機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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21話

戦術試験区域から離脱した強化型ルブリス改はフロント内の表向きは閉鎖されている区画のハンガーに機体を固定する。

 ここはデータ上では閉鎖されて使われていない事になっているがMSを収容できるだけのスペースと整備出来るだけの器材が用意されている。

 それだけではなく数人が暮らせるだけの生活スペースも確保されていた。

 機体をハンガーに固定するとセリカが機体から降りる。

 

「セリカ。改良した機体の調子はどうだ?」

「ダメね。まだ左が重いわ。だから玩具みたいなMSにもしてやられたわ」

「まぁばらして持ち込んだ機体をここで組み立てただけだからな。まだ万全って訳にはいかないさ」

 

 学園フロントに入り込んでいたのはセリカだけではなく、先日の校外実習襲撃時にレグルスのパイロットとして参加していたレドとシドーもだ。

 ここに持ち込めたMSは強化型ルブリス改1機分しかないため、2人はセリカのサポート役としてだ。

 

「それよりも」

 

 レドがセリカに何かを放り投げた。

 それはアスティカシア学園に制服だった。

 

「何コレ?」

「ここじゃ俺たちは目立つからな情報収集に買い出しはセリカの方が目立たない」

 

 学園フロントでは生徒の方が目立たない。

 大人は教師やフロント警備をはじめとした限られているため、二人が出歩けばどこかで部外者が入り込んでいるとバレかねない。

 その点、セリカが制服を着て出歩く分には目立つことも無い。

 学園で全ての生徒の顔を名前を覚えている人がいる訳もなく、すでにセリカ用の偽造生徒手帳も用意されてセリカは学園の生徒と言う事で登録もされているため、監視カメラに写ってAIによる顔認証をされても問題ないようにされている。

 

「後、コイツも付けとけ。それだけで印象も変わってくる」

 

 シドーが渡したのはレンズの厚い丸眼鏡だ。

 生徒手帳のデータを偽造して生徒に成りすましているとは言え、学園内を出歩き他の生徒に顔を見られた時に顔の印象を変えておけば素顔を覚えられにくくなる。

 

「生徒手帳の方に必要な物とかのデータは入れてあるから頼んだぞ」

「ええ。分かったわ」

 

 セリカは制服と丸眼鏡、生徒手帳を受け取るとパイロットスーツから着替えに行く。

 着替えが終わると学園区画まで向かった。

 

 

 

 

 

ルーカスが再び襲撃を受けた事で学園側は実技試験の延期と生徒を一時的にフロント外に退避させて襲撃犯の捜索をすること決めたが、ルーカスの一言でそれは却下され、襲撃があった事自体が秘匿されフロント警備も極秘裏に襲撃犯の捜索に当たる事となった。

 フロントの隅から隅まで探しているが極秘裏の捜索と言う事を差し引いても襲撃犯の足取りは完全に途絶えていた。

 

「どういう事だよ? また襲撃があったのか?」

「まぁね」

 

 襲撃の情報そのものはもみ消したが、フランとシズカの耳に入ってルーカスを問い詰めている。

 襲撃を受けたルーカスは余り気にした様子もなく理事長室で寛いでいる。

 

「そもそも何で学園にテロリストが入り込んでいるの? セキュリティレベルは上がっているんでしょう?」

 

 校外実習での襲撃を受けて学園の警備は以前よりも厳重になっている。

 それでも再びルーカスは襲撃を受けた事をシズカは疑問視している。

 

「セシルさんから見て、今の学園にMSごと入り込むという事は可能なんですか?」

 

 シズカの問いにセシルは少し考え込む。

 

「可能かどうかと言えば可能ですね。レベルが上がったと言っても所詮は人のやる事ですからその気になればいくらでも穴はあります。事実として入り込んでいるのですから」

 

 セシルの回答は模範的な物だ。

 

「つか、学園は何してんだよ。こんな事があったのに生徒の避難すらしねぇなんてよ」

「それは俺が止めた。別に気にすることも無いだろ」

「しろよな。狙われること自体はルカに非はねぇけど、このままじゃ他の生徒にも危険が及びかねねぇぞ」

「大丈夫だろ。向こうも馬鹿じゃない。そう何度も襲撃をすれば足が付きやすくなるからな。せっかく中に入り込んだんだ。機会を伺うだろうよ」

 

 フランもルーカスのいう事も理解は出来る。

 向こうからすれば何度もMSごと学園に入り込める訳じゃない。

 無駄な襲撃は学園の警戒を強め、潜伏先の特定もされやすくなる。

 それを避けるためにも襲撃は機会を見計らって来るだろう。

 しかし、それには確証があるわけではなく、襲撃犯が学園内で自由に動いている事でもある。

 場合によっては無関係な生徒にまで危害が及ぶこともあり得る。

 

「そんなことよりも前回の襲撃に続いて今回の襲撃もルカを狙った事は明らかだけど、どこでそんな情報を仕入れたのかしら?」

 

 校外実習での襲撃だけならベネデイットグループに対する無差別的なテロだった可能性もある。

 だが、今度もルーカスのいるところが狙われた。

 2度も続けばそれは偶然ではなく明らかにルーカスを狙っているとみて間違いない。

 

「情報はどんなに秘匿したところで入手する手段はいくらでもありますからね。すぐに特定するのは難しいかと」

「……そうですね」

 

 2度の襲撃は明らかにルーカスの居る場所が狙われた。

 向こうはルーカスの居場所を把握していたという事になる。

 ルーカス自身は特別、自分の居場所を隠している訳ではないが、それでもそう簡単に情報を得る事は出来ない。

 少なくとも向こうはそれを得る手段を持っている事になる。

 

「とにかく、ルカが狙われているって事は確かだ。MSに乗っている時以外でも狙われるかも知れねぇ。ジェターク寮の中で要人警護や警備関係を志願している奴に声をかけて護衛に付かせる。後、出歩く時は必ずセシルか最低でもアタシを連れてけ。アタシでも最悪お前の盾くらいにはなれる」

 

 ルーカスは露骨に嫌な顔をする。

 

「やだよ。面倒臭い。大体、そんな連中に四六時中うろうろされるのも迷惑だし。俺だって一人の時間は欲しい」

「お前、自分の置かれた状況分かってんのかよ」

「分かってるさ。でも今更だ.ぞ。生憎と俺も親父も敵はそこら中にいるからな。内にも外にもさ。だからこの程度の事で狼狽えて神経質になっても仕方がないんだよ。来るなら返り討ちにしてやればいい」

 

 ルーカスにとっては自分の命が狙われることはさほど珍しい事ではない。

 だから一々命を狙われたからと言って焦って護衛を増やすことも行動を制限するつもりも無かった。

 

「そういう訳だからちょっと出て来る」

「おい! 待てって」

 

 ルーカスはフランの制止をスルーして理事長室から出ていく。

 

「私が」

 

 それにセシルも続く。

 取り合えずセシルがついていけば大丈夫だとフランも追いかける事はしない。

 

「たく……で、何でシズカはセシルに刺々しい訳?」

 

 フランがルーカスを追いかけなかったのにはもう一つ理由があった。

 今のやり取りだけでもシズカはどことなくセシルに対しての当りが強く思ったからだ。

 普段から毒を吐くことの多いシズカだったが、セシルに対しては今までは無かった。

 

「別に……ただ護衛の癖に2度も襲撃を許しているのはどうかと思っただけよ」

 

 フランもシズカの言いたい事は何となくわかる。

 セシルはルーカスの世話係みたいに見られているが、本来の役割は護衛だ。

 それなのに2度の襲撃の時にどちらもセシルはその場にはいなかった。

 ルーカス自身が戦った事でセシルが到着するまで持ちこたえる事が出来たが、護衛としてはあり得ない事だ。

 

「ねぇ。フランさん。貴女はルカの味方で良いのよね?」

「……シズカが何を考えているのかは分かんねぇけど、アタシはそのつもりだ」

 

 フランはシズカの質問の意図までは分からないが、迷う事も無くそう答えた。

 

 

 

 

 

 学園区画をセリカは怒りを押し隠しながら歩いていた。

 頼まれていたことはある程度は終わったが、残りが問題だった。

 

(酒ってここで手に入れる事が出来る訳ないじゃない。それにキャバクラの場所ってある訳無いでしょ。何考えているのよ!)

 

 生徒手帳の中には学園内で手に入れて欲しい物と施設の正確な位置や周囲の様子の確認等のリストがあるが、その中のいくつかがセリカにとってはふざけているとしか思えなかった。

 学園にどの程度潜入するのか分からないため、レドやシドーも娯楽が欲しかったようで、買い出しリストの中に酒類があったが、学園の生徒用の購買ではそんな物を売っている訳もない。

 また待機時の暇つぶしの為に学園内でキャバクラ、もしくはそれに類する施設の場所を探しておいて欲しいとあったが、当然のことながらそんな施設があるはずもない。

 

(これだからスペーシアンの男って最低!)

 

 心の中で文句を言っていたが、セリカはふと足を止めた。

 

「アレって」

 

 セリカの視線の先にはベンチで横になっているルーカスがいた。

 すぐにセリカは周囲を確認する。

 周りには護衛の姿も無ければ他の生徒も確認できない。

 

(これはチャンスかも)

 

 セリカはカバンの中に手を入れて緊急時の自衛用に忍ばせていたナイフを掴む。

 ナイフをカバンの外に出すことなくいつでも抜ける状態でゆっくりとルーカスに近づく。

 ルーカスは寝ているのは気づく様子もなく、セリカはルーカスの寝るベンチの側までたどり着いた。

 

(ここなら逃亡ルートも近くにある。今なら殺れる)

 

 現在地と逃亡ルートを考えるとここでルーカスを殺した上で大事になる前に逃亡することは可能だとセリカは判断した。

 セリカはナイフを周囲から見えないように出すと周囲を警戒しながら振り上げようとする。

 

「セシル?」

 

 ナイフを振り下ろそうとした瞬間にルーカスは口を開く。

 セリカはとっさにナイフを隠すが、その場から離れる前にルーカスは起きてしまう。

 

「アレ? セシルじゃない。おっかしいな。セシルの気配なら分かるんだけどな」

()

(不味い。顔を見られた!)

 

 ナイフまでは見られなかったが、流石にこの状況で知らぬ存ぜぬを通すことは難しい。

 

「でも、なんかセシルに似てるよね」

(どうする? 強硬する? 駄目よ。流石に正面からでは分が悪い)

 

 セリカは何とか動揺を表に出さないようにする。

 いくら相手が攻撃されると思っていないとは言え真向からではセリカの分が悪い。

 単純な力ではどうしても女のセリカでは男のルーカスには劣り、不意を突いて一撃で仕留める事が出来ればいいが、完全に起き上がっているルーカス相手に一撃で致命傷を与える事は難しいだろう。

 

「まぁ誰だか知らないけど座れば?」

 

 ルーカスはそういうと少し横にずれる。

 余り長時間の接触は好ましくはないが、ここで逃げて変に印象付けてしまえば今後の潜伏に影響が出かねない。

 セリカは極力顔を見せずにベンチの端に座る。

 

「見かけない顔だけど1年?」

 

 ルーカスはそういうがそもそも普段から授業にも出ないルーカスが学園内で顔と名前を覚えている生徒はほとんどいない。

 セリカはこくりと頷く。

 偽造された生徒手帳の情報によればセリカは経営戦略科の1年生と言う事になっている。

 

「名前は?」

「……教える必要が?」

「別に名乗りたくなければ名乗る必要もないけど、俺が呼ぶのに不便だから便宜上……セシル2号とでも呼ぶけど良い?」

「セリカです(何なのコイツ)」

 

 流石にその呼び方は嫌だったため、セリカは素直に答える。

 馴染のない偽名を使うよりはと偽造された生徒手帳の名前もセリカになっている。

 その名を使ったところで大した問題もないからだ。

 

「で、セリカは俺に何か用でも?」

 

 ルーカスが起きた状況的にただ通りかかったというのでは通らない。

 

「いえ、誰からベンチで寝ていたので、それで先輩だったから。先輩は有名人ですし」

 

 セリカはそれらしい理由をでっち上げる。

 少なくともたまたま通りかかってベンチに寝ている人を見つけたというのは事実で、ルーカスが学園で有名人だというのも嘘ではない。

 関わり合いの無い1年がルーカスの顔を知っていてもおかしくはない。

 

「最近、命を狙われたりしてゴタゴタしてたから少しは静かな時間を過ごしたかったんだよ」

「はぁ(すごくどうでもいい。そもそも命を狙われているのにこんなところで呑気な……)」

「まぁ命を狙っている奴らも大したことはないし簡単に撃退したから周りが騒ぎすぎ何だよ」

「……はぁ(簡単って機体が万全なら負けなかったわ!)」

 

 聞いてもいない事を話し始めてセリカもイライラし始めてきた。

 正直なところ、ルーカスとこれ以上関わり合いになるつもりは無いため、早々に切り上げてこの場から離れたい。

 

「先輩、私はこの辺りで……まだテストも終わってないですし」

「いざとなったらセシルもいるし……セシルっていうのは俺の世話役で」

(この話何時になったら終わるの? これだからスペーシアンの男は……)

 

 余り強く出る訳にもいかず、こちらの都合を一切気にすることのないルーカスに対して敵愾心ばかりは募っていく。

 

「ルーカス様」

「おっ本物の方だ」

 

 ルーカスの一方的な話にセシルが割り込んでくる。

 

「なぁセシル。この子、セシルに雰囲気が似てない?」

「……どの子ですか?」

 

 ルーカスはセシルに気を取られている間にセリカはその場から離れてルーカスの死角に隠れていた。

 

「あれ? さっきまでいたんだけどな」

「いくら友人が少ないからと言って妄想の中で友人を作るのはおすすめしませんが」

「いやマジでいたんだって、セシルにどことなく似ている子がさ、実は妹とか娘とかいたりしない?」

「いる訳ないじゃないですか。妹はともかく娘がいる歳ではありませんよ。まぁよく似た顔の人が宇宙には10人くらいはいったりするって聞いたことはありますね。よくは知りませんけど」

「本当にいたんだけどなぁ」

 

 ルーカスは突然消えたセリカの存在を否定されて釈然とはしない。

 

「それよりも余り出歩かないようにお願いします」

「へいへい。分かったよ」

 

 ルーカスは観念してセシルに連れていかれる。

 

 

 

 襲撃犯の足取りがつかめないまま実技試験の予定日となった。

 生徒たちは各自の寮の格納庫で待機する決まりとなっている。

 テストは使用する戦術試験区域ごとにランダムで組み合わせが決まりそれまでは生徒は待機することになる。

 テストは数日かけて行われるが、その間生徒たちは待機し、自分の出番までに機体と体調を万全な状態で維持できるかどうかも評価の対象となっている。

 地球寮の格納庫には4機のガンダムと修理を終えたコウタロウのベギルベウがハンガーに入れれている。

 ベギルベウは純正の装備に頭部には決闘用のブレードアンテナが増設されている。

 

「ガンダムは全機、しっかりと整備は出来てるよ。後はパイロットが無茶をしなければ問題はないわ。パイロットが無茶をしなければね」

 

 マキアが同じこと2度言いながらルーカスに視線を送る。

 これまで戦うたびに派手に機体を壊しているからだ。

 

「後は組み合わせと戦うタイミングが問題だな。まぁアタシは誰でも全力でぶっ飛ばすだけだけどな」

「何事の無ければいいのだけども」

 

 試験では多くのMSが同時に戦術試験区域に出入りする都合上、いくらでも紛れ込むことは出来る。

 

「大丈夫だって、今回はこっちもきちんと装備を持ってるしな」

 

 今回のテスト用にすでにルブリスV2 は高機動専用パッケージが装備されている。

 高機動パッケージは宇宙空間での高機動戦闘に特化した装備でバックパックに高出力の大型スラスターが取り付けられており、脚部や前進にもスラスターの内臓された追加装甲も取り付けられている。

 追加の装備は両手に専用のビームライフルのみとなっている。

 

「おっ組み合わせが発表されるぞ」

 

 格納庫の大型モニターに戦術試験区域ごとに1戦目の組み合わせが発表されていく。

 

「マジか。いきなりルカが……って相手はレイニーかよ」

「いやぁ最後のガンダムと当るとかこれもう運命だよな」

 

 1戦目の組み合わせの中にルーカスの名があり、対戦相手はレイニーとなっていた。

 本来は組み合わせは可能な限り同学年同士の組み合わせになるようになっている。

 学年が違えばその分、上級生の方が有利となり不公平になりかねないからだ。

 それでも上級生や下級生と当る事もあるが、これは偶然という訳ではない。

 表向きはランダムに組み合わせが決められているが、1戦目にルーカスとレイニーが当たる事は裏から手を回して確定していたことだ。

 この戦いをするためだけに襲撃の事を握りつぶして大事にさせなかった。

 

「さて、最後の魔女狩りと行きますか」

 

 ルーカスはすぐに出撃準備に入り最後のガンダムとの戦いが開始されるのであった。

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