セシルを取りもしたルーカス達は無事に学園まで戻って来た。
格納庫にルブリスV2を置くとコックピットからルーカスとセシルが出て来る。
あれから数時間、結局2人は高速艇に入れて貰えることが出来ずにここまで来た。
「くっそ。アイツら……」
機体が下りる2人をシズカやフランが出迎える。
裏切り行為が露呈した事でセシルが、それを糾弾した事でシズカの2人は少し視線を逸らしている。
「あの……ご」
「偶然だったんでしょ」
セシルが謝罪の言葉を口にしようとしたが、それをシズカが遮る。
「あれからいろいろと考えたけど偶然にしか思えなかったわ。ごめんなさい」
「偶然じゃ仕方がねぇな」
「仕方がない」
「よくわかんないけど、仕方がないんじゃないの?」
シズカの言葉にフランやレイニーも同調する。
今回の一件で蚊帳の外だったマキアも取り合えず同調している。
一方のセシルは状況が飲み込めていないようだ。
「全部、偶然だった。俺らの中に裏切り者はいなかった。そういう事だ」
「本当に……貴方たちは」
「それよかさ。ここまでの数時間で何やってたんだよ」
フランがルーカスとセシルの後ろから2人の首に腕を回して逃がさないようにする。
「何もねぇよ。お前らのせいで狭いし退屈だしで二人で他愛のない話をするしかなかったんだよ」
「マジかよ! せっかく気を利かせてやったのにキスの一つでもしてねぇのかよ。ヘタレか!」
「ヘタレね」
「ヘタレ」
「何それ。爆発しないかな」
「うるさいな! お前ら!」
あえて話題を何気ない普通の学生らしいやり取りとしている事はセシルには分かった。
皆が偶然だと言い張っているのも全て知った上での事だろう。
知った上でセシルを受け入れる為にそういう事にしている。
「みんな……ありがとう」
セシルは涙を浮かべならがそういう。
「おう。お帰り……てか、そんな青臭いやり取りしてる暇ないんだった。親父はどうしてる?」
「とっくにフロントから避難しているわよ」
学園にルーカス達が学園に戻って来た事を知り、学園での後始末をしていたエマもやってくる。
ルーカス達が出てすぐにフロントからデリングは護衛と共にグループの本社フロントへと帰って行っている。
「分かった。取り合えず俺は親父の方に連絡を入れるからエマは調べて欲しい事があるから調べておいてくれ。セシル達は少し待っててくれ」
調べものを頼まれたエマは嫌な予感しかしなかったが、仕方がなくルーカスに頼まれたことを調べに行く。
ルーカスはそのまま理事長室の自室に戻ると端末からデリングに通信を入れる。
「とまあこれが今回の結末ね」
ルーカスは簡潔に今回の流れを説明する。
「それがお前の始末と言う訳か」
「ああ。セシルは俺には必要だからこれからも手元に置いておく。もしも、親父が認めないというのであれば俺はミオリネを連れてセシルと駆け落ちでもしてやる」
デリングがどう判断するかは分からないが、ルーカスはそう言い切る。
相手がデリングであろうと今回ばかりは退く訳にはいかない。
それが認められないというのであれば今の立場を全て捨てるだけの覚悟もある。
「と本音の話はここまででここからは建前の話だ」
「言ってみろ」
「セシルはいろいろと多芸だから俺の側近としては役に立つし、表に出せない仕事を任せられるルートもいくつか持ってる。今回の事で俺に借りが出来たから簡単には裏切れない。そして、何よりアイツしか俺の世話を焼ける人材はいない」
ルーカスはセシルを手元に置いておく利点をいくつか挙げる。
実際のところセシルにはそれだけの技能がある事は事実だ。
もっとも、それらの技能の全てを必要だからと言って使わせるつもりはない。
これらは全て建前としての話だからだ。
「今後、彼女が裏切りグループに損失を与えた場合、お前はどう責任を取るつもりだ」
「そん時は俺がセシルを殺して俺も死ぬ。知ってるか? 今の学園じゃこういう責任の取り方が流行ってんだぜ。俺も何度かそれで取らされそうになった」
「……責任が取れるのであれば勝手ににしろ」
取り合えずは容認されてルーカスは一息つく。
「それとは別にいくつか頼みたい事がある」
ルーカスはこれからの事をデリングに説明する。
セシルの事は違いデリングも少し難しい表情をしている。
どこまでルーカスのいう事を真に受ければ良いのか判断に迷うところだ。
「それで勝算はあるのか?」
「無きゃやらないよ。それに勝たなきゃ手に入らないからな」
ルーカスも絶対に勝てるという自信があるわけではない。
それでもかなければセシルを本当の意味で手に入れる事は出来ない。
「良いだろう。手配はしておく。だが失敗は許されんぞ」
「上等だよ。始めから失敗すれば全部終わりなんだ」
ルーカスはそう言って通信を切る。
取り合えずはセシルの件の第一関門はクリアされた。
次の第二関門はルーカス一人でどうにか出来る問題ではない。
ルーカスは自信の頬を叩くと気合を入れる。
「良し。行くか」
ルーカスは皆を待たせているリビングへと向かう。
そこにはセシル達が待機していて調べものをしていたエマも調べものを終えて来ていた。
「さてと俺はあいつら、銀河の獅子とやらに喧嘩を売って来た」
「まぁ通信は筒抜けだったしな」
「……やっぱり面倒ごとを……まさか!」
エマはあの場にいなかったが、頼まれた調べものとすぐに結びついてしまった。
「セシル。分かる範囲で向こうの戦力は?」
「船が大小合わせて20隻程度。武装している艦はほとんどないわ。機動兵器に関しては武装したモビルクラフトも含めると100機程度ね」
「ずいぶんと金のある組織なんだな」
ルーカスも事前に情報はある程度は持っていたが、想定以上に銀河の獅子の規模が大きかった。
「とは言っても最新の機種はほとんどないわ。ガンダムタイプは私とセリカの2機だけだから、今は1機だけね」
「増えている可能性は?」
「分からないわ。でもどうして?」
ガンダムは1機いるだけでも大きな戦力となりえる。
数を把握する上でルーカスが増えている可能性を考えている事にセシルは首をかしげる。
今の世の中、ガンダムを保有している組織はほとんどなく、そう簡単に数を増やすことは出来ない。
「気になっている事があってな。そもそも連中は何でルブリスを使ってるんだ?」
「どういう事だよ? 古いタイプでも性能は普通のモビルスーツを圧倒出来るんだ。使えるなら使うだろ?」
「普通ならそうだ。アンチドートさえ使われなければな。でもアイツらはスペーシアン至上主義だぜ? そんな奴らがアーシアンの作ったガンダムを使うとは思えないんだよ」
ルーカスの中で一つの疑問があった。
それは銀河の獅子がルブリスを所有しているという事だ。
機体そのものは量産試作機で10年前に製造された物だが、改修すれば十分に戦力とはなる。
フランのいうように性能が良ければ古い機体だろうと使う事はあり得る。
しかし、銀河の獅子はスペーシアン至上主義を唱える反アーシアン団体だ。
そんな銀河の獅子がアーシアンをパイロットとして使い捨ての道具として使う事はってもルブリスを作ったオックス・アース社は地球資本の会社でルブリスはアーシアンのガンダムだ。
10年前のヴァナディース襲撃はデリングがガンダムのデータストームの危険性を理由に指示を出したが、その背景にはアーシアンが強力な兵器を開発することに対する反発もあり、デリングの行動が正当化された節がある。
反アーシアン団体の銀河の獅子が性能が良いからと言ってルブリスを使うという事はアーシアンがそれだけのモビルスーツを作れると認めてしまうようなものだ。
「ああ。そういえばまだ話していなかったわね。私とセリカは元々は銀河の獅子のメンバーだという訳ではなかったの」
セシル自身も銀河の獅子の構成員とは距離を取っていたこともあって、余り意識をしていた訳ではないが、セシルとセリカは銀河の獅子の構成員という訳ではなかった。
「私とセリカは物心ついた時から施設で育てられていて、その組織は子供をどこからか引き取っては訓練をさせて工作員としていろいろな組織に派遣させていたの。私たちはそこから銀河の獅子に派遣されたのよ」
セシル自身も詳しい事までは知らないが、自分たちの育った施設はそういうところだ。
「元々は工作員を派遣するだけだったけど10年くらい前からあのタイプのモビルスーツを大量に用意して私たちのような生まれつきデータストーム耐性の強い子供をガンダム共々派遣させるようになったのよ」
「10年前? ヴァナディース事変と同じ頃か……」
「多分、それよりもも後の事だと思う」
セシル自身も当時は幼かった事もあり、細かい理由は分からないが、施設では大量の量産試作タイプのルブリスを手に入れている。
それはヴァナディース事変の後の辺りの話らしい。
「オックスアースから大量に買えば相当な額になるな。それだけの金があれば評議会が動かないように買収することだってできたはずだ。そもそもそれだけ買えば足もつく……実機じゃなくてデータを手に入れてたか開発関係者を抱き込んで自前で作ったのか? けどそれだけの製造工場があれば評議会や議会連合に嗅ぎつけられる。待てよ。セシルの両親役は議会連合の議員で実在はしてる。つまりは議会連合ともパイプを持っていてある程度は融通が利くって事なのか?」
ルーカスはブツブツと情報を繋げていく。
セシルの偽の素性の事を踏まえるとセシルとセリカと派遣した組織は議会連合とも何らかの繋がりを持っている可能性が出て来る。
「おい。ルカ」
「ああ。悪い。取り合えずはそっちは今は良いか」
背後関係は分からない事が多いが、銀河の獅子がアーシアンのガンダムを使っている理由は分かった。
セシルとセリカが派遣されて来たというのであれば、セシルがここにいる事を裏切りと捉えればそんな人材を派遣してきた相手に増援を頼むと考えにくく、逆に囚われたと捉えれば派遣されてきた人材を敵に捕らえられて尚増援を頼むことも考えにくい。
どちらにしても向こうにガンダムが増える可能性は低いとみて良い。
「エマ。学園のモビルスーツの数は?」
「大体200ってところだったわ」
「向こうの倍か……」
ルーカスはエマに頼んでいたのは現在のアスティカシアにあるモビルスーツの総数の把握だった。
その結果としては約200機と銀河の獅子の倍の数がある事になる。
「その中で実戦で戦力として数えれるのは50機が良いところね」
「……半分かぁ」
数だけで言えば相手の倍だったが、アスティカシアで運用されているモビルスーツの全てが実戦で戦力となるかは別の話だ。
それらを踏まえると実戦で使えそうなモビルスーツの数は50機程度で銀河の獅子の半分だ。
「御三家以外の寮だとブリオンくらいだもんな。他は作業用や技術を売り込むための機体だからな」
べネリットグループ製で戦闘用は重装甲、高出力はジェターク社、高機動空戦用はペイル社、汎用機はグラスレー社のモビルスーツと御三家はそれぞれ得意分野が決まっている。
ブリオン社は訓練用としてデミトレーナーをアスティカシア等に降ろしている。
他の会社のモビルスーツは実戦よりも作業等に重きを置くか、モビルスーツ自体を売るのではなくモビルスーツに使われている技術を売る事を目的にしている事が多い。
それ故にアスティカシアで使われているモビルスーツでも実戦で使う事を想定して開発したモビルスーツの数は少ない。
「大半はデミトレーナーなんだろ? 武装させればそれなりに使えるだろ?」
「新しい奴はね。けど、古い奴だと期待は出来ないわ。それを込みで50機って事よ」
「ルカ。カテドラルはどう動く? まさか学生だけでやり合う気じゃねぇだろうな」
学園の戦力を把握する以前にカテドラルがどう動くかも勝敗に大きく関わってくる。
いくら学園の生徒とは言え実戦は素人でしかない
「親父に頼んでカテドラルの定期巡回のコースを変更させてる。向こうが仕掛けやすいようにね。だからカテドラルの救援は考えるな。俺たちだけでやるんだ」
「は? 正気かよ」
「正気だよ。挑発しといたとは言え、連中だって馬鹿じゃない。学園をカテドラルの艦隊で守らせた状況で仕掛けて来る訳がないだろ。だからカテドラルは学園から遠ざけとくんだよ」
ルーカスはすでにデリングに手は打って貰っている。
学園をカテドラルが守っている事を知られれば向こうも仕掛けてはこない事は目に見えている。
「ルカ。アタシ等はセシルの為にアイツらをぶっ潰すことには賛成だし腹も括ってんだ。けど、他の連中は別だろ。命を賭ける覚悟も奪う覚悟もねぇ。ただの学生なんだぞ」
「フラン、実戦の経験がないだけで、お前が思ってるほどアイツらも弱くはないさ。それに喧嘩を売ったのは勢いだけど勝算はある。俺を信じて見ろ」
「わーったよ」
少なくともルーカスを信じて裏目に出たいう事はなかった。
そういわれてしまえば信じて退くしかない。
「さて……最大の問題は向こうがいつ仕掛けて来るかって事だ。流石に来ないて事はないと思いたい。あそこまで挑発したのに来ないとか獅子じゃなくてチキンを名乗った方が良いくらいだ」
「私も直接会った事はないけど、リーダーは相当短気だと思う。過去の作戦行動は決まってからの行動が早く碌に計画を立てていなくてもモビルスーツでごり押しさせてる事も何度もあったわ。多分、1か月以内には仕掛けて来ると考えて良いと思う」
セシル自身、銀河の獅子のリーダーとの面識はないが、過去の作戦から性格を想像する。
リーダーは正体を露見させるほど愚かではないが、細かい事を考えるよりも力押しを好む。
ルーカスの挑発も確実に効果を発揮して1月以内には行動を起こすと考えられる。
「まぁ連中の動きに関しては手は打ってある動き次第連絡が来るようになってる。筈だ」
「その言い方からするとルカは向こうのリーダーについても知っている訳?」
「まぁね。リーダーはともかくね。調べたのは俺じゃなくて、ジェターク社。校外実習の前にあったろ? レオ・コーポレーションのレグルスが強奪されった事件」
「そういえば」
余りニュースを見る機会のないフランは何となくしか知らないが、ルーカスが校外実習で暇を持て余していた時にそんなニュースを見ていたことをセシルは思い出す。
「あれであらぬ疑いをかけられたジェターク社のオッサンがいろいろと調べたら、あの事件は狂言っぽかったみたい」
奪取されて間もないのにも関わらずレグルスを実戦に投入してきたこともその仮説を後押ししている。
「つまりレオ・コーポレーションは銀河の獅子を支援している可能性が高いって訳。あそこの社長は前々からアーシアンに対する差別発言も多かったしな」
アーシアンに対する差別は珍しくはないため、問題視はされていないが公の場ですらアーシアンを露骨に見下す、レオ・コーポレーションの社長が反アーシアン団体を裏で支援していたとしても不思議ではない。
「ジェターク社もレオ・コーポレーションとは折り合いが悪かったし、この際、叩き潰すために決定的な証拠を掴むために監視はしてるだろうから親父経由で何か大きな動きがあれば知らせるように頼んどいた」
今回の強奪事件以前からレオ・コーポレーションとジェターク社の関係は険悪なのは有名な話だ。
どちらも得意とするモビルスーツの分野も似ており、ジェターク社は獅子を象ったエンブレムを使っている等、双方に似たり寄ったりの部分があり互いの社長が攻撃的な性格をしている事から直接的にぶつかり合う事はなくても互いに潰せる機会を待っていた。
レオ・コーポレーションが銀河の獅子に支援をしているのであれば今回の件で動く時に何らかの支援をするために動く可能性が高い。
その動きから襲撃の時期もある程度は予想出来る。
「後はどれだけ戦力を集める事が出来るかだが、やれるだけやるしかないか」
「それまでにパイロットも少しでも鍛えとかないとな」
襲撃がある事はほぼ確定事項だ。
後はそれまでにいかに準備を整えるかが勝敗を分ける事になる。
ルーカス達は来るべく銀河の獅子の攻撃に備えて動き始める。