機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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20話

 ペイル社のフロントから試験の前日に戻ってきたルーカスは地球寮に顔を出す。

 試験前日と言う事もあり寮でも自室以外でも勉強をしている生徒が多い。

 

「先制攻撃で良くね?」

「言い訳無いでしょ」

 

 寮の談話室の片隅でシズカがコウタロウに勉強を教えている。

 例題に対するコウタロウの回答にシズカは呆れている。

 

「あ、ルカ。ルカはこの例題はどう思う?」

「何々。テロリストの思われる宇宙船を見つけました。どう対応すべきか? んなのもん即殲滅でしょ」

「だよな」

 

 ルーカスもコウタロウと同じような意見でシズカはため息をつく。

 

「あのね。問題文には『思われる』とあるでしょ。まだ限りなく黒に違いグレーだからまずは停船指示を出して所属と航行目的を確認するの。攻撃は向こうから撃ってくるか停船命令を無視した時にするのよ。出ないと後で攻撃の正当性を指摘されかねないわ」

 

 対象の宇宙船がテロリストの物であるという確定情報があれば先制攻撃することには問題はない。

 しかし、例文においてはあえて確定情報ではないと提示されている。

 実際の場面であれば現場の指揮官の判断で攻撃することもあるが、試験の例文としてはシズカのいうように相手の所属等を確認するというのが正しい回答となる。

 

「んなもん、後でどうにでもなるだろ」

「……権力者の特権ね」

 

 仮に相手がテロリストかどうか明確にする前に攻撃した場合、相手が本当にテロリストだつたのは結果的にそうだっただけで、その時点で攻撃することが本当に正しかったのかどうかと指摘されることはある。

 それは本気で正当性に疑問があるわけではなく、単に攻撃命令を出した指揮官を陥れるためや組織内の権力争いによるものであることは大半だ。

 そうなった時にルーカスならば強引に正しかったとすることは出来るだろう。

 

「だけど、これは試験の問題文よ」

「分かってるさ。流石に教師たちもそんな忖度はしてくれないだろ」

 

 実際にルーカスが試験の問題で同じような回答をした場合、いくらルーカスであっても学園側としては正解にはしてくれないだろう。

 

「ルカ、戻ってたか?」

「フラン? どしたの」

 

 他の生徒の勉強を見ていたフランもルーカスが来たことに気が付く。

 

「お前、明日のテストの後、ちょいと顔貸せや」

「明日? 明日はエマに呼び出されているからその前なら大丈夫だけど」

「まぁそんなに時間は取らねぇと思うからそれで頼むわ」

 

 フランはそれだけ言うと戻っていく。

 ルーカスもそれ以上地球寮に用もなく大人しく自分の部屋に戻る。

 

 

 翌日、学園で定期試験が実施された。

 普段は授業に出ないルーカスも今回はテストをまじめに受けていた。

 筆記テストも終わり、フランによりジェターク寮と地球寮の生徒たちが以前と同じように格納庫に集めらた。

 

「お前ら、今日までよく頑張った。明日には結果が出るだろうから今日は実技試験の前に英気を養ってくれ」

 

 今日のテストはすでに学園側でAIによる自動採点にかけられ、明日には採点されたデータと順位が生徒手帳に送信されて学内で公表もされる。

 その後、実技試験が開始されることになり、今日は結果が出て実技試験が始まる前の束の間の休息日でもある。

 そこでフランは筆記試験で頭を使い実技試験に向けて生徒たちに英気を養うために食事会を開催することにした。

 

「今日のメシはアタシ等のボスであるルカの奢りだ。普段滅多に食えないもんばかりだからしっかりとルカに感謝して結果で返せよ」

「ん? 何の事?」

 

 ルーカスはフランに来いと言われてきただけで今日の食事会の事は何も聞かされていない。

 当然、食事の手配も何もしていない。

 

「そういう事にしておけよ」

 

 フランは周りに聞こえないように小声で話す。

 

「手配の方はセシルに頼んだから全くのウソって訳でもねぇし、アタシをはじめとしてこいつ等は単純な奴らばっかだから上手いメシでも与えとけば素直にいう事を聞いてくれんだよ」

 

 フランは何日も前から今日の為にセシルに準備を頼んでいた。

 セシルはルーカスの個人資産を使って用意しているため、ルーカスが用意したというのも嘘と言う訳でもない。

 そして、ルーカスの奢りで上手い食事にありつけたという事で生徒たちはルーカスに感謝して試験結果と言う形でルーカスに恩返しをしようとするだろう。

 

「お前はこういうのを面倒臭がってやんねぇけど、人の上に立つ以上は下の人間に自分からついて来たいと思わせとかねぇとな。結局、権力だけじゃ下の人間を完全にコントロールは出来ないんだからな」

 

 どんなに権力を持っていたとしても人を完全に操る事は不可能だ。

 いざという時に下の人間の力を使うためには日頃からこの人についていきたいと思わせる事も重要な事だ。

 今回の食事会も士気を上げて試験で好成績を取らせるためだけでなく将来的にルーカスへの支持を集める事も目的にしているようだ。

 

「その辺は任せる」

「おう。ルカもエマの奴にしっかりと絞られて来いよ」

「……まだ何もやってないと思うんだけどな」

 

 エマからの呼び出しと言う事でフランはまたルーカスが何かをやらかして説教でもされると思っているようだ。

 ルーカス自身はエマに説教されるようなことはしていない。

 少なくともエマの耳に入るようなことはだ。

 

「なぁ俺が何でこんなことしないといけないんだよ」

 

 ルーカスは戦術試験場の1つでルブリスV2に乗りながら愚痴をこぼす。

 同じ試験場にはエマもジークフリートに乗っている。

 エマのジークフリートはビームライフルを持っているがルブリスV2は固定装備のみの丸腰だ。

 エマに呼び出されたルーカスはMSを持ってくるようにと言われ修理の終わったルブリスV2と共に現在に至る。

 

「実技試験の内容が変わって全ての戦術試験区域を使う事になったからよ」

 

 数日前に元々予定されていたパイロット科の実技試験の内容が変更されることになったという学園側から告知された。

 新しい実技試験の内容は1対1での決闘方式での模擬戦とのことだ。

 今まで急な変更は試験内容に問題が発覚しない限りは無かったが、今回は急な変更に対する対応力も評価の対象になるとのことだ。

 

「こんな事は今まで無かったのにルーカスが何かやったんじゃないの?」

「……さぁ」

 

 はぐらかすが実際、ルーカスが裏から手を回して試験内容を変更させている。

 エマも急な試験内容の変更にルーカスが関わっているのではないかと疑っている。

 そして、パイロット科の生徒全員を1対1での模擬戦を消化するには戦術試験区域を全て使い過密スケジュールで何とかやるしかない。

 そのため、決闘委員会総出で戦術試験区域の点検をする必要性があり、エマはルーカスもその手伝いに参加させている。

 

「そういう事にしておくわ。それにこの前の校外実習で襲撃を受けたみたいだけど、また変な恨みでも買ってないわよね?」

「何か知らない内に敵が増えるんだよな」

 

ルーカスはそういうが大抵、ルーカスが好き勝手にした結果相手に敵意を持たれることが多い。

 

「少しは自分が周囲にどう思われるかくらい考えた方が良いわよ。その内、後ろから刺されかねないわよ」

「肝に銘じておくけどさ、心配し過ぎ。まぁ昔からエマって俺の事好き過ぎだよな」

「なっ!」

 

 ルーカスは何げない言葉にエマは過剰に反応して思わず操縦桿を変な方向に倒してしまい機体のバランスが崩れる。

 それを何とか立て直す。

 

「何を言ってるの。私がそんな……」

「最近は上手く隠してるみたいだけど、ガキの頃は結構分かりやすい時あるよ。例えば俺がルブリスの事教えた次の日には叔父さんのところでMSの操縦を習いに行ったり、パーティとかで俺がその辺の女を話してるとたまに機嫌が悪くなったり、女の嫉妬を買わないように女っ気をなくす恰好をしたりさ」

 

 ルーカスのいう事にエマは心当たりがない訳ではない。

 エマがMSの操縦を習うきっかけはルーカスから自分の持っているMSとしてルブリスを見せられた次の日には当時は社長だった叔父に頼みに行った。

 パーティー等でよくルーカスのパートナーとして出た時にルーカスが自分を放っておいて他の女と話している時は自分を置いている事に腹を立てた事も。

 初めて会った時からよく顔を合わせていたこともあり他の社長令嬢や役員令嬢から嫉妬されることが多く、変に恨みを買わないために今でこそ中世的な容姿として女子生徒からの支持を得る事になったが、髪をバッサリと切ってフリフリのついたいかにも女の子っぽい服を避けて男物の服を着る等ルーカスの側にいても嫉妬されないように心がけたりもしている。

 

「親父さんの会社を立て直したいってのは嘘じゃないんだろうけどさ。素直になった方が良いと思うぞ」

「……そんなことは」

 

 エマは否定するが、顔を真っ赤にしている。

 本人は余り自覚は無かったが、初めて会った時から少なからず意識はしていた。

 初めて会った時のルーカスは周囲に壁を作り心を閉ざしていた。

 それがエマにとっては新鮮で気になり一緒に遊びに誘う事もあった。

 それから数年が経ち、叔父が社長を辞任し父が会社を継いでからも交友は続き、いつかは定かではないが、いつの間にかルーカスは今のようになってからはルーカスに対して小言が多くなり素直になり切れなくもなっていた。

 父の会社と立て直したいという気持ちに嘘がないが、学園を卒業時にホルダーであれば婚約するというのはエマなりの告白だった。

 尤も、ルーカスの方はエマの本心に気づきながらも軽くスルーして今まで来ている。

 

「まぁ親父さんの会社もそろそろヤバイって話じゃん」

「っ! それでも私はあの会社を守らないといけないのよ」

「そういうもんかね。俺には理解できないね。自分を押し殺して犠牲にしてでも守りたいだけの価値が会社なんかにあるなんてさ」

 

 ルーカスにとっては会社にそこまでの価値があるとは思えない。

 単に金を稼ぐための組織に過ぎず、経営が危なくなり利益が見込めなくなればすぐに畳んで新しい会社を作って稼げばいいだけの事で、そこまで固執する理由が分からない。

 

「貴方にとってはそうなのかもね」

 

 その点はエマもルーカスとは永遠にわかり合えないという事は理解している。

 根本的に自分とは違う世界で生きてきたからこその価値観の相違。

 初めて会った時からそれは分かっている。

 だからこそ興味を持ったからだ。

 

「それでも……私は」

「待った」

「ルーカス?」

 

 ルーカスは機体の足を止める。

 エマも先ほどまでとはルーカスの雰囲気が変わった事に気が付く。

 すると少し離れたところで爆発が起こる。

 爆発から何かが飛び出してきた。

 

「何?」

「アイツは……この前の奴か」

 

 爆発から出てきたのは先日、ルーカスと交戦したルブリス改だった。

 だが以前とは少し変わっている。

 以前の戦闘で被弾した左肩は腕ごとレグルスの左腕に換装されている。

 それによりビームマシンガンやクローアームにより攻撃力が強化されている。

 ビームサイズの柄のついたシールドは左肩に着けられ、クローアームの掌の部分にはビームサイズを両手で扱うための簡易マニュピレーターが増設されている。

 バックパックにはガンビットの制御が奪われた対策としてガンビットの入った大型ランチャーからビームサーベルが1つ追加高機動フライトユニットに換装されている。

 攻撃力と機動力を強化した強化型ルブリス改がどういう訳かアスティカシア学園に入り込んでいたようだ。

 

「この前? 校外実習を襲撃した時の? 何で学園に?」

 

 学園のフロントの警備を掻い潜りMSを運びこむことは難しい。

 特に校外実習の襲撃を受けてからは警備も強化されている。

 

「さぁね。でも、アイツは実戦仕様のMSだ。気を抜くとやられるぞ」

 

 ルーカスの言葉にエマは息を飲む。

 

「エマ、アンチドートは?」

「シールドは持ってきてないわ」

 

 ジークフリートが装備している大型シールドにはアンチドートが搭載されている。

 それを使えば確実に勝てるが都合が悪く、今は装備してきてはいない。

 

「……見つけた。情報通りね」

 

 セリカもルブリスV2とジークフリートを補足した。

 そして、左腕のビームマシンガンとビームライフルでルブリスV2に攻撃を始める。

 

「やっぱ狙いは俺か」

 

 ルブリスV2はビームを回避するとビームバルカンで応戦するが距離があるため、余り意味はない。

 エマもすぐにビームライフルを構えてけん制射撃を入れる。

 

「こんなところまで入り込んで狙って来るって事は相当な恨みでも買ってるんじゃないの?」

「心当たりが多すぎてわかんねぇよ」

 

 ルブリスV2はビームサーベルを抜く。

 強化型ルブリス改もビームサーベルを抜くとビームマシンガンを撃ちながら突っ込む。

 

「左が重い。まだ完全に最適化は出来てないみたい」

 

 強化型ルブリス改は元々は製造元の違うレグルスの左腕をつけているため、バランスの調整がまだ完璧ではないようで、セリカも今まで以上に操縦には気を遣う。

 

「取り合えずぶちのめしてやれば話も聞けるさ」

 

 ルブリスV2はビームサーベルを振るい強化型ルブリス改もビームサーベルで受け止める。

 

「こっちは実戦仕様じゃないからあまり期待はしないでよ」

 

 ジークフリートはビームライフルを撃つ。

 ルブリスV2 と強化型ルブリス改は距離を取り強化型ルブリス改はシールドでビームを弾く。

 その間にルブリスV2は背後に回ると後ろかた強化型ルブリス改を蹴り飛ばす。

 

「くっ!」

 

 強化型ルブリス改は着地して体制を整えるが、その間にジークフリートが両手にヒートソードを持ち距離を詰めていた。

 強化型ルブリス改はビームサーベルを振るうがジークフリートは回避するとショルダータックルを食らわせる。

 

「コイツ!」

「実戦仕様じゃないけど、これでもホルダーなのよ」

 

 尻餅をつく強化型ルブリス改の左肩をジークフリートは踏みつけて動きを封じる。

 

「ご苦労さん。取り合えず四肢をもいでおこうぜ」

「そうね。変に抵抗されても困るし」

 

 ジークフリートは足に力を入れると強化型ルブリス改の左肩を踏みつぶそうする。

 

「ルーカス様。エマさん。ご無事で」

「おう。セシル。見ての通り。決着はついた」

「貴女の出番は無かったわよ」

 

 爆発が起きた事で何か異常があったと判断し武装した状態で待機していたセシルが到着する。

 セシルが到着した事でルーカスとエマの意識が一瞬だけセシルの方に向いた瞬間に強化型ルブリス改は頭部のビームバルカンを撃つ。

 

「しまっ!」

 

 ダメージは大したことはないがジークフリートは体勢を崩し、強化型ルブリス改はジークフリートから逃れる。

 セシルのルブリスが2機を守るように入ってくる。

 

「新手か。機体も万全ではないし、この辺りが引き際ね」

 

 セリカはこれ以上の戦闘は無意味だと判断して撤退を始める。

 

「逃げるつもり!」

「セシル。追え」

「了解」

 

 強化型ルブリス改が撤退を始めた事ですぐにエマとセシルは追撃に入る。

 しかし、ほぼ同時に追撃を始めた2機だったが、進行した先が同じだったため激突してしまう。

 

「おいおい」

 

 2機は激突して倒れ、その間にも強化型ルブリス改は出てきた穴から逃げていく。

 

「大丈夫か? 二人とも」

「ええ」

「申し訳ありません」

 

 セシルは普段通りだったが、エマの方がぶつかられて少し怒っているようだ。

 

「それより賊の方は?」

「逃げられたよ。後は警備の方に任せるか」

 

 相手がMSを使う限りは逃げれる場所は限られてくる。

 後はフロント警備に任せておけば追い詰めてくれるだろう。

 ルーカスはそう判断してセシルをこれ以上の追撃はさせない。

 その後はすぐにフロント警備の連絡を入れてルーカス達は戦術試験区域から離れた。

 しかし、その後のセリカと強化型ルブリス改の足取りはフロント警備が掴むことはなく忽然を行方を眩ませた。

 

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