機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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29話

レオ・コーポレーションの本社フロントの社長室でルーカスからの宣戦布告の伝言を預かったシドーとレドが報告していた。

 レオ・コーポレーションの社長であるレオン・ヴィルキスこそが銀河の獅子を率いているリーダーだった。

 レオンは屈強な肉体に獣染みた眼光と会社を経営している社長と言うよりは軍隊を率いている指揮官の方が似合っている。

 

「デリングのガキがそんなことを言っていたのか!」

 

 レオンは机を破壊する勢いで拳を振り下ろす。

 その迫力に報告をする2人もビクリとする。

 

「しゃ、社長。それでどうします?」

「決まってるだろう! アスティカシアに全戦力を投入して叩き潰す!」

 

 レオンは一切考える事も無くそう決断する。

 

「しかし、そうなれば議会連合もカテドラルも黙ってませんよ」

「議会連合は俺が話をつける! デリングの犬のカテドラルなんぞアスティカシアごと叩き潰してやればいい!」

 

 ルーカスはカテドラルに守らせると向こうが仕掛けない事を懸念していたが、レオンは始めからカテドラルが守りについていようともそれごと粉砕するつもりだった。

 

「前からデリングの奴は気に入らなかったんだ。アーシアンのゴミどもを使いおって! 良い機会だ。アスティカシアで奴のガキを始末した後はその勢いでべネリットグループも潰してやる!」

 

 すでにレオンの中ではアスティカシアを落とした後の算段まで付いているようだ。

 レオンもデリング同様に軍人上がりだった。

 同じような経歴を持ちながらも1企業のトップに過ぎないレオンといくつもの大企業を抱えるべネリットグループの総裁であるデリングの間には大きな差があり以前から目障りだった。

 特に自身がゴミと見下し使い捨てにしているアーシアンを有効活用しているところも気に入らない。

 これを機にデリングの息子であるルーカスを殺した上でべネリットグループそのものを叩き潰すつもりらしい。

 

「すぐに俺のレグルスを用意しろ! レグルスとレオルも在庫を全部使っても構わん!」

「……了解です」

 

 ルーカスの挑発は想像以上に効いているようでレオンが自ら出向くらしい。

 その上でレオ・コーポレーションの主力商品であるレオルまで投入するつもりだ。

 今までレグルスは強奪を偽装してシドーとレドの2機を投入していたが、そのあとに製造された機体も投入するらしい。

 そうなれば銀河の獅子にレオ・コーポレーションが支援している事は表沙汰になるが、今のレオンにはそんなことよりもルーカスとべネリットグループを潰すことの方が重要な事のようだ。

 こうなったレオンには何を言っても聞かないため、2人も黙って指示に従うしかなかった。

 

 

 

 

 レオ・コーポレーションでのやり取りの事等知るよしも無かったルーカスは極秘裏に学園の戦力増強を図っていた。

 表立っては増援は呼べないため、普段の定期船にモビルスーツを運んでもらうしかない。

 

「エマ。おじさんから?」

「ええ。ジークフリートを何機か送って来て貰ったわ。それにこんな物まで」

「これって……完成してたんだ」

 

 フロントの港の搬入口でエマの実家から送られて来たコンテナのリストをルーカスに渡す。

 

「呆れたわ。ガンダムを作っていたなんて。会社の経営が危ないってのにどこにそんなお金があったのよ」

 

 エマの実家であるスレイド・ウェポンズは独自にガンダムを開発していたようでその部品がジークフリートと共に送られて来たようで、会社の経営が傾いている状況で表向きは禁止されつつあるガンダムを作っていたことにエマは呆れている。

 

「ヴァルキリアだろ? 新規に作るんじゃなくてジークフリートの強化装備って体で開発してたんだったな」

「……知ってたの?」

 

 スレイド・ウェポンズ製のガンダム、ガンダムヴァルキリアはペイル社やジェターク社のガンダムとは違い新規で開発された物ではなく、ジークフリートの強化装備と言う事になっている。

 その言い方からルーカスは存在を知っていたようにも聞こえる。

 

「まぁ……で、使うのか?」

「今は少しでも戦力が必要でしょ。私が使う。てか、私くらいしか使えないでしょ。何なのこのスペック」

「元々の技術力はあったからな」

 

 リストとは別のデータにガンダムヴァルキリアの基本スペックの情報もあったが、その性能は現存するどのガンダムをも遥かに凌駕する。

 スレイド・ウェポンズ自体は過去のペルセウスの一件で余り開発に力を入れ辛い状態になっていたが、会社の技術者の能力を結集させればこれだけのモビルスーツを作る事も出来たのだ。

 もっとも、これだけのモビルスーツを開発するためには莫大な開発費と時間が必要で、開発費はスレイド・ウェポンズだけでどうにか出来るレベルではない。

 今のスレイド・ウェポンズにここまでの資金を出せる人物も限られてくる。

 

「どういうつもり?」

「腐らせるにはもったいないって思っただけだよ。まさか間に合うとは思ってなかったけどな」

 

 ガンダムヴァルキュリアの開発費をルーカスが出している事はほぼ確定だ。

 ルーカス自身もこんな状況になって、完成が間に合うとは思ってはいなかった。

 

「今はありがたく使わせて貰えば良い。それとジェターク社の方からデスルターが10機送られて来る事になった」

「そんなに? どうやって説得したの? それとも何か弱みでも握っているの?」

「いや……本当は好きなだけ用意するって言って来たけど、すぐに持ってこれるのが10機だったんだよ。ヴィムのおっさんがなんか熱くなっててさ。絶対に完膚なきまでに叩き潰せってさ」

 

 ジェターク社からはデスルターが10機送られてくる手筈が整っている。

 ルーカスもフランの母親の事をネタに何機かモビルスーツを送ってもらうつもりだったが、ジェターク社の社長であるヴィムが長年気に入らなかったレオ・コーポレーションが支援している銀河の獅子との全面対決を前に銀河の獅子を潰してレオ・コーポレーションに打撃を与えられるならと全面的に協力すると言い出した。

 その勢いは自らがアスティカシアまで乗り込んで来そうでルーカスもすぐに用意できるデスルターを10機だけで十分だと断った。

 ただでさえ戦力が足りない中でジェターク社の新型機であるデスルターが10機も増える事は非常にありがたい。

 

「ルーカス」

「セシルか。どうした?」

「ジェターク社の方から新たな情報が」

 

 セシルが持って来た端末を渡し、エマと共にのぞき込む。

 

「やっぱ、レオ・コーポレーションは黒か」

「確認できる限りではレオ・コーポレーション所有の輸送艦が銀河の獅子に合流しているわ」

「支援どころじゃないわね」

 

 ジェターク社経由の情報ではレオ・コーポレーションの動きは明らかに銀河の獅子を支援するどころの話ではない。

 現在所有している輸送艦やMSが銀河の獅子と合流し艦隊を形成している。

 

「それと議会連合の艦隊も動いているという情報もあるわ」

「議会連合が? 俺らを助ける為に動いてくれるって訳じゃなさそうだな」

 

 銀河の獅子にセシルとセリカを派遣した組織は議会連合とパイプを持っていると考えられる。

 本来の議会連合の役割はフロント間の問題を調停することにあるが、今動いている艦隊はこの揉め事を調停するために動いている訳ではないだろう。

 組織経由で銀河の獅子の援護、場合によっては適当な理由をつけて銀河の獅子に味方する可能性もあり得る。

 

「取り合えず全部敵って事だな」

 

 今の状況で味方がべネリットグループしかいないと考えた方が良い。

 

「セシル。マキアにガンダム全機の実戦仕様と整備を急がせろ。エマもヴァルキリアの用意を頼む。時間は余り残されてないからな」

 

 ルーカスの指示に二人は頷く。

 すでに銀河の獅子は動き始めている。

 残された時間は余り残されていない。

 

 

 

 アスティカシアに危機が迫っている事等生徒や教員は知る事も無くいつもの学園風景が広がっている。

 その裏ではジェターク社からデスルターが搬入され、エマのジークフリートをガンダムへと改修作業が進められている。

 表向きは普段の学園生活が続いているが、ここ数日で学園の空気が重くなりつつあることを生徒たちは漠然と感じていた。

 

「なぁシズカ。最近のフランさんって少し気が立ってないか?」

「そう? いつも通りの脳筋ぷりじゃない?」

 

 寮のブリーフィングルームで授業出された課題をしていたコウタロウがふと同じく課題をしているシズカに聞いた。

 普段から訓練の時は鬼のように厳しいフランだったが、ここ数日はいつも以上に気が立っているようにコウタロウは感じた。

 事情を知っているシズカはそんなことを表に出すことなく答える。

 情報収集や戦力の確保、機体の調整等来る決戦に備えてルーカス達は裏で動いているが、シズカが出来る事はその時まで体調を万全にすることくらいだ。

 

「そうかなぁ」

「そうよ。それ間違ってるわ」

「うげぇ」

 

 コウタロウは指摘のあったところを見直す。

 間違いを見つけて修正しているとフロント内のスピーカーからアナウンスが入る前のアラームが鳴る。

 

「何だ?」

「あーあーテステス。これ本当にフロント内に流れてんの?」

「ルーカス? 何やってんだアイツ」

 

 スピーカーからはルーカスの気の抜けた声が聞こえて来る。

 コウタロウはきょとんとしてまたルーカスが何がを始めたのだと思っているが、事情を知っているシズカは目を細める。

 

「全生徒及び教職員、並びにその他もろもろのフロント内の全員に告げる。すぐにモニターのある場所まで移動して欲しい。これは割とマジな事なので従うように」

 

 ルーカスがそういうとブリーフィングルームにもフレットや他の寮生たちが入ってくる。

 

「フレット先輩。どういう事なんですかね?」

「さぁ? 僕にも何が何だか」

「まぁ黙って聞いとけ」

 

 ルーカスは生徒たちの移動時間を待っている間にフランもブリーフィングルームに入って来た。

 しばらくすると再びルーカスが話始める。

 

「現在、アスティカシアは危機に瀕している。具体的にいうと先日のランブルリングで暴れた奴らの仲間が再びこの学園を攻めに来ている。理由は恐らくは襲撃の失敗による報復と言ったところだろう」

 

 モニターには銀河の獅子とレオ・コーポレーションの艦隊の映像が映し出される。

 実際のところはルーカスがセシルの為に喧嘩を売った事によるものだが、そんなことは言わない。

 言えばルーカスを出しだして自分を助けて貰おうと考える輩が出かねないからだ。

 突然の事態にブリーフィングルームはざわつく。

 モニターに映されている映像が否応にもこれが現実に起きている事だと生徒たちに知らしめている。

 

「脱出しようにも間の悪い事にフロントの船がトラブルで使えない辛うじて学園艦が数隻使えるが、それでは皆が逃げる事が出来ないと来た」

 

 無論、そんな偶然はあり得ない。

 事前にルーカスの指示でマキアが細工をしたせいだ。

 宇宙船が使えてしまえば戦う以外の選択肢として逃げる事が出来るからだ。

 偶然ではありえない事だが、今の生徒たちにそこまで考える余裕はない。

 

「このままでは俺たちは黙って殺されることを待つしかない。だが、この状況で生き延びる手段が一つだけ存在する。そう、戦う事だ。俺たちは戦い勝つことで俺たちは生き延びる事が出来る!」

 

 ルーカスは絶望的な状況を先に伝えた上で、生き残る希望を提示した。

 

「そして、君たちならそれが可能だと俺は信じている。これは希望的観測などではない。純然たる事実を元に俺が導き出した答えだ。君たちの中で実戦経験のある者はいないだろう。しかし、君たちはこの学園で最先端の理論を学び決闘をして来た。実戦において敵を殺すことは簡単だコックピットにビームをぶち込めばいい。だが、決闘は違う。敵の命を奪う事なく無力化することの方が何倍も難しい! 君たちは日頃からそんな敵を殺すことよりも遥かに高度な敵を無力化する戦いをしてきている。そんな君たちが格下相手にしか戦ってこなかった奴らに劣ると思うか? 答えは否だ!」

「物は言いようだな」

「無茶苦茶な話でもここまで自信満々で話されると本当の事のように聞こえるから不思議よね」

 

 ルーカスの演説をフランとシズカは冷ややかな目で見ている。

 ルーカスの意っている事は一見すると本当のように聞こえるが詭弁だ。

 どんなに決闘をしたところで命のやり取りとは違う。

 それをルーカスはさも事実かのように語っている。

 

「奴らのモビルスーツは世代の古い旧型だ。弱いものいじめしか出来ない奴ら等恐れるに足りない。アスティカシアの精鋭たる君たちの前には塵にも等しい。だからあえて言おうカスであると! 我々の力を持って奴らを殲滅し、その力を我が父、デリング・レンブランに見せようではないか! そして、俺たちが日々学び切磋琢磨するこの学園を守ろうじゃないか!」

 

 ルーカスの演説が終わり、学園のあちこちで演説に感化された生徒たちが歓声を上げる。

 

「コレ、マジな奴なんだよな」

「そうね。流石にここまでやって悪戯では済まされないわ」

 

 コウタロウもルーカスの話が本当であることを肌で感じて息を飲む。

 学園内で数少ない実戦を経験したコウタロウにはルーカスのいう事が簡単ではないという事は理解できる。

 そして、戦闘の規模はその時の非ではないこともだ。

 

「ふう」

「お疲れ様」

 

 演説の終わったルーカスにセシルがドリンクの入ったボトルを渡す。

 

「よくもまぁ。無茶苦茶な事を自信満々に言えるわね」

「まーな」

「影響は上々よ」

 

 セシルが工作員時代に仕掛けておいた監視カメラや盗聴器で学園内の様子を確認していた。

 ルーカスの演説は上手くいき、生徒たちは敵が来ているという事態に対して臆することも無くやる気に満ちている。

 

「てな訳だ。すぐに迎え撃つ準備をする。アンタらも死にたくなかったら死ぬ気で勝ちに行くぞ」

 

 ルーカスは集められた学園の教師陣やフロントの管理会社のスタッフにそういう。

 学園の教師陣の中に従軍経験のある教師もいないため、すでにこのフロントはルーカスが掌握している。

 

「ルーカス君。事が事だけにデミトレーナを全機を実戦仕様にするには時間が……」

「別に実戦仕様にする必要はない。折角、俺が洗の……もといその気にさせたんだ。下手に敵を殺すことを意識させるよりも決闘仕様で普段通りの実力を出せる方が良い。実戦仕様はガンダムと管理会社のデミだけで大丈夫だ」

 

 学園のモビルスーツを全て実戦仕様のOSに切り替えるには時間がかかる。

 すでに数時間後には敵が来ると予測される状況では全機を実戦仕様にしている余裕はない。

 しかし、ルーカスは生徒たちのモビルスーツは決闘仕様のままで投入するつもりだった。

 ルーカスの演説でその気にさせたとは言え、生徒たちは実戦で敵の命を奪うという事がどういう事なのか正確に理解している生徒はいないだろう。

 実戦仕様にして敵を殺せる状態にしてしまえば、その重圧から怖気づく生徒も出て来るだろう。

 そうなれば実力を発揮することなく撃墜されるか、味方の足を引っ張る事になりかねない。

 そうなるくらいならいつも通りの決闘仕様のままの方がマシだ。

 この戦いで実戦仕様で投入するのはルーカス達のガンダムとフロント管理の警備用のデミトレーナーだけだ。

 決闘仕様のモビルスーツでも攻撃を直撃させれば敵の装甲を破壊して戦闘能力を奪うと事は十分にできる。

 優先すべきはいかにして生徒たちが普段の実力を出せる環境にするかだ。

 それさえできれば決して遅れを取る事はないとルーカスは学園の生徒たちの実力を評価している。

 

「デミ用の使えそうな装備とか何でもいいから使えそうな物をかき集めろ。それと各寮の寮長と各学科の成績上位者を呼んでくれ。そいつ等を中心に陣形を取る。パイロット科の連中は無駄な体力を使わせないように待機させて、メシでも食わせとけ。これが最後のメシかも知れないから学食の食材を使い切っても良い。どうせ籠城はしないんだから。メカニック科の連中はすぐに自分らのモビルスーツを万全な状態にさせるようにさせろ。経営戦略科の連中はとにかく戦況を打開できそうな策を捻りださせろ」

 

 ルーカスは周囲の教師たちの指示を飛ばす。

 残された時間は余りなく、ここからは時間との勝負だ。

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