機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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15話

 ルーカスは一か月振りにアスティカシアに戻ってきた。

 

「それじゃ私は寮に戻るけど、くれぐれも余計な問題は起こさないでよ」

 

 フロントの港から学園区画に出るとエマがグラスレー寮へと帰っていく。

 

「さて、俺らもペイル寮に行くか。今日中にレイニーに勝てばそのままミオリネのところに帰れる」

「待て待て。てか、レイニーの奴アタシ等がここを出る少し前に会社事情とかで休学してるぞ」

 

 フランたちもルーカスの居ない一か月の間、ただ無為に過ごしていた訳ではない。

 ルーカスが戻ってきた時の為に情報を集めていた。

 その最中、学園に残る最後の魔女であるレイニーがペイル社の用事で学園を休学していた。

 

「は? 聞いてないぞ。なら、俺が戻って来る意味ないじゃん」

 

 フランもシズカも学園に戻って来てもすぐにレイニーと決闘が出来ない事を知りながらも黙っていた。

 もしも知ってしまえば引き返すことは分かり切っていたからだ。

 

「とにかく、今は一度休んで今後の方針を決めようや。シズカはどうすんだ?」

「今更、ペイル寮に戻るつもりはないわ。私は切り捨てられたもの」

 

 ルーカスとの決闘でペイル社はシズカを切り捨てた。

 寮のメカニックは会社の意向に沿ってガンダムサナトスに細工までしている。

 それを知りながらもペイル寮に戻るほど図太くない。

 

「そっか、そんなら地球寮に来るか? 今は地球寮に女子はいなかったけど、一人分の部屋くらい何とかなるだろ」

「人の多いところは好きじゃないわ。それよりも私は決闘で負けて私の命はルカの物になったのよね? ならルカには私の人生を背負い養う責任があると思うの」

「んだよ。そんな約束してたのか? 男なら責任を取らないとな」

 

 ルーカスはそんな約束までした覚えはなかったが、ここで断るのも面倒に感じた。

 

「まぁ……仕方がないか」

 

 ルーカスも特に反論することなく諦めた。

 マキアは再び持ちこんだガンダムを格納庫に持っていき、そのままルーカスは自分の寮へと戻っていく。

 

「で、シズカはどこで寝泊まりするんだ? アタシの予備のテント貸そうか?」

「……嫌よ。いくら何でもプライベート空間は必要だわ」

 

 現在理事長室の寝室はルーカスが使い、フランは執務室の一画にテントを張っている。

 マキアは格納庫で寝泊まりをしていてセシルはその辺りは不明だ。

 複数の人間が住む場所としてはここは余りにも適していない。

 

「小会議室を使われては? 少々手狭ですが鍵をかける事も可能です」

 

 セシルに小会議室に案内される。

 小会議室は中央に4人用のテーブルとモニターがあるくらいでそこまで広いとは言えない。

 

「これだけの広さがあれば十分よ。フランさん。テーブルとか邪魔な物をどかしてもらえるかしら?」

「おう。力仕事は任せとけ」

 

 シズカはフランに指示を出して小会議室を自分好みに変えていく。

 1時間ほどで作業は終了した。

 部屋の中央のテーブルは部屋の淵に移動され、椅子もまとめられている。

 中央には複数のソファーをくっ付けて並べてシーツを簡易ベットが置かれている。

 後はペイル寮の部屋から持って来た私物がテーブルに置かれている程度だ。

 

「意外だな。もっと、本とか持ち込むと思ってた」

 

 ルーカスがシズカと会っていた時は大抵、シズカは本を読んでいた。

 シズカにとっては唯一現実から逃れる手段として使っていたが、部屋には本の類はほとんどない。

 

「一々かさばる物を持ってこないわよ。これ一つで十分よ」

 

 シズカは車椅子から一冊の本を取り出す。

 本の表紙は白紙だったが、シズカはどこかを弄ると表紙が変わった。

 

「それって本物の本じゃなかったのか」

「そうよ。これ電子デバイスなの」

 

 ルーカスが紙の本だと思っていたのは電子デバイスだった。

 見た目や質感を紙のように変化させることが出来て、中身も変える事で一冊で複数の本として使える。

 質感だけでなく実際に本を捲っている感触も再現されており、実際は動作だけだが本当にページを捲っているような感覚を味わえる。

 また、デバイス自体の大きさや厚みもある程度は変える事も可能で触感だけでなく本の大きさや厚みまで実物に限りなく近づけることが出来る。

 

「これとベッドがあれは住むには十分よ。どうせ、部屋で動き回る事も無いんだし」

 

 シズカは車椅子でしか移動できないため、ペイル寮の部屋のような広さは求めてはいない。

 

「うっし。シズカの部屋も出来た事だし、今後どうすっか決めるか」

 

 シズカの部屋作りも終わり、ルーカス達は執務室で一息つく。

 

「帰る」

「帰んな。そういえば2年の校外実習でもうすぐだったよな」

 

 ルーカスはレイニーがいないのであれば帰ろうとするが、フランが軽く流す。

 

「そういえばそうね」

「何それ?」

「2年には毎年、学園のあるフロントから離れたところで1週間くらいの実習があんだよ。アタシも去年やった」

 

 アスティカシアの行儀事として毎年おこなれている。

 全ての学科の2年生がベネディットグループが所有しているフロントまで生徒たちが自分たちで輸送艇の進路を決めて航海する。

 フロントに到着後はそこで1週間程度の実務を行い帰ってくるという物だ。

 

「面倒そうだな。パス」

 

 ルーカスは余り興味を示さないでいた。

 本来ならば体調不良や会社都合以外では参加は強制であるが、ルーカスであれば参加しなくても何も言われないだろう。

 

「ルーカス様。どの道、レイニーさんが戻るまではやる事もないんですからたまには参加してみては? 良い暇つぶしになると思いますよ」

「そう? なら参加してみるか。セシル、準備よろしく」

 

 セシルの言葉でルーカスはあっさりと自分の言葉を覆した。

 

「了解しました」

 

 その後、セシルが校外実習の準備を始め、ルーカスは自分の部屋に戻っていく。

 それからはトラブルが起きる事なく校外実習の出発の日となった。

 

「シズカさん。荷物を持ちます」

「ええ。お願い」

「シズカさん。何か飲み物でも用意しましょうか?」

「頼むわ」

 

 港には数隻の輸送艇が止められている。

 学園に戻って来てから数日の間に地球寮の中でシズカはメカニックのロン、バズ、ゴンタの3人を取り巻きとして従えていた。

 元々、今の地球寮に女子生徒はおらず、いるのは女として認識されていないフラン、常にルーカスと行動している事の多く周りとは必要最低限しか関わらないセシル、寮にはほとんど顔を出さないマキアだけで、そこにシズカが加わった。

 女っ気のなかった地球寮にシズカが来たことで地球寮の面々は浮足立ち、シズカも軽く愛想を振りまくだけで自分の意のままに操れる人材として地球寮の男子の大半を自分の支配下に置いた。

 

「ルーカさんよぉ。いくらシズカさんの後見人になったからって調子に乗らないで貰えますか?」

「あ?」

「コウもだ。シズカさんの幼馴染だからっていい気になるなよ?」

「おっおう」

 

 ロンとバズに同調するかのようにゴンタが頷く。

 

「何だアイツら。ウザいな始末してやろうか」

「まぁ待ってくれ。まだマシだぞ。俺なんて寮でいろいろと聞かれてウンザリだ」

 

 コウタロウは少しやつれている。

 シズカが来てからという物、シズカの幼馴染と言う事で他の寮生からいろいろと質問攻めにあって寮でも気を休める事が出来なかった。

 

「アイツらもアタシが来るまで学園では碌に女子生徒と関わる機会が無かったんだ。少しは多めに見てやれよ」

 

 見送りに来ていたフランがそういう。

 

「浮かれるのも出るまでだ。毎年、トラブルは起きるからな」

 

 校外実習は毎年おこなれるが、何もトラブルがなく終わった年はない。

 元々寮同士の争いがある中で実習中は学園よりもはるかに狭い空間で共同生活を送るため、ストレスから生徒間同士のいざこざは怒る。

 教師や護衛もつくが、トラブルに対しては人命に関わる重大なトラブル以外には動くことはない。

 そのトラブルをどう解決するかもまた実習に含まれているからだ。

 フランに見送られてルーカス達は校外実習へと出かける。

 

 

 

 

 

 校外実習の準備は1か月前から始められていた。

 2年生を複数のグループに分けて経営戦略科の生徒を中心に目的地のフロントまでの距離とそこまでの航行ルートや移動手段の確保、往復の移動時と滞在時の水や食料の確保やそれらにかかる予算等を自分たちで考えて決めてきた。

 元々ルーカスは不参加のつもりだったが直前に参加を決めたが、ルーカスの入ったグループでは実際のシチュエーションとしてどこかの企業の重役が急遽乗り込んでくる可能性を考慮してある程度は融通の利くように準備をしていたため、ルーカスとセシルが急に入る事となっても大きな問題は無かった。

 

「ルーカスさん。もうすぐフロントに入ります」

「ああ。ご苦労さん」

 

 輸送艇のブリッジにて艦長席でルーカスはふんぞり返っている。

 艦長席に座っているもののルーカスが指揮を取っている訳ではない。

 生徒たちは何度も操船訓練を受けているが、ルーカスの前でここまで航海するのは普段以上に気を使った。

 ルーカスが船内にいる事で普段から関わりのある地球寮の生徒以外は気を使っていたこともあって数日の航海では何のトラブルも起きる事なく予定通りに校外実習を行うフロントまでたどりついていた。

 ルーカスを乗せた輸送艇を先頭に3隻の輸送艇がフロントの港に入る。

 その様子をフロントから少し離れた場所から大型輸送艇が補足していた。

 

「隊長。情報通りあのフロントにターゲットを乗せた輸送艇が入っていきましたよ」

「分かった。セリカの奴にも準備させておけ。様子を見て頃合いを見計らって作戦を開始する」

 

 大型輸送艇のブリッジで隊長と呼ばれた男が部下たちに指示を出す。

 館内が慌ただしく作戦準備に入る中、一人の少女が両手でパンを抱えて移動していた。

 

「コレ。今日の残り。みんなで食べて」

「悪いな。セリカ」

 

 白い髪を短くまとめたセリカと呼ばれた少女は館内の一室の男たちに持って来たパンと飲み物を渡す。

 部屋はそこまで広くないが中には数人の男たちが押し込められている。

 身なりもセリカや他のクルーたちと比べると見ずぼらしい。

 

「ううん。気にしないで。私に出来る事はこのくらいだから」

 

 セリカは申し訳なさそうにする。

 彼らが皆、アーシアンでこの輸送艇に搭載されているMSのパイロットたちだ。

 この大型輸送艇は銀河の獅子で運用されている。

 パイロットであってもアーシアンである彼らの立場は最底辺で、パイロットとして動けるだけの最低限の水と食事が与えられ、館内で匂われても困るからと最低限の清潔さを保つことが許されている。

 その上で命を賭けて戦ったとしても報酬は大したことはないが、アーシアンである彼らにとっては、それでも地球に残してきた家族を養うためには必要な金だ。

 セリカは時々、自分たちの食事で余った食料を彼らのところに持って来ている。

 それは彼らに対して同情している訳でも善意と言う訳でもなくただ館内でまともな扱いを受けている自分に対する後ろめたさからだ。

 

「おい! セリカ。作戦の準備に入るぞ。そんなアーシアンに構ってんなよ」

 

 クルーの一人が隊長からの指示でセリカを探していた。

 セリカは怒りを押し殺しながらも軽くにらむ。

 

「そんな顔すんなよ。お前ら姉妹はアーシアンだが特別なんだよ」

 

 睨まれたクルーは余り気にした様子はない。

 

「ターゲットが来たの?」

「そういう事だ。戦闘になるからお前の機体もいつでも出せるように準備しとけってさ」

「……分かったわ」

 

 クルーは部屋の中のアーシアンの事等いないかのように視線を向ける事すらしないで、セリカと共に格納庫に向かう。

 フロントが狙われている事等知らないルーカス達の校外実習が始まった。

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