機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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19話

校外学習襲撃事件からルーカスが学園に戻り数日が経ち、事件が公にされなかったこともあり学園は日常を取り戻しつつあった。

 そんな中、授業後フランが地球寮とジェターク寮の生徒全員をジェターク寮専用の格納庫に集めていた。

 フランが生徒たちの前にどこから用意してきたのか竹刀を持って立っている。

 

「お前ら、もうすぐ何があるか分かってるよな」

 

 フランが話し始めるとざわつきが収まる。

 

「知らんから帰って良い?」

 

 フランに強制的に連れてこられたルーカスがやる気なさそうにそういう。

 それを聞いたフランは竹刀を床に叩きつける。

 

「言い訳ないだろ。黙って聞いてろ」

 

 フランはルーカスに有無を言わせない。

 

「来週、定期テストがある事は分かってるよな?」

 

 フランがそういうと再び格納庫がざわつき始める。

 アスティカシアは一般的な学校とはいろいろと異なるが、同じように年に数回定期テストが行われている。

 主に学年別の一般科目と学科別の筆記試験と実技試験の3つに分かれている。

 

「お前ら、決闘とか血の気の多いのは結構だがこのテストの重要性は分かってるよな? いくら腕っぷしが好くてもどの企業だって馬鹿は取らねぇぞ」

 

 テスト自体は授業中にも行われることが多いが、この定期テストは意味合いが違ってくる。

 

「一般科目の方は重要視されてないから良しとしてもだ専門科目のテストは結果次第でお前らの将来に関わってくる」

 

 一般科目のテストは学園側も余程悪くない限りは問題視されることはない。

 しかし、専門科目は点数が悪いと最悪、推薦企業からの支援が打ち切られることもある。

 そうなれば学費を自分で払うか退学するしかなくなる。

 逆にここでいい成績を出せば推薦企業からの支援が増えたり上手くいけば、更に上位の企業から声がかかる可能性が出て来る。

 特にジェターク寮の生徒の大半はジェターク社から推薦を受けている訳ではなく、ジェターク社の下請け企業から推薦を受けている生徒で上手くいけば御三家の一つであるジェターク社から声がかかる事もあり得る。

 

「だからお前ら、今日からテストまでの間授業後はアタシ等が一丸となって勉強すっぞ。アタシ等上級生は自分の勉強だけじゃなくて後輩達の勉強を見ながらだ。アタシ等で成績上位を独占して他の寮の奴らに差をつけてやんぞ!」

「でもさ、所詮は机の上での勉強なんて現場じゃ役に立たないって聞くじゃん」

「あ?」

 

 ルーカスが横やりを入れてフランが睨む。

 

「バッカ野郎! そういうのはしっかりと基礎を勉強した上で現場で経験を積んで必要な物とそうでない物を取捨選択して初めて意味を成すんだよ。アタシ等みたいな現場を学園の中でしか知らない奴らはその基礎が出来てねぇのに、んな偉そうな事言ってんじゃねーよ」

「そういうもんか?」

「そういうもんだ。大体な、ルカが学園に来た事情は聴いてるけど、一度も授業に出ないってのはどういうつもりだ? ここの授業料は親が出してんだろ? 金を出してくれている親に申し訳が立たないとは思わないのか?」

「藪蛇だったか」

 

 ルーカスの余計な一言でフランに日頃ルーカスが授業に一度も出ていない事に対する不満が爆発したようだ。

 それを見ていた同じく授業にまともに出席していないシズカは火の粉が飛んでこないように人込みに紛れている。

 

「……分かった。分かったから、このテストでトップを取る。それでいいだろ」

「言ったな。男に二言はないな?」

「当然だ」

「よし、んじゃ他の奴らもルカに負けねぇように勉強すんぞ。まずは各科に別れて3年を中心に過去問から……」

 

 フラン落ち着いて、指示を出し始める。

 ルーカスはセシルを連れてそそくさを退散する。

 

「まったく……面倒な事になった」

「自業自得です」

 

 ルーカスは部屋に戻ると一息つく。

 

「セシル、例の資料は用意できた?」

「テストの問題でしたらまだ入手しかねます」

「違うって、んなもん適当にやってれば十分だろ」

「冗談です」

 

 セシルはルーカスの端末にデータを送る。

 

「へぇ、これマジ?」

「マジです」

「パイロット適正の数値だけならエマやセシル以上で俺に匹敵してるじゃん」

 

 ルーカスが見ていたのは事前に用意されていたレイニーに関する資料だった。

 今まではガンダムのパイロットに関する情報は面倒で一々見てこなかったが、今回は早いところ終わらせるために事前に情報を見ている。

 レイニーの入学時からのパイロット適正の項目は数値上ではエマやセシルを超えている。

 この数値が決闘や実戦で絶対とは言えないが、それでも数値上ではホルダーであるエマ以上となっていた。

 

「凄いな。見た目は年上には見えないのに」

「そのことですが……私の方で独自に調査したデータがあります」

「ふーん。成程。そういう事か、これは使えるな」

 

 データの中にはセシルが自身で調べてきた情報があり、その中でルーカスは興味ぶかい情報を見つけた。

 

「薬物による身体強化計画」

 

 それはペイル社がグループにも内密で進めている計画の概要だった。

 パイロットを薬物により身体能力を上げる事でデータストームに耐えうる肉体を得ようという物だ。

 当然、ベネディットグループではそんなことは認められてはいない。

 

「あそこもえぐい事やってるな。それに計画責任者のレティ・アダムスって」

「レイニーさんの実の母親ですね」

 

 資料に書かれている身体強化計画の名前は別のところで見た覚えがあったが、レイニーの資料の中の家族構成の母親の欄に書かれている名前と同じだった。

 

「自分の娘を薬漬けにして実験に使ってんのか。世も末だね」

「コスト面や機密保持と言う点では有用かと」

「まぁね」

 

 シズカをガンダムサナトスのパイロットとして買った時はシズカの多額の借金を肩代わりする形を取っている。

 それに比べれば自分の娘を使う分には金はたいしてかからない。

 また、娘を使えば機密保持と言う点でも役に立つ。

 

「それでどう出ます?」

「このネタを上手く使えば戦わずしてガンダムを手に入れる事も出来そうだな。始めからこうすれば面倒も無くてよかったな」

「総帥の指示は学園のガンダムの回収で手段までは指定されていませんでしたよ。このようなやり方はルーカス様の思い付きです」

 

 元々、ルーカスが言われていたのはガンダムの回収でありその手段までは指示されていない。

 流石にもみ消せないレベルでの非合法なやり方は認められないが、相手の弱みを握り脅してガンダムを譲渡させるくらいなら許容範囲だろう。

 そのためのネタはいくつも用意されていた。

 

「そうだっけ? そんじゃレイニーの居場所の方はどうなってる?」

「居場所は分かっていますが、素直に会う事は出来るのでしょうか?」

 

 すでにセシルは学園を休学しているレイニーの居所は見つけている。

 現在、レイニーはペイル社の本社のあるフロントに滞在中となっている。

 問題は会う事が出来るかどうかだ。

 

「大丈夫だろ。やり方はいくらでもある」

 

 ルーカスはそう言いにやりを笑う。

 その後、セシルが学園の小型宇宙船の手配を行いルーカスは学園からレイニーの居るペイル社の本社のあるフロントへと向かう。

 堂々と正面からフロントの港に入るとペイル社の受付でレイニーを呼び出してもらう。

 少しするとルーカスは応接室に通された。

 

「若君自ら、私の娘に会いに来たという事ですが」

 

 応接室で待っていたのはレイニーではなくその母親であるレティ・アダムスだった。

 ルーカスは応接室の椅子に座り相手を観察する。

 

(資料は見てきたが若いな)

 

 それが第一印象だった。

 レティはルーカスよりも年上であるレイニーを産んだとは思えない若々しい。

 資料ではレイニーを産んだのは16の時であるため、まだ30代前半で同年代の母親としては若いのも当然のことだろう。

 レティはコーヒーを入れてルーカスの前に置くが手を付ける事はない。

 

「最近レイニー先輩を見ないと思って心配になって調べてみたら体調不良で休学しているとか。それで近くまで来たもので様子を見に来たって訳」

 

 ルーカスは事前に用意していた嘘をすらすらと語る。

 元より会えるとは思っていない。

 以前にペイル社の知らないところでシズカと互いのガンダムと命を賭けて決闘を行っている。

 流石にまた二人を会わせてしまうと残る1機のガンダムをも賭けて決闘しかねない。

 それを避けるためにも会わせることはしないと読んでいた。

 

「それはそれは若君はうちの子と仲がよろしいので?」

「それなりにはね」

 

 ルーカスは堂々と嘘をつく。

 レイニーとは以前にエマからペイル寮とジェターク寮の寮長としてフラン共々顔合わせをしたきりだ。

 その時はフランと決闘することになり、レイニーとはほとんど口を聞いていない。

 

「うちの子は余り学園での事は余り話しませんの。あの子、上手くやっているかしら?」

「後輩には慕われているようだけど」

 

 それはあながち嘘と言う訳ではない。

 少なからず同じ寮の後輩だったシズカはレイニーの事を先輩として尊敬はしている。

 

「それは何よりね」

「それよりも学園は休学している理由が体調不良みたいだけどガンダム関連なら優秀な医者を紹介しようか?」

「……結構です。あの子の体の事は私が一番よく理解しているので」

 

 レティは友好的な態度は崩してはいないが、一瞬声が強張った。

 

「若君、私の方も予定が詰まっていますので、そろそろ」

「そう? それなら先輩によろしく言っといてよ」

「ええ」

 

 ルーカスはそれだけ言うと応接室を出ていく。

 応接室の扉が閉まるとかすかに応接室の中で何かが割れるような音が聞こえるが、ルーカスは中の様子に興味がなくさっさと港に泊めている小型宇宙船へと戻っていく。

 

「ただいま。そんでようこそ」

「私に何か用?」

 

 小型宇宙船に戻ってくるとそこにはレイニーがセシルに連れてこられていた。

 ルーカスは始めからレイニーに会う事が出来ないと読んで自分が正面から囮となりセシルが極秘裏にレイニーを連れ出す手筈となっていた。

 そして、予定通りセシルはペイル社の誰にも気づかれることもなくレイニーをここまで連れてきた。

 流石のセシルでも薬物で身体能力を強化されているレイニーが本気で抵抗すれば手こずるが、レイニーは抵抗することなくここまで連れてこられた。

 

「こうして会うのは2度目か」

「うん。それよりシズカは元気?」

「元気だよ。元気に毒を吐いてる」

「そう」

 

 レイニーは表情には出さないがどこか安心した様子だ。

 

「あの子はこちら側に来るべきじゃない。まだ戻れるから」

「まぁ薬は不味いよな」

「知ってるんだ」

 

 レイニーはルーカスが自分の秘密を知っている事に驚くことはない。

 

「まぁね。で、単刀直入にいうけど、俺に付かない? どうせここにいても先はないんだろ? 行き着く先は廃人かそうでなくとも後何年生きられる?」

「そこまで調べてるんだ」

 

 少し関心したようにそういう。

 資料の中にはレイニーの体の状態も記されていた。

 薬による身体強化により身体能力は見た目からは想像できないほど強化されている。

 しかし、薬の副作用で大きく命を縮めている。

 資料によれば50歳程度まで生きればいいとされており、パイロットとしての寿命はもっと短く、パイロットとして使えなくなれば体のケアもされなくなり更に短い命となるだろう。

 

「俺なら少しでも長生きできるように医者を手配できるだけの権力も金も持ってる。アンタが死ぬまでの面倒は俺が見てやる。悪い話じゃないはずだ。代わりにお前のガンダムを持ち出して俺にくれ」

 

 今更、元の体に戻る事は出来ないが、しかるべきところきちんと治療を受ければ.ある程度は治せる見込みがある。

 その対価としてルーカスはガンダムを要求する。

 レイニーの立場ならガンダムを強引にでも持ち出すことが出来る。

 後はルーカスがペイル社の方に脅しをかけて必要ならばデリングにも出て来て貰えばペイル社も黙るしかない。

 

「その前に一つ聞かせて。ガンダムを手に入れるだけなら私の事で会社を強請れば良い。それなのに何で?」

 

 薬物による身体強化は当然のことながらベネディットグループでは禁止されている事だ。

 その事実だけでもペイル社からガンダムを譲渡させるには十分な要素だ。

 にも関わらずルーカスはレイニーに取引を持ち掛けている。

 それがレイニーには疑問でならない。

 

「ただこれ以上ガンダムに不幸を巻き散らかされるのは気に入らないってだけ。別に善意とか同情とかでもない。ただの自己満足」

「そう。でも母さんを捨てて一人で貴方の手を取る事は出来ない」

「何でまた? 自分の娘を薬漬けにするような親に義理立てする必要もないだろ」

 

 ルーカス自身普通の親子関係については疎いがどんな理由があっても自分の子供を薬で強化する親がまともでない事は分かる。

 

「あの人は可哀そうな人だから、あの人にはもう私しかいない。だから見捨てる事は出来ない」

 

 ルーカスは資料にあったレティの経歴を思い出す。

 レティはそれなりに裕福な家庭に生まれるも16の時に性質の悪い男に引っかかりレイニーを妊娠するも男に捨てられる。

 その時に実家との折り合いも悪くなりレイニーを育てる為に最低限の援助を受ける事が出来た学者の道に進むも自らの論文は認められることも無かった。

 その果てにペイル社に雇われて非合法の研究を行い現在に至る。

 簡単な経歴だけでもまともに誰かに認められることも無く否定され続けた人生だったと言える。

 

「母さんは私が守らないといけない。この力もその為に手に入れたから」

 

 情報を見る限りではレティの方が娘を実験材料に使ったと考えられたが、実際のところは違ったようだ。

 母を守るための力を得る為にレイニー自身が実験の非検体になる事を選んだ。

 

「だから私だけじゃない。 母さんの面倒を見る事も要求する」

「まぁどっちでもいいけど」

 

 あまり気は進まなかったが、そもそも母親の方はルーカスとしてはどうでもいい。

 人1人の面倒も2人の面倒もそこまで変わらない。

 

「それと私たちの事はペイル社にとっても厄介になりかねないから守れるだけの力を証明して」

「ペイル社を潰せと?」

「そこまでは言わない。私と戦って。私に勝つだけの実力があるのか見たい」

 

 仮にルーカスに面倒を見てもらう事になったとして、いくら情報を操作したところでペイル社にとっては非合法の研究をしていた証人でもある。

 最悪、証拠を隠滅するためにペイル社から命を狙われる危険性も出て来る。

 そうなった時、権力や金は十分にあっても単純な暴力の前では権力や金も無意味になる事もある。

 そんな時にその暴力を跳ね付けるだけの力が必要になる。

 

「俺と決闘するって事か」

「決闘は会社が認めない」

 

 すでにシズカの時の事がある以上はペイル社も全力で阻止して来るだろう。

 ペイル社にとってこれ以上、ルーカスと戦うメリットはない。

 もしも決闘をすることとなったら様々な手段で妨害してくることになる。

 

「まぁそうだよな」

「その状況も貴方が用意して。それが出来ないのであればこの話しは無し」

 

 普通の決闘では戦う事が難しいが、その状況を作りだすこともまたルーカスが持つ力を見極めるための手段なのだろう。

 

「セシル、何か方法はない?」

 

 ルーカスは後ろに控えていたセシルに尋ねる。

 セシルは少し考える。

 やがて頭の中でまとまったのか口を開く。

 

「私に一つ策があります。実技試験を利用するというのはどうでしょう」

 

 セシルが自分の案を二人に話す。

 

「成程。それは妙案」

「それが手っ取り早いか」

 

 ルーカスとレイニーもセシルの案には賛成する。

 

「ではすぐに手筈を整えます」

「任せた。そういう事だ。俺が勝ったらガンダム共々俺のところに来い」

「分かった。でも私も負けるつもりはない全力でやる」

「上等だ。それでも俺が勝つ」

 

 レイニーとの交渉は成功とまでは言えないが、最低限の約束を取り付けた。

 約束自体をレイニーが反故にすることはないだろう。

 今回の事でルーカスはその気になればレイニーを連れ出すことは容易で下手に約束を破ればルーカスも穏便な手段を使わずにレイニーを始末することも出来ると実証した。

 後はセシルの策を実行に移して勝つだけだ。

 ルーカスはレイニーを解放する。

 レイニーも大人しく従う。

 レイニーを小型宇宙船から降ろしルーカスとセシルは学園のフロントへと帰っていく。

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