ランブルリングで学園のではないMSが紛れ込んでいた時点で観客たちには避難指示が出された。
立会人であるデリングもまた護衛に先導されて避難をしていた。
その場所から最も違い避難用のシェルターにシズカとフランは先回りをしていた。
デリングが避難するとなるとそこに来る可能性が高いからだ。
場合によっては別のシェルターに非難する可能性があったが、ひとまずは読みがあった。
シェルターに先客がいた事でデリングの護衛は銃を構えて警戒をする。
制服と来ているとは言え、この状況では身元がはっきりとしない人物は全て敵だとみている。
「ペイル寮2年のシズカ・カブラギです」
「ジェターク寮3年のフラン・ベルカっす」
取り合えず2人は名乗り生徒手帳を見せる。
今は地球寮ではあったが、古い方の寮生だとしておく。
地球寮だと自分がアーシアンだと名乗っているようなもので相手がアーシアだと対応が変わって話すらできないかも知れない。
それよりも御三家の寮生だとしておいた方が話が出来るかも知れない。
それでも護衛は銃を構えた状態を維持しているが、すぐに撃たれるという事はなさそうだ。
「学園の魔女だな。報告は聞いている。今は息子の下にいるようだな」
護衛は警戒を続けているが、デリングが口を開く。
どうやらすでに報告として耳にしているらしく、シズカとフランがガンダムのパイロット、すなわち魔女だという事は知っていたようだ。
同時にルーカスの元にいる事も知っているようで、二人の身元が証明はされた。
だが、身元が証明されたとして、それが目的ではなくここからが本題だ。
「ご子息の事で伝えない事があります」
「何だ。言ってみろ」
デリングはシズカの話を聞くつもりはあるようだ。
メディア等では見た事があったが、実際に会って話すと思っていた以上の圧にシズカは気圧されるが、今は怯んではいられない。
意を決して本題に入ろうとすると、シェルターにセシルが入ってくる。
「総帥? どういう事ですか? シズカさん。私は不審な人物がいると連絡を受けたのですが?」
セシルがここに来たのはシズカからテロリストの仲間かも知れない不審人物を見つけたと知らせを受けたからだ。
ルーカスの護衛の立場としても、敵の仲間としてもそれは無視できずに確認するために来ると考えていた。
「嘘です。でも、セシルさんがついてきた嘘に比べれば可愛いものよ」
「……どういう事ですか?」
「今回よりも以前に御子息が襲撃を受けたという話は総帥はご存じですか?」
「報告は受けている」
事実は内々に処理されているが、当然デリングには報告は入っている。
シズカはセシルに細かい説明をすることなく、自身の推理を話し始める。
話の中でデリングの表情は一切変わらず、自分の話をどう思っているかは分からないが、シズカは止まる事は出来ない。
矢継ぎ早にこれまでのセシルに対する不審な点を話す。
「以上の事から私たちは彼女の関与を疑い。罠を仕掛けました。これがその映像です。昨日の夜、彼女はホルダーのMSに細工をしました。アンチドートの使用を封じる事で仲間のガンダムを助ける為に」
シズカの見せる映像には確かにセシルがエマのジークフリートの大型シールドに細工している様子が映し出される。
そして、先の戦闘時にアンチドートは不具合を起こしている。
多少、強引だがセシルが強化型ルブリス改を助ける為だという裏切り行為だという事に繋げる事は出来た。
「セシルさん。何か反論はありますか?」
デリングの反応は分からないが、少なくとも護衛達はシズカのいう事に理があると思ったのか、セシルに対して警戒している。
その様子からシズカも自分の言い分の方が有利だと確信する。
セシルがどんな言い訳をしてもその場で返せるように頭の中で反論としてあり得る返しを想定し、返しの準備をしておく。
「反論はありま……「偶然だろ」」
セシルはどこか観念した様子だったが、セシルの言葉をルーカスが遮る。
「ルカ……」
この場所でデリングに直談判することはルーカスには伝えてはいない。
恐らくは避難したデリングの無事を確認でもしに来たのだろう。
その可能性は考えたが、出来る事ならルーカスが来る前に話を付けたかった。
「全部、偶然。考えすぎだって」
「……何を言っているの」
ルーカスが来てしまった場合、ルーカスは素直に自分の話を信じるとは思っていなかった。
確実にセシルを何らかの形で擁護することもだ。
だが、ルーカスの反論はシズカが事前に考えていた反論を大きく上回っていた。
「偶によくあるんだよな。いろいろな偶然が重なって陰謀染みて来る奴がさ」
これだけいろいろな事が重なっている状況の全てを偶然の一言で片づけてしまった。
論理的に擁護してくるのであれば反論の余地もあったが、偶然の一言は完全に議論を放棄している。
それをゴリ押されてしまえば、反論すら意味を成さない。
「それにこの映像もよくできてるな。多分、コイツ偽物だな。俺には分かる」
「おいおい。ルカ。そいつは無茶だぞ」
「無茶も何もセシルの事は俺が一番よく知っているからな。そんな俺が言うんだ。間違いない」
ルーカスの言っている事は一切の合理性を持たない。
それでもここまで自身満々に言ってしまえば、どうにもできない。
(どういう事なの……こんなにも状況証拠が揃っているのに一切の信じていない。それほどまでに彼女を信頼しているとでもいうの? それとも何か……)
シズカは普段からいい加減だったルーカスだが、どこかおかしいと感じ、思考が止まりそうなところを何とか動かして考える。
そして、ある事を思い出した。
(まさか……そういう事なの)
以前、ルーカスと決闘で負けた後にルーカスの過去について話を聞いたことがあった。
その生まれが故に周囲の好意を信じる事が出来ずに疑い、その結果失った。
そして、ルーカスは自分が何も知らない餓鬼だったら素直に回りを受け入れる事が出来たとも言っていた。
今の状況はまさに何も知らないでいようとしているのではないかとすれば納得がいく。
どんなにセシルが怪しいとしても起きた事は全て偶然が重なって起きた事でセシルが何か暗躍した訳ではないとしたいのだ。
そうやって何も知らないようにすることで、セシルはただ献身的にルーカスの世話を焼く、最も信頼する護衛として見る事が出来る。
学園に来る以前にも何かあったのかも知れない。
その都度、ルーカスはそうやって真実を見る事なく、自分の都合がいいように解釈して失わないようにして来たのだろう。
「そこそもセシルにはアリバイがある。昨日の夜は朝まで俺の部屋にいたんだよ。部屋でナニをしていたかは若い男女が一晩一緒にいたんだ。野暮な事は言いっこなしだ。流石に俺も親の前でそんなことは話したくはないしな。そのせいで眠くて仕方がないや」
(だとしたら私は……)
気づいてしまった事でルーカスの言葉も頭に入ってこない。
ルーカスはそこまでしてセシルを自分の側に置いておきたかったという事だ。
これが自分だとしたらと考えると確実にルーカスは自分を切り捨てるだろう。
それだけははっきりとわかる。
過去に何があったのかは分からないが、自分が思っている以上にルーカスはセシルを必要としていたという事だ。
どんなに真実を突き詰めて、それを周囲の人間が認めたとしてもルーカスだけは絶対に認める事はない。
「……そう。私の勘違い、だったようね」
シズカは絞り出すようにそういう。
声は掠れそうだったが、何とかそれだけいう事が出来た。
シズカは俯いたまま、それ以上は何も言わずにシェルターを飛び出す。
「おい! シズカ!」
シズカを追ってフランも飛び出す。
ルーカスの横をすれ違った時に一瞬だけ、視線をルーカスに向けるとどこか後ろめたさがあったとフランは信じたい。
「悪かったな。親父」
「今のが今朝言っていたことか?」
「そんなこと。俺も親父たちみたいに上手くやりたいと思ってんだけどな。シズカも悪気があってあんなことを言い出した訳じゃないからさ。女ってよくわかんないよな」
ルーカスは今日の朝の段階でデリングに少し面倒な事がそっちに行くかも知れないと伝えていた。
だからこそ、デリングも普段なら一々取り合わない話に耳を傾けていた。
ルーカスはシズカがセシルに嫉妬して一時の気の迷いでありもしない話をでっち上げたという事で収める事にした。
やり取りを見ていた護衛は釈然とはしない様子だったが、デリングはルーカスの異性関係にそこまで興味はない。
「始末は自分でつけろ」
「分かってる。行くぞ。セシル」
ルーカスはセシルの腕を掴むとシェルターを出て行く。
「シズカ! どうしたってんだよ!」
飛び出したシズカを追うフランだったが、車椅子のシズカではフランを振り切る事が出来る訳もなく、追いつかれる。
フランはシズカを追いこすと正面から車椅子を掴んで止めた。
「ルカのいう事はアタシが見てもおかしい。どういう事なんだよ」
「アイツは全部知ってたのよ! 知ってて見て見ぬふりとしてたの!」
シズカは感情を吐き出す。
「知ってた?」
「ええ、そうよ! セシルさんを信じる為に気づかないようにして……そんなことにも気づかずに守るとか馬鹿みたい!」
もはや感情を抑える事は出来なかった。
セシルに怪しいところがあると気づき、ルーカスを守るためだと得意げに推理を披露し、結局何の意味も無かった。
それどころかそこまでしてルーカスはセシルを守ったという現実を突きつけられただけだ。
「ああ……バカだな。ルカの奴も、言ってくれりゃ良いのによ。ルカが守りたいっていうならアタシ等だって協力してやれたのにな」
涙を流すシズカをフランは優しく抱きしめる。
抱きしめたままシズカを落ちつかせるように頭を撫でる。
「本当にバカだ。ただシズカもルカも互いに大事な奴を守りたいだけだってのにすれ違って傷つけあって」
「……互いに……」
シズカはフランの腕の中で次第に落ち着きを取り戻していく。
(ちょっと待って……私は根本的な部分で見落としていたかも知れない)
落ち着きを取り戻したシズカは今までは考えもしなかった視点からある事に気が付いた。
「フランさん!」
「おっおう。どした?」
「もしかしてかもだけど……アイツは本当にバカよ。ルカも私もセシルさんも!」
シズカの中で何か思い至ったのか先ほどまではとは雰囲気が変わったように見える。
「フランさん。行くわよ」
「行くってどこに?」
「あの大馬鹿のところよ」
セシルを連れてルーカスは理事長室へと帰って来ていた。
そのままルーカスは自分の部屋へと入り、セシルも無言でそれに続く。
「それでどう始末をつけるつもりなんです?」
「始末をつけるも何もなぁ。シズカに悪気があった訳でもないしな」
「そうではなくて」
セシルもデリングが言った始末をつけろと言うのがシズカの事を刺している訳ではない事は分かっている。
「最近はあんまり構ってやれなかったことが原因かな」
「何故、あのようなことを?」
疑わしい事を全て偶然と言い切り、昨晩は一緒にいたと嘘のアリバイまで証言している。
「今後プレゼントでもして機嫌を直さないとな。てか、俺さ女にプレゼントとかしたのミオリネくらいだからな。よくわかんないな。セシル、何かいい案ないか?」
あくまでも普段通りにルーカスはそういう。
セシルに背を向けて、無防備を晒している。
「貴方はいつも……」
セシルは懐から銃を取り出してルーカスに向ける。
だが、ルーカスは振り向く素振りすら見せない。
「どうしてそう……」
「別に良いだろ。どうだって」
ルーカスの声のトーンが少し落ちる。
「いい加減に!」
セシルはルーカスの肩を掴むと強引に振り向かせると眼前に銃を突きつける。
銃を突きつけられても尚、抵抗をすることも無く感情の無い視線を銃に向けるだけだ。
「これが現実なの」
「そんな現実はいらない」
「私は!」
「俺の最も信頼する護衛だ」
「……違う!」
セシルはルーカスを突き飛ばす。
尻餅をつくルーカスに再び銃を向ける。
「私は始めから貴方の信用を得て篭絡させて傀儡にするか、始末することを目的に近づいた。貴方がデリング・レンブランの養子だから。貴方を自由に操れればべネリットグループを自在動かせるし、死ねばグループは混乱する。そうなれば都合のいい連中がいるのよ。だから私が送られたのよ」
ヴァナディース事変から10年、デリングはべネリットグループを作りその力を拡大させてきた。
その跡取りとされているルーカスはそれだけで重大な意味がある存在だ。
上手く傀儡にできればそれだけ、グループの力を好きに使う事が出来る。
今、ルーカスが死ねば跡目争いも激化し、グループ全体が混乱しかねない。
世の中には力を広げるデリングの存在を邪魔に思い、本人ではなくその跡継ぎとされているルーカスに狙いを定める者たちもいる。
セシルはそんな連中に送り込まれて、ルーカスの側にいた。
「そんなの俺は知らない」
「貴方はそれでは済まされないところにいるのよ」
「関係ないね」
「そうはいかないわ。もう、これで終わりにするの。何もかも全てを」
セシルは引き金に指をかける。
銃を突きつけられても尚、ルーカスは逃げる素振りも見せない。
「……さようなら。これで会う事も無いわ。ルーカス」
そして、セシルは引き金を引き、理事長室に銃声が響き渡った。