機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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2話

 編入初日の決闘の翌朝、ルーカスはセシルの作った朝食を食べて一息つく。

 食堂は朝からやっているが、ルーカスは学園ではセシルが作るか安全を確認したものしか口にしない。

 立場的にいつ命を狙われてもおかしくはない事もあるが、それ以上に食べ物の好き嫌いが激しく嫌いな食べ物はどんなにセシルに食べるように言ってもルーカスは嫌いな食べ物は絶対に食べる事はない。

 朝食を済ませるとセシルを連れて昨日手に入れた地球寮へと向かう。

 

「何か歓迎はされてないみたいだな」

「ごめん。 ルーカス君にいきなり何かをするって事はないと思うけど」

「事情は説明したんだけどな。流石にすぐには受け入れられないんだよ」

 

 昨日は見かけなかったが、地球寮にも3学年で10数人が在籍している。

 コウタロウやフレットが昨日の決闘の事を皆に説明したが、その大半はルーカスを受け入れるのに反対していた。

 ルーカスがアーシアンやスペーシアンであることを気にしないと言っても自分たちを下に見ている事は事実でコウタロウのように接することは出来ない。

 

「あっそ。まぁ良いけど」

 

 ルーカスも敵意を向けられても気にした様子を見せない。

 そのまま、寮に備え付けられているブリーフィングルームに案内された。

 ブリーフィングルームと言っても大それた設備があるわけではなく、大きなモニターに机と椅子があるだけだ。

 

「さてと、昨日の決闘の反響は?」

「すでに10件ほど決闘の申請が出てますね」

 

 セシルが端末を操作してルーカスに対して決闘の申し込みがある事を確認する。

 決闘は学園内なら観戦することは可能で、昨日の決闘を見た生徒たちから決闘の申請がすでに10件も出ていた。

 

「驚きだな。そんな馬鹿が10人もいるとはな。セシルが相手をしておけ」

「了解です」

 

 ルーカスは心底呆れた様子でセシルに決闘を丸投げする。

 

「まぁ勝てば総帥の座が手に入るんだ。ダメ元で挑んでくる生徒もいるんだろ」

「そういえばここにも馬鹿がいたんだな」

「ねぇ。ルーカス君、一つ確認したいんだけど、昨日の決闘で君が賭けた事なんだけど」

 

 コウタロウに哀れんだ視線を向けると先ほどから何かを考えていたフレットが口を開く。

 

「君は決闘に自分がいずれ継ぐであろうグループの全権を賭けるって言ったよね。でもそれって」

 

 フレットは昨日の決闘の時にルーカスが自身の賭けるものを告げた時に気になっていたことがあった。

 

「気づいてたんだ。コウタロウとは違って寮長だけあって馬鹿って訳じゃないんだ。そうだよ。あの決闘で勝ったところで総帥の座なんて手に入らない」

「どういう事なんだよ。ルーカスはそれを賭けたんだろ?」

「違うんだよ。コウ、彼が賭けたのはいずれ自分が継ぐであろうグループの全権であって、総帥の座ではないんだよ」

 

 コウタロウはその違いにピンとはこない。

 

「俺がもし学生レベルの決闘で負ける事があれば親父は何のためらいもなく、俺のとの縁を切るだろう。そうなれば俺が継ぐはずったグループの全権なんてものは存在しなくなる。つまりは決闘の結果は変わらないけど、差し出した物には何の価値もなくなるって事だ。なんせ、親父に縁を切られた時点で俺には継ぐものなんてないんだからな」

 

 決闘において賭けるものは退学や謝罪と言ったその場で完結できるような不変の物以外に時間の経過で価値が変わりかねない可変の物がある。

 その場合はどの時点でなのかをきちんと決めておかなければ後で初めに想定していたものではなくなったところで文句は言えない。

  今回の事で言えばルーカスが現時点で継ぐことが出来るものとしていなければ意味はなかった。

 

「せっこ! 詐欺じゃん!」

「人聞きの悪いな。この程度の事が気がつかない方が馬鹿なんだよ。それに俺は人生を賭けてんだ文句を言われる筋合いはないね」

 

 やり方はともかく、ルーカス自身は負けた時点でデリングと縁が切られるという事は今の立場を全て失うという事になる。

 後から再び養子となったところで決闘の結果であるルーカスがいずれ継ぐはずの権限が復活するため、都合よく後から養子となって今の地位を取り戻すことはあり得ない。

  詐欺まがいのやり方だが、ルーカスは自身の人生を決闘に賭けたともいえる。

 

「でだ、セシル。今決闘を申し込んできた奴らは全員退学を条件にして学園から消せ。こんな子供騙しに引っかかって飛びついてくるような奴な馬鹿はウチのグループには必要ない」

「了解です」

 

  昨日の今日で決闘を挑んできた生徒の思惑としては万が一にも決闘に勝てれば総帥の座が手に入ると考えているのだろう。

 だが、そんな連中は卒業後にベネデットグループ系列の企業に就職したところで目先の利益に囚われて上手い儲け話に飛びつき最悪グループに損失を与えかねない。

 

「なぁ、ルーカス、俺もその馬鹿に入るんだよな」

 

 フレットは始めは乗り気ではなかったが、それをコウタロウが押し切った。

 コウタロウ自身は決闘での勝ち負けのメリットとデメリットを考えての事だったが、そもそも勝ち負け以前に決闘そのもの問題だった。

 

「そうだったんだけどな。昨日の決闘の内容で考えを変えた。コウタロウは馬鹿だが使える馬鹿だ」

「それって素直に喜んでも良いのかなぁ」

 

 馬鹿にされているのか認められたのか複雑だが、とりあえずは退学させられる心配はないようだ。

 セシルとの決闘でコウタロウは自身の有能性を認めさせることは出来た。

 

「さてと。それでだ。俺がこの学園に来た理由をお前たちにも教えておく」

 

 ルーカスがこの学園に来たのは単に勉強するためという訳ではないという事は何となく察することが出来るが、いざ聞くとなると聞いてしまえば後戻りが出来なくなるという怖さもある。

 

「端的に言えば親父の命令で魔女狩りに来た」

「魔女狩り……」

 

 魔女とはガンダムのパイロットやGUNDフォーマットの技術者等に対して使われることのある通称のことだ。

 自分から名乗る事もあれば畏怖と嫌悪を込めて呼ばれることもある。

 

「この学園には現在3機のガンダムが存在してる事は知ってるよな? 親父がヴァナディース事変の時にガンダムを否定してから10年、未だに全てのガンダムを排除するどころかグループ傘下のこの学園にも残っている有様だ。だから親父は俺を使って学園のルールを使ってガンダムを一掃するために来たってわけだ」

 

 現在この学園にはペイル寮に2機、ジェターク寮に1機のガンダムが存在している。

 それらを排除するためにかつてのヴァナデースの時のやり方では後々にグループ内に遺恨が残り、内部分裂する危険性がある。

 そこでデリングが学園のルールである決闘の制度を使ってガンダムを排除するためにルーカスを送り込んだという訳だ。

 

「けど、昨日俺が決闘したMSもガンダムなんだろ?」

  

 ガンダムの排除の為に学園に来たのであれば更なるガンダムを持ち込んだというのもおかしな話ではある。

 

「やり方までは細かく命令はされてないからな。なんか知らないけど、親父の奴は俺がガンダムを使う分にはそこまでうるさくは言わないから、遠慮なくガンダムを使わせて貰う事にしてる」

 

 ルーカスもどういう事かは分からないが、ルーカスがガンダムを運用することに関してはデリングは意外なほどに強硬的な姿勢はとっていない。

 

「まぁサリウスの爺さんは滅茶苦茶切れてるだろうけどな。今回の事で支援を断ってガンダムを使ったんだからな」

 

 学園の編入する際に現グラスレー社CEOであるサリウス・ゼネリから支援の申し出があったが、ルーカスは断っている。

 元々、デリング以上にガンダムを嫌っており学園のガンダムの排除は賛同しているが、同時にルーカスがガンダムを所有している事にも過去に何度も廃棄するように文句を入れている。

 

「期限は魔女が学園を卒業するまでの1年間で何とかしろって事だ。出来かねれば俺の立場はなくなる」

 

 ルーカスはグループの跡取りとされているが、その立場が安泰という訳ではない。

 常にデリングにとって有益だと証明続けなければいけない。

 

「だから詐欺まがいなやり方で餌を巻いていたのか」

「まさか、こんな事で御三家が引っかかるなんて思ってないよ。あれは馬鹿の炙り出しと後は目立つじゃん? 決闘に無茶苦茶な物をババン!と賭けて戦うとか、この学園じゃ俺にしかできない事だからな」

「おっおう」

 

 ただそれだけの事に踊らされて退学を賭けてさせられる生徒に少なからず同情せざる負えない。

 

「まぁこれに関しては1年もあるんだいずれは出来るだろう。俺としてはこっちが本命。今、この学園ではいろいろと揉め事があるんだろ? そのことを詳しく聞きたい」

「揉め事……多寮連合とのことかな?」

「たぶんそれだ」

 

 元より決闘の制度をはじめとしていろいろと火種の多いアスティカシア高等専門学園だが、今は学外にも揉め事の噂が広まっていてルーカスはそれを聞きつけた。

 

「この学園には御三家をはじめとしたいろんな寮があるんだけど、その中でブリオン寮を中心としていくつかの寮が手を組んで御三家の寮を蹴落とそうって話があるんだよ。それが多寮連合」

 

 ブリオン寮は学園で主に使用されているMSデミトレーナーを開発したブリオン社がバックにいる寮で御三家ほどではないにしても学園内で他の寮と共に御三家の寮を蹴落とそうという動きがあるらしい。

 

 「成程ね。それで御三家の動きは?」

 「ジェターク寮とは何度も決闘があって一進一退ってところかな」

 「ペイル寮はたまに決闘することはあるけど、グラスレー寮は静観の構えで多寮連合もホルダー相手には簡単には手は出せないみたいだな」

 「それでここはどの陣営についてるんだ?」

 「俺らは弱小過ぎて御三家からは眼中にないし、多寮連合からは見下されて戦力としても敵としても見られてない」

 

  多寮連合の目的はあくまでも御三家を蹴落とすことで地球寮の事は当てにも敵視もされてない。

 

「そいつは好都合だな。俺らは新勢力として多連合と御三家を倒して学園の頂点に立つ」

「頂点ってルーカス君、ホルダーの資格でも取る気なのかい?」

「ホルダーはあくまでも学園が個人に与えられる称号だろ? そんな物に興味はねぇよ。全ての寮を傘下に入れて学園の頂点に立つ。その過程でガンダムとも戦う事になるからついでに魔女狩りも出来るし、面白そうな祭りに乗らない手はないだろ。そんで学園を統一することで俺の名は伝説となりアスティカシアに刻まれる」

 

  ルーカスとは昨日からの付き合いだがある程度分かってきたことがある。

  一般的な常識よりも自分のやりたい事を優先するタイプの人間だという事だ。

 決闘の成績は自分たちの将来に直結する。

 だからこそ多寮連合はグループ上位の御三家を蹴落とすことでグループでの立場を上げようとして、御三家もまた自分たちの地位を守ろうとしているが、ルーカスにとってはただの祭りでただ自分が目立ち名を学園に刻むというだけ関わってくるという

 

「無茶苦茶な話だが、俺は乗ったぜ。これで勝てば散々馬鹿にしてきた奴らを見返せる」

  

 コウタロウはルーカスの話には乗り気のようだ。

 

 「わかったよ。僕も可能な限り協力する」

 

 フレットも乗り気ではないが、下手に断ったところで意味がないと悟っている。

 ならば自分に出来る限りの協力することでこの場を乗り切ろうとする。

 立場の低い地球寮の寮長として他の寮に目を付けられないようにここまでやってきたやり方である流れには逆らわないのが一番だ。

 

「で、まずはどこから攻めるんだ? やっぱホルダーの居るグラスレーからか?」

「そうしたいんだけど、あそこは面倒だからな」

 

 ルーカスならいきなり学園最強のホルダーを取りに行くかと思われたが以外と渋っている。

 

「普通に戦えば負ける事はないんだけど、多分さ。持ってると思うんだよね。グレスレーだしアンチドートをさ」

「確か対ドローン用の装備だったよね。今だと正規軍でもほとんど使われないって言いたけど」

 

 かつてドローン戦争に終止符を打ったアンチドートだが、ガンダムに対しても有効的とされている。

 それにより強力なドローン兵器やガンダムは実戦ではほとんど使われることもなくなった。

 そのため、アンチドートの必要性も低くなり、軍で使われることもなくなってきている。

 

「まぁな。けどあの爺さんのガンダム嫌いは筋金入りだし。俺の魔女狩りの支援として送ってくるつもりだったと思うんだよね」

 

 ここに来る前にサリウスからの支援として対ガンダム用の切り札を送ると言われていた。

 それがアンチドートだとすればグラスレーは未だにアンチドートをすぐにでも使えるようにしているのだろう。

 実戦ではほとんど使われなくなったガンダムだが、この学園には3機のガンダムが存在している。

  ならばアンチドートも使えるように用意してあると考えた方が良い。

  アンチドートを使われればルブリスもガンビットが封じられて機体とパイロットとのリンクも使えない。

  

「向こうが仕掛けて来るんなら受けて立つけど、しばらくは静観して他の寮の動きを見る事にする。せっかく学校に来てるんだ。いろいろと楽しみたいしな」

 

 ルーカスは今まで一度も学校に通った事がない。

 今回は魔女狩りとしてきたが、1年の期限を最大限に活用するつもりだ。

 

 「どうせこっちが動かなくてもどこかの寮は動いてくるんだ。精々、それまで平和な学園生活を謳歌させて貰うとするさ」

 

 そのころ、御三家の一つであるジェターク寮では寮長フラン・ベルカは朝の日課の筋トレを行っていた。

 御三家の中でも武闘派の集まるジェターク寮を己の腕っぷしでまとめ上げている女傑だ。

 パイロットとしての実力のみならず180センチの長身と鍛え上げられた体格良さ、その迫力から気の弱い生徒なら決して関わり合いたくはない相手とされている。

 

「姉御! ボスから連絡が!」

「んだよ。朝っぱらから」

 

 端末を持ってきた生徒をフランは睨みつける。

 生徒はビビりながらもフランに端末を渡してそそくさとトレーニングルームから逃げていく。

 

「なんすか?」

「デリングのバカ息子がそっちに行ったのは知ってるな」

 

 通信の相手は現ジェターク社CEOであるヴィム・ジェタークだった。

 フランはその顔を見て思わず舌打ちをしそうになるが流石に我慢する。

 

「見たいっすね」

「そいつをすぐにでも潰せ! どんな手を使ってもだ!」

「何でまた? いきなり決闘するかと思ったら、てめぇの女に代わってもらうようなチキン野郎じゃないすか」

 

 フランも昨日の決闘を見ていた。

 編入早々に決闘をするルーカスに興味を持ったが、始まってみると自分では戦わずにセシルを戦わせたことで落胆し憤りすら覚えたほどだ。

 

 「お前の意見など聞いていない! とにかく完膚なきまでに叩き潰せ。追加のMSもすでに送ってある!」

 「まぁやれっていうならやりますけどね。良いんすか? アタシは手加減なんてできないっすよ。総帥のお坊ちゃんが編入早々不登校になっても知りませんよ」

 「構わん! だが分かってるな! 失敗は許さんぞ! お前のお前の母親にどれだけの金をつぎ込んだと思って……」

 

 ヴィムの口から母親に名が出た瞬間にフランは持っていた端末を投げてしまった。

  端末はトレーニング機器にぶつかるとモニターが壊れてしまう。

 

「あの女の事を持ち出してくんなよな。朝から気分ワリィ」

 

 フランにとっては母親の事など思い出したくもない事だった。

 それを出されて機嫌を悪くしたフランはそれを払しょくするかのように筋トレを再開する。

 

 「ルーカスと言ったな。速攻でぶちのめしてやるから待ってやがれ」

 

 ルーカスにとって平和な学園生活が訪れる事は無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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