機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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18話

 校外実習で襲撃を受けフロントを廃棄して離脱後は襲撃を受ける事も無く救援に向かっていたカテドラルの部隊と合流することが出来た。

 その後は他のグループにも襲撃の可能性を考慮して実習自体が中止となり学園に戻る事となった。

 幸いにも他のグループへの襲撃はなく事件そのものは内々に処理されることとなった。

 狙われた可能性の高いルーカスも一時的にカテドラルに保護下に入り事情聴取を受けたが、本人の強い希望もありすぐに学園に戻って来る事が出来た。

 

「ルカ! 無事なんだな?」

「見ての通りな」

 

 理事長室では事件を聞いたフランがルーカスが帰ってくるのを待っていた。

 先に学園に戻ってきたシズカやコウタロウからはルーカスは無事だという事は聞いていたが、実際に無事な姿を見て安心する。

 

「で、襲撃してきたのはどこのどいつだ?」

「さぁ? こんなのよくある事だから一々気にしてられないよ。こんな事で報復するのも面倒だしな」

 

 事情聴取の中で襲撃した相手が反アーシアンを掲げる銀河の獅子であることは聞いているが、ルーカスはそのことは伏せておいた。

 元々、この事件は公にはしないで、生徒たちにも口止めがされている。

 それ以上にフランに話せば殴り込みにでも行きかねない。

 

「良いのかよ。それで」

「良いんだよ。それよりもベギルベウ届いた?」

 

 ルーカスは荷物を適当に放り投げるとソファーに座り一息つく。

 

「ああ。コウの奴が使ったグラスレーの奴だろ? 届いてるぞ」

 

 襲撃の際にコウタロウが使ったベギルベウはルーカスがグラスレー社から買い取って学園に運び込んでいた。

 機体そのものは10年以上前の機体だが、決闘仕様に調整しても実習用のデミトレーナーよりも戦力としては使えると判断してグラスレー社の方に使用許可を申請した。

 

「アレをコウに使わせるのか?」

「まぁな。デミトレよりかは戦力になるしな」

「まぁアンチドートも使えんだよな?」

「部品は取り寄せるから届き次第修理すれば使えるようにはなる」

 

 戦闘で使った時は最低限使えるように直して無理やり使ったが、学園で運用するにあたりグラスレー社から修理用のパーツを取り寄せて修理する予定だ。

 話題を襲撃犯の事からベギルベウの方に逸れた事で取り合えずは殴り込みに行くことも無さそうだ。

 

「アンチドートかぁ。アレを使われるとどうにもなんねぇんだよな。ルカ、何か対策とか用意できないもんかな?」

「無くはない。理論上はスコアを6くらいまで上げればアンチドートを無力化して戦えるって話はマキアが言ってたな」

「ダメじゃん!」

 

 アンチドートはガンダムの最大の天敵だが、それを破る方法は考えられてきた。

 その中で最も確実とされている方法としてはパイロットのパーメットスコアを6にまで上げる方法だ。

 しかし、スコアは4までが限界とされスコア5にまで上げるとパイロットはデータストームで即死する。

 そのため、その方法も理論的には可能だが、まだ実証実験まではされていない。

 

「まぁ技術ってのは常に進歩してるからな、いずれはアンチアンチドートとかが出て来てスコアが3とか4の低いままでも機械的な補助で敗れる手段も出て来るんじゃないか? 尤も、それまでガンダムの研究が続いているかは分からないけどな」

 

 アンチドートが人が生み出した技術であればいずれは克服することも可能になる事もあり得る事だ。

 しかし、世界はガンダムを否定し今後はガンダムの研究そのもがタブーとされてガンダムの存在は闇に葬られることになるだろう。

 そうなればアンチドートの対策もする意味がほとんどなくなってくる。

 

「まぁな。どの道、アンチドートが使えるようになっても学園じゃ使う機会も無いだろ。それよりも俺のルブリスはどうなってるのか知らない? マキアの奴と連絡とれないんだよ」

「ああ……マキアの奴はまだ死んでると思う」

 

 事情聴取を受けている間にルブリスV2も学園に運び込んでマキアに修理を任せている。

 事情聴取から解放されて連絡を入れてみたが、マキアとは連絡が取れていない。

 

「何をやってたのかは知らねぇけど。直すには相当手間がかかりそうなんだとよ」

 

 ルーカスが戦場でスコアを機体が完全に壊れるまで上げたせいで見た目は目立った損傷はないものの内部のダメージが深刻で修理には大半の部品を交換しなければいけないほどで、マキアはショックで寝込んでしまっていた。

 

「マキアもなんだけどよ。コウの奴もここんとこまともに寝れてなくて飯もあんまり食えてないみたいでやばいぞ」

「コウタロウが? なんで?」

 

 ルーカスは首をかしげるが、フランはため息をつく。

 

「何でってアイツ実戦で敵を落としたんだろ?」

「聞いてる。あのボロいMSで3機落としたんだってな。大したもんだ」

「それが原因なんだよ。向こうはテロリストで仲間を守るためとは言っても初めて人を殺したんだ。ナーバスにもなるだろ。てか、ルカは平気なのか?」

「別に? 人を殺したって言っても敵だろ? 特に喜ぶようなことでもないけど気にするようなことでもないだろ。敵を殺すのは戦場では作業に過ぎないしな」

 

 ルーカスにとっては戦場で敵を殺すことに意味はなく一々気にすることでもないが、コウタロウは違った。

 戦闘中は無我夢中で戦ったが、今になってその事実が乗りかかってきているらしい。

 地球で死体慣れをしていても、実際に自分で殺した経験は無い。

 

「そうやって割り切ってくれればいいんだけどな。誰もがルカみたいに図太くなれる訳でもないんだよ。だからルカの方でもなんか励ましてくんねぇか?」

「俺が? 何で? 面倒臭いな。大体、その程度で潰れるようじゃ向いてないんだよ」

「そうなんだけどな。お前はアタシ等の頭張ってんなら少しは下の連中の面倒を見たって罰は当たんないだろ? アタシは決闘の経験はあっても実戦で人を殺した経験はないからさ、アタシが何を言っても綺麗ごとにしかなんねぇからさ」

 

 敵機を撃墜して命を奪う事はいずれは学園を卒業してMSのパイロットとしてやっていくならば避けては通れない道だ。

 大半はMSを作業用の器材として作業で使うがいざという時は自衛の為に戦わなければいけない。

 そのために決闘でMSでの戦闘訓練も行っている。

 

「しゃーないか。どの道レイニーが学園に戻ってくるまでは暇だしな。ちょっと言ってくるか。けど過度な期待はすんなよ」

「おう。期待してんぞ」

 

 ルーカスは仕方がなくコウタロウを探しに出る。

 

 

 そのころ、コウタロウは学園内の演習場を眺めていた。

 演習場ではどこかの寮の生徒がデミトレーナーで工作作業を行っている。

 学園では見慣れた光景もコウタロウにはどこか遠い世界のように感じる。

 

「コウタロウ。何黄昏ているのよ。らしくないわ」

 

 ただぼーっと眺めているところにシズカがやってくる。

 

「最近様子がおかしいって聞いたわ。やっぱり戦闘での事?」

「まぁ……な」

 

 シズカも最近のコウタロウの様子がおかしい事には気づいて声をかけたようだ。

 

「あの時、貴方にやらせた私が言うのもおかしなことだけど気にしない方が良いわ」

 

 カテドラルに保護された後にシズカやコウタロウも事情聴取を受けたが、コウタロウが敵を撃墜した事に関しては緊急時と言う事もあって罪に問われることは無かった。

 むしろ、あの状況であんな機体で敵を撃墜した事を賞賛すらされたほどだ。

 

「分かってる。あの時、誰から戦わないといけなくて、俺が戦ったから仲間や他の寮の生徒を守る事が出来たって事くらいは。でも……」

 

 理屈ではコウタロウも自分が正しかったという事は分かっている。

 それでも命を奪った事にどこか納得がいかない部分もある。

 

「そうね。私もそれなりにまともじゃない人生を送ってきたと思ってたけど、初めての実戦は今更怖く思う事もあるわ。ルカとの決闘で互いの命を賭けて戦った事もあったけど、私のガンダムじゃ相手は殺せないし、ルカも殺さないように手加減もしてた。笑っちゃうわね。それで命のやり取りをしていたつもりになって」

「シズカ……」

「でも、受け入れるしかないわ。貴方は仲間を守ったの。それは事実よ」

 

 戦闘ではエース機や高性能のMSはルーカスやセシルが押さえていたとは言え、コウタロウが他のMSを撃墜しなければ防衛能力を持たない輸送艦は沈められていた。

 

「貴方は正しい事をしたの」

「正しいか……正しい事ってなんだろうな」

「そんな青い事で悩んでたのか」

 

 そこにフランに言われてコウタロウを探しにきたルーカスが来る。

 

「ルーカス。戻って来てたのか」

「さっきな。そんなことよりも何が正しいとかそんな馬鹿な事で悩んでたのか。お前は」

「そんなって……俺は」

 

 コウタロウの悩みをルーカスは一蹴する。

 

「じゃぁ……何が正しかったっていうんだよ」

 

 仲間を守るために戦った事は正しいと言える。

 だが、人の命を奪った事は正しいとは思えない。

 正しい事をするために正しいとは思えない事をした。

 それを上手く飲み込むことがコウタロウには出来ない。

 

「簡単な事だろ。んなの自分が正しいと思った事が正しいに決まってんだろ。例え、世界中の人間が間違ってるって否定しても自分が正しいと思えば正しいんだよ。そいつにとっての正しさなんてものは客観的に決められるもんじゃないんだから」

 

 ルーカスからすれば正しさで悩むこと自体が無意味な事だった。

 正しさなんてものはどこからの視点で見るかによって変わるものだからだ。

 それでも正しさを決めなければならないとすればそれは自分が正しいと思えるかどうかで決めるしかない。

 

「コウタロウは輸送艇を守ったことは間違いだと思うか?」

「それは正しいと思う」

「ならそれでいいんじゃねーの。お前が正しいと思うならそれで、それだけの事なんだよ。コウタロウが悩んでいたことなんて」

「それだけの事か……」

 

 ただそれだけの事だった。

 確かにコウタロウは人の命を奪った。

 相手がテロリストだから、そうしなければやられていたと理由をつけていたが、それは自分の正しさを揺るがしていただけだ。

 少なくとも仲間を守れたことは正しいとはっきりと言える。

 それはコウタロウにとっての正しさなのだ。

 

「それでも人の命を奪った事が間違いだっていうんならとっとと荷物をまとめて地球に帰ればいい。パイロットとして使えないお前はここには必要ないから」

「きっついなぁ」

「事実だからな。別にコウタロウがいてもいなくても俺には関係ない」

 

 現在の地球寮の戦力はガンダムが4機と充実している。

 コウタロウが地球寮にいなければいけない理由はない。

 コウタロウを引き留めるつもりの一切ないルーカスのはっきりとした物言いは今のコウタロウにとっては変に同情されるよりは心地いい。

 自分のやった事に納得がいかないのであればパイロットを止めるという選択も出来るという事だ。

 少なくとも自分で選択することも自分の意思でここにいても良いという事なのだから。

 

「そっか。シズカにルーカスも心配かけたな。俺は多分、大丈夫だ」

「世話を焼かせるわね」

「俺は別に心配してないからな。フランの奴に頼まれただけだ」

 

  コウタロウも自分の中で折り合いがついたのか先ほどまでとは顔に活力が出てきている。

 

「アイツは俺と違って無駄に他人に構おうとするからあんまり心配をかけんなよ。結局、俺が尻拭いをすることになるんだ」

 

 ルーカスは心底面倒そうに言う。

 

「分かった。俺もフラン先輩にはいろいろと世話になってるしな」

「フランさんの尻拭いをするのなら私の尻拭いもしてくれるって事よね。期待してるわ」

「たく……帰る」

 

 ルーカスはそっぽを向くと地球寮の方に帰っていき、シズカとコウタロウもそれに続く。

 

「フラン先輩! 心配かけてすみませんでした!」

 

 地球寮に戻りフランを見つけると駆け寄りコウタロウは大きな声で頭を下げる。

 いきなりの謝罪でフランは一瞬ビクリとする。

 

「もう大丈夫なんだな?」

「はい」

 

 顔を上げたコウタロウはもう吹っ切れたようでフランも一安心する。

 

「まあアタシじゃ頼りないかもしんねぇからアタシじゃなくても良い。一人で抱え込むなよな」

「はい」

「うっし、そんじゃ新しいMSのマニュアル読み込んで使いこなせるようになるまで特訓すんぞ!」

「はい! お願いします!」

 

 その光景をルーカスとシズカは遠目で見ていた。

 

「ルーカス様」

 

 そこにセシルが端末を持って声をかけて来る。

 

「次の搬入予定の物資なのですが」

 

 セシルは持っていた端末をルーカスに渡す。

 

「多いな。ルブリスのパーツだけでもう1機は組めそうだ」

 

 搬入予定の物資はグラスレー社に発注したベギルベウのパーツ以外にもガンダムの予備パーツも含まれているがその中でもルーカスとセシルのルブリスのパーツの数がかなり多い。

 

「ええ、この前のようなことがあった時の備えです」

「成程な」

 

 ルブリス系のパーツの多さは有事に備えるためのようだ。

 シズカがルーカスの腕を掴んで端末を自分が見える高さまで引く。

 

「この搬入業者は普段学園に出入りしているところではないですよね?」

「そうですね。今回は量もありなるべく早急に搬入させたかったのですぐに持って来てもらえるところに頼みました。早い分、少々値は張りましたが、ルーカス様の安全にはかえられません」

「そう、ですか」

 

 シズカは搬入業者が普段とは違う事が気になったが、セシルの説明は筋が通っている。

 今回は定期的に学園に資材を搬入するタイミングではないため、独自に搬入の手配をする必要がある。

 少しでも早く物資を搬入するなら多少高くても仕方がない。

 

「これで良い。セシル、頼んだ」

「了解しました」

 

 ルーカスの承認を得てセシルは搬入の手続きの為にフロント管理事務所の方に向かう。

 シズカはどこか釈然としないが、それ以上は追及することもなく、セシルを見送る。

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