機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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27話

「さて……どうすっかな」

 自分の進む方向が見えたルーカスだったが、次の行動に関してはノープランだった。

 

「取り合えずは港よ。多分、もうセシルさんはこのフロントにはいないと思うから」

「分かんねぇぞ。MSとかを隠せるんだろ? なら人が隠れるなんて余裕だろ」

 

 セシルは学園のフロント内にMSを警備に見つからないように隠していた。

 それならば人が警備を欺き隠れる事など造作もない。

 

「それはないわ。ランブルリングを襲撃したMSも外ににがしているし、私の予想が当たっているのであればフロントに留まる意味はないわ」

 

 フランの意見をシズカはきっぱりと否定する。

 

「分かった。兎に角、行くぞ」

「ちょっ!」

 

 フランはシズカを車椅子から抱きかかえると肩に担ぐ。

 

「あんまりチンタラも出来ないんだろ? 車椅子に合わせてはいられないぞ」

 

 ここから港までの最短距離ではどうしても徒歩で向かう必要が出て来る。

 そうなった時、シズカの車椅子が移動速度を落とす原因となる。

 それならば、フランが担いで走った方が早い。

 

「行くぞ。ルカ」

「ああ」

「ならせめてまともに!」

 

 シズカの抗議は無視されてフランとルーカスは港へと向かった。

 学園内を通っているモノレールを使い最短距離で港まで到着すると、マキアが出迎える。

 

「言われた通りにルブリスを積んでおいたけど、どういう事?」

 

 完全にのけ者にされていたため、マキアは状況が一切飲み込めていない。

 

「レイニー先輩は?」

「ガンダムで出たわよ。でも良いの? 勝手にMSを持ち出してフロントの外に出たら問題になるんじゃない?」

「問題ないわ。後でルカが怒られるから」

 

 学園の外でMSを使う場合は事前に学園側に申請を出す必要がある。

 その申請をすることなくすでにレイニーがガンダムネメシスで出ている。

 

「そっちの申請は後で何とか出来るわ。こっちの申請もね。学園で一番足の速い奴を確保してきたわ」

「エマさん。レイニー先輩が出たって事は」

「申請なしで出た船があったわ」

 

 ランブルリングの騒ぎの後、エマはシズカがセシルの告発に失敗した場合、セシルがフロントから逃亡することを想定して学園で一番足の速い船の確保とレイニーはガンダムで追跡できるように頼んでおいた。

 

「やっぱり。事情は少し変わったけど私たちも船でレイニー先輩を追うからこっちの方はお願い」

「分かったけど。何があったの?」

 

 エマは高速艇の確保をしていたため、ルーカスとセシルの事情が変わった事までは知らないようだ。

 

「セシルを連れ戻す」

「……はぁまた面倒な事をするつもりじゃないでしょうね」

「逆に聞くが、俺が思い付きで行動してエマに面倒をかけなかったことはあったか?」

「威張らないで」

 

 ルーカスとの付き合いは長いが、昔から一人で行動することも多く、それにエマがついて行き最終的にエマが尻拭いをさせられたことは何度もある。

 特にセシルを護衛として雇ってからのルーカスは思い付きで何かを始めてはエマに面倒をかける事が多かった。

 

「そんなにあの娘が大事なの?」

「ああ。ミオリネの次くらいで長年一緒にいる幼馴染よりちょっとはな」

「……全く。フラン! ルーカスが何が変な事をやり始めた時は迷う事なく有無を言わさずに殴りなさい。それがこのバカを止める確実な方法よ」

「そいつは簡単だな」

 

 エマもこれ以上は何を言っても無駄だという事は分かる。

 ルーカスが生活の大半をセシルに任せている時点で、それだけ信頼しているという事は分かっていた。

 

「ルーカス。こっちの方は私が何とかするからみんなで帰って来なさいよ」

「分かってる」

 

 エマはここに残りフロントの管制の方にルーカスが高速艇ですぐに出るという事を伝えて手続きをしなけばならない。

 ルーカスはエマが用意した高速艇に乗り込みセシルの後を追う。

 フロントを出て数時間が経つと、高速艇の前方にレイニーのガンダムネメシスは見えて来る。

 

「レイニー先輩! 状況はどうです?」

「途中で民間船籍の船に乗り換えた。位置は補足出来る距離を保ってる。余裕」

「やっぱり」

 

 先行して追っていたレイニーがセシルの乗る船を見失っていない事でシズカの中の予測は確信に変わる。

 

「どういう事だ?」

「セシルさんはわざと追尾がある事を想定して見失わないように逃げていたの。追尾させることで向こうの拠点の位置を教える為にね」

 

 セシルがルーカスの元を離れたとしてもルーカスに対しする脅威が完全になくなった訳ではない。

 セシルの背後にいる反アーシアン団体である銀河の獅子の拠点をカテドラルやグループ傘下の部隊であるセキュリティフォースに叩かせるつもりだったのだろう。

 

「このまま追えば向こうの拠点まで案内してくれるけどどうする?」

「決まってる。俺が出る」

「まぁそうなるわね」

 

 何もしなければセシルが敵の拠点まで案内してくれるだろうが、そうなれば敵のMS隊と戦う事になる。

 ルーカス達の戦力はレイニーのガンダムネメシスと高速艇に積んで来たルブリスV2のみだ。

 この高速艇は機動力はあるが、MSは1機しか搭載できず、シズカとフランは操船をしなければならない。

 

「ルカ! 男を見せろよ!」

「任せろ」

 

 ルーカスはブリッジから格納庫に向かう。

 パイロットスーツに着替えてルブリスV2に乗り込む。

 

「ルカ君。何と戦うのか知らないけど装備はガンビットとライフルだけでビットオンも出来ないから注意ね」

「了解。出るぞ」

 

 出撃の用意をしているとノーマルスーツのマキアが警告をする。

 今回は急に高速艇に積み込むことになっため、装備はセシルのルブリスが使っているレシーバーガンとビットステイヴを持って来ている。

 ルブリスV2は改修により多彩な装備が用意されたが、元々あったビットステイヴをバックパックに装着することで機動力を高めるビットオンフォームが使えなくなっている。

 

「私はどうする?」

「ここで待機しといてくれ。敵の数も分からんからな」

 

 途中で船を乗り換えたという事は向こうも防衛用にMSを持って来ている可能性がある。

 戦闘になり高速艇の方を狙われた場合、武装を持たない高速艇では逃げるしか出来ない。

 

「了解」

 

 レイニーが高速艇の守りに残りルーカスが輸送艇へと向かう。

 

 

 学園フロントから小型艇で脱出したセシルは途中で先に脱出していたキトーとレドが乗っていた輸送艇と合流する。

 乗って来た小型艇を破棄して輸送艇に乗り込む。

 

「ご苦労さん。苦労を知らなそうなボンボンの相手は大変だったろ」

「……そうね。昔のセリカの方が聞き分けが好かったわ」

 

 セシルは眼鏡を取ると空いている席に座る。

 元々目が悪かった訳ではなく、以前にセリカが学園内でつけていたように顔の印象を変える為に着けていたに過ぎない。

 もはやその必要もなくなっている。

 輸送艇が動き始めてしばらくすると、船のレーダーに反応が現れる。

 

「この速度はMSか?」

「この辺に武装勢力がいるって話は聞いたことはないけど、カテドラルとかか?」

「まぁこっちは立派な民間船なんだ。航行申請も出してあるし何とかなるだろ」

 

 この輸送船は事前に民間企業の所有として登録しているもので、きちんと航行申請も出してある。

 カテドラルに止められたところで言い逃れをすることは容易い。

 しかし、輸送船の横をビームが通り過ぎた。

 

「撃ってきやがった! 正気かよ!」

 

 自分たちに不信なところはない。

 それなのに向こうは警告すらなく攻撃してきたことに二人は驚く。

 

「今のは威嚇よ。向こうは船を抑える気ね。私が出る」

「ああ。任せた。お前の機体も持って来てる」

(警告も無しに攻撃をして来るとしたら……まさか自ら)

 

 セシルは輸送艦の格納庫に向かう。

 そこにはセシル用に調整されているルブリス改が用意されていた。

 このルブリス改はセリカのルブリス改とほぼ同一仕様の機体で、シールドの裏側にビームサーベルとビームガン、ミサイルポッドに変更されている。

 すぐにパイロットスーツに着替えるとセシルはルブリス改に乗り込む。

 

(けど、まだ早すぎる。それにあのビームの出力は……)

 

 セシルの算段ではこのまま拠点まで行くつもりだった。

 ここでは自分たちの拠点の場所を見つけるには距離が離れすぎている。

 

「出るわよ」

 

 輸送艇のハッチが開くとルブリス改は出撃する。

 

「MSが出てきたか。またルブリスか……腕を直したのか別の奴なのか……まぁ良い」

 

 輸送艦からMSが出てきたことを確認するとルーカスはガンビットライフルをルブリス改に向けて撃つ。

 ルブリス改はビームを避けるとビームライフルで反撃してくる。

 

「この動きは前の奴とは違う。んで、俺が見間違える訳もない」

 

 ルブリスV2はビットステイヴを展開してガンビットライフルを撃ちながら加速する。

 2機はビームサーベルを抜くと振るい、ぶつかり合う。

 

「お前、セシルだろ!」

「やっぱり……ルーカス。貴方が来たのね」

 

 ルーカスはオープンチャンネルを繋ぐ。

 最初の回避時の動きからルーカスは向こうのルブリス改に乗っているのがセシルだったと気づいていた。

 2機は離れるとビットステイヴがルブリス改を攻撃する。

 

「この動き……ビームの出力。決闘仕様のまま……どういうつもりなの」

 

 最初の攻撃の時から違和感はあった。

 だが、ビットステイヴの動きやビームの出力からルブリスV2は実戦仕様ではなく学園で使われる決闘仕様で出てきているという事になる。

 ここまで来るまでに実戦仕様のOSに切り替える事は出来る為、ルーカスは意図的に決闘仕様で来たという事だ。

 

「セシル! 帰ってこい!」

「帰る? 何を言っているの」

「言葉通りの意味だ。今回の事で分かった事がある。俺にはお前が必要だ。だから帰ってこい!」

「……何を馬鹿な事を」

 

 ルブリス改はビームライフルでビットステイヴをけん制する。

 

「私は貴方を殺すために側にいたに過ぎないの!」

「聞こえないな!」

 

 ルブリスV2はレシーバーガンを撃つ。

 

「生憎と都合の悪い言葉は一切、聞こえないんだわ」

「ふざけないで! 私は貴方の敵で」

「聞こえないって言ってんだろ!」

 

 接近していたルブリスV2がルブリス改に蹴りを入れる。

 それを何とかシールドで弾く。

 

「お前の事情とかは俺には関係ない。俺にはセシルが必要だと思った。それ以外に何がある!」

「貴方はもう一人じゃない。家族も仲間もみんな持ってる。私なんかは必要ない!」

「でもお前がいないだろ。セシルがいなかったら、誰が俺を甘やかすんだよ!」

「っ!」

 

 ビットステイヴのビームがルブリス改の肩を掠める。

 すぐにビームライフルでルブリスV2にビームを撃つとシールドのミサイルをビットステイヴに撃つ。

 

「ミオリネの前じゃ俺は完全無敵の最高の兄でいないといけないし、親に甘えるような歳でもない! フランなんか何かあると暴力に訴えて俺が情けなくはさせてくれない! シズカは毒を吐くし、エマはたまに俺をゴミを見るような目で見て来る! アイツらはいても飽きないけど俺に優しくないんだよ! だから無条件で俺を甘やかしてくれるのはセシルだけなんだよ!」

 

 ビームをビットステイヴで防ぎレシーバーガンで反撃する。

 セシルは常にルーカスのやりたい事を実現できるように案を出し、やりたくない事をやらなくても良いようにしてくれて来た。

 たまに口うるさくもなるが、それでもルーカスの意に反することは一度も無かった。

 

「それは貴方の信頼を得る為に……」

「嘘だね! 例え俺に取り入るためだけじゃあそこまで俺には尽くせない! 普通なら殺意が芽生えるか逃げ出してる! セシルが来るまでに俺の世話係が何人逃げ出したと思ってんだ!」

 

 ルーカスのわがままと無茶ぶりに最初は誰もが応えようとはする。

 それを込みで高い給料を払っている。

 しかし、いずれはついて行けずに辞めてしまった。

 今までにもっても1週間でセシルのように年単位で世話を焼けた世話係は存在しない。

 

「それが俺にとってのセシルの真実だ!」

「私は命令に従っただけ!」

「だから一生俺の側にいろ!」

「出来る訳ない! ルーカスの知る私は過去も全部が嘘を積み重ねて来た偽りの私! 何一つ本当の事はない。何もないの!」

 

 ルブリス改はビームサーベルで何度もルブリスV2に切りかかる。

 セシルの過去の経歴は全てがこの時の為に作り上げられた嘘に過ぎない。

 

「何も無いなら都合がいい。何もないなら、何にでもなれるんだろ? 自分が望めば」

「何で……まさか」

 

 セシルは思わず手を止めてしまう。

 ガンビットライフルのビームがシールドを吹き飛ばす。

 

「覚えて……」

 

 セシルにとっては自分に非はなかったとは言え、初めて任務に失敗した時にルーカスに言った言葉だ。

 数年後に再会した時は初めて会った事にされていて覚えていないと思っていた。

 セシルにとってはその方が好都合ではあったが、ルーカスはその時の言葉を今も忘れてはいない。

 

 「あの時、お前がそう言って引き留めてくれたから今の俺がいる。俺はあの日に望んだんだ。生きて欲しいものは全て手に入れるってな」

 

 ビットステイヴがルブリス改を取り囲む。

 ルブリス改はガンビットを射出しようとするが、四方からのビームがルブリス改を襲う。

 

「しまっ!」

 

 ビームがルブリス改の頭部や四肢、バックパックを破壊していく。

 

「俺はお前も欲しい」

「……勝手な人ね」

「それが俺だからな」

 

 ルブリス改は大破しビットステイヴが取り囲むとルブリスV2が近づく。

 ルブリスV2はルブリス改の胴体を掴む。

 片手でルブリス改を掴んだ状態でコックピットハッチをはぎ取っていく。

 戦闘能力を完全に奪われたルブリス改は成すがままだ。

 

「悪い男に引っかかったと思って諦めろ」

 

 ルブリスV2のコックピットハッチが開くとルーカスはルブリス改に飛び移る。

 

「迎えに来た。返るぞ。後のことは全部俺に任せろ」

 

 ルーカスはセシルに手を出しだす。

 

「本当に勝手な人……」

 

 セシルも観念したのか諦めた表情をしながら差し出された手を掴む。

 ルーカスは自分の方にセシルを引き寄せる。

 セシルを抱きとめるとルブリス改の外装を蹴ってルブリスV2のコックピットに戻る。

 

「セシル。銀河の獅子の奴らはどうする? お前が望めば見逃してやらん事も無い」

「……私は妹さえ無事ならそれで良いわ」

 

 セシル自信、銀河の獅子のメンバーに思い入れはない。

 奴隷も同然に戦われているアーシアンには同情はするが、彼らも自分でその道を選んでいる以上は何かしようとも思わない。

 スペーシアンのメンバーにしてもセリカ同様にガンダムのパイロットとして特別待遇はされていたが、どこかアーシアンであることを見下されているという事には気が付いている。

 

「分かった。それならこっちも予定通りにやる」

 

 ルブリスV2のコックピットハッチを締めると輸送艦の方に向かっていく。

 

「聞こえるな。お前ら銀河の獅子の奴らだと? 今日のところはコイツを貰って勘弁してやる。よかったな。アーシアンのお陰で見逃して貰えて」

 

 ルーカスは輸送艦に接触通信を開いてそういう。

 

「お前らのボスに伝えろ。俺がお前らを一人残らず叩き潰すからアスティカシアで待つってな。ウチの学園じゃアーシアンでも挑まれた決闘は逃げないけど、俺にビビッて逃げても別に構わないけどな。そん時は学園の生徒総出で笑ってやるからよ。銀河の獅子は獅子なんてイキってるけど、アーシアンにすら劣る雑魚だってな!」

 

 ルーカスは一方的に告げると向こうの返事を待つことなく輸送艦から離れる。

 

「どういうつもり? あんなことを言えば」

「アイツらは完全に潰す。アイツらがいなくなればセシルの過去も全て消し去れるから新しくセシルの人生を始められるだろ」

「そんな簡単な話じゃ」

「簡単な話だよ。俺はセシルとこれからも一緒に生きる。それだけだ」

 

 過去を消すことでセシルは始めからルーカスの命を狙っていた刺客ではなくただの世話係だったという事にする。

 セシルの過去を消すというのは本人のいうように簡単な話ではない。

 だが、ルーカスにとっては難しいかどうかではなくやるかやらないかでしかない。

 戦場から離脱したルブリスV2は高速艇へと戻って来た。

 

「シズカ。フラン。全部終わった。ハッチを空けてくれ」

 

 ルーカスがそういうが高速艇の格納庫へのハッチが空くことはない。

 

「どうした?」

「定員オーバー」

 

 そこでルーカスはある事気が付いた。

 高速艇の守りに待機させていたレイニーのガンダムネメシスがどこにもいない。

 すでにガンダムネメシスは高速艇の中に入っており、高速艇にはMSは1機しか搭載出来ないため、ルブリスV2を入れるスペースがなかった。

 

「マジか。まぁ良い。外の固定しとけば良いか。俺とセシルはそっちに向かう」

「悪いな。ブリッジにもお前らの席はねぇんだわ」

「そんな訳ないだろ? 席がなくても……」

「御免なさい。私たちは貴方に優しくはないから、場所を譲ってあげられないの」

 

 高速艇からの通信が一方的に切られた。

 

「何なんだ?」

「オープンチャンネルでさっきの話が聞かれてたんじゃないの? 言いたい放題言っていたじゃない」

「……マジで?」

「貴方はいい加減女心をまじめに考えた方が良いわ。でないといつかは後ろから刺されて死ぬわよ」

 

 戦闘時の会話は高速艇の方でも聞こえていたようで、シズカとフランはへそを曲げてしまったようだ。

 

「……たく、面白くねぇな」

「まったくよ。今回の事で私らがどれだけ大変だったか分かってないわ」

 

 高速艇のブリッジではシズカとフランは不満そうにしている。

 ブリッジにはレイニーとマキアもいるが後2人増えたところで窮屈にはならない。

 ルーカスの余りにもな物言いに対する意趣返しとして、ルーカスを高速艇から締め出しただけだ。

 

「これは自業自得」

「狭いコックピットに二人切りとかいい感じになりそうだからたまには揺らしてやろうよ。本当は爆発して助しいけど私のルブリスは巻き込めないから」

「おっ良いね。少しはアタシらのありがたみってのを思い知ればいい」

「同感ね」

 

 ルーカスが何度か高速艇に通信を繋ごうとするが、向こうはだんまりを決め込んでいるようだ。

 

「諦めましょう。空気は2人分でも持つと思うわ」

「けど、狭いコックピットで何時間もだぜ?」

 

 ルブリスV2のコックピット内の空気は無駄に使わなければ学園まで持つことは可能だ。

 しかし、コックピット内で何時間も2人きりなのは精神的にも肉体的にもきつい。

 

「アイツらが収まるまで待つしかないか」

 

 すぐに危険になる事も無いため、ルーカスもひとまずは諦めた。

 

「せっかくゆっくりと話す時間が出来たんと考えるべきだな」

「そうね。私たちはお互いの事は何も知らなさすぎる」

 

 ルーカスとセシルはお互いに知らない事が多すぎる。

 この時間は互いを知るいい機会だと前向きにとらえる事にした。

 

「まずは本当の名前は?」

「セシルは施設で名付けて貰ったものだから、それはずっと使って来た名前だからこれからもセシルで構わないわ」

 

 今までセシルは様々な名前を使い分けて来た。

 今回は経歴の全ては嘘で固められていたが、名前だけは施設でつけられた名前を使っていた。

 今回に限り本名を使おうとした理由は自分でもよくわからなかったが、偶然にもあの時あった少年に近づくことが決まった時にせめて名前だけは嘘をつきたくなかったのかも知れない。

 どの道、本名を使うリスクはなかったため、問題なく本名を使う事が出来た。

 

「そっか」

「それりも私は貴方がデリング・レンブランの息子になっていたことの方が驚きよ。あの時、私は彼の暗殺の為にあそこにいたのだから。もっとも工作員のミスで貴方に銃を渡して計画は流れたんだけどね」

「マジか。俺ってあの親父の命の恩人じゃん」

 

 10年前のあの時から2人の間には不思議な縁があったのかも知れない。

 

「でも何でそうなったの?」

「セシルのあの時の言葉のお陰で俺は前を向くことが出来た。親父の息子になったのはただの偶然。セシルはあの時、何で俺を助けた?」

「なんでだろ? ただほっとけなかったのかも。妹……セリカに似ていたから」

「俺が?」

「セリカは寂しがり家で泣き虫だったから、良くああして慰めてたから」

 

 あの時は自分が何でああしたのか分からなかったが、今思えば妹と重ねていたのかも知れない。

 

「そっか。妹ってあのそっくりさんの事だろ?」

「そうよ。あの時は本当にびっくりしたわ。セリカとルーカスが一緒にいるのだから」

 

 以前にルーカスはセシルとよく似た生徒のセリカと会っていた。

 そのセリカがセシルが昔にも話していた妹だった。

 セシルにとっても2人が接触していたことが想定外の事だった。

 

「似てっかな? 何か俺に敵意を丸出しだったけど」

 

 ルーカスもあの時のセリカが自分に対して敵意を持っていたことは気づいていた。

 

「まぁ報告書を呼んでるからセリカはルーカスを嫌っているのよ」

「何て書いてんだよ」

「さぁね」

 

 セシルは濁すが報告書の内容自体は特段問題はないが、セリカにとってはルーカスは姉にいろいろと世話を焼いてもらっている憎き相手と言う認識は持っている。

 

「妹か……あの時、セシルは妹のなんでもできるって言っていたけど、俺もそのことはよくわかるようにはなったんだよ」 

「でしょうね」

 

 そんなことは今更言わなくてもセシルにはよくわかっている。

 

「割とマジな話だよ。取り合えず生きる為に親父に拾われたんだけどさ、そのあとにミオリネが生まれて、生まれたばかりのミオリネを抱いた時に思ったんだよ。コイツは俺が守らないとって。俺はそのために生まれたんだって思ったね」

 

 セシルは少し大げさに思えたが、実際にルーカスにとってはそれだけ衝撃的な事で、それは理屈ではなく本能でそう感じた。

 

「お前が妹を大事に思う事もよくわかる。だから、妹も奪う。多分、あのルブリスのパイロットなんだろ?」

「ええ。でも……」

 

 セシルは煮え切らない。

 確かにセリカの事は大切だ。

 自分が組織を抜けたとしても、セリカはガンダムのパイロットとして替えの利かない立場を得ている。

 小さい頃ならともかく、今は自分がついていなくても自分の意思で生きていける。

 ルーカスと共に生きるという事は決めている。

 その上でセリカも共にと言う事まで願うというのは散々ルーカスの命を脅かして来た立場からすれば願う事は出来ない。

 

「俺も妹を持つ兄だからよくわかる。妹は何を犠牲にしても優先すべき存在だ。兄妹は引き裂かれるべきじゃない。例え花婿であっても妹を連れて行くことは万死に値する。セシルだってそう思うだろ?」

 

 セシルは視線を逸らす。

 確かにセリカの事は大事だが、仮にセリカが恋人を連れてきたとして、素性を徹底的に調べて問題がなく社会的にも人間的にもセリカに相応しいと判断すれば喜んで2人を祝福するが、ルーカスにとっては違うらしい。

 

「まぁそれはおいてわがままを言っても良いと思う。セシルはどうしたい?」

「私は……あの子を取り戻したい。あの子には戦いとは関係のない普通の生活を送らせてあげたい」

「ん。分かった。組織は潰す。妹は取り戻す。それで全部丸く収まる」

 

 ひとまず今後のやる事は決まった。

 それからも2人は互いの事を話しながら高速艦はアスティカシアへと帰っていく。

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