能だとは思ってはおらず、失敗して終わればそれで収まりがつくはずだった。

 しかし、結果としてルーカスはデータストームの影響を受けない事が分かった。

 だが、成功するはずもないと思っていたため、研究者たちの間で情報をまともに記録や検証を行っていなかった。

 そのため、どこの遺伝子を弄れば同じようにデータストームの影響を受けなくなるのか分からなくなり、追加の実験を行うにも資金面や時間の問題もあり断念せざる負えなかった。

 それでもルーカスの存在は研究に大きな一歩を及ぼしその出自を隠してただデータストームの影響を受けない子供としてヴァナディース機関で育てられることとなった。

 

「で、親父のやったヴァナディース強襲の際に俺は1人逃がされた訳なんだけど、元々ヴァナディースの外の事は情報でしか知らなかったし、俺の生まれに関しては秘匿されていたから戸籍すらないから俺は外の世界じゃ存在すらしていない」

 

 ルーカスの生まれは公表できるはずもなく、まだ幼い事もありフォールクヴァングから出る事も無かったため、戸籍すら持っていなかった。

 そんな状態で全てを失い外に出たルーカスはデータ上ではこの世界に存在すらしてなかった。

 

「全てを失って、俺が何者でもない事を知った俺には何も残されていなかったから、そんな世界に生きている意味も見出させずに未練もなかったな」

「でも貴方は今日まで生きているじゃない?」

 

 ルーカスの言い方では生きる事を望んだシズカとは違い生きる理由も意味も無いというがそれでもルーカスは10年も生き続けている。

 

「婆さんに呪いをかけられたからな。アンタは生きてやりたい事をやれってさ。だから俺は今もこうして生きてる」

 

 ルーカスを生かしたのは10年前に最後にカルド・ナボが残した言葉だった。

 ただそれだけがルーカスが生きる意味で、それは自ら死ぬことを選ばせない呪いでもあった。

 

「で、生きる為に親父と取引をした。俺は親父の金と権力を得る代わりにガンダムの力を最大限に引き出せる最強の駒になるって取引をさ」

「私も大概糞見たいな人生を送ってきたけど、貴方も大概ね」

「不幸自慢なら大抵の奴を黙らせることは出来ると自負してる」

 

 ルーカスの物言いにシズカは思わず吹き出しそうになる。

 

「はぁ……バカみたい」

「実際バカだよ。俺とは違ってシズカはさ。親に愛された記憶がある。だから失う悲しみも絶望もあるけど、俺にはない」

 

 親を失い絶望し死を望んだが、ルーカスからすればそれも恵まれている。

 親の居ないルーカスは失う悲しみはないが、同時に愛されることも無い。

 

「シズカは自分が悲劇のヒロインぶってるけどさ。それってどこにでもある普通の不幸でどこにでもある普通の幸せなんだよ」

「そっか……普通だったんだ。私……」

 

 シズカは再び上半身を倒すと腕で目元を隠す。

 今までは自分は誰よりも不幸でそんな世界が憎く、そんな世界で生きる意味はなく両親のいるところに行きたいと願っていたが、それは誰でにでも起こりえる普通の事だったと考えると途端に馬鹿らしく思えてきた。

 

「……ルカはなんで私にここまでする訳? 自分の命を決闘に賭けてまで」

「なんでだろ? 多分、昔の俺を見ているようでムカついたのかも。本当は一人でいる事が寂しいのに斜に構えて一人でいる事を望んでますってシズカを見て」

 

 シズカが魔女であることを知らなかったとはいえ、ルーカスがシズカの為にここまで動く理由もない。

 ルーカスもそれについて考えたことも無かったが、改めて考えると昔の自分を見ているかのようだったと気づいた。

 

「俺もヴァナディースにいた時はそうだった。無駄に年齢不相応に頭が良かったから自分の生まれとか研究所での扱いとかが理解できたから、一人でいる事を望んでさ。それでも俺に手を差し伸べてくれた人たちはいたんだよ。だけど俺はそれは研究の為に俺の機嫌を取っているだけだと壁を作って差し伸べられた手を払い続けてきた。実際にその意図が無かったとは言わないけど、それが全てじゃない事は理解できたけど理屈を捏ねて否定してさ。馬鹿だよな。エリーは頭ん中空っぽでただ俺と遊びたいだけなのにそれを否定して……本当はただ羨ましかっただけなのにさ」

 

 ルーカスは自身が研究対象となっている事や自分の生まれた経緯も当時から全て知っていた。

 だからこそ周りが自分に優しく接するのも研究の為だと思う事で否定し続けてきた。

 いつも自分の後ろをついてまわろうとしていたエリーの事も鬱陶しがり突き放してきた。

 その都度、エリーを泣かせるも次の日にはそんなことも忘れて遊びに誘って来た。

 本当は両親に愛されているエリーに嫉妬していただけだった。

 

「俺が何も知らない餓鬼だったら素直に回りを受け入れる事が出来て。普通にエリーと友達になって遊んで、何も知らずにあの日一緒に死ねたかも知れない。だからシズカももう少し周りを見たらいいと思う。世界は糞だけど、自分の周りは多少はマシだと思うからさ。コウタロウの奴も心配してたし、フランの奴もあれで面倒見も良いしセシルなら大抵の事は出来るからさ」

「……考えとく」

「ほんとにマジでな。でないと俺が殺されるから」

 

 冗談ぽく言っているがフランは場合によっては本当に実行するだろう。

 

「さて……また来るから。しっかりと休んでおけよ」

 

 ルーカスはそういうと病室を出ていく。

 

「……バカ。そういう時は俺を頼れくらい言いなさいよ」

 

 ルーカスが出ていきシズカは一人零すが、それはルーカスには届くことは無かった。

 

「一応、空気は読んでたんだ」

 

 病室を出て少しするとルーカスの前にスーツ姿の男が現れる。

 すぐに後ろにもスーツの男が現れルーカスの前後を塞いでいる。

 

「誰の差し金?」

 

 ルーカスの質問に男たちは答える事もなくルーカスの左右から腕を掴み拘束する。

 

「総帥からは手荒な真似をしても構わないと言われていますので」

「……そういう事か」

 

 ルーカスも事情を察すると大人しくする。

 

「また面倒な事になったな」

 

 男たちに連行され、その日を境にルーカスは学園から姿を消した。

 

 

 

 

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